春が訪れた。桜は校庭いっぱいに咲き誇り、風が吹くたび、花びらは校舎から運動場へと舞い落ちる。まるで、やさしい雪が降っているようだった。そして――この学校から怪談は姿を消した。黄昏教室も。四列目の本棚も。午後六時を過ぎると流れ始める校内放送も。あの不気味な噂の数々は、まるで最初から存在しなかったかのように、静かに消えていった。時は変わらず流れ続ける。誰もが、それぞれの人生へと戻っていった。卒業式当日。空は雲ひとつない快晴だった。講堂には卒業生と保護者がぎっしりと集まり、壇上では教師が祝辞を述べている。真面目に耳を傾ける者もいれば、こっそり隣と話し込む者もいる。机の下で手紙を回している生徒までいた。それは、これまで幾度となく過ごしてきた、ありふれた学校の日常と何ひとつ変わらない光景だった。航平は席に座り、窓の外を舞う桜をぼんやりと眺めていた。「航平。」ふいに隣から声がする。振り向くと、神谷澪が頬杖をつきながらこちらを見ていた。「卒業式でもぼーっとしてるの?」航平は苦笑する。「お前に言われたくない。」澪はくすっと笑った。昔と変わらない笑顔。けれど、その瞳だけは以前よりも少しだけ穏やかで、ときおり、長い長い歳月を生きてきた人のような静けさを宿している。――そう思った次の瞬間。彼は手にしていた紙玉を、ぴん、と航平の額へ弾き飛ばした。「何見てるんだよ。」「ちゃんと聞け。」「……。」航平は額を押さえてため息をつく。……やっぱり。こいつは何も変わっていなかった。卒業式が終わると、生徒たちは次々と講堂を後にした。校内のあちこちでは記念写真を撮る人たちで賑わっている。泣いている者。笑っている者。「また会おう」と約束を交わす者。勇気を振り絞って想いを伝える者。青春とは、きっとこういうものなのだろう。賑やかで。そして、あまりにも短い。校舎裏へ回ると、奥田が一本の桜の木の下に立っていた。手には卒業証書。何を考えているのか、静かに花びらを眺めている。「奥田。」声をかけると、彼はこちらを振り向き、小さくうなずいた。「終わったな。」航平は微笑む。「ああ。」終わった。たくさんの出来事が。そして同時に、たくさんの物語が、今ようやく始まろうとしている気もした。梢を風が
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