Masuk笠原 優里香 (kasahara Yurika) 平凡な23歳。 大手電子部品メーカーの総務課に努める入社2年目 小泉 翔太郎 (koizumi Syoutarou) 優里香の勤める会社の副社長 31歳日本を代表する清水グループの御曹司 どうしてもと言われ受けた会社の2年目の優里香は、突然衝撃的な事実を知る。 何百年かに一度約束されている、笠井家と清水家の結婚。その約束が取り交わされないと、双方不幸になる。 そんなバカな話信じられない!戸惑う優里香に周りからの圧力はすごくて……。 「こんな結婚は形だけだろ?諦めろよ」 超絶イケメンだけど、冷静沈着な副社長の裏の顔はドS 意地悪で強引だけど、大人の甘い罠に優里香は?
Lihat lebih banyak「はあ?」
あまりにも予想外の言葉を耳にすると、人ってこんな声を出すものなんだな……。
自分でも驚くほど間抜けな反応しか返せなかったのは、それほど現実味のない話だったからだ。
私は、目の前に座る父と母の顔をじっと見つめた。
「だからな、優里香。これは冗談でもなければ、夢の話でもない。現実に起きていることだ」
父の真剣な口調。
それに反して、私は完全に呆れた表情をしていたと思う。自覚はある。
それでも言わずにはいられなかった。
「ちょっと待って? この令和のIT社会で、何を言い出してるの? そんな突拍子もない話、信じろってほうが無理があるでしょ?」
常識的に考えて、そんな非現実的な話を素直に「はい、わかりましたお父様」なんて答える娘、世界中探したってそうそういないはずだ。
私は、ふざけてばかりの性格で、結婚30年になる今でも「バカップル」という言葉がしっくりくる両親を、じろりと睨みつけた。
まるで陳腐な昼ドラか、チープなラノベの設定みたいじゃない。ありえない。
そう心の中で毒づきながら、視線を窓の外へと向ける。
広がる夏の空は、どこまでも青くて、白い雲がゆっくりと流れていた。
──あーあ、夏季休暇にはどこか出かけたいな。海? いや、山もいいかも。涼しい高原も捨てがたいし……。
「優里香! ちゃんと話を聞きなさい!」
母の大きな声に、思わず肩がびくりと跳ねた。
あんな風に叱られたのは、もしかしたら子供の頃以来かもしれない。
小さくため息をつきながら、私は渋々ふたりのほうに顔を向けた。
「……ねえ、お母さん。本気であの話を信じろって言うの? 何だっけ、何百年前の“言い伝え”? それとも“ご先祖様の約束”?」
ひとまず質問を投げかけて、彼らの反応を待った。
けれど、父も母も一切表情を変えることなく、ただ黙って私を見つめている。
……どうやら、本気らしい。
観念して、私は話を続けた。
「つまり、昔、結ばれることのなかったご先祖同士のせいで、私がある男性と結婚しないと両家が不幸になるってこと……で合ってる?」
「そうだ。それがわかっているなら、話は早い」
父は淡々と頷いた。
「いやいや、ちょっと待ってよ。言ってる内容自体は理解できるけど、それを“現実として受け入れろ”っていうのは無理があるってば」
「信じるんだ、優里香」
……え? 本気で?
即座に返された父の言葉と、その真顔。
さすがに冗談じゃ済まされないと察して、私の背筋に冷たいものが走った。
その後も何か説明されていたような気がするけれど、正直、ほとんど頭には入ってこなかった。
結婚? 私が?
しかも相手は知らない人?
それも、家のために?
……うちって、そんな格式ある家系だったっけ?
思考がまとまらないまま、自分の部屋に戻り、見慣れたベッドに身を投げるように飛び込んだ。
勢いよく布団をかぶり、頭まで潜り込む。
──よし、寝よう。寝て、明日になったら全部夢だったってことになってるかもしれない。
ギュッと目を閉じ、脳裏からさっきのやり取りを消そうと必死になる。
でも……。
そんな努力もむなしく、まったく眠気はやってこなかった。
「……はぁ」
大きく息を吐いて、私はベッドの上で上体を起こす。
狭い天井が目に入り、その白さがやけに現実的に感じられた。
──いったい、何だったの……?
改めて自分自身に問いかける。
これが現実だなんて、どうしても受け入れがたい。
笠原優里香、23歳。
日本の大手電子部品メーカー「ARM」で、総務部に勤務している。
ごく普通の家庭に生まれ育った。
父は市役所勤務の公務員、母は専業主婦。5歳年上の兄がひとり。
小学校から高校までは地元の学校に通い、大学も実家から通える女子大を選んだ。
恋愛経験だって平凡。小学生のとき、クラスで一番人気だった男の子に淡い初恋をして──その恋は実ることもなく終わり──
大学に入ってから、ようやく初めてちゃんと付き合った彼氏ができた。
身長は159センチ。目は二重だけど、パッチリした可愛い瞳というわけじゃないから、アイラインでちょっとごまかしてる。
髪は肩より少し長めで、焦げ茶色に染めている。
ごく普通。誰にでもいそうな見た目で、これといって特別な才能もない。
本当に、どこにでもいるような、平凡な人生だった。
──そう、“今までは”。
それなのに、まさかこんな突飛な展開が待っているなんて……。
髪の毛を両手でわしゃわしゃとかき乱し、私は思わずギュッと目を瞑った。
──どうして、こんなことに。
これまで、両親はいつだって明るくて、私の選ぶ道に口を出すこともなく、ただ静かに、でも確かに応援してくれていた。
学校、進学、就職……どんなときも。
けれど、ふと胸の奥に、ざらりとした疑問が広がった。
それから私は会社で瀬能さんを避けて生活をしていた。キッチンで夕飯の準備をしながら、私はいつも通り、翔太郎さんの帰りを待っていた。けれど、その静かな空気を切り裂くように、家の固定電話が突然鳴り出した。自宅の電話――そんなものがあったことすら、忘れていた。反射的に手を止めて振り向くと、鳴りやまない着信音に、私の心がざわついた。出てもいいのか、迷いながらも、何か急ぎの用かもしれないと受話器を手に取る。「はい、清水です」まだ聞き慣れない姓を名乗ることに、どこか照れを感じつつも、相手の声を待った。「……もしもし?」名乗っても返答のない無言に、間違い電話かと受話器を置こうとしたそのとき、不意に落ち着いた女性の声が響いた。『あなただれ?』その一言に、心臓がドクンと大きく脈打つ。しばらくの沈黙のあと、また声が続いた。『翔太郎の新しい女?』あまりに不躾な言葉に、怒りよりも先に、驚きが込み上げてきた。「……はい」自分でも驚くほど低くて冷たい声が出た。その瞬間、電話口からくすっと笑うような息遣いが伝わってくる。『へえ。まあ、いいわ。翔太郎は、誰にも本気にならない人だから。愛とか、好きとか、そういう感情が一番嫌いなの。知ってた?』まるで勝ち誇ったように言い放ったあと、女の声はさらに畳みかけてきた。『あなたに飽きたら、どうせまた私のところに戻ってくるわよ。……じゃあね』そう言い残して、一方的に電話は切られた。受話器の向こうに残ったのは、無機質な通話終了音だけ。私はその音を耳にしながら、呆然と受話器を見つめた。 ――なに?今の……。誰にも本気にならない?愛が嫌い?じゃあ、私はなんなの?問いの答えが見つからないまま、涙がポロポロとこぼれ落ちた。自分でも気づかなかった。翔太郎さんのことが、こんなにも大切になっていたことに。政略結婚――。それでも一緒にいたいと思っていたのは、私の気持ちだった。だけど、自分だけが好きで、相手には何もないなら――こんなにも苦しいことだったんだ。彼が「うまくやろう」と努力してくれていたのは、ただ形式を守るため。そこに“気持ち”なんて、最初からなかったのかもしれない。胸の奥がじわじわと沈んでいくようで、私は作りかけの夕飯を放り出したまま、自分の部屋へ逃げ込んだ。どれくらい時間が経ったのだろう。
目的地は、少し郊外にある落ち着いた雰囲気のレストランだった。暖色のライト、木製のテーブル、どこか懐かしい洋食の匂いが漂っている。「なんでも美味しいから」そう言って彼がメニューを広げるが、私の心は冷えたままだった。どれも美味しそうな料理が並んでいるはずなのに、視線はページを追いながらも、頭の中は警戒心でいっぱいで、味の想像すらできなかった。「子どもみたいな顔、してたのに」目の前からの軽口に、私は何も応えず、そっとメニューを閉じた。「……オムライスで」言葉も表情も、冷えきったまま。 「どうして俺じゃダメなの?」料理を待つ間、瀬能さんがそう問いかけてきた。私は無言でナプキンの端を指でつまみながら、ただ、彼の視線を避ける。「誰か、好きな人でもいる?」その言葉に、自然と翔太郎さんの顔が浮かんだ。気がつけば、私の心にはもうあの人しかいなかった。「……います」小さな声で、それだけははっきり答えた。「へえ。でも、そんな気持ち、今だけかもよ?」微笑んだままそう返された私は、ただ黙ってその言葉をやり過ごすことしかできなかった。そこへ、店員さんが静かにオムライスを置いていく。黄色い卵に真っ赤なケチャップ。でも、私の心は少しも動かなかった。スプーンに手を伸ばすことすら、躊躇われた。いつもなら、少しでも早く家に着きたくて、エレベーターの遅さに苛立つのに。今日は、できることならこの時間がもう少し続いてくれたらいいと、そんなふうに思っていた。そう考えているうちに、目の前にはもう、自宅の扉があった。深く息を吸い込んで、覚悟を決めるようにドアノブを握る。「優里香、おかえり。悪かったな。誰かと一緒だったから電話切ったんだろ?」いつもと逆――ラフなスウェットにタオルを肩にかけ、リラックスした表情の翔太郎さんが、笑顔で出迎えてくれた。その笑顔が、いつも以上にまぶしく見えて、私は思わず目を逸らし、パンプスのストラップに手をかけた。――そうだった。私が電話を切ったんじゃない。切られたんだった。瀬能さんに。「あっ、ただいまです……。今日は急にごめんなさい」どうにか、普通に声を出せた。ホッとしながら、私は続けた。「翔太郎さん、ご飯は? まだですよね? 何か、すぐに作りますね」できるだけ自然に、明るく微笑んでそう言うと、私はキッチンに向かって
仕事が終わり、ビルのエントランスを出た瞬間、スマホの着信音が鳴った。私はカバンから慌てて取り出す。――あっ……。画面に表示された「翔太郎さん」の名前に、自然と嬉しさが込み上げ、通話ボタンを押そうとしたそのとき。肩をポンと叩かれて振り返ると――「瀬能さん……」思わず、覚えたばかりの名前が口をついて出た。瀬能さんはちらりと、私のスマホの画面をのぞき込むように見たかと思うと、そのままスマホを強引に取り上げ、通話終了ボタンを押してしまった。「ちょっ!! 何するんですか!」私は怒りに声を荒げ、瀬能さんを睨みつけた。だが、そんな私の態度にまったくひるむ様子もなく、彼はニコリと微笑んだ。「だって、俺が話しかけようとしてるのに、電話されちゃ困るでしょ?」肩を揺らしながら笑う瀬能さんに、私はゾクリと背筋が冷たくなった。――この人は、危険だ。瞬時にそう感じたこの感覚は、きっと間違っていない。私はスマホを取り返そうと手を伸ばしたが、スルリとそれは瀬能さんの上着の内ポケットに滑り込んでいった。「なにを……」「取れるなら、どうぞ?」その挑発的な言葉に、私は涙がこぼれそうになるのを必死にこらえて、睨み返した。「……ここはまずいな」小さくつぶやいた瀬能さんは、私の腕を強くつかむと、「行くよ」とだけ言って走り出した。「いやっ!」私の叫びは、誰の耳にも届かず――私はそのまま、タクシーに押し込まれていた。「降りる、降ります!」咄嗟に声を上げた私に、運転手さんがミラー越しに一瞬目をやると、瀬能さんはわずかに表情を曇らせながら、内ポケットからスマホを取り出し、何事もなかったように私の手にそっと戻してきた。「……え?」思いがけない反応に私は面食らい、ポカンとしたまま彼の顔を見上げた。あれほど強引だったのに、こんなふうにあっさり返されるなんて――。「ごめん」静かに差し出された謝罪の言葉。戸惑いと警戒の入り混じる気持ちを抱えたまま、私はスマホを握りしめ、視線を落とした。どう返せばいいのか分からずにいた私の口から、ふと問いが零れる。「……なんで、私に構うんですか?」それは、ずっと胸の奥でくすぶっていた素直な疑問だった。「一目惚れしたから」返ってきたのは、予想もしない言葉だった。私の思考が一瞬で止まり、反射的に彼の表情をうかがう。「――
「そんな警戒しなくてもいいじゃん。俺はただ、優里香ちゃんと仲良くなりたいだけだよ。まだ入ったばかりで、知り合いも少ないし……」どこか、捨て犬みたいな瞳で見つめられた私は、それ以上強くは言えなくなり、小さくため息をついた。「……わかりました」そう答えると、瀬能さんは急にぱっと表情を変えて、私が持っているミルクティーごと手をつかむと、ブンブンと振り回した。「わーい、ありがとう! じゃあ、また会おうね!」――また会おうって……ここ、会社なんだけど。私は苦笑いしながら、すでに行ってしまった瀬能さんの後ろ姿を見送った。 ――あっ。こんなところでのんびりしてる場合じゃなかった!早く戻らなきゃ!……あっ。お礼、言い忘れちゃった……。私は手の中のミルクティーと小銭を、ぎゅっと握りしめた。そして――すっかり忘れていたはずの瀬能さんを、再び意識することになったのは、初めて会った日から1週間ほど経ったころだった。 「優里香ちゃん、この申請書お願いできる?」ふいに上から降ってきた声に、私は顔を上げた。「あ……」一瞬、名前が出てこなくて、私は言葉を詰まらせる。「ひょっとして、俺のこと……忘れた?」人懐っこい笑顔をわざと崩し、泣きそうな顔をつくったその人に、私は思わずクスッと笑い声を漏らしてしまった。「……いいね。優里香ちゃんの笑顔」その言葉に、私はあわてて表情を引き締め、真面目な顔に戻す。――どうもこの人、軽い……。誰にでもあんなふうに話しかけてるんじゃ……?そして、この笑顔……。こないだは気づかなかったけど、近くで感じるこの人の“空気感”に、なんとなく違和感を覚えた。私は距離をとりつつ、申請書を受け取って、チラリと氏名欄を確認した。“瀬能凛太朗”――やっぱりこの人だ。「かしこまりました。お預かりしますね」営業スマイルを少し作ってパソコンへ視線を戻すと、耳元に気配を感じてハッと振り向いた。そこには、すぐ目の前に瀬能さんの整った顔があって、私は思わず目を見開いた。「優里香ちゃん、今日の夜は暇?」小声で耳元に囁かれ、私は慌てて首を振った。「暇じゃありません!」つい声が大きくなってしまい、慌てて周囲を見渡す。クスクスと笑う瀬能さんを軽く睨みつけると、「そんなに慌てなくても。優里香ちゃん、かわいい」そんな軽口を叩きながら、瀬能