「──少し出てくる」 思い立ったが吉日、とばかりに誠司はデスクから立ち上がると、パソコンに向かっている中野にそう告げた。 「お出かけですか?夕方は取引先と会食が入っております」 「分かっている。それまでには戻る」 「承知しました」 不思議そうに話しかけてくる中野に、誠司は視線だけを向けてそう答えると、そそくさと部屋を出て行った。 社長室に1人になった中野は、ボールペンを自分の口元に当て考え込む。 「……社長の様子がおかしいわ。この間、ここでしていたのがバレたから、じゃないわよね。大分時間が経っているし……」 それ以外では、なんだろう。 そう考え込む中野だったが、1人で考えていても何も分からない。 中野は自分もデスクから立ち上がると誠司の後を追って社長室を出た。 一方、誠司は胡桃のデザイン室に向かうため、廊下を歩いていた。 誠司を見た社員たちが挨拶をしてくるが、以前のように良い雰囲気ではない。 不倫をし、そして離婚をした誠司への視線や態度は余所余所しく、既婚者の社員からは冷たい。 (──ちっ。まだ不倫の事が尾を引いているのか。もう済んだ事だというのに……) 誠司は内心で舌を打ちつつ足を進め、胡桃のデザイン室に到着した。 「胡桃、入るぞ」 外から声をかけ、室内に入る。 すると、そこに胡桃の姿はなく、誠司は眉を顰めて周囲を見回した。 「……まだ出社していないのか?いや、そんな馬鹿な……」 ちらり、と壁にかけてある時計に視線を向ける。 時刻は11時。 既に始業から2時間は経過しているのだ。 「妊娠しているのだから、仕事は休めと言ってやったのに、出来ると言うから……それなのに時間も守らず、仕事もせずに胡桃はどこをほっつき歩いているんだ……!」 これならやはり家に居た方がいいんじゃないか。 誠司がそう考えた時。 デザイン室の施錠を解錠し、胡桃が部屋に入ってきた。 「──あら?誠司、どうしたの?」 「どうしたじゃないだろう。出社時間もまともに守れないのであれば、無理して仕事をしなくて良い。実家に居たらどうだ?」 「……私を実家に押し付けて、自分は中野秘書と楽しむつもり?そんな事させないわ」 「──っ、この間のはッ、一時の気の迷いだと説明しただろう!俺は胡桃と、腹の子が大切だ、と……!ただ、少し……魔が差しただけだ…
Última actualización : 2026-09-04 Leer más