「いずれ、専属契約の正式解除をしましょう。琴葉さんにも僕にも、もう必要のないものですから」「ええ、頼むわ。伊吹も、これからは自分の足で立ちなさい。世良の看板がなくなったって、あなたの頭脳と計算能力があれば、どこへ行っても生きていけるわよ」 はなむけのつもりで放った琴葉の言葉に、伊吹は深く頭を下げた。「はい。琴葉さんには、感謝してもしきれません。僕に欠けていた多くのものを、あなたが教えてくれました」 彼の声は澄み切っていた。 そこには、琴葉との別れを惜しんですがり付こうとする気配は1つもない。「みゃー」 足元で鳴き声がした。 茶色と白の縞模様の猫が、ボストンバッグのナイロン生地に爪を立てて遊ぼうとしている。「こら、それに傷をつけたら許さないわよ」 琴葉がバッグを取り上げると、猫はターゲットを失い、きょとんとした顔をする。 今度は伊吹の足首へとすり寄っていった。伊吹はしゃがみ込み、猫の顎の下を指先で撫でる。 琴葉はその様子を横目で見ながら、再びテレビの電源を入れた。 ちょうど、経済ニュースの特集コーナーが始まるところだった。『世良グループの機能不全は、早くも下請け企業に深刻な影響を及ぼしています。部品供給を世良に一本化していた多くの町工場では、発注の突然のキャンセルにより、今月末の不渡りが確実視される事態に……』『現場から中継です』 画面が切り替わり、シャッターが下ろされた古びた工場の映像が映し出された。「世良さんからの入金がないと、従業員に給料も払えないんです。急にハシゴを外されても……」 と、作業着姿の初老の男性がマイクに向かって悲痛な顔で訴えかけている。 工場の様子は冷え切っており、全ての稼働が止まってしまっていると見て取れた。 土井精機は、琴葉の高い技術と最新設備があるから生き残れる。 しかし世良という巨大なシステムにただ組み込まれ、言われた通りの単純な部品を作り続けるしかできない末端の工場は違う。 独自の武器を持たない彼ら
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