雨は、さらに激しさを増していた。風が屋上の端を唸るように吹き抜ける。奥田は、航平に襟元を強く掴まれたまま。一言も返せなかった。――今の航平の顔が。あまりにも痛々しかったから。ずっと鈍かった感情。ずっと押し殺してきた感情。気づくのが遅すぎた感情。その全部が、今この瞬間、完全に決壊していた。「……航平」奥田の声は掠れていた。だが航平は、すぐに遮る。「名前呼ぶな」俯いたまま。呼吸が激しく乱れている。「今のお前みたいな顔、一番嫌いなんだよ」奥田がわずかに目を見開く。航平は奥歯を強く噛み締めた。「死にそうなくらい苦しいくせに」「いつも、“平気です”みたいな顔しやがって」雨が顎を伝って落ちていく。それが雨なのか涙なのか、もうわからない。「お前、いつも思ってるだろ」「自分さえ残れば」「相手は幸せになれるって」「でもさ――」航平は赤くなった目を上げた。声が震えている。「残されたほうが」「一番苦しいんだよ」空気が静まり返る。奥田の瞳が小さく揺れた。その言葉。昔、神谷澪も言っていた。――【忘れられるのって、やっぱ悔しいんだよな】そして今。航平は雨の中で。ようやく、その痛みを自分の手で受け取った。奥田の胸が激しく痛む。思わず手を伸ばした。航平に触れたくて。けれど、その指先が届く寸前。身体が、透け始めた。航平の顔色が変わる。「……奥田!?」奥田自身も、一瞬硬直する。次の瞬間。足元の地面に、黒い亀裂が広がった。まるで“向こう側”が再び口を開いたように。風の中から。あの怪物の残滓のような囁きが聞こえる。「戻っておいで――」「こここそ、お前たちの居場所だ――」航平は振り返った。屋上の中央。そこに、巨大な黒い裂け目が現れていた。内部では、果てのない黄昏が渦巻いている。まるで“あちら側”への入口。そして奥田の身体は。少しずつ、その裂け目へ引き寄せられていた。奥田の顔が青ざめる。「……逃げろ!!」彼は勢いよく航平を突き飛ばした。「触るな!!」だが航平は、狂ったみたいに再び彼を掴む。「黙れ!!」裂け目が急速に広がっていく。屋上全体が激しく揺れた。遠くでは校舎の窓ガラスが次々と砕け散る。雨音。風。不気味な囁き。全部が混ざり合う。そして、あの声がさらに鮮明にな
Read More