空気は、雨音だけを残して静まり返っていた。神谷澪は俯いたまま。もう、自分を支える力さえ失ってしまったみたいだった。――その時。レストラン全体が、突然激しく揺れ始める。照明が狂ったように点滅した。闇と白い光が、何度も何度も入れ替わる。――パッ。――パッ。――パッ。まるで二つの世界が、無理やり重なろうとしているみたいに。航平は咄嗟にテーブルへ手をついた。次の瞬間。耳に入っていた音が、すべて消える。――静寂。死んだような静けさ。再び顔を上げた時。そこにレストランはなかった。代わりに広がっていたのは。夕暮れに染まる学校の廊下だった。西日が窓から差し込み、空気には細かな埃が漂っている。温かくて。優しすぎて。現実感がない。航平は息を呑んだ。なぜなら。廊下の先に、一人の少年が立っていたから。神谷澪。さっきまでとはまるで違う。濡れてもいない。冷たくもない。制服姿のまま、気だるそうに窓辺へ寄りかかっている。まるで何も起きていないみたいに。まるで今も、彼が生きているみたいに。「……」航平は呆然と彼を見つめる。神谷澪は、ふっと笑った。「おかえり」静かな声だった。「ここが、本当は僕たちのいるべき場所なんだよ」航平は思わず一歩後ろへ下がる。しかし、その背中が誰かにぶつかった。知っている体温。知っている呼吸。――奥田。彼もまた、この世界へ引き込まれていた。奥田の顔色は悪かった。ほとんど反射のように、航平を自分の後ろへ庇う。「……触るな」神谷澪はその様子を静かに眺める。数秒後。くく、と低く笑った。「何をそんなに怖がってるの?」奥田は答えない。神谷澪はゆっくり歩き出す。夕陽が、彼の影を長く伸ばしていた。「僕が航平を連れていくのが怖い?」「それとも――」小さく首を傾げる。「本当に、僕を選ぶかもしれないって?」空気が、一気に張り詰めた。航平の心臓が大きく跳ねる。奥田の指先が、ぎり、と強く食い込んだ。痛いほどに。「……黙れ」その声には、初めてはっきりとした怒気が滲んでいた。だが神谷澪は、ようやく核心へ触れたみたいに笑みを深くする。「やっぱり分かってたんだ」「君、自信ないんだね」「航平が、本当は誰を一番大事にしてるのか」「――もうやめろ!!」奥田の拳が、勢いよく振
Read More