「あ、すまねえ、お嬢。デリケートな問題なのに」「別にいいわ。今となっては円満離婚だし」「うーん、そうか。まあ、うちも負けていられないな。世良からの発注が復活しても、うちはもう下請けじゃなく、対等のパートナーとして渡り合えるようにしねえと」「その通りよ。世良がどうなろうと、土井精機の武器は私たちの技術力。これからは、自分たちで新しい市場をどんどん開拓していくんだから」 琴葉はデスクの上のタブレット端末を軽く叩いた。 そこには今日の午後から取り組む予定の、新しい医療機器用パーツの図面が待機している。「午後からは、昨日テスト加工したセンサーハウジングのデータ解析をやるわ。寸法公差がまだ甘い箇所があったから、プログラムを修正してもう一度五軸加工機を回すわよ」「おう! 任せとけ!」 職人たちが力強く返事をして、事務所から工場へと戻っていく。 彼らの背中には、以前のような先行きの見えない不安感はない。 確かな技術を持ち、正当な評価を得られる明日への希望が満ちていた。『――以上、東京地検特捜部による黒田大臣逮捕の臨時ニュースをお伝えしました』 テレビのアナウンサーが深々と頭を下げて、画面は再び通常の昼の番組へと戻っていった。 世間を揺るがす大事件の報道が終わっても、琴葉の心はひどく穏やかだった。(伊吹の戦いは、まだまだ続くでしょうけどね) 巨大企業の腐敗を出し切り、新しい体制を築き上げる。それは並大抵の苦労ではない。 反発する勢力もあるだろうし、市場の信頼を完全に取り戻すまでには長い時間がかかるはずだ。 それでも、琴葉は不思議と心配していなかった。 今の伊吹なら、どんな困難な状況でも最適解を見つけ出すだろう。 冷徹に、そして時には人間らしい温かさを持って乗り越えていくだろう。「さて、と」 琴葉はテレビの電源を消し、マグカップに残っていた冷めたコーヒーを飲み干した。 口の中に広がる苦味が、午後の仕事に向けた集中力を高めてくれる。 世良一族
آخر تحديث : 2026-05-09 اقرأ المزيد