บททั้งหมดของ 極貧デザイナーの私が、冷徹CEOに溺愛されるなんて!?: บทที่ 31 - บทที่ 40

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第31話 ルクソリアの葬列 ~繰り返す女の業と、光の設計~

 あの一夜から、怜司の態度は一変した。    あんなに激しく私の心を抉り、唇を奪ったのに。  翌朝、アトリエに現れた彼は、私の顔を一瞥もせず、ただデスクに置かれたスケッチに冷淡な視線を落としただけだった。 「……おはようございます」  私の震える挨拶も、彼は無視した。  秘書の佐々木にスマホで事務的な指示を出し、風のように去っていく。  ――好きだと思ったのは、間違いでした。  私が放ったあの言葉が、彼を怒らせたのか。それとも、本当に「道具」としての価値がなくなったと判断されたのか。  胸の奥が、昨夜とは違う痛みで締め付けられる。  でも、止まっている暇はなかった。 「白川さん。……手が止まっているわよ。あと十日で、成瀬に追いつけると思っているの?」  アーカイブ室で待っていた佐伯の声は、相変わらず鋭い。  けれど、昨夜佐々木さんから聞いた「彼女の犠牲」を知った今の私には、その厳しさが、何よりも温かい救いに感じられた。 「……いいえ。やります。教えてください、チーフ」  私は、鉛筆を握り直した。  怜司の沈黙が怖い。無視されるのが、こんなに苦しい。  だったら、認めさせるしかない。  後悔させるくらいの線を引いて。 ***  それからの中間発表までの二週間は、人生で最も濃密で、孤独な時間だった。    佐伯チーフは、文字通り私に「武器」を授けてくれた。  アーカイブをただなぞるのではなく、なぜその曲線が生まれたのか。当時の女性たちが、そのドレスを纏ってどんな戦場へ向かったのか。    知識が、私の線に「根拠」を与えていく。    それでも、まだ足りなかった。  怜司の沈黙に焦り、正解を求めてもがいていた夜。  私はアーカイブ室の最奥で、一冊の古いポートフォリオを見つけた。    (……えっ?)  視界に入った瞬間、呼吸が止まる。  あの日、工房の薄暗い光の中で、母が「素敵でしょう?」と照れたように笑って見せてくれた、あの白。 (これ……工房にあった、あれだ) 「表に出る人じゃなくても、誰かの人生を変えるものは作れる」  母はそう言って、職人の誇りを私に教えてくれた。  でも、なぜその「白」が、この煌びやかなルクソリアの心臓部に、冷徹な設計図として眠っているのか。 「……見つけたのね」  
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-02-28
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第32話 キスなど忘れたような顔で、「本物の地獄を教えてやれ」と彼は告げた

 十二月の冷気が、街の喧騒を鋭く研ぎ澄ませていた午後。  ルクソリア本社最上階――関係者以外立ち入り禁止の『コンファレンス・ホール』。  審査員席には、久世怜司と佐伯、そして世界中から集められた有力バイヤーたち。  成瀬美玲と私による『アウローラ』中間プレゼン。  暗転。  二条のスポットライトが落ちる。 「……なんだ、これは」  静寂を破ったのは、感嘆とも戦慄ともつかぬバイヤーたちの吐息だった。    左側に立つのは、成瀬美玲の『闇』――『奈落の月光』。  ルクソリアのアーカイブをあえて切り裂き、再構築した漆黒のドレス。全面に施された黒いビーズが蠢く生き物のように昏い光を放つ。それは、かつて憧れや愛を捨て、泥を啜ってここにしがみついてきた女の「業」そのものだった。 「信じられない。罪深ささえも美しさに変えている……」  バイヤーの一人が、震える手で眼鏡を直した。  対して、右側に立つのは、私の『光』――『暁の初光』。  母の繊細な技法を、佐伯の論理で補強した純白の一着。幾重にも重なるシフォンが揺れるたび、内側から銀糸とクリスタルが、まるでダイヤモンドダストのように煌めきを撒き散らす。 「美しい……アウローラの魂が、現代に呼吸を始めたようだ」  別のバイヤーが、感極まったように席を立ち上がった。  会場中が、この「光と闇」の対比に酔いしれていた。  胸の奥が、熱を持ったまま静かに膨らむ。  これで届かないなら、もう何も残らない。  二週間、眠らずに縫い込んだ祈りは、確かにここにある――。 「――皆様、本日はお集まりいただき感謝する」  不意に背後から響いた、低く涼やかな声。  振り返るまでもなく、肌がその主を察知してぞくりとした。  その声だけで、空気の密度が変わる。  やがて壇上に姿を現した怜司は、経営者としての完璧な微笑を浮かべ、私の存在など視界に入っていないかのように、無機質な視線をバイヤーたちへと向けていた。  けれど、彼が壇上を降りる際、ふとした瞬間に視線が絡みつく。  それは氷のような拒絶なのに、同時に私の心臓を素手で掴み取るような、濃厚で支配的な熱を帯びていた。 (っ……)  あの無理やり唇を奪われた一夜の記憶がよみがえり、一瞬にして肺の空
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-03-01
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第33話 彼女が怖くて手放した地獄を、私は恍惚とともに着こなす

 嵐が去った後のホールは、皮肉なほどに静謐だった。 佐伯は、震える手でスマートフォンの画面を点灯させた。待ち受けには、幼い娘の笑顔と、それを優しく見守る夫の姿。『お疲れ様。夕飯、温め直せば食べられるからね。無理しないで』 夫からの、なんのてらいもない穏やかなメッセージ。 画面を見つめる佐伯の瞳が一瞬、揺れる。 今すぐ電源を切って、この場を去り、その温もりの中に逃げ込んでしまいたい。あの子の寝顔を見て、柔らかい髪の匂いを嗅げば、今日ここで浴びた怜司の冷徹な言葉も、成瀬の憎悪も、澪の絶望も、すべて忘れられるはずだった。「……帰らなきゃ。お母さんに戻らなきゃいけないのに」 呟きながらも、彼女の足は出口ではなく、二つのドレスへと向かっていた。 成瀬美玲の『闇』。 かつて自分を追い、必死に食らいついて習得した「ルクソリアの伝統」。だがその完璧すぎる防御こそ が、彼女の才能を過去の正解の中に閉じ込め、窒息させていた。 そして、白川澪の『光』。 驚くべき純粋さで吸収された自分の「論理」。だが、その純粋さは彼女自身の渇望を削ぎ落とし、無難な正解へと変えてしまった。(……私のせいだわ。私が、あの子たちを『正解』という檻に閉じ込めた) 佐伯は、澪の純白のドレスにそっと触れた。 このまま二人を放置すれば、彼女たちは「及第点のデザイナー」として穏やかに終わる。 それだけは、自分の平穏を守ることよりも、耐え難い屈辱だった。「……ごめんね。もう少しだけ待ってて」 誰に向けたのか分からない謝罪を胸の奥に押し込み、佐伯はスマートフォンの電源を落とす。 完全に捨てることはできない。 けれど、この二人の魂が、久世怜司を跪かせるほどの「本物」に変貌する瞬間を見届けるまでは——私は、ただの母親に戻るわけにはいかない。「いいわ……地獄の底まで、私が付き合ってあげる」 暗くなった画面をポケットにねじ込み、佐伯は静かに背を向けた。 それは、聖域への帰還を先送りにし、教え子の魂を薪にして怪物を焼き上げる、孤独な職人の決意だった。*** 中間発表が終わり、あの冷徹な「及第点」という宣告から数時間。 ルクソリアのマンションにあるアトリエは、死んだように静まり返っていた。 私は、自分が創った純白のドレスの前に立ち尽くしていた。 完璧な正解。なのに——退屈だ、と一蹴
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-03-02
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第34話 背徳の母胎 ~二人の王と人生を変える一着~

 怜司に連れられていったのは、政財界の重鎮やトップクリエイターが夜な夜な欲望を交換する、看板のない会員制サロン『バベル』だった。  一歩踏み出せば、そこは選ばれた者だけが呼吸を許される、黄金色の沈黙と選民意識が支配する異界。  天井から降り注ぐシャンデリアの暴力的な光。  高価な香水とアルコールの匂い。  そして、この場にいる「選ばれた人々」が放つ、目に見えないほどの強い自尊心の壁。  一歩踏み出すたびに、佐伯の「赤」が、私の脚に、腰に、まとわりつく。  背中を大きく開いたデザインのせいで、周囲の視線が直接肌を撫でていくような生々しい感覚があった。 (……逃げたい) (私、やっぱり場違いだ……)  私は気後れして、隣を歩く怜司の腕にすがりつこうとした。  けれど、彼は私の助けを求める視線を冷たく突き放し、グラスを持った給仕を顎で指した。 「……まずは一口飲め。お前のその強張った肩では、ドレスが泣いているぞ」  差し出されたバカラのグラス。  私は震える手でそれを受け取り、逃げるようにシャンパンを喉に流し込んだ。  冷たい泡が胃の奥を刺激し、心臓の鼓動が耳元で激しく打ち鳴らされる。 「……美しい赤だ。まるで、今夜の不穏な月光をそのまま形にしたような」  ふいに、横から落ち着いた声がした。  驚いて振り向くと、そこに一人の男性が立っていた。  怜司のような威圧感はない。けれど、彼がそこに立つだけで周囲の空気が凪いでいくような、不思議な品格を持った人だった。整った顔立ちに、どこか憂いを含んだ穏やかな瞳。  ――見覚えがある。  胸の奥が、かすかにざわついた。 (……この人)  中間発表の日。  壇上から降りたあと、遠巻きにこちらを見ていた男。  声はかけられなかった。  けれど、なぜか強く印象に残っていた。 「一ノ瀬か。相変わらず、獲物を見つける鼻だけは利くようだな」  怜司が、低く、刺のある声で言った。  一ノ瀬と呼ばれたその人は、怜司の嫌味をさらりと受け流し、私に向かって優雅に頭を下げた。 「お久しぶりです――と言っても、こちらが一方的に拝見していただけですが」  柔らかな声だった。 「中間発表のときから、ずっと印象に残っていました」  そして、改めて名乗る。 「お初にお目にかかります。私は一ノ瀬蓮。
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-03-03
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第35話 シンデレラはガラスの靴を叩き割る

「聞いたか、一ノ瀬。  ……この女は、お前が救い出せるような『シンデレラ』ではない。  ……自らガラスの靴を叩き割り、その破片で男の喉元を掻き切るような、そんな女だ」  一ノ瀬の瞳が、一瞬だけ獲物を見つけた獣のように鋭く光った。  彼は不敵な笑みを浮かべたまま、私の手を取り、その甲に形ばかりの、けれど執拗なほど長いキスを落とした。 「……なるほど。救われるのを待つシンデレラよりも、自ら地獄の業火に飛び込む魔女の方が、バイヤーとしては食指が動く」  彼は顔を上げると、怜司の独占欲をあざ笑うように私を真っ向から見つめた。 「白川澪さん。……その赤は君の色じゃないでしょう。誰かの果たせなかった呪いの匂いがする」  怜司が、氷のような眼差しで目を細める。  私の心臓が、早鐘を打った。 (……たしかに、このドレスは私じゃない) (気が付いた……?)  この人は、優雅な微笑みの裏で、私の魂を見抜いている。佐伯チーフが押し殺した過去を、私が借り物の覚悟でまとっていることを、彼は一瞬で見抜いた。 「……その赤は、まだ返り血が足りない。今夜、そのドレスを脱ぐ頃に、あなたがどれほど美しく汚れているか……楽しみにしていますよ」  一ノ瀬はそれだけ言い残すと、沈黙の中に溶けるように去っていった。  あとに残されたのは、一ノ瀬が残した不穏な余韻と、怜司の強引な指の感触。  アルコールと、赤と、欲望に満ちた視線。  それらが混濁し、私の輪郭をドロドロに溶かしていく。  侮辱されているはずなのに、身体の奥がひどく熱い。  怜司に「及第点」と言われた私の線が、この毒を燃料にして、もっと醜く、残酷で、美しいものに変わっていく。   「……ふふっ」  胸の奥で、何かが音を立てて崩れた。  守ってきたはずの理性も、常識も、全部どうでもよくなるほどに、私の中の「赤」が燃え上がっていた。    私はもう一度、喉の奥で小さく笑った。    怜司さん。一ノ瀬さん。そして、成瀬さん。  見ていて。  私は「及第点」を殺して、今夜、本当の《アウローラ》を産み落としてみせるから。  怜司の唇が、私の耳筋をなぞった。  いい子の私は、もうどこにもいない。  私はゆっくりと堕ちていく。  この「赤」という地獄の底へ。  彼という「支配者」が待つ、暗い深
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-03-04
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第36話 完璧な赤を殺した夜に、指先から滴る「欲」という名の最も醜悪で美しいドレス

 そのまま唇が重なると、私は確信した。  けれど。  唇が触れ合う寸前、怜司さんの指が、私の顎を強く押し留めた。 「……まだだ」  低く、掠れた声。けれどそこには、冷徹な理性が揺るぎなく存在していた。  私は拒絶された衝撃で、目を見開いた。 「どうして……。私、もう、あなた以外何もいらないって……」 「今のままのお前を抱いても、それはただの女を抱くだけだ」  怜司さんの瞳は、私を愛おしむようでありながら、同時に、恐ろしいほど冷ややかにその価値を品定めしていた。 「俺が欲しいのは、愛にすがって泣くお前じゃない。……愛さえも素材にして、世界を震撼させる色を創り出す、絶望の果ての白川澪だ」  彼は私の頬を一度だけ愛おしそうに撫で、そのまま、突き放すように手を離した。 「今夜のその『赤』は、まだ佐伯の借り物だ。……このドレスを、お前の『欲』だけで塗りつぶしてみせろ。お前が、俺という存在さえも利用して立ち上がった時――その時初めて、俺はお前を、一人のデザイナーとして、そして女として、芯から喰らってやる」 「……ひどい、ひどいです、怜司さん」  絞り出した声は、自分でも驚くほど熱を持って震えていた。  けれど、その震えの正体は、恐怖だけじゃない。  私は、なんて世界に踏み出してしまったんだろう。  そう戦慄しながらも、私の心臓は、この濁りきった黄金色の異界に、ひどく馴染んでしまっている。  ――ああ、そうか。    私は、怜司さんに認められ、成瀬さんを蹴落とし、彼に「芯から喰らわれたい」。  デザイナーとしての椅子も、男としての久世怜司も、その両方をこの手に掴み取りたいのだと。  醜悪で、底なしの欲。  初めて自覚したその「悪」の胎動が、不思議と私に、かつてない全能感を与えてくれる。  「いい子」の白川澪は、今、ここで死んだ。  私は、怜司のシャツを掴んでいた指をゆっくりと解き、一歩、後退した。  潤んだ瞳で彼を睨みつけ、唇を噛んで、最後の一言を投げつける。 「……全部、紙に焼き付けてきます。……あなたを、後悔させるくらいに」  それを受け止めた怜司さんの口角が、ゆっくりと、満足げに吊り上がった。 「……さあ、戻るぞ。シンデレラ。十二時の鐘が鳴る前に、お前の敵が、お前の首を獲りに来る」  その声は、もはや突き放すための
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-03-05
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第37話 光と欲のドレスを纏い、あなたをひざまずかせるその刹那まで

 夜明け前の蒼い光が満ちる頃、背後でドアが開いた。  足を踏み入れた怜司は、トルソーに掛けられたその一着を見た瞬間、石化したように立ち尽くした。  それは、目を焼くほどに鮮烈な純白。  けれど、シルクが描くドレープには本来あるべき優雅な規則性などどこにもない。後ろから誰かに激しく抱き寄せられ、強欲な指先で布を手繰り寄せられたときに生じる、あの生々しい「歪み」をそのまま形にしたものだった。  さらに、裾が乱れるたびに、裏側の「赤」が切り裂かれた傷口から溢れる鮮血のごとく一瞬だけ覗く。  そして背骨の窪みに沿って腰の極限まで並んだ小さなくるみボタンは、誰かに一つずつ暴かれるのを待つ獲物のような、残酷で淫らな献身を象徴していた。  怜司の指先が、そのボタンの一つに触れ、微かに震える。 「……光と、欲のドレス」  彼はうわ言のように、熱を帯びた声でその名を紡いだ。 「『アウローラ・クレプスキュール』——黄昏の初光。そう名付けよう」  怜司の視線が、ドレスから、乱れた呼吸を繰り返す私へと移る。  スリップの肩紐が片方落ちていることに、そのとき気づいた。  肌が、無防備に晒されている。 「澪、お前はとんでもないものを作ってくれた。俺はもう、止められない……」 「怜司さん」 「……っ、澪!」  強引に腕を掴まれ、壁に押し付けられる。  衝撃で背中の骨が軋む。けれど、それ以上に、至近距離から浴びせられる彼の荒い呼吸の熱に、私の思考は一瞬で白く染まった。 「……俺を殺す気か、お前は」  耳元で響く、余裕のない低い声。  私は逃げる代わりに、わずかに顎を上げ、彼の荒い呼吸を至近距離で受け止めた。  湿った髪の間から彼を見上げ、わざとらしく小首を傾げてみせる。 「……あなたが望んだんでしょう?」  囁くような私の声に、怜司さんの喉が大きく鳴った。  私は自由な方の手で、彼のシャツの胸元をぐいと手繰り寄せ、その唇のすぐ傍で微笑んだ。 「私をここまでおかしくしたのは……あなたでしょう? 怜司さん」 「…………っ!」  食いちぎるような激しさで唇が重なった。  ぶつかるような衝撃のあと、彼の手が私の後頭部を掴み、逃げ場を塞ぐ。  荒い呼吸が混ざり合い、唇が何度も貪るように重なった。  押しつけるだけの口づけじゃない。  噛みつくよ
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-03-06
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第38話 私が、師の伝説のドレスを切り刻んだ日

 ルクソリア本社 デザイン部。  アトリエの空気は、粉塵のように舞う絹の糸くずで白く霞んでいた。  私と佐伯は、ただ一着のドレスに向き合っていた。  私は、トルソーをゆっくりと回転させた。  純白のドレスは、本来ならば完璧な曲線を描くはずだった。  だが今は、背面から大胆に裂かれた布の隙間から、深紅のシルクがまるで傷口のように覗いている。  その瞬間、背後に立っていた佐伯さんの気配が、凍りついたように静止した。 「…………」  長い沈黙が、アトリエを支配する。  佐伯の視線は、純白の表地の裂け目から、鮮烈に――剥き出しの心臓のように覗く「深紅のシルク」に縫い付けられていた。  それはかつて、彼女が『アウローラ』を創り上げた際、 「ルクソリアに相応しくない」と自ら切り捨て、裏地に封印したはずの、彼女自身の『欲』そのものだった。 (憧れの人のドレスを、自分の手でバラバラに切り刻んでしまった) (佐伯さんは、どう思うだろう)  怒るだろうか。それとも。  ……心臓が、ずっとうるさく暴れている。  佐伯が、ゆっくりと右手を伸ばした。  指先が赤のシルクに触れる直前、その手が、目に見えて激しく震えだした。  彼女は自分の手を見つめ、もう片方の手でそれを強く押さえつけた。爪が食い込むほどに。  佐伯は、赤いシルクを見つめたまま、長い沈黙を落とした。 「……私のドレスを、殺したのね」  声は、低く、硬い。  彼女の視線が、ドレスから私へと移る。  その瞳には、射抜くような鋭さと、何十年も暗闇に閉じ込めていた自分を見つけ出された者の、剥き出しの戦慄が混在していた。 「……及第点と言われたあの時、私、怖かったんです」  私は逃げずに、彼女の視線を受け止めた。  声が掠れる。  それでも、言わずにはおれなかった。 「佐伯さんが遺した『正解』を壊すのが。……でも、解体して分かりました」  一度、息を吸う。 「あなたは、この赤を、この地獄を――閉じ込めるために残したんじゃない。解き放つために残したんじゃないかって」  佐伯は言葉を返さない。  ただ、激しく上下する肩が、彼女の内側の激動を物語っていた。  彼女はふっと視線を落とし、自らの裁縫箱の奥底から、鈍い輝きを放つ「金の糸」を取り出した。  彼女の指はまだ震えていたが
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-03-07
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第39話 闇と慈悲のドレス

「……亘一さん」  名前を呼ぶと、男の肩がびくりと震えた。ゆっくりと顔が上がる。  その目に宿っていたものを見て、美玲は凍りついた。  ——怯え。  かつて、傲慢に振る舞っていた男の面影はどこにもなかった。 「紹介しよう」  怜司が、振り返らないまま静かに口を開く。 「君の過去だ」  室内の空気が、鋭く研ぎ澄まされる。 「彼は、いくつか問題を抱えていてね。社内調査の結果、横領と図面流出の証拠が揃いつつある」  怜司は感情を排した声で続け、デスクに置かれた資料に指を置いた。 「君の証言……彼が君を利用して白川を陥れようとした事実を正式に認めれば、君は不問に付そう。彼は完全に終わり、君は無罪放免だ。どうするかは、君に委ねる。君にはその権利がある」  怜司の言葉は、美玲に「泥をすべて黒崎に押し付けて生き残る道」を提示していた。  黒崎が、這いつくばるようにして美玲の足元に縋り付く。 「……頼む、美玲……! お前の証言次第なんだ! 俺が指示したと言えば、俺は……! 頼む、今回だけは助けてくれ……!」  かつて、すべての女を道具として扱い、高圧的に振る舞っていた男。その男が今、女の情けに縋って命乞いをしている。  美玲は、その醜態を冷ややかに見下ろしていた。 (……ああ、そうか) (この男は、最後まで私を自分と同じ種類の人間だと思っているのね)  美玲の中で、何かが静かに決まった。  彼女はゆっくりと怜司に向き直り、一寸の揺らぎもない声で告げた。 「……いいえ。証言は変えません。盗作も誹謗中傷も、彼の示唆ではなく、私の意思でやったことです」  室内の空気が、凍りついた。  怜司が、面白そうに眉を動かす。  黒崎は、信じられないものを見る目で美玲を仰ぎ見た。 「美玲……! あ、ありがとう! やっぱりお前は……お前だけは俺を……!」  歓喜に震え、美玲の手を取ろうとする黒崎。  だが、美玲はその手を、汚らわしいものを見るように一瞬で振り払った。  その瞳には、感謝を求める温かみなど微塵もなかった。 「勘違いしないで、亘一さん。……あなたのためじゃないわ」  美玲の声は、氷のように冷たく、誇り高く響いた。 「私がやったと言えば、この作品は汚れても私のもの。  でも、あなたに唆されたと言えば、私の才能はあなたの付属品に
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-03-08
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第40話 シンデレラは眠らない

 中間発表からランウェイ当日までの一ヶ月、私の世界からは「昼」と「夜」の概念が消えた。視界にあるのは、網膜に焼き付いた純白のシルクと、指先に刺さる金の糸の残像。そして、耳元で鳴り続ける久世怜司の、低く冷徹な声だけだった。  アトリエの床には、没になった数千枚のデザイン画と、世界中から取り寄せたスワッチが雪のように積み重なっている。踏むたびに紙が乾いた音を立て、足首に絡みついた。コーヒーの冷えた匂いと、アイロンの熱で焦げた布の匂いが、もう肌に染みついて取れない。  私は、デザイナーという名の「軍師」であり、同時に「職人」でなければならなかった。  もちろん、最初からそんなことができたわけじゃない。  モデルの歩幅、照明のルクス、バイヤーへのノベルティ……怜司から求められる無数の決断に、私は最初、ただ立ち尽くすことしかできなかった。何かを答えようと口を開いても、喉の奥がひりつくだけで、言葉にならない。周囲のスタッフの視線が、一斉に私へ集まる。その重さだけで、胃がきりきりと縮んだ。 「……そんな怯えた目で俺を見るな。  判断できないなら、今すぐこのプロジェクトから降りろ」  怜司さんの罵声に近い叱咤を受けた瞬間、胸の奥で、昔の私がびくりと身を竦めた。  馬鹿にされるのが怖くて、否定される前に自分から身を引いて、便利に使われても笑ってやり過ごしてきた、あの頃の私。  あの私は、たぶん今も消えていない。どこかで静かに息をひそめて、傷つかないように膝を抱えている。  でも、もう前みたいに、あの子に全部を明け渡したりはしなかった。  私は泣く暇さえ惜しんで、過去のショーの資料を貪り、専門用語を叩き込んだ。  夜中の三時、充血した目で海外メゾンの映像を止めては巻き戻し、モデルのターンの角度をノートに書き写した。五時にはそのまま床で一時間だけ眠り、頬に紙の跡をつけたまま起き上がる。鏡を見る余裕なんてなかった。指先のささくれは裂け、針を持つたびにじんと熱を持ったけれど、痛みはむしろ遅れてくるほうが都合がよかった。  彼に認められたい一心で、私は一晩で演出プランを三通り書き直し、モデル一人一人の筋肉の動きまで叩き込んだリストを作成した。  一度目は「甘い」と切り捨てられ、二度目は「保身が透けて見える」と紙ごと机に戻された。  保身。  その言葉に、指先が
last updateปรับปรุงล่าสุด : 2026-03-09
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