All Chapters of 転生したら推しに激似の席隣男子がいました!?: Chapter 151 - Chapter 160

162 Chapters

0150-最終修正

【No.000】【第一失踪者】【神谷澪】【状態:帰還失敗】その文字が、夜空に浮かんでいた。真紅の光が、全員の顔を照らしている。誰も言葉を発せない。風さえ止まっていた。航平はただ、そのページを見つめていた。頭が真っ白になる。第一失踪者――神谷澪?そんなはずがない。彼らは同級生だった。一緒に学校へ通い、黄昏教室を経験し、同じ時間を過ごしてきた。なのに。どうして十九年前の失踪者なんだ。「……嘘だろ」航平の声は震えていた。しかし、第二管理者は静かに首を振る。「嘘じゃない」その瞳は、どこか寂しそうだった。「君たちが知っている神谷澪は」「本来、存在してはいけない存在なんだ」空気が凍りつく。奥田の目が鋭くなる。「ちゃんと説明しろ」第二管理者は夜空を見上げた。巨大な書。No.000のページ。長い沈黙のあと、ゆっくり語り始める。「十九年前」「第四書架が初めて開いた」「一人の生徒が」「その中へ入った」「名前は――神谷澪」隣に立つ神谷は、何も言わなかった。否定しない。全部知っていたからだ。第二管理者は続ける。「当時の裂け目は不安定だった」「管理者もまだ完成していなかった」「時間の崩壊を止めるため」「一人が自ら残った」「新しい管理者になるために」第二管理者は小さく笑う。だがその笑みは、ひどく疲れていた。「それが俺だ」航平は拳を握る。「だったら!」「お前が神谷なら!」「こいつは誰なんだ!」視線が集まる。今まで一緒にいた神谷へ。神谷はしばらく黙っていた。やがて、ゆっくり顔を上げる。「俺は」風が鐘楼を吹き抜ける。「逃げ出した欠片だ」静かな声だった。だが、誰の耳にもはっきり届いた。「十九年前」「管理者になる前に」「俺は自分の記憶を切り離した」「せめて一部だけでも」「普通の世界へ帰したかった」「普通の人生を送ってほしかった」航平の瞳が揺れる。「じゃあ……」神谷は苦笑した。「そう」「俺はその記憶の欠片」「本来存在しちゃいけない人間だ」「時間のバグが偶然残した」「ただの残像」誰も何も言えなかった。あまりにも残酷だった。奥田が突然口を開く。「だから何だよ」全員が彼を見る。奥田は第二管理者を睨む。その声は、驚くほど冷静だ
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0151-場所

誰も口を開かなかった。鐘楼の頂を吹く風が、ますます強くなる。管理者の核心へと続くあの扉が、夜空に静かに浮かんでいた。漆黒。底知れない。世界の果てへ続くかのように。そして、第二管理者の言葉が、まだ空気の中に響いていた。【記録を書き換える者】【その代わりに、彼がそこに留まる】航平は頭を下げていた。表情は読み取れない。だが神谷澪は、すでに一歩前に出て彼を庇っていた。「あいつの言うことを聞くな」声がわずかにかすれている。「そんな単純な話じゃない」第二管理者は、しばし沈黙した。反論はしなかった。彼の言葉が事実だったからだ。管理者の核心がどういう場所か、神谷澪は誰よりも知っていた。牢獄ではない。部屋でもない。時の裂け目全体の、最も深い場所だ。すべての失踪者の記録。すべての忘れられた記憶。すべての消された人生。それらすべてが、そこに積み重なっている。一度入れば。二度と出られない。十九年前。本物の神谷澪も、そこで第二管理者になった。そして今。彼は誰にも同じ道を歩ませたくなかった。特に、航平には。……そのとき。空が、ふと震えた。ザアッ——巨大な書のページが、自動的に開かれていく。その一枚に、ゆっくりと映像が浮かび上がる。全員が同時に顔を上げた。次の瞬間。空気が静まった。それは航平の記憶だったから。小学生の頃。雨の日。一人の男の子が、教室の最後列に独りで座っている。窓の外は、雨音が大きい。誰も彼に話しかけようとしない。そして、入り口に。ふと、ひとつの頭が覗き込んだ。にこにこと笑いながら。「おい」「一緒に帰らないか?」神谷澪だった。幼い頃の神谷澪。映像はさらに変わっていく。運動会。試験。部活動。夕暮れに二人で帰った長い道。すべてが、二人の記憶だった。そして。映像が消え始める。少しずつ。火に焼かれるように。航平の体が、激しく震えた。映像が消えるにつれて。自分が細部を思い出せなくなっていることに気づいたからだ。神谷澪の好きな食べ物。思い出せない。初めて会ったのはいつだったか。思い出せない。神谷澪の笑顔さえ。ぼやけ始めている。「どうして——」航平の顔が青ざめる。神谷澪の瞳が、激しく収縮した。「管理者がもう始めている」第二管理者が低い声で言
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0152-執念回廊

真っ白なページが。静かに浮かんでいる。無数の黒いページの最も深い場所に。夜の中でただ一つの光のように。だがそれが現れた瞬間。管理者コア全体が激しく震え始めた。ゴゴゴ――無数のページが同時に翻る。夜空が紙に覆われる。管理者の低い声に初めて明らかな乱れが生じた。【アクセス禁止。】【アクセス禁止。】【白紙ページの権限は封鎖済み。】嵐が押し寄せる。鐘楼が崩れ始める。広範囲の壁が光の粒となって消えていく。まるで世界全体がその秘密を拒絶しているかのように。第二管理者はその白い紙を凝視したまま。これまでにないほど顔色を変えていた。「本当にまだ存在していたのか……」神谷澪が勢いよく顔を向ける。「知ってたの?」第二管理者は数秒沈黙した。それからゆっくりと頷いた。「十九年前。」「一度入ったことがある。」空気が一瞬で静まる。「だが近づけなかった。」「管理者にこう言われたからだ。」「そこは開けてはならない。」奥田が眉をひそめる。「なぜ?」第二管理者は空を見上げた。複雑な眼差しで。「すべての規則が。」「そこに書かれているからだ。」……ゴゴゴ――管理者コアが再び震動する。真っ白なページがゆっくりと後退していく。何らかの力に闇の奥へ引き戻されるように。神谷澪の顔色が変わる。「だめだ。」「これ以上引かれたら消えてしまう。」航平が即座に前へ踏み出す。しかし門に近づいた瞬間。世界が突然静まり返った。すべての音が消えた。風の音。鐘の音。呼吸の音さえも聞こえない。次の瞬間。目の前の光景がすべて消え去った。航平は勢いよく目を開ける。気づけば学校の校庭に立っていた。夕日が沈んでいく。放課後の音楽が放送から流れる。すべていつもと同じだった。「どういうことだ……」一瞬呆然とする。遠くで誰かが手を振っているのが見えた。「航平!」聞き慣れた声が届く。航平の体がびくりと震える。それは神谷澪だったからだ。少し先。神谷澪は鞄を抱えて木の下に立っていた。いつものように笑って。「何ぼーっとしてるの?」「帰ろう。」航平はその場で固まった。頭の中が真っ白になる。時間の裂け目もない。管理者もいない。夕暮れの教室もない。すべてが起きなかったことのように。そしてその時。神谷澪が歩み寄
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0153-17時42分

桜の花びらが、ゆっくりと舞い落ちる。風は優しかった。航平は校門の前に立っていた。どこか現実感がない。目の前の光景は、あまりにもリアルだった。あまりにもリアルすぎて、どこにも綻びを見つけられない。「おい」神谷澪が歩み寄ってくる。そして、缶ジュースを一本、航平の手に押しつけた。「また何ぼーっとしてるんだ?」聞き慣れた口調。見慣れた笑顔。缶についた水滴の冷たささえ、本物だった。航平は手の中の缶を見つめる。そして、小さな声で尋ねた。「最近……元気か?」神谷澪は一瞬きょとんとした。だが、すぐに吹き出す。「なんだよ、その変な質問」「俺、毎日お前の隣にいるだろ?」航平は何も言わなかった。ただ、静かに彼を見つめていた。夕陽が少年の肩を照らす。いつもと何一つ変わらない。消えていない。犠牲になってもいない。時間の裂け目も存在しない。神谷澪は、確かにここにいた。生きて、航平の目の前に立っている。もし許されるなら。航平は、この瞬間が永遠に続けばいいと願った。―――それから数日間。すべては平穏だった。完璧すぎるほどに、平穏だった。授業。部活動。試験。放課後は一緒に帰る。神谷澪は、いつもの神谷澪のままだった。さぼることもある。騒ぎ立てることもある。わざと紙くずを航平の机に投げてくる。昼休みには机に突っ伏して眠る。時には航平ですら思い始めていた。これまで起きた出来事こそ、夢だったのではないかと。だが、ある夜。彼は突然、目を覚ました。窓の外では雨が降っている。部屋の中は真っ暗だった。机の上のデジタル時計だけが、時刻を表示している。17時42分。航平は息を呑んだ。その時間は、今の時刻ではありえなかった。次の瞬間。デジタル時計が耳障りなノイズを発した。ジジッ――ジジッ――画面が点滅し始める。そして、ゆっくりと文字が浮かび上がった。【本当に、お前は幸せか?】空気が、一瞬で静まり返る。航平は勢いよく身を起こした。心臓が激しく脈打つ。その直後。部屋の外から足音が聞こえた。コツ。コツ。コツ。軽く。ゆっくりと。誰かが扉の前で立ち止まる。そして、控えめにノックした。「航平」神谷澪の声だった。「もう寝たか?」航平は固まった。返事ができない。扉の向こうは数秒間、
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0154-番号000

「こっちに来て」二つの声が同時に響いた。一つは優しく。一つは切迫していた。一つは桜が舞い散る春の中に立ち。一つは崩れ落ちる世界の縁に立っていた。航平はその真ん中に立っていた。何も言わなかった。風が吹く。桜が肩に落ちる。もう一方では。時間の裂け目がどんどん広がっていく。まるで世界全体が彼の選択を待っているかのようだった。……桜の木の下の神谷澪が先に口を開いた。「航平」「お前、ずっとこういうのを望んでたんじゃないのか?」彼は笑っていた。眼差しは昔と同じように明るい。「怪談もない」「失踪もない」「みんな無事だ」「奥田もいる」「俺もいる」「これからもずっといる」そう言いながら。彼は航平に手を伸ばした。「ここに残れよ」「ここでは何も失わない」空気が静まる。認めるしかなかった。これは本当に美しい光景だった。離れがたいほどに。……しかしその時。裂け目の向こう側の神谷澪が不意に笑った。どこか諦めたような笑みだった。「そいつを信じるな」航平は視線を移した。本物の神谷澪が風の中に立っていた。服には血がべったりとついている。背後では管理者の核が崩れ続けている。見るからにひどい有様だった。それでも彼は笑っていた。いつものように。「あいつの最大の特徴は、人を騙すことだ」桜の木の下の神谷澪が眉をひそめた。「俺は騙してない」「俺はあいつだ」「あいつが一番なりたかった姿だ」本物の神谷澪は一瞬黙った。それからうなずいた。「それは、そうだな」「お前は確かに俺だ」風が二人の間を吹き抜けていく。同じ一人の人間の、二つの可能性を映し出すように。一人は痛みを経験していない。一人はすべての傷を背負っている。……航平が不意に口を開いた。「俺が残ったら」「どうなる?」桜の木の下の神谷澪が笑みを浮かべた。「簡単だよ」「俺たちは卒業する」「大人になる」「色んな場所に一緒に行く」「もう誰も消えたりしない」そう語る彼の。眼差しはあまりにも真剣で、嘘をついているようには見えなかった。なぜならその未来は。確かに存在するのだから。ただ、修正された世界の中でだけ。裂け目もなく。失踪者もなく。後悔もない世界。……航平は静かに聞き終えた。それから顔を向けた。もう一方を見る。「
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0155-三人目

――神谷澪。その名前が、白紙のページに静かに記されていた。まるで傷跡のように。夜空を一直線に切り裂く傷のように。空気は死んだように静まり返る。誰も口を開かなかった。なぜなら、全員がそれを見ていたからだ。その文字は新しい。まるで今しがた書かれたばかりのように。インクはまだ完全には乾いていなかった。最初に反応したのは航平だった。「どういう意味だ?」第二管理者は答えなかった。いや、答えられなかった。彼の顔色が完全に変わっていたからだ。十九年の間。こんな表情を見せたのは初めてだった。驚愕。恐怖。そして、信じられないものを目の当たりにした者の表情。神谷澪はそのページをじっと見つめる。長い沈黙の後、低い声で口を開いた。「……それ、僕の字じゃない」夜風が空を吹き抜ける。全員の視線が一斉に彼へ向いた。神谷澪はゆっくりと顔を上げる。その声には確信があった。「よく似ているけど」「僕が書いたものじゃない」第二管理者の身体がわずかに震えた。彼もまた気づいていたのだ。筆跡は確かによく似ている。だが、最後の払い方の癖が違う。誰かが意図的に神谷澪の筆跡を真似ていた。……ゴォン――管理者コアが再び震動した。白紙のページがゆっくりと開いていく。まるで扉のように。純白の光がその内側から溢れ出した。同時に、すべてのページがひとりでにめくられていく。無数の名前が浮かび上がった。玲奈。奥田修一。神谷澪。航平。奥田修司。そして数え切れない失踪者たち。その名のすべてが、白紙のページへと流れ込んでいく。まるで大河が海へ注ぐように。第二管理者の顔色が一変した。「下がれ!」叫んだ、その瞬間。白紙の中央に、ひとつの人影が現れた。輪郭はぼやけている。顔は見えない。かろうじて少年だと分かるだけだった。少年は純白の世界の中に立ち、静かに皆を見つめている。そしてゆっくりと顔を上げた。次の瞬間。その場にいた全員が凍りついた。その顔が――またしても神谷澪だったからだ。……三人目の。神谷澪。空気が凍りつく。管理者の声さえ止まった。少年は白い光の中に立ち、淡い微笑みを浮かべていた。第二管理者のような疲弊もない。今の神谷澪のような生気もない。そこにあったのは、すべてを受け入れた者だけ
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0156-規則

管理者も、かつては一人の人間だった。その言葉が発せられた瞬間――空間全体が凍りついたかのようだった。航平は呆然と立ち尽くし、奥田は眉をひそめる。そして今の神谷澪でさえ、一瞬言葉を失った。誰一人として、そんな可能性を考えたことがなかったからだ。十九年間。管理者は常に「規則」だった。記録者だった。時間の裂け目そのものだった。だが、もしそれがかつて人間だったのなら――すべての意味が変わる。……未来の神谷澪はゆっくりと顔を上げた。巨大な深紅の瞳を見つめる。その声は静かだった。「自分の名前を、まだ覚えているか?」夜空が静まり返る。管理者は答えない。ただ無数のページがゆっくりとめくられていく。パラ――パラ――パラ――それはまるで、重く長い呼吸のようだった。未来の神谷澪は小さくため息をつく。「やっぱり……もう忘れてしまったんだな」第二管理者はしばらく沈黙した後、口を開いた。「お前はいったい何を知っている?」未来の神谷澪は彼を見た。その視線は複雑だった。「君が知らない部分を知っている」「君は過去に留まっているからだ」「そして僕は――」「結末を見た」……風が急に冷たくなる。白紙のページがゆっくりと開かれた。そこに、今まで一度も現れたことのない記憶が浮かび上がる。全員が同時に顔を上げた。そして息を呑む。そこは学校ではない。図書館でもない。まして現代ですらなかった。映し出されたのは、正体も分からないほど古い建物。図書館にも見え、神殿にも見える。無数の書架が天へと伸びていた。そしてその中央に――一人の少年が座っていた。十五、六歳ほど。見知らぬ時代の制服を着ている。静かに文字を書き続けていた。彼の前には、一冊の分厚い記録帳。名前を一つ書き記すたびに、その傍らで光が灯る。そして誰かが闇の中から現れ、本来いるべき現実へと帰っていく。「これは……」航平が呆然と呟く。未来の神谷澪が低く言った。「最初の記録者だ」映像は続く。時間の中で迷子になった魂たちが、次々と連れ戻されていく。戦火の中の子供。事故に遭った学生。道に迷った者。行方不明になった者。記録者は一人ずつ名前を書き、彼らを本来属する時間へ送り返していった。彼は多くの人を救った。数え切れないほどに。
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0157-おかえり

――轟。夜空が砕け散った。無数のページが嵐となり、管理者コア全体を飲み込む。鎖が四方八方から押し寄せる。空を覆い尽くし、まるで世界そのものが、たった一つの名前を追い求めているかのようだった。神谷澪。……未来の神谷澪は白紙のページの前に立っていた。後ずさりもしない。逃げ出しもしない。ただ静かに、その鎖を見つめていた。まるで、この光景を最初から予想していたかのように。「やっぱりな」彼は小さく笑った。「結局、こうなるんだな」次の瞬間。一本目の鎖が夜空を貫き、轟音とともに落下した。未来の神谷澪は手を掲げる。白紙のページが一瞬で広がり、純白の光が衝撃を受け止めた。凄まじい轟音が響き、空間全体が震える。だが――さらに多くの鎖が迫ってきていた。何千、何万。果てしなく。なぜなら、それは攻撃ではなかったからだ。それは――捜索。管理者は世界そのものを使って、一人の人間を探していた。……【返還。】【返還。】【返還。】低く重い声が繰り返し響く。それは執念のようで、あるいは幾年月を越えた呼び声のようだった。航平はふいに息を呑んだ。気づいてしまったからだ。管理者は最初から一度も、「抹消」とは言っていない。「消滅」とも言っていない。ずっと繰り返していたのは――「返還」。まるで本当に望んでいるのは、誰かを元の場所へ帰してやることだけであるかのように。……そのとき。未来の神谷澪がふいに振り返った。「航平」その声は異様なほど穏やかだった。だが航平の胸は嫌な予感で沈む。この口調を、彼はよく知っていた。神谷澪が危険なことをしようとするとき、いつもこうなのだ。「何だよ?」神谷澪は微笑む。「一つ頼みがある」「嫌だ」航平は反射的に答えた。未来の神谷澪「……」奥田「……」玲奈は思わず吹き出しそうになる。空気が妙な沈黙に包まれた。未来の神谷澪は額を押さえる。「まだ何も言ってないんだけど」「どうせろくでもない話だろ」航平は冷ややかに言った。「お前ら神谷三人、全員同じなんだよ」第二管理者は思わず視線を逸らした。その言葉を否定できなかったからだ。……遠くでは、鎖がますます近づいてくる。管理者の声も次第に切迫していく。【神谷澪。】【神谷澪。】【神谷澪。】何度も。
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0158-帰ろう

「おかえり。」その声が落ちた瞬間――世界は静寂に包まれた。未来の神谷澪は、その場に立ち尽くしたまま、しばらく何も言わなかった。そよ風が静かに吹き、前髪をやさしく揺らす。そのとき、彼の脳裏に数え切れないほどの記憶がよみがえった。十九年前。夕暮れ。階段。転落。暴走した時間の裂け目。そして、必死になって自分を追いかけてきた、あの少年。「待って!」「入っちゃだめだ!」「神谷澪――!」記憶の中のその声は、次第にはっきりとしていく。そして目の前の記録者の姿が、その記憶の中の少年と、ゆっくり重なっていった。そうか。最初からずっと――彼は、自分を追い続けていたのだ。……記録者はゆっくりと神谷澪の前まで歩み寄る。何かを壊してしまうのを恐れるように。そっと問いかけた。「今度は――」「もう、行ってしまうの?」空気が静まり返る。未来の神谷澪はうつむき、ふっと笑った。その笑みは、どこか切なかった。「……俺は、いつだって行こうなんてしていない。」記録者は目を見開く。神谷澪は顔を上げ、静かに彼を見つめた。その声は、とても穏やかだった。「離そうとしなかったのは――」「ずっと、お前のほうだった。」夜風が吹き抜ける。記録者の身体が小さく震えた。その手に抱えた記録帳が、ふいにひとりでに開く。無数の名前が、ページいっぱいに浮かび上がる。玲奈。修一。神谷澪。そして、数え切れないほどの行方不明者たち。その名前は、次々と光を帯びながら揺らめく。まるで何かを待っているように。……第二管理者は、その光景を静かに見つめていた。そして、ゆっくりと目を閉じる。ようやく理解したのだ。十九年前。自分は、規則を守っているのだと思っていた。その後は。時間そのものを守っているのだと信じていた。だが今になって、ようやく気づく。――誰もが間違っていた。管理者は、規則のために存在していたのではない。ただ――大切な人との別れを受け入れられなかった、一人の存在だったのだ。……「おい。」不意に奥田が口を開く。全員が彼を振り向いた。両手をポケットに入れたまま、いつもと変わらない表情で立っている。「もう、そろそろいいんじゃないか。」記録者はきょとんとする。「……何が?」奥田は静かに言った。「十九年だ。」
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0159-新しい朝が、始まる。

管理者コアは、崩壊しつつあった。空には無数の亀裂が走る。本のページは一面の白い光となって舞い上がる。止まっていた時間が、再び流れ始めた。閉じ込められていた歳月。止まったままの黄昏。決して終わることのなかった一日。――そのすべてが、ついに終着点を迎えようとしていた。……光の門は、静かに世界の中心に佇んでいた。記録者はその門の前に立ち、穏やかな眼差しで告げる。「神谷澪。」「――帰っておいで。」風がそっと吹き抜ける。過去の神谷澪。未来の神谷澪。そして現在の神谷澪。三人は同時に沈黙した。まるで、この瞬間をずっと待っていたかのように。……最初に口を開いたのは、未来の神谷澪だった。彼はふっと笑う。「ようやく、もう走らなくて済む。」十九年間。彼は数え切れないほどの結末を見てきた。何度も失敗を繰り返し、何度も始まりへと戻り、そのたびに新たな可能性を探し続けた。そして今日。ようやく終着点へ辿り着いた。彼は顔を上げ、航平を見つめる。「よかった。」「今回は、お前が来てくれた。」風が吹く。未来の姿は、少しずつ光へと変わり、静かに消えていった。……二人目に消えたのは、十九年間、裂け目の中に残り続けた過去の神谷澪だった。彼は静かに皆を見渡し、最後に記録者へ視線を向ける。長い沈黙のあと、ふっと微笑んだ。「お疲れさま。」たった三文字。それだけだった。けれど、その言葉に記録者は呆然と立ち尽くした。十九年間。誰一人として、彼にそんな言葉をかけてくれたことはなかったから。次の瞬間。過去の神谷澪もまた光の粒となり、門の向こうの光の海へ溶け込んでいった。……世界は、不意に静まり返る。残されたのは、ただ一人。現在の神谷澪だけだった。彼はその場に立ったまま、動かなかった。航平の胸に、不吉な予感が走る。「神谷。」神谷澪は振り返り、笑った。見慣れた笑顔。どこか気だるげで、少しいたずらっぽい、初めて出会ったあの日と変わらない笑み。「どうした?」航平は口を開く。だが、何も言葉にならなかった。その瞬間、気づいてしまったのだ。自分は――怖いのだと。この神谷澪まで消えてしまうことが。最後に残るのが、もう自分の知る神谷澪ではなくなってしまうことが。……神谷澪は、その想い
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