外に出ると、夜の空気が思ったより澄んでいた。 昼間のざわめきが、嘘みたいに遠い。 「……来たな」 少し離れた場所に、久世怜司が立っていた。 待ち構えているわけじゃない。 でも、偶然にしては、立ち位置が正確すぎる。 一瞬、視線が重なる。 怜司は私を上から下まで見ない。 ただ、ほんの一拍、間を取った。 「悪くない」 そして付け加えた。 「今なら、アウローラの場に出しても違和感はない」 胸の奥が、ふっと緩む。 きれいでも、似合うでもない。 ここに立っていいと言われた感覚だけが、静かに残った。 「疲れているだろう」 私が頷くと、怜司はほんの少しだけ視線を和らげた。 「なら、早めに終わらせよう」 それから、短く付け足す。 「行くぞ」 建物の前で、黒い車が静かに止まった。 すぐに運転手が降り、後部座席のドアを開ける。 一瞬、間があった。 ——こういうの、慣れていない。 迷っていると、怜司が先に降りて、視線だけで促した。 「……大丈夫だ」 私は小さく息を吸って、車を降りた。 案内されたのは、川沿いのフレンチだった。 看板は控えめで、通り過ぎてしまいそうなほど静かだ。 扉を開けた瞬間、 空気が変わる。 音が、柔らかい。 声が、低い。 (……場、違う) 私は思わず背筋を伸ばした。 席に案内されると、周囲が自然に切り取られる。 隣の席は見えるのに、会話の中身までは届かない。 落ち着かない。 でも、少しだけ——わくわくする。 席に着くと、メニューは置かれなかった。 代わりに、水が静かに注がれる。 (……え) 怜司が私を見る。 「今日は、こちらで組む」 私は一瞬、言葉に詰まった。 (メニューから選ばないんだ……) 緊張と、期待が、同時に胸に広がる。 「苦手なものは」 「……特には」 「分かった」 それだけで、オーダーは終わった。 料理が来るまで、落ち着かなくて、グラスに触れたり、ナプキンを直したりした。 怜司は、その様子を咎めない。 「——さっきの話だ」 水を一口飲んでから、怜司が言う。 「今日は、何があった」 短い問い。 でも、逃げ道がない。 一瞬、唇を噛んでから、話し始めた。
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-02-08 อ่านเพิ่มเติม