有坂の淡々とした報告に、事務所の入り口で聞いていた工場長が大きくガッツポーズをした。「っしゃあ! これで誰に気兼ねすることもなく、全開で機械を回せるぜ!」「仮処分だけではありません。特許庁に申し立てていた特許の無効審判についても、我々が提出した先行技術の論文と、土井副社長による法廷での物理的証明が決定打となり、極めて有利な状況で審理が進んでいます。遠からず、彼らの特許そのものが初めから存在しなかったものとして抹消されるでしょう」 有坂は書類の一箇所を指差し、明確な勝利の事実を告げた。 現場を覆っていた製造停止という暗雲は、これで完全に晴れたのだ。 琴葉は深く息を吐き出し、ソファの背もたれに体を預けて安堵の表情を浮かべた。「よかった。これでようやく、不毛な特許の迷宮から抜け出せたわね。有坂先生、法廷での見事な采配、本当にありがとうございました。私1人では、あの屁理屈を並べる弁護士たちを黙らせることはできませんでした」「私は法的な手続きを進め、あなたの技術を翻訳したに過ぎません。裁判官の認識を決定的に覆したのは、あなたが用意したあの鉄のサンプルと、一切の誤魔化しがない物理法則そのものです」 有坂はほんのわずか、微笑んだ。 しかしすぐに笑みを引っ込めると、眼鏡の位置を直し、仕事の完了を宣言するように書類をまとめた。「よし。それじゃあ俺は、みんなに勝ちを伝えてくるぜ」 工場長が笑顔で現場の職人たちに朗報を伝えに戻っていく。 応接室には琴葉と伊吹、有坂の3人だけが残された。 琴葉は来客用のお茶を淹れようと立ち上がりかけたが、伊吹の言葉に動きを止めた。「琴葉さん。我々の戦いは、まだ終わっていませんよ」 伊吹の声は先ほどの和やかな雰囲気から一転して、巨大グループを率いる冷徹なCEOのそれに変わっていた。「まだ終わってないって、どういうこと? 仮処分は退けられたし、相手の特許も無効になるんでしょう?」 琴葉が思わず問い返すと、伊吹は傍らの有坂に視線を向ける。 有坂は再び鞄を開いた。先ほどとは別の、さらに
Last Updated : 2026-05-31 Read more