Semua Bab 極貧デザイナーの私が、冷徹CEOに溺愛されるなんて!?: Bab 1 - Bab 3

3 Bab

第1話 その視線は、すでに私を捕えていた

「……来たな」  社長室の大きな窓から、久世 怜司はエントランスを見下ろしていた。  白川 澪。  服装も化粧も控えめ。  古い型のスーツを、無駄なく仕立て直している。  目立とうとはしていない。  だが、線の取り方、丈の落とし方、袖の収め方――  そのすべてが、異様なほど正確だった。 (……なるほど)  今日は、二次審査の日だった。  服飾のハイブランド《ルクソリア》。  その中でも、伝説と呼ばれるライン――《AURORA(アウローラ)》。  そのデザイナーを選ぶための、最終候補を絞る選抜。  そして今、その席にふさわしいかどうかを見極める相手が、もうそこにいる。  伝説のドレス《アウローラ》を、もう一度この世に引きずり戻せるかもしれない。  たった一人の女。 「……ちょっと、確かめてくる」  背後で、秘書の佐々木が息を呑む音がした。  扉を開ける直前、怜司は振り返りもせず、小さく呟く。 「面白くなりそうだ」 ***  私、白川澪が本社ビルに着いたのは、予定より少し早かった。  南青山の《ルクソリア》本社。  ガラス張りのエントランスは、朝の光を受けて静かにきらめいている。  受付を通り、案内までの時間を確認してから、私は足を止めた。  ——《アウローラ》。  展示スペースの一角。  写真と図面、簡潔な解説。  着る人の人生を変えるドレス。  視界に入った瞬間、世界が一段、静まった。  息を吸うのを忘れる。  ただ、そこに在る、という圧だけがあった。  母の工房にあったものとは、違う。  色も素材もデザインも。  でも、纏う空気と完成度は変わらない。  布の重なり。  光の逃げ方。  影になる位置。  写真なのに、分かる。  観客席から見えない部分。  動いたときにだけ現れる線。 (……これ)  考えるより先に、身体が反応した。  バッグからスケッチブックを取り出す。  鉛筆を走らせる。  線が、止まらない。  さっきまで霧がかかっていた部分が、するすると形になる。  ここは、落とす。  ここは、逃がす。  光を集めすぎない。  ページをめくる。  もう一度、重ねる。  ——楽しい。  こんなふうに、頭と手が同時
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第2話 盗まれたのは、私の全てだった

「あなた……私の案を盗んだ」  ほとんど息みたいな声。  でも、成瀬には届いた。  視線が、ぴくりと動く。 「は?」  低く、刃物みたいな一音。  成瀬は微笑んだまま、声だけを落とす。 「ルクソリアのアワードを取った私が、個人工房のあなたの案を?」  刺すような視線。 「思い上がりも、ほどほどにして」  周囲には聞こえない。  でも、確実に私だけに届く声。  私は、口を閉じた。  顔が熱い。喉が詰まる。 (……言っちゃった)  視線を落とす。  心臓の音が、うるさい。  ——でも。  胸の奥で、静かに火が灯った。 (……負けたくない)  ここは、選ばれる場所。  比べられる場所。  私は、椅子に座りながら、  廊下で言われた言葉を思い出してしまう。  ——君の線は一度みたら忘れられない。  やがて扉が開き、簡単な挨拶と会社概要の説明が始まった。  形式的な言葉が、淡々と続く。  そして、いよいよ審査に移る。 「では、グループディスカッションを始めます」  進行役の声が落ちる。  テーマが、スクリーンに映し出された。  ——《アウローラ》を、現代に蘇らせるとしたら。  頭の中が、真っ白になる。  そんなこと、考えたこともなかった。  周りを見ると、皆、頷いたり、メモを取ったりしている。  汗が、じわりと滲んだ。  私なんかが、ここに来てよかったんだろうか。  ——すべては、あの夜から始まった。 ***  半年前の夜だった。 「あっ……」  ベッドの中で、声が漏れたのは、気持ちよかったからじゃない。  でも、黒崎 恒一は、こちらの反応なんて見ていなかった。  独りよがりに動いて、さっさと終わる。  息を整えながら、「悪くなかったよ」と言う。  それだけだった。  そのあと、触れ直すことはない。  キスも、確かめる手もない。  私がどうだったかなんて、どうでもいいんだろう。  来る前に連絡はない。  明朝が納期の舞台衣装の仕上げがあって早く寝たいのに、そんなことは気にしない。  部屋に入るなり、勝手に暖房をつける。  電気代を節約しているのに。  お茶を出せば、「安いやつ?」と眉を動かす。  それで全部。 (……雑に扱われてる)  
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第3話 底辺工房と呼ばれて、怒れなかった

 その日を境に、黒崎からの連絡は途絶えた。 不思議ではなかった。 理由を考えるほどのことでもない。 ……そう思おうとした。 自分からかけることはなかった。 かけていい理由が、もう見つからなかったからだ。 それから数ヶ月後。 帰りの電車で、私はスマートフォンを眺めていた。 何気なくスクロールしていた指が、止まる。【《ルクソリア》、伝説のライン《AURORA(アウローラ)》復活プロジェクト始動】 ——アウローラ。 母の工房が胸の奥に浮かんだ。 年代物のミシンと、布の匂い。 薄暗い部屋の奥に、ひとつだけ空気の違う場所があった。 古いトルソー。 埃をかぶらないよう、白い布が丁寧に掛けられている。 まるで、触れてはいけないものを守っているみたいだった。 その下に、一着のドレスがある。 工房の中なのに、そこだけ光の落ち方が違った。 ——王宮みたいだ、と、子どもの頃の私は思った。「ねえ、澪」 トルソーの前で、母は少し照れたように笑った。「これね、人生を変えるドレスなのよ」「……なんで、お母さんが?」 首を傾げる私に、母は布の端を指先でなぞりながら言った。「私は、華やかな世界に立つ人じゃないから」 穏やかな声だった。「でもね、あの世界は、こういう人間が作ってるの」 ミシンの音。 積まれた布。 母は工房を一度見渡してから、もう一度トルソーを見る。「表に出る人じゃなくても、誰かの人生を変えるものは、作れるのよ」 少しだけ誇らしそうに。「素敵でしょう?」 私は答えず、ただ頷いた。「——私も、アウローラを作る」 あのときの言葉は、叶わない憧れになって、それでも消えることはなかった。 スマートフォンの画面に戻る。 《アウローラ》復活。 記事の文字が、わずかに滲んで見える。(……まだ、終わってなかったんだ) 期待より先に、警戒が立つ。(羨ましい。でも)(私とは、違う世界) そう思って次のページを開いた瞬間、指先が止まった。【《ルクソリア》若手デザイナー・成瀬美玲、社内アワード受賞】【《アウローラ》デザイナー候補に】 画面いっぱいに、ドレスの写真が広がる。 呼吸が、浅くなる。 切り替え。 影の落ち方。 歩いたときの揺れ。 ——見覚えがあった。 自分が引いた線だ。 頭が、うまく回らない。
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