私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した のすべてのチャプター: チャプター 291 - チャプター 300

337 チャプター

291話

「た、叩いた……?叩いたのか、俺を……?」 誠司は唖然とし、もみじに叩かれた頬を手のひらで覆った。 「……これ以上、もみじさんに関わらないでください、新島社長。これ以上付き纏い行為をすると言うなら、こちらもそれ相応の対処をする」 「……」 髙野辺の言葉に誠司は唖然としたまま、もみじを見つめている。 これ以上誠司との会話は不要だ。 そう判断した髙野辺は、もみじと蘭を促してその場を離れた。 誠司との距離をある程度とれた事を確認した髙野辺は、足を止めてもみじに話しかけた。 「もみじさん、手は大丈夫ですか?痛みはないですか?」 「大丈夫です髙野辺さん。助けてくださってありがとうございます」 「いえ、とんでもない。……だけど、1度ちゃんと医者に診てもらいましょう。家に帰っても、あまり動かさないようにして。今日の家事は俺がやるので……」 「だけど、髙野辺さん……」 それは申し訳なさ過ぎる。 もみじは断ろうとしたが、髙野辺は頷いてくれそうにない。 それどころか、髙野辺は蘭に視線を向けて話しかけた。 「一ノ瀬社長も、もしよろしければ今日は家で飲みませんか?もみじさんの親友である一ノ瀬社長がしっかり見張ってくれていれば、もみじさんも無理に動かないような気がします」 そして、そんな提案を蘭にしてしまう。 もみじが親友の蘭を大切にしている事、そして、2人の仲がとてもいい事を既に髙野辺は知っているのだ。 だから、蘭からも安静にしてて、と言われたらもみじはきっと動かないでいてくれる。 髙野辺のそんな気持ちを正しく理解した蘭はにんまり、と笑んだ。 「──お誘いありがとうございます。私がしっかりともみじを見張ります」 ◇ パーティーも、もうそろそろ終わる頃合い。 髙野辺はもみじと蘭に「先に帰っていてください」と告げ、取引先のもとへ向かって行く。 その背中を見送っていたもみじと蘭は、髙野辺が取引先の人間と話すのを見た後、向き直った。 「──じゃあ、私たちもそろそろ会場を出ようか、もみじ?」 「ええ、そうしましょう」 「お酒とか、軽くつまめる物とか、帰りに買って行く?」 「そうね。近くにコンビニがあるからそこに寄ってから帰りましょう」 もみじの言葉に、蘭は嬉しそうに頷く。 髙野辺の自宅に招かれたのだ。 蘭に取って、これ以上のチャンスは
last update最終更新日 : 2026-06-23
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292話

パーティー会場を出たもみじと蘭を待っていたのは、髙野辺の秘書田島。 田島は一礼すると、髙野辺から家まで送り届けるよう言われている、と告げるともみじと蘭を車に乗せた。 帰宅する際も、尾行がいないかどうか田島はしっかり確認しつつ髙野辺のマンションに向かった。 「飲み物や軽食はこちらで手配いたします。既に女性医師を待機させておりますので、玖渡川さんは手首を診てもらってください」 田島はそれだけを言うと、ぺこりと頭を下げてマンションには入らず下がってしまった。 流れるようなスマートな行動に、蘭は終始唖然としていた。 「も、もみじ。……流石、大企業の社長についている秘書も凄腕なのね……そつなく、隙なくやるべき事をこなしてさっさと帰っちゃったわ……」 「え、ええ……。私も慣れないわ、本当に凄いわよね……」 もみじも苦笑いを浮かべ、蘭に言葉を返す。 マンションに入ると、コンシェルジュが「玖渡川様、お帰りなさいませ」と笑顔で挨拶をしてくれる。 もみじも挨拶に笑顔で返しつつ、エレベーターに乗り込んだ。 「ねえ、もみじ……。髙野辺社長のご自宅にお邪魔して、どれくらい経つの?」 蘭の質問に、もみじは悩むように虚空を見上げる。 「そうね……先月末からお邪魔しているから……半月、くらい?」 「──そんなに!?」 「あっ、でも髙野辺さんのお家はとても広いから、ほとんど一人暮らしみたいなものよ?髙野辺さんは忙しいから帰宅は遅いし、私も仕事をしている時は部屋に籠っているから、顔を合わせない日もあるし……」 「へえ……何だか、それはそれでとても快適そうね」 蘭の言葉に、もみじは頷いた。 本当は、助けてもらっているから、とせめて家事くらいはしないと、と当初はもみじもそう思っていた。 だが、存外髙野辺は家事が好きらしく、仕事で遅く帰って来た日でも楽しそうに家事をこなしている。 仕事でのストレスを発散出来るから家事は苦ではない、と言われてしまえば、もみじが全ての家事をこなしてしまうのは気が引ける。 だから、休日の日などは髙野辺と一緒に家事をするのだが、元々髙野辺の家は物が少なく、洗濯物も殆どクリーニングに出していると言っていたのでやる事が少ない。 自分がお世話になっているから、とせめてお礼として出来る事は料理くらいだ。 「今回のパーティーが終わって、大きな
last update最終更新日 : 2026-06-24
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293話

「新島社長、変なことを言っていたわ……!建造物のデザインを胡桃がするみたいな事を言っていたでしょ?それを、私に手伝わせてやるとか言ってた……!」 「ちょ、ちょっともみじ……、一先ず先に中に入っちゃいましょう?髙野辺社長がお医者さんも呼んでくれているって言ってたし、その話は中に入って、手当を受けてからよ!」 ぐいぐいと背中を押す蘭に促され、もみじは一先ず中に入った。 中に入ると、年配の女性医師が待機しており、もみじの手首を診てくれた。 怪我はしていないが、一応あまり動かさないように、と軽く湿布を貼ってくれて診察は終わる。 女性医師にお礼を告げて見送ったもみじと蘭は、リビングに移動すると椅子に腰を下ろして先程の話を始めた。 「ねえ、蘭。さっきの話なんだけど……」 「ああ、さっき言ってた新島 誠司の事?なんか、建造物?の仕事があるって言ってたわね……」 「ええ、しかも大きな仕事だって言ってたわ」 もみじの頭の中に1つの仮説が浮かぶ。 もしかしたら、誠司や胡桃は自分がデザインをしたあの駅舎のデザインの仕事を言っているのではないか──。 もし、あの2人──いや、胡桃の両親が胡桃のために駅舎の仕事を横から奪い取ろうとしているなら。 (到底、黙っている訳にはいかないわね……) 守秘義務があるため、まだ蘭にこの仕事の事は話せない。 だけど、以前蘭は誠司に会社まで来られている。 恐らく、誠司も駅舎の仕事に自社も一枚噛めないかどうか、それを調べていたのだろう。 だから蘭の背後にいる両親から何か情報を得ていないか──、それを頼りに蘭に接触しに来たのだろう。 そうに違いない。 (どうしよう……蘭に、詳細は省いて相談してみる……?だけど、蘭もデザイン会社の社長だから駅舎リニューアルについては耳に入っているはず……) 気付かれてしまうのは、今はまだ避けたい。 不思議そうにこちらを見つめる蘭に、もみじは「何でもない」と言うようにへらりと笑った。 ちょうどその時。 もみじのスマホが着信を知らせ、ブーブー、とバイブ音が響く。 「誰だろう?ちょっと待ってて、蘭」 「うん」 もみじはスマホの画面を見た瞬間、息を呑んだ。 ちょうど、考えていた仕事先からの連絡だ。 もみじは「仕事の電話、ごめん、部屋でしてくるね」と蘭に断りを入れてから自室に向かう。
last update最終更新日 : 2026-06-24
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294話

「……情報が漏れていたって、どう言う事ですか?この仕事に関わっている人達には守秘義務契約を交わしていますよね?」 もみじの言葉に、電話向こうに居た人物は困ったように答えた。 〈ええ……、おっしゃる通りです。ですが、外部から相当権力のある人物が……〉 電話をくれた人もまだ状況を把握しきれていないのだろう。 電話向こうにいる人の周囲は騒がしく、バタついているのが分かる。 それに彼が口にした「外部の権力者」に、もみじは心当たりがあった。 恐らく胡桃の父親、嶋久志 忠だろう。 忠は昔から胡桃を可愛がっている。 彼の娘は2人。 もみじと胡桃なのだが、もみじには忠に可愛がられた記憶が殆ど無い。 記憶も朧気な、幼少期には可愛がってくれた記憶が微かにあるが、それも本当の記憶かどうかも分からない。 自分の願望なのかもしれないのだ。 それほどに、忠はもみじと胡桃を分かりやすいほど差別していたのだ。 胡桃の事だけを可愛がり、もみじにはいつも冷たい態度ばかりを取っていた。 それでも中学、高校、そして中退はしてしまったが大学には通わせてもらっている。 ただ単に世間体を気にし、学校に通わせただけかもしれないが、もみじは感謝をしていた。 いくら胡桃との扱いに差はあろうとも。 自分を愛していないと分かっていようとも、しっかり学校に通わせてもらっているから。 だが、胡桃のためにこんな事までするとは──。 この事に関わっていると分かれば、忠だってただではすまないのは目に見えている。 何らかの罰を受けるだろう。 「……それなのに、お父さんは胡桃のためにそれほどの危険を……」 〈──Seaさん?すみません、良く聞こえなくて、大丈夫ですか?〉 もみじははっとする。 そうだ、今はまだ電話の最中だった。 「ご、ごめんなさい。……その、そちらはどのように対処するのですか?」 〈そうですね、通常でしたら……情報を漏らした人物を処罰し、相手方にも警告をするのですが……〉 「……どうしたんですか?何か問題でも……?」 どうにも歯切れが悪い。 不思議に思ったもみじが問いかけると、電話向こうの人物は、戸惑いつつ告げた。 〈それが今、上層部でこの件に関してストップが掛かっておりまして……〉 「上層部で……?」 〈ええ……。どうやら協賛会社からの回答を待ってい
last update最終更新日 : 2026-06-25
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295話

髙野辺が自室に入ると、もみじを呼ぶ蘭の声が聞こえた。 ぼうっとその場に突っ立っているもみじを、不思議そうに手招いている。 「もみじ、どうしたの?早くこっちにおいでよ!」 「──え、あ……っ、今行くわ……っ」 ぱたぱた、ともみじが小走りでリビングのテーブルに向かう。 すると、テーブルの上には沢山のお酒と、軽食が広げられていた。 髙野辺が買って来てくれたのだろう。 缶ビールやサワー、酎ハイ、日本酒やワインなどなど、種類が豊富だ。 好きなお酒を飲めるように気を使ってくれたのが分かる。 そして、軽食の種類も豊富だった。 軽いおつまみから始まり、お腹にたまるような麺類や米類、お菓子のような物まで幅広く揃えられている。 グラスや氷を用意していた蘭は、もみじの顔を見て不思議そうに話しかけた。 「もみじ、どうしたの?顔が真っ赤だけど……」 「──え!?な、何でもない……!」 もみじはぶんぶん、と顔を横に振り、蘭と一緒に取り皿やお箸などを出し始めた。 ◇ 「すみません、お待たせしました」 ラフな格好に着替えてきた髙野辺がリビングにやって来る。 「全然待ってませんよ、大丈夫です」 「髙野辺社長、今日は私まで招待いただきありがもうございます!」 蘭は本当に嬉しそうにキラキラと表情を輝かせている。 髙野辺は改めて自分の手を差し出すと、口を開いた。 「こちらこそ、急な招待にも関わらず快諾してくださりありがとうございます。ゲストルームがあるので、もし帰宅するのが面倒であれば、そのまま泊まって行ってください」 「──ありがとうございます!」 蘭は髙野辺の手を握ると嬉しそうに笑った。 3人でのお酒の飲み合いは、とても楽しい時間になった。 髙野辺は意外とお酒に強いらしく、それに沢山ご飯を食べる。 パーティー会場ではいつも話がメインなので帰宅する頃にはお腹がぺこぺこになっているそうだ。 それに、髙野辺もアルコールに強いが蘭もかなりお酒を飲む。 髙野辺との実りある会話が楽しかったようで、今日は次々にお酒を飲んでいた。 「──ちょっ、と……お手洗いに……」 「大丈夫、蘭?歩ける?」 ふにゃふにゃとした様子の蘭に、もみじは心配になって立ち上がる。 「大丈夫、大丈夫!」と笑う蘭だったが、ちっとも大丈夫そうには見えない。 もみじが蘭に付き添
last update最終更新日 : 2026-06-25
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296話

リビングに戻って来たもみじと髙野辺。 髙野辺はソファーに座ると、自分の隣をぽんぽん、と叩いた。 隣に座ってくれ、という意味だろう。 拳ふたつ分、距離を開けてもみじは隣に腰を下ろす。 髙野辺はテーブルに置いてあった自分のグラスと、もみじのグラスに水を注ぐと、手渡した。 ありがとうございます、とお礼を告げてもみじはグラスを受け取る。 柔らかく微笑んだ髙野辺がグラスに口を付けて、一口水を飲んでからゆっくり口を開いた。 「……もみじさん、Seaとして……来年の駅舎立て替えデザインを担当されていますよね」 「どうして髙野辺さんがその事を……?この仕事は、しっかりと守秘義務が……」 「ええ、そうです。……協賛企業の髙守株式会社を知っていますか?」 髙野辺から問われた言葉に、もみじは頷いた。 「え、ええ勿論です。髙守株式会社は国内有数の大企業ですから……」 だが、それがどうしたのだろう。 その疑問がもみじの表情にはしっかりと浮かんでいる。 髙野辺はちらり、とゲストルームに視線を向けた。 蘭は深い眠りに落ちているようで、起きてくる気配は全く無い。 髙野辺は覚悟を決めたように隣に座るもみじに真っ直ぐ、真剣な瞳を向けた。 そして、口を開く。 「俺は髙守株式会社に籍があります。デザイン関係の仕事は、全て俺に情報が降りてきますから……。その関係で、駅舎の立て替え工事が行われる事も、当初から知っていました。その立て替えのデザインを、Seaであるもみじさんが担当している、と言うのは少し前に知りました」 「髙野辺さん、が……。髙守株式会社に……?」 もみじは唖然とする。 髙野辺が、TK株式会社の社長のみならず髙守株式会社とも関係があるなんて。 髙守株式会社は国内で数々の事業を展開している大企業だ。 ホテル事業や商業施設、服飾や食品など髙守の事業展開は幅広い。 そんな大企業に、髙野辺は在籍していると言う。 もみじが唖然としている間に、髙野辺は淡々と説明を続けて行く。 「髙守から連絡が来たんです。今回の駅舎立て替えのデザイナーとそのデザイン、それに1年後のセレモニーについても。その中で、鉄道会社が立て替えとデザイナーに関しては口外しないように、と言う連絡もしっかり統制されていました」 髙野辺が髙守からデザイン関連の仕事に関して、かなりの仕事を
last update最終更新日 : 2026-06-26
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297話

胡桃のために、自分の父親がとんでもない事をしでかしてしまった──。 もみじは自分の家族のせいで多大な迷惑をかけている事を察し、髙野辺に頭を下げようとした。 「申し訳ございません、髙野辺さ──」 「ま、待ってくださいもみじさん!あなたが謝罪する必要はないんです!謝罪すべきは、無理やり情報を得た嶋久志 忠でしょう?それと、実力もないのに親の力に頼り、厚顔無恥な振る舞いをする嶋久志 胡桃が悪いんです。そして、それを止める事なく協力する新島 誠司。彼らが悪いだけで、もみじさんは関係ない」 「で、ですが私の家族が──」 「もみじさんは嶋久志の家と……その、疎遠ですよね……?」 髙野辺は気まずそうに、申し訳なさそうにもみじに問う。 今までのもみじを見ていれば、実家と良好な関係を築けていないのは察せれた。 もみじが母方の旧姓を名乗っているのがいい例だ。 離婚した後も、実家を頼る事なく、実家の苗字に戻す事もなく、母方の「玖渡川」を名乗っている事がその証拠だ。 だから髙野辺は今回の件と、もみじは全くの無関係だと言う事は分かっていた。 そして、それを髙守株式会社にも報告している。 「ええ……恥ずかしながら、実家と私の関係──いえ、両親との関係は良くないですから……」 「ならば、もみじさんは無関係です。悪いのは彼らであって、もみじさんが謝る必要はありません。……話を続けても?」 優しく自分の顔を覗き込み、励ますように手を握ってくれる髙野辺に、もみじは微笑んで頷いた。 「それで……、先程向こうの担当者と少し話しました。……今回、向こうには嘘の情報を流したそうです」 「──えっ、嘘の?」 「はい。だって、駅舎立て替えデザインは既に完成しているでしょう?今からデザインを募集していたら、立て替え完了時期に間に合いませんから」 「──あっ!た、確かに髙野辺さんのおっしゃる通りです……!」 完成セレモニーは1年後。 今からデザインを募集して、あの大規模な建造物を建築するのは無理だ。 その事から、誠司が得意気に話していた内容は、先方が流した嘘の情報だ。 どれだけ急ピッチで工事を進めても、到底間に合うはずがないのだから。 「鉄道会社は、情報を漏らした人間と、情報を買った人間を許さないと言っています。情報を買った人間は、どんな手を使ってでも自分達のデザイン
last update最終更新日 : 2026-06-26
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298話

「セレモニー……、ですか?」 「ええ。あそこで、不正を犯した彼らを吊し上げる」 「ま、待ってください、私はあのセレモニーで自分の正体を……!」 もみじは、セレモニーで自分が本当のSeaだと言う事を発表しようとしていたのだ。 もしかしたら、それが出来なくなってしまうかもしれない。 そうなったら、今まで胡桃がSeaの名前を騙っていた事を白日のもとに晒せなくなってしまうのではないか──。 もみじはそんな不安を覚えた。 だが、もみじが考えていた事をある程度察していたのだろう。 髙野辺は慌てるもみじの手を優しく握った。 「大丈夫です、もみじさん。あの人達の不正を暴くのは、駅舎のデザインをしたのはもみじさんだと発表した後。あなたがSeaだと言う事が大々的に発表された後です」 「は、発表のあと、ですか?」 「はい、そうです。あなたがSeaだと言う事が世間に公表され、駅舎もSeaのデザインしたものだと知られる。……そうしたら、嶋久志 胡桃はSeaの名前を騙った最低な人物だと分かるでしょう?」 髙野辺の言葉に、もみじは頷く。 確かにその通りだ。 胡桃がいくら素晴らしいデザインを用意しようと、それは使われる事はない。 それに、恐らく胡桃は自分がSeaだと言う事を武器にして応募してくるはず。 「……なら、胡桃のデザインは何とか最後まで残ってもらわないと駄目ですね。セレモニーの場で、胡桃やその両親は自分達が主役だと思うはずだから……その自信満々な彼らを纏めて地獄に突き落としてやりたいです」 もみじの口から、彼らを「地獄に突き落としたい」と言う過激な言葉が出て来た事に、髙野辺は目を見開く。 そんな様子の髙野辺に、もみじは苦笑いを浮かべ、言葉を零す。 「……長い間、私もあの家族には辛い思いをしてきました……。胡桃ばかりを可愛がる父。胡桃ばかりを優先する元夫。私の本当の母親じゃないから、義母が私を愛さないのは理解できます。だけど、同じ娘なのに、父はいつもいつも胡桃ばかりを……!」 「──もみじさん……」 「だから、父も義母も、少しくらい酷い目に遭えばいいと思います……!間違った道に進む胡桃を、正さなかったあの人達が悪いんですから……!私は、自分の力で、自分だけの力でSeaとして力を付けてきたんです……!私を、Seaの価値を掠め取ろうとするなんて、絶対
last update最終更新日 : 2026-06-27
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299話

◇ パーティーの日から、数日後。 あの日、もみじと暫く話をした後、髙野辺ともみじはそれぞれ自分の部屋に戻って眠りについた。 翌日、蘭は髙野辺にお礼を言って家を後にし、その後、もみじと髙野辺は1年後に行われる駅舎のセレモニーについて、今後色々と作戦を練って行こう、と約束をした。 ◇ 「社長!──あっ、痛っ」 捻挫をしている足を引き摺りながら、廊下を歩く髙野辺を呼び止める女性の声。 髙野辺が振り向くと、そこには先日のパーティーで自分にぶつかり、転倒して怪我をした中途採用の女性──徳居社員が居た。 彼女は急ぎ足で髙野辺を追っていたらしく、怪我をして不自由な足のため、途中でバランスを崩してしまった。 このままでは転んでしまう。 徳居が体を傾けた瞬間、すぐに逞しい腕が彼女を支えた。 徳居は頬を染め、潤んだ瞳で自分を助けてくれたであろう髙野辺にお礼を言おうと顔を上げた。 だが、徳居の視界に入ったのは恋焦がれる髙野辺ではなく──。 「大丈夫ですか」 すん、と冷静な表情の髙野辺の秘書、蒔田だった。 髙野辺の隣に居た蒔田が素早く動き、倒れそうになっている徳居社員を支えたのだ。 髙野辺はその場所から微動だにしておらず、常と変わらない冷静な表情で徳居社員を見つめていた。 「だ、大丈夫です……」 徳居社員はがっかり、といった態度を隠す事なく、支えてくれていた蒔田の手を押しのける。 「……徳居社員、何か重要な話でも?」 「──あっ」 髙野辺の冷たい声が廊下に響く。 髙野辺は徳居社員に歩み寄る事なく、その場に足を止めたまま素っ気なく話しかける。 冷たい態度の髙野辺に、徳居は一瞬躊躇った。 だが、めげずに髙野辺に話しかける。 「あ、あの……っ!来週行われる営業会議に、どうして私が参加出来ないんですか!私も出張に同行したいですっ!」 「……君はまだ入社したばかりだろう。君にその権利は無い。それより早く仕事を覚えて社のために働いてくれ」 「しゃ、社長っ!」 髙野辺はそれだけを言うと、徳居が呼び止めているにも関わらずそのまま歩き出してしまう。 蒔田は徳居から手を離すと、彼女を振り向く事なく髙野辺の後を追いかけて行ってしまう。 自分に見向きもせず、歩いて行ってしまう髙野辺の背を悔しそうに見つめていた徳居社員は、低い声で呟いた。 「──どう
last update最終更新日 : 2026-06-27
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300話

◇ TK株式会社では、毎年営業会議と言う物が開催される。 TK株式会社は国内大手のデザイン会社だ。 営業部は大きく、一年中出張やら取引先との会議やらで出払っている人が多く、国内に散らばっていたり、海外出張に行っていたりと会社に戻ってくるのが稀な人もいる。 だが、この営業会議では一人前の営業になった者達が集い、日々の仕事内容を発表したり、意見交換をしたりする場になっている。 言ってしまえば、ある意味営業同士の交流会。 だが、その交流会は自社営業社員だけ、そして営業会議に参加出来るのはある程度能力がある人間だけに限られているのだが、TK株式会社の営業社員はとても多い。 その中から参加する人数を厳選しているとは言え、50名は超える。 人数に制限はないが、それぞれの課から課長が部下を推薦する。 髙野辺を始めとした、上層部が推薦された社員の業績や普段の仕事の様子を確認し、可否を出すのだ。 「──今回の営業会議は、久しぶりに70名を超えているんです」 営業会議が開催される場所は、本社がある都心から離れた、西側にある。 そこに向かう新幹線に乗り、髙野辺は自分の隣に座っているもみじに今回の営業会議に同行しているもみじに説明をしていた。 「70人以上も……!皆さん優秀なんですね!」 凄い、と目を輝かせるもみじに、髙野辺は微笑む。 「ええ、そうですね。営業成績は基準の1つ、それ以外でも、社員1人1人の仕事の打ち込み方や、成績に伸び悩んでいる人も、参加しています。だからこそ、この営業会議に参加して、優秀な社員と意見交換して刺激を受け、日々の仕事にやり甲斐を感じて欲しいんです」 「確かに……。同じ会社の人達は仲間でもあり、ライバルでもありますものね。沢山の人と会話をするのは自分にとっても凄く良い刺激になると思います!」 「ありがとうございます。……だからこそ、もみじさんが我が社と契約を結んでくれた時、この営業会議に同行して欲しいと思ったんです。一流デザイナーが、身近にいるんです。彼らは、一流デザイナーのデザインを預けてもらい、商品としてそれを流通させる仕事をしている。……近年では、デザイナーに対して敬意が薄れている人もいます。私たちはデザイナーの素晴らしい作品を預けてもらって、それを商品にさせていただいている。それをもう一度思い出して欲しいんです」
last update最終更新日 : 2026-06-28
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