すると牧野さんは、少し考えるような仕草をしながら、椅子に腰を下ろした。「いや、何日か前に、いつもと違うホームで笠原を見かけたからさ。男でもできたのかなって、ただの興味本位」クスッと笑って言われたその言葉に、私は心臓が跳ねた。見られてた……?どうする?引っ越したって言う?それとも――。思考を巡らせていると、周囲から小さなざわめきが起こった。「あっ、神崎さんが来てる!」近くの部署の女性社員の声につられて、視線を向ける。フロアの隅、人事部長室に入っていくスーツ姿――間違いない。晃さんだった。「町屋先輩、あの神崎さんって……何をしてる方なんですか?」ジッと晃さんの後ろ姿を見たまま尋ねる。「えっ、笠原さん知らないの?」「笠原、お前、会社のいい男ネタ聞いてないだろ」牧野さんまで、嘘だろ?という顔で私を見る。ちょっと恥ずかしくなって視線を逸らした。たしかに女子会やランチの場で、誰がかっこいいとか、どの部署にどんな人がいるとか、よく話題にはなっていた。けれど、私にはまったく関係ない世界の話だと思っていたし、正直、どうでもよかった。「神崎晃さんはね、社長や副社長の側近って言われてるの。会社では顧問弁護士というポジションよ」「……え? 弁護士? あの人が……?」あの軽くてチャラい晃さんが弁護士――?正直、ちょっと信じられなかった。「見た目で判断しちゃだめよ。国際弁護士資格も持ってるらしいし、確かお父様も同じ仕事。代々この清水グループを支えてる家系なのよ」町屋先輩が少し思い出すように言ってから、私を見つめた。「そうなんですね……」とてもそんなすごい人には見えなかった私は、曖昧にそう返すしかなかった。「それに、あの神崎さんのルックスだろ? 社内の女子社員は、副社長派だの神崎派だのって噂話ばかり。俺でも耳にするくらいだし」そうだったのか……。たしかに、あの二人は誰が見ても整った顔立ちをしている。だけど、自分とあんなに関わるようになるとは思ってもいなかった。まるで別世界の人間だったはずなのに。ぼんやりとした気持ちで、もう一度神崎さんが入っていった部屋の方角を見やる。「でも、本当に珍しいわよね。神崎弁護士がこのフロアに姿を見せるなんて」「そうだな」二人は彼の話題で盛り上がっているが、私は内心そわそわしていた。――婚姻届。弁護士に頼むって言って
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-02-04 อ่านเพิ่มเติม