宗佑の実の弟である峻嗣は、天才的なソフトウェアエンジニアだった。 だから彼の言うことを信じ、電子ネットワークから切り離せば安全だと思い込んでいる。 だが、ハードウェアのエンジニアである琴葉の視点は違う。 彼女はシステムを、確かな質量と熱量を持った金属の塊として見ている。(電子の道がダメなら、物理法則でこじ開けるまでよ) 琴葉がターゲットに定めたのは、世良本社ビルのセントラル空調システムだった。 彼女には最強の相棒がいる。 伊吹が本社に乗り込む前、万が一の事態に備えて、環境制御ネットワークへのバックドアを密かに仕込んでおいてくれたのだ。 彼が用意した専用の侵入ツールを使えば、ビルの空調システムのセキュリティなど開け放たれたドアも同然だった。 琴葉は迷わずツールを起動し、用意された裏口からシステムの中枢へと滑り込む。(さすが伊吹。強固なはずのセキュリティが丸裸だわ) 画面上に、本社ビル全階の空調配備図が複雑な樹形図のように展開される。 最上階、役員室の奥に位置する隠し金庫の座標が表示された。 琴葉はそのごく狭い密閉エリアの環境制御モジュールを特定し、管理者権限を強制的に奪取した。「さあ、サウナの時間よ」 琴葉は小さな声で呟いた。金庫室の空調パラメーターを容赦なく書き換えていく。 まずは冷却ファンへの電力供給を完全に遮断する。 排熱の道を絶たれた金庫室内の温度は、サーバー自身の放つ熱によって急上昇を始めた。 さらに、ビル全体の暖房出力をリミッター上限の危険域まで引き上げた。 その熱風を金庫室内のダクトに集中して直接送り込むよう、フラップの角度を操作する。 イヤホンの奥では、宗佑の勝ち誇った演説がまだ続いている。『お前の持つそのログデータは不完全なダミーだ。本物を手に入れない限り、私を告発することはできん。残念だったな、伊吹』 彼は自分の背後で、完璧なはずのサーバーが内側から悲鳴を上げ始めていることに全く気付いていない。 金属には「熱膨
آخر تحديث : 2026-05-02 اقرأ المزيد