あの一夜から、怜司の態度は一変した。 あんなに激しく私の心を抉り、唇を奪ったのに。 翌朝、アトリエに現れた彼は、私の顔を一瞥もせず、ただデスクに置かれたスケッチに冷淡な視線を落としただけだった。 「……おはようございます」 私の震える挨拶も、彼は無視した。 秘書の佐々木にスマホで事務的な指示を出し、風のように去っていく。 ――好きだと思ったのは、間違いでした。 私が放ったあの言葉が、彼を怒らせたのか。それとも、本当に「道具」としての価値がなくなったと判断されたのか。 胸の奥が、昨夜とは違う痛みで締め付けられる。 でも、止まっている暇はなかった。 「白川さん。……手が止まっているわよ。あと十日で、成瀬に追いつけると思っているの?」 アーカイブ室で待っていた佐伯の声は、相変わらず鋭い。 けれど、昨夜佐々木さんから聞いた「彼女の犠牲」を知った今の私には、その厳しさが、何よりも温かい救いに感じられた。 「……いいえ。やります。教えてください、チーフ」 私は、鉛筆を握り直した。 怜司の沈黙が怖い。無視されるのが、こんなに苦しい。 だったら、認めさせるしかない。 後悔させるくらいの線を引いて。 *** それからの中間発表までの二週間は、人生で最も濃密で、孤独な時間だった。 佐伯チーフは、文字通り私に「武器」を授けてくれた。 アーカイブをただなぞるのではなく、なぜその曲線が生まれたのか。当時の女性たちが、そのドレスを纏ってどんな戦場へ向かったのか。 知識が、私の線に「根拠」を与えていく。 それでも、まだ足りなかった。 怜司の沈黙に焦り、正解を求めてもがいていた夜。 私はアーカイブ室の最奥で、一冊の古いポートフォリオを見つけた。 (……えっ?) 視界に入った瞬間、呼吸が止まる。 あの日、工房の薄暗い光の中で、母が「素敵でしょう?」と照れたように笑って見せてくれた、あの白。 (これ……工房にあった、あれだ) 「表に出る人じゃなくても、誰かの人生を変えるものは作れる」 母はそう言って、職人の誇りを私に教えてくれた。 でも、なぜその「白」が、この煌びやかなルクソリアの心臓部に、冷徹な設計図として眠っているのか。 「……見つけたのね」
ปรับปรุงล่าสุด : 2026-02-28 อ่านเพิ่มเติม