私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した のすべてのチャプター: チャプター 301 - チャプター 310

337 チャプター

301話

新幹線で数時間、そこからホテルへの移動は車。 車で数時間かけて到着したホテルは、とても立派で大きなホテルだった。 「──わあ!」 もみじは、目の前に聳え立つホテルを見上げて感嘆の声を上げた。 楽しそうに声を上げるもみじを、髙野辺は優しげに目を細め、見つめる。 自分達の荷物を車から出してくれる蒔田と田島。 髙野辺に「部屋に運んで参ります」と話しかけると、2人はそっとその場から離れた。 髙野辺は楽しそうにホテルを見上げたり、周囲を確認するもみじにゆっくり近付いた。 営業会議で利用しているホテルは、毎回同じだ。 昔から髙守株式会社が懇意にしているホテルで、髙野辺もこのホテルには出張の際何度も利用している。 ホテルの裏側には広い庭が広がっており、小さな川がある。 夕食を食べ終わった後、そこを散歩するのが髙野辺の好きな時間だった。 「もみじさん」 「──はっ!す、すみません……!ついついはしゃいじゃって……っ、恥ずかしいですよね、失礼しました……!」 「全然大丈夫ですよ。俺たちはまだ少し時間がありますから、少しこの辺りを散策してみますか?」 「──いいんですか!?」 髙野辺の提案に、もみじはぱっと表情を明るくする。 楽しげな雰囲気のもみじを「可愛いな」と思いつつ、髙野辺も自然と笑みが浮かんだ。 「このホテルの裏手に、見事な庭があるんです。そこには小さな川も流れていて、凄く落ち着ける場所ですよ」 「本当ですか?行ってみたいです」 「じゃあ行きましょうか。足元気をつけて、もみじさん」 「あ、ありがとうございます……っ」 自然に、流れるような動作で手を差し出してくれる髙野辺。 もみじは一瞬迷ったが、すぐに髙野辺の手に自分の手を重ねた。 髙野辺の言う通り、ホテルの裏手はそこそこ広い庭だった。 時折石に足を取られてしまったが、髙野辺がすぐにもみじを支えてくれる。 いつの間にか重ねているだけだったもみじと髙野辺の手は、ぎゅっと握り合うようになっていて、髙野辺との距離も近くなっている。 もみじの肩が時折髙野辺の腕に触れるくらいの近さで、もみじは自分の心臓がドキドキと速まるのを感じていた。 「──あ!」 そうしていると、もみじの目の前に小さな川が現れた。 もみじが表情を輝かせると、髙野辺が笑顔を浮かべ、口を開く。 「川のせせら
last update最終更新日 : 2026-06-28
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302話

──ぞわり、と背筋に悪寒が走った。 「……っ!?」 「もみじさん?どうしました?」 ぱっ、と背後を振り向いたもみじに、髙野辺は不思議そうな顔をする。 だが、すぐに顔色が悪いもみじを見て髙野辺はさっと真剣な表情に変わると、もみじの手を引いた。 「体調が悪いですか?それとも寒い?気付かなくてすみません、すぐに中に戻りましょう」 「──えっ、あっ」 髙野辺は自分が羽織っていたジャケットを手早く脱ぎ、もみじの肩にかける。 そして戸惑うもみじをさっと抱き上げた。 突然視界が高くなったもみじは、小さく悲鳴を上げて髙野辺にしがみつく。 「しっかり掴まっていてください、もみじさん……!すぐに中に戻りましょう!」 「──わっ、わわっ」 髙野辺に言われた通り、もみじは慌てて髙野辺に抱きつく。 髙野辺はもみじを抱き上げたまま、急ぎ足で庭を後にしてホテルの中に戻った。 エレベーターに乗り込み、自分達の部屋を取ってある階に向かう。 エレベーターの中に入った時、もみじはもう大丈夫だ、と言い髙野辺に下ろしてもらった。 目的の階に到着し、再び髙野辺に抱き上げられそうになったもみじは顔を真っ赤にして首を横に振ってもう大丈夫だ、と答える。 「だ、大丈夫です髙野辺さん……!もう、大丈夫ですから、ありがとうございます!」 「本当ですか?嘘をついていませんか?無理をしていない?」 心配そうに顔を覗き込んでくる髙野辺に、もみじは必死に頷く。 そして、エレベーターから早く降りようと、今度はもみじが髙野辺の手を引っ張った。 もみじに手を引かれている髙野辺は、自分の手を握るもみじの小さな手を見つめた。 小さくて、細くて、髙野辺自身が強く力を込めたら折れてしまいそうだ。 髙野辺は小さなもみじの手をささやかな力で握り返し、そのまま着いて行く。 もみじと髙野辺が取っている部屋は、隣同士。 部屋の前で足を止めたもみじは、髙野辺に向き直った。 「えっと……」 「──もみじさん、営業会議について詳しい説明をしたいのですが……体調は大丈夫ですか?」 もみじから別れの言葉を言われる前に、髙野辺は先回りをして提案をした。 まだ、自分達が参加する時間までは時間がある。 もみじが休みたい、と言えば髙野辺は無理にもみじの時間を奪う事はしたくはない、と思っている。 だが、も
last update最終更新日 : 2026-06-29
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303話

「ありがとうございます!それじゃあ、俺の部屋でいいですか?」 「はい、大丈夫です」 髙野辺は、自分の部屋のカードキーを取り出し、翳す。 施錠が解かれ、扉を開けるともみじを先に部屋に通した。 その後に髙野辺が後に続き、部屋の中に入った──。 その光景を、廊下の隅からカシャカシャとカメラの小さなシャッター音を響かせ、連写している者がいる。 その人──徳居は、悪意に濡れた瞳でじっとスマホの画面を見つめ、次々にある人物に写真を送る。 送信先は「胡桃」と書かれたアカウント。 そして、そのアカウントは、写真を送った後すぐに文章を送ってきた。 【次は、営業会議中の2人の写真を撮って、私に送って?】 【その後の2人の行動も尾行して、写真を撮って送ってちょうだい?そうね、夜にあなたの彼氏の部屋に入って行くデザイナーもみじの写真何かが撮れたら最高!】 【その写真が撮れれば、彼氏を取り戻させてあげる】 その文章を見た徳居は、瞳に強い光を宿し、じっと髙野辺の部屋を見つめた。 ◇ 髙野辺の部屋に入ったもみじは、髙野辺に促されてソファーに座った。 「座っていてください、すぐに飲み物を持ってきます」 「すみません、髙野辺さん」 お礼を告げるもみじに、髙野辺は部屋に備え付けられている冷蔵庫からペットボトルを2本取り出すと、もみじに渡した。 もみじの向かい側に腰を下ろし、もみじに話しかける。 「体調は本当に大丈夫ですか?」 無理をしていない?と心配してくれる髙野辺に、もみじは笑って頷いて見せた。 「はい、大丈夫です。さっきはすみません……。何だか、誰かに見られているような気がして……」 「──誰かに?」 「ええ……。視線を感じました……、その、なんと言うか、気持ち悪い、視線……?」 何が何だか分からない、といった様子のもみじに、髙野辺はすぐにスマホを取り出して蒔田に連絡を入れる。 さっとメールの文章を打ち込み、送信した。 髙野辺がメールを送ってすぐ。蒔田から返信がくる。 【新島 誠司は都内を出ていません。今も会社で仕事を。嶋久志 胡桃も会社に出社しているようです】 その文章を見た髙野辺は、ほっと胸を撫で下ろした。 誠司も、胡桃もこちらには来ていない。 それなら、もみじが感じた視線はもしかしたら気のせいかもしれない。 だが、誰かに見られ
last update最終更新日 : 2026-06-29
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304話

◇ 「ですから!工藤社員、あなたが指摘した部分、それが我々営業が成し遂げなければならない部分でしょう!デザイナーは良いデザインを上げてくれている!開発部はそのデザインを素晴らしい商品にしてくれている!後は我々営業の仕事だ!」 「だからといって、販路開拓にどれだけの労力がかかると思っている!?簡単に販路を広げと言うが、見合った予算が──」 「だからこそ──!」 営業会議。 営業社員達の意見出し、意見交換の場。 その場に入ってから、もみじは沢山の営業社員達が熱のこもった話し合いをしているのを見て、その気迫に圧倒されていた。 髙野辺が言っていた通り、ホテルの中ホールには営業社員が70名以上は居るだろう。 沢山の営業社員達の熱のこもった話し合いに、室内の気温は外より高くなっている。 髙野辺はもみじの隣で発言している営業社員達を見て、タブレットに何かを書き込んだかと思えば、手元の資料を確認したりと忙しそうにしている。 (──あまり営業の人と関わった事はないけど……営業の人達のデザイナーに対する認識の違いを目の前で見るのは良い機会だわ) デザイナーが居てくれるからこそ、良い商品が生まれる。 だから営業はその良い商品を世に広めたい。 そう考えてくれる人もいれば、デザイナーもあくまで仕事。 デザイナーのデザインに重きを置いていない人もいる。 (考え方は人それぞれだものね。色んな意見があって勉強になるわ) 興味深そうに営業社員達の話し合いを見ているもみじを、髙野辺はちらりと見やる。 ──退屈じゃないだろうか。 ──デザイナーなのに、こんな風に言われて傷付いてやいないだろうか。 そんな心配をしていた髙野辺だったが、心配は杞憂に終わる。 もみじは興味深そうに、楽しそうに会議の様子を見ていて、髙野辺はほっとした。 (良かった……もみじさんは会議の様子をしっかり見てくれている。傷付いても……無さそうだ) 夜は、営業社員同士の交流をメインとした会もある。 そこでは堅苦しい雰囲気ではなくなる。 今よりもっと良い雰囲気で交流が出来るだろう。 (だが、もみじさんが感じていた視線……それが気になるな。彼女に近付く人間を注視しておこう……) 営業会議は、白熱し。 それ以降も長時間営業社員達の話し合いや報告は熱く続いた。 夜──。 営業会議が終
last update最終更新日 : 2026-07-03
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305話

「お2人とこうしてお話出来るの、とても嬉しいです。いつも手助けをしてくださって、ありがとうございます」 もみじが蒔田と田島に話しかける。 すると、蒔田が穏やかな笑みを浮かべ、言葉を返した。 「とんでもございません。こちらこそ玖渡川様にはいつも助けていただいておりますから」 「──え?そんな事は……」 蒔田からにこやかにお礼を告げられるが、もみじは困惑してしまう。 蒔田とこうして直接話す事など、数える程度しかない。 それにもみじ自身、蒔田のような仕事の出来る人を手助けした記憶などない。 逆にいつも助けてもらってばかりだ。 不思議そうにしているもみじに、蒔田は小さく笑って答える。 「玖渡川様が我が社に来てくださって、誰かさんのやる気が桁違いです。今までも仕事には真面目に向き合う方でしたが、今ではそれ以上に……大変助かっております」 「だ、誰かさん……ですか?」 「ええ」 にっこりと笑みを浮かべ頷く蒔田に、ぶふっ!と吹き出す田島。 蒔田がそんな風に指し示す人は、もみじは1人しか思い浮かばない。 そんな事を考えていると、料理を取りに行っていた人物が戻ってきたらしく、蒔田の頭を軽く小突いた。 「──こら、もみじさんに余計な事を言わないでくれ」 「これは失礼しました、社長」 髙野辺が片手にプレートを2枚持ち、戻ってきたのだ。 空いた手で軽く蒔田の頭を小突いた。 蒔田はにっこりと笑みを返すと、田島を連れて料理を取りに席を離れた。 「すみません、もみじさん。蒔田の言う事は無視してくださいね」 髙野辺はそう言うと、もみじの料理が乗ったプレートを置いてくれる。 どれももみじが好きな料理ばかりで、ここ最近髙野辺の家に避難させてもらっているからか、もみじの食の好みを把握してくれているのだろう。 もみじは後で自分で取りに行こうとしていたのだ。 だが髙野辺が持って来てくれた事に、慌ててお礼を伝える。 「す、すみません髙野辺さん……!ありがとうございます!」 「いえいえ。もみじさんはこれ好きだったな、と思って。もし食べられない分があれば残しておいてください」 「いえ!全部好物です、ありがとうございます!」 もみじの言葉に、それは良かった。と髙野辺が嬉しそうに笑う。 「髙野辺さん、飲み物を取りに行きませんか?」 「そうですね。行きま
last update最終更新日 : 2026-07-03
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306話

TK株式会社の営業社員。 女性の営業社員も多いが、男性の社員数に比べれば女性の方が少ない。 そして、今回の営業会議に招待されている男女比も、男性6割女性4割で、男性の方が多い。 だが、招待された女性営業社員も20人以上はいる。 その中で、いくつかのグループに別れていたのだが、その内の1つのグループがもみじと蒔田に話しかけて来たのだ。 「はい、私でしょうか?」 蒔田ではなく、自分に顔を向けている女性営業社員達。 彼女たちの視線を受けたもみじは、首を傾げつつ話しかけた。 すると、もみじの考えは当たっていたようで。 営業社員達はこくこくと頷き、その内の1人がもみじに話しかけた。 「は、はい!その……玖渡川デザイナー、ですよね!?弊社のコンテストで受賞されたデザインを見ました!とても素晴らしいデザインで、見た瞬間言葉を失ったんです……!」 「わっ、私たちもです!それで、後日玖渡川デザイナーが弊社とデザイナー契約をされた、と聞いて……!お話をしてみたかったのです!」 キラキラ、と目を輝かせて興奮したように話す女性営業社員達。 「あ、握手していただいてもいいですか!?」 あっ、ずるい!私も私も!と次々ともみじに差し出される手。 もみじは彼女達の勢いに押され、パチパチと目を瞬いた。 すると、背後から近付く足音が聞こえ、もみじの耳に心地いい低音がするりと入る。 「もみじさん、良ければ社員達と握手をしてもらってもいいですか?コンテストのデザインを見て、凄く感動したみたいです。もみじさんのような素敵なデザイナーと仕事をするのが楽しみで、そして今日この場でもみじさんと会えるのを楽しみにしていたんですよ」 「しゃ、社長──!?」 髙野辺の登場に、彼女達はわっ、と色めき立つ。 頬を紅潮させ、髙野辺に畏まった態度を取る彼女達。 そんな光景を見て、もみじは改めて髙野辺がこの大企業の社長で、こうして普段気軽に交流なんて出来ない存在なのだ、と再認識した。 髙野辺に背中を押してもらった事もあり、もみじは差し出された手に自分の手を重ねた。 「私なんかの握手で良ければ、いくらでも」 「──こ、光栄です!」 「ありがとうございます、玖渡川デザイナー!」 もみじと握手をしてもらった彼女達は嬉しそうに笑いながら、もみじと髙野辺と少しだけ会話をし、頭を下げて
last update最終更新日 : 2026-07-04
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307話

それから交流会の時間、もみじは沢山の営業社員と話をした。 常に隣には髙野辺が居てくれたのもあり、沢山の社員が髙野辺に挨拶に来た。 その時、隣にいるもみじにも挨拶をしてくれたのだ。 皆、もみじがコンテストで受賞したデザイナーだと言う事は知っており、挨拶をしてくれた殆どの社員はもみじに好意的だった。 時折、もみじに鋭い敵意のある視線が向けられた。 だが視線を辿っていけば、その送り主は先程挨拶に来てくれた女性営業社員とは違うグループの女性営業社員達。 視線に乗る感情に、嫉妬や妬みを感じて、もみじは自分のような一デザイナーが、常に髙野辺の隣に居る事が嫌なのだろう、とすぐに察した。 今までのもみじだったら、俯いて申し訳なく思っただろう。 だが、今のもみじは。 (髙野辺さんのお陰で、私はデザイナーとして自信を持てたもの……。自分のデザインは、沢山の人に賞賛してもらえる、だから……、私が髙野辺さんの隣に立つのは烏滸がましいとはもう思わないわ) 自信を持って、堂々と髙野辺の隣に立つ。 それが出来るくらい、自分は自分のデザインに自信を持っているし、デザイナーとしての誇りを持っている。 背筋を伸ばし、しゃんと立って色々な人と話していると、女性営業社員達からの視線は、気にならなくなっていった。 楽しげな交流会。 交流会の開催場所は、ホテルの中ホールだ。 そのため、入口は締め切っておらず、ホテル宿泊者達は前を通る事が出来る。 時折足を止めて交流会の様子を見ている宿泊者もちらほらと見かけた。 だから、目立たぬ場所で交流会をじっと見つめ、カシャカシャと写真を撮る女性──徳居の事など、誰も気が付かなかった。 ◇ 「た、沢山お酒を飲みました……!」 楽しかった!と弾んだ声で笑うもみじを支え、廊下を歩いていた髙野辺は隣を歩くもみじに笑いかけた。 「楽しかったようで良かったです」 「ええ!本当に楽しかったです……!営業社員の方の意見も聞けたし、商品の売り込み方や、販路の開拓方法など、沢山貴重なお話が聞けました!」 楽しそうに話すもみじを見つめつつ、髙野辺は足を進めて行く。 目指すは自分の部屋だ。 こんな風に酔った状態のもみじを、1人にしておくのは不安だ。 自分の部屋で水を飲ませ、酔いを冷ましてもらってからもみじの部屋に髙野辺は送るつもりだった。
last update最終更新日 : 2026-07-04
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308話

翌朝──。 もみじは頭の痛みに呻き、目を覚ました。 「──ぅ、うぅ……」 ズキズキ、と痛むこの感覚には覚えがある。 親友の蘭と酒宴をして、飲み過ぎた翌朝に経験した痛みと酷似している。 「……やだ、二日酔い……?」 昨夜は何をしていたんだっけ。 ぼんやりと昨夜の事を思い出そうとしたもみじは、瞬時にはっと目を見開いた。 「や、やだ、私──!」 「──もみじさん?」 がバリ、と飛び起きたもみじは自分がベッドに寝かされている事に気が付いた。 そして、もみじの声に反応した髙野辺の声が聞こえる。 髙野辺の声が聞こえた方向に顔を向けたもみじは、リビングのソファーで横になって眠っていた髙野辺が起き上がった所をばっちりと見てしまった。 もみじは瞬時に状況を理解して、顔を真っ青に染めた。 酒に酔っても、記憶を飛ばす事のないもみじは、昨夜の事をしっかり覚えていた。 昨夜、交流会が終わって。 まだ飲み足りなかったもみじは、髙野辺の部屋でお酒を酌み交わしたのだ。 営業社員達との会話が凄く刺激になった事、これから自分もデザイナーとして頑張りたいと強く思った事を髙野辺に話した。 もみじの話を嬉しそうに、楽しそうに聞いてくれていた髙野辺。 お酒も進み、眠気に抗えなくなってしまったもみじを、髙野辺は自分の部屋のベッドに運び、寝かせてくれたのだ。 そして、髙野辺自身はソファーで眠ったのだろう。 部屋の主をソファーで寝かせ、自分は悠々とベッドを独占して眠ってしまった。 もみじは真っ青になりつつ、転げ落ちるようにベッドから降りると、ソファーに起き上がっている髙野辺に駆け寄った。 「た、髙野辺さん!ごめんなさい、私……!」 「ははっ、そんなに慌てなくて大丈夫ですよ。しっかり眠れましたか?頭は痛くありませんか?気分は?」 爽やかに笑い、自分の体調の心配をしてくれる髙野辺。 もみじは自分の失態を恥じつつ、髙野辺に「大丈夫」だと告げた。 「それなら良かったです。時間も時間ですし、朝食を食べに──」 「……髙野辺さん?」 スマホで時間を確認しようとした髙野辺の表情がピシリ、と固まる。 スマホの画面を凝視している髙野辺。 その表情は、芳しくない。 眉が寄せられ、眉間にはくっきりと皺が刻まれている。 穏やかとは言い難い険しい表情に、もみじも自然と背筋
last update最終更新日 : 2026-07-05
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309話

「──えっ?」 髙野辺は険しい表情のまま、もみじに自分のスマホを見せる。 スマホの画面は、ニュース記事か何かを開いているようだ。 もみじはスマホの画面に視線を落とし、記事内容を確認する。 「──え、何これ……」 記事を読んでいく内に、もみじの目は見開かれていき、顔色も悪くなっていく。 それもそのはずで、記事になっているのはもみじと髙野辺の事だったのだ。 もみじと髙野辺2人の写真も撮られており、もみじにはモザイクがかかっているが髙野辺は顔もしっかり出てしまっている。 2人の写真は、このホテルの廊下が背景だったり、昨日ホテルにある庭を散策している背景だった。 そして、記事内容をざっと確認したもみじは青い顔のまま髙野辺を見やる。 髙野辺本人も難しい顔をしていた。 「た、髙野辺さん……」 「……酷く下品な記事内容ですが、これが嘘だろうと周囲には関係ない……。それに──」 髙野辺が1度言葉を切り、スマホを強く握りしめる。 強く握られたスマホからビシッと嫌な音が鳴るのがもみじの耳に聞こえた。 「……もみじさんが昨夜、俺の部屋に泊まった事は事実だ……例え、何もなかったとしても泊まった事は事実……。すみません、もみじさん。まさかこんな事になるなんて……油断していました」 悔しそうに、苦しそうに頭を下げる髙野辺。 もみじは慌てて口を開いた。 「あ、頭を上げてください髙野辺さん……!髙野辺さんが謝る事じゃないです!髙野辺さんの立場も考えず、私だって悪い事をしてしまいました……」 ごめんなさい、そう頭を下げるもみじに髙野辺は一歩近付く。 そしてもみじの肩に手を置くと、優しく告げた。 「──俺は、対策を考えます。蒔田秘書と話をしてくるので、もみじさんは俺の部屋を出ないようにしてください。……誰かが、張っているかもしれないので」 「分かりました」 「申し訳ないです、なるべく早く戻りますから。誰かが部屋に訪ねて来ても無視してくださいね」 髙野辺の言葉に、もみじは頷く。 そして、簡単に身支度を終えた髙野辺が外出するのを見送ったもみじは、リビングに戻った。 ソファーに腰を下ろし、ため息を1つつく。 「──どうして、こんな記事……」 もみじは頭を抱える。 スマホを取り出し、先程髙野辺が見せてくれた記事を探そうとした。 だが、その記事はト
last update最終更新日 : 2026-07-05
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310話

「お付き合いをしている、女性……?」 髙野辺には付き合っている人はいない。 本人からもみじはそう聞いている。 そうでなければ、流石にもみじだって髙野辺の家に居候させてもらう事はしない。 「……髙野辺さんが、嘘をつくような人だとは思えないわ」 まだ出会ってから1年程度しか経っていないが、髙野辺の人となりくらいは分かる。 誠実で、真面目で。時々抜けている所はあれど、嘘をつかない人だ。 「なら、嘘をついているのは……この彼女、と言う人物……?」 もみじは何か情報を得られないか、と髙野辺に関する記事を1つ1つ確認していく。 そもそも、髙野辺は国内最王手のデザイン会社の社長だが、業界の重役や取引先以外にはあまり顔を知られていない。 メディアには一切出ないし、インタビューなどにもそうそう出ない人物だ。 だからもみじだってデザイナーとして活動してはいたが、直接取引が無いTK株式会社の社長の顔は知らなかった。 それなのに、今回は髙野辺の顔をしっかり撮られ、しまいには髙野辺が浮気をしているなどめちゃくちゃな記事を書かれている。 「……それに、どうして髙野辺さんがここに居る事を知っているの……?営業会議は非公式だって言ってた。……TK株式会社の社員や社長が泊まっているホテルだって、どうして分かったの……?」 考えていたもみじは、はっとする。 「──もしかして、内部情報を漏らしている人が社内に居るの!?」 もしそうだったら、とんでもない事だ。 「……このホテルに着いて、髙野辺さんと庭に居る時に感じた視線ってもしかして……」 今思い出すだけで、ぞわりと背筋が粟立つ。 それくらい、恨みや嫉妬の籠った視線だったように思える。 「あの視線の主が、もしかしてこの記事を書いた人にリークした……?」 そう考えれば、納得がいく。 恐らく、自分達は行動をずっと見張られていたのだろう。 だからこそ髙野辺や自分が泊まっている部屋だって分かったのだろうし、写真自体もその人物が撮って、記者に送ったのかもしれない。 「……新島社長や、胡桃が来ていないからって……油断したわ……」 もう、あの人達に苦しめられる事はないのだと思って、気が緩んでしまったのかもしれない。 だが、今もみじが行動を共にしている人は会社の社長で、女性たちにも人気な人だ。 「……髙野辺さんに
last update最終更新日 : 2026-07-06
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