Todos los capítulos de 私の夫は義妹のために99回離婚を切り出した: Capítulo 381 - Capítulo 390

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381話

胡桃が寝室から出てきたと言うのに、誠司はちらりとも胡桃を見ない。 それどころか、胡桃が部屋を出てきた事にすら気がついていないようだった。 ほれほどまでに。 たった3文字の「もみじ」という女の名前に、誠司の意識は今、向けられているのだ。 誠司の子供を身篭っている自分よりも、別れた元妻の名前にすら過剰に反応する目の前の男を、胡桃は悔しくて悔しくて睨みつけた。 「どうして私がこんなに惨めな思いをしなくちゃいけないの……?」 ぽつり、と呟いた胡桃の声。 その声は誠司には届いていないようだが、母親の桔梗には正しく届いていた。 胡桃の姿に桔梗はハッとすると、誠司からすぐに視線を外し、胡桃に話しかけた。 「胡桃、おはよう。体調はどう?変わりないかしら?」 「──っ」 桔梗の言葉に、そこでようやく初めて誠司が胡桃に視線を向ける。 バツが悪そうに「しまった」というような表情をくっきりと浮かべている誠司。 そんな誠司を見ないようにしながら、胡桃は務めて明るく振舞った。 「おはよう、お母さん。体調は良いわ!今日からお母さんが私の傍に居てくれるんだもの!絶好調よ、早く会社に出社したいくらい!」 「ふふふっ。安定期に入ったとは言え、油断は禁物よ?胡桃に何かあったらあの人が大変だわ」 「お父さんは心配し過ぎなのよ。私の事は……誠司がしっかり守ってくれるもの。……ね、誠司?」 母娘2人が和気あいあいと話をしている。 自分に話は振られないだろう、と誠司は我関せずという態度だった。 だが、突然胡桃から話を振られ、しかも胡桃の父親の話までされて誠司はびくりと肩を震わせた。 胡桃の父親を怒らせるのは得策ではない。 忠が胡桃のため、駅舎のデザインの仕事に潜り込ませようとしているのだから。 誠司は愛想笑いを浮かべ、胡桃と桔梗に向き直った。 「ああ、勿論だ。俺が胡桃を守るのは当然だろう?」 「ふふ……っ、嬉しいわ」 「頼もしいわね」 誠司の言葉に、胡桃も桔梗も満足気に笑う。 だが、胡桃の目は笑っておらずどこか薄ら寒さを感じた。 誠司はさっと目を逸らし、この場から逃げるように立ち上がった。 「──そうだ。今日は人が車を回収しに来る。それを忘れていた。……その対応をしてくるから、お義母さんは胡桃に朝食を作ってあげてください」 「……あら、コーヒーはい
last updateÚltima actualización : 2026-08-18
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382話

誠司の声で「事故」や「証拠が」と言っているのが聞こえ、胡桃は眉を寄せた。 その後、聞き慣れない誠司以外の男の声で「ここに血痕が……」と呟いているのが聞こえた。 それ以外の話し声は、途切れ途切れで上手く聞こえない。 胡桃は今聞こえてきた単語を頭の中で組み合わせた。 「──事故、証拠、血痕。まさか誠司……」 胡桃はイヤホンを耳から外し、青白い顔でタブレットを凝視した。 「……誰かを轢いたの?……それで、証拠隠滅のために車を処分するつもり?」 どう考えてもそうとしか思えない。 胡桃は自分の口元を手のひらで覆った。 (信じられない……、ここに子供がいるのに) 胡桃は自分の膨らんだ腹部に手をあてる。 もし、本当に誠司が交通事故を起こしたとして。 そして、逃げてきたのなら。 (──被害者、は?) もしかして。 最悪の結果になっているのでは、と胡桃は思った。 (証拠隠滅するくらい、だもの……。そうよ……。もしかしたら、誠司の車に轢かれた人は……) もうこの世にはいないのかもしれない。 真っ青になった胡桃は、どうしようと考える。 (お腹の子の父親が、殺人犯になったら大変だわ。……子供から父親を奪えない。それに……駅舎の仕事だってあるわ。駅舎のデザインに選ばれた私の夫が、殺人犯になって捕まるなんて……そんな事になったら……) 駅舎のデザイナーに選ばれ、胡桃の招待がSeaだと発表されたら。 そうしたら、自分は全世界から注目を浴びるのだ。 その時、自分の夫が犯罪者だったら──? 「……駄目。絶対に駄目よ。誠司が人を轢いたって事は、絶対にバレちゃ駄目。隠し通さなきゃ……!Seaである私の夫は、完璧な人でないと……!きっと誠司の会社だって注目を浴びるんだから、社長である誠司も凄い人だって、世間に知られるのよ!?」 夫婦揃って、素晴らしい人達だ、と。 デザイン界で素晴らしい夫婦だ、と注目を浴びるのだから。 それなのに、夫が犯罪者だとバレてしまってはいけない。 胡桃はすぐに桔梗にメールを送る。 【もういいから早く戻ってきて!】 そう送り終わった胡桃は、自分の父親に助けを求めるため、今度は父親の名前を呼び出し、メールの文章を打ち始めた。 胡桃が父親宛にメールを送信し終わったその時。 玄関が開き、桔梗が戻ってきた。 「胡桃……」
last updateÚltima actualización : 2026-08-19
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383話

◇ 警察が帰って行った、病室内。 もみじと髙野辺は祖父母の眠る姿がよく見える室内のソファに座っていた。 2人はただ寄り添い、手を繋いでいる。 2人の間に会話はなくとも、気まずさなど微塵も感じない。 髙野辺が傍にいてくれるだけで、もみじは自分の気持ちが落ち着き、心を強く保てていた。 きっと、自分1人では落ち込み、不安に苛まれていただろう。 だが、髙野辺が隣に居てくれているだけで心細さも不安もなく、落ち着いて現実を受け入れる事が出来ていた。 日が暮れ、そろそろ病院の面会時間が終わる時間帯だ。 髙野辺が手続きをしてくれたお陰で、今日はもみじも髙野辺も病院に泊まる事が出来る。 簡易ベッドの用意をしておいた方がいいだろうか、ともみじが考え始めた頃──。 「──ん、んん?」 ベッドがある方向から呻き声が聞こえ、もみじと髙野辺はすぐに立ち上がった。 「おばあちゃん!?」 「おばあ様……!」 呻き声を上げたのは、もみじの祖母ルリだ。 ルリは痛みがあるのだろう、苦痛に顔を歪めている。 もみじと髙野辺はすぐにベッドに駆け寄ると、近くのナースコールを手に取った。 「おばあちゃん、今お医者さんを呼ぶからね。待ってて!」 「──玖渡川ルリさんが目を覚ましました。すぐに来てください」 もみじの言葉の後、すかさず髙野辺が告げる。 もみじは目覚めたばかりで混乱しているルリを落ち着かせるように、怪我に障らない程度にルリの手を握った。 もみじの体温を感じたのだろう。 混乱していたような様子だったルリの表情が和らぎ、もみじと髙野辺を探すように瞳が揺れた。 「もみじちゃんに、髙野辺さん……?私は……えっと……」 「おばあちゃん、無理に話さなくていいよ。怪我が痛いでしょ?」 もみじの「怪我」と言う言葉に、ルリはハッとした。 「そ、そうだったわ……!私たちに車が……!あの人、あの人は大丈夫なの!?」 事故の事を思い出したのだろう。 ルリは顔を真っ青にしてその場に起き上がろうとする。 医者から軽傷だ、と言われてはいるが怪我をしているのは変わりない。 怪我の痛みに顔を顰めつつ起き上がろうとするルリを、もみじと髙野辺が手伝う。 「おばあちゃん、おじいちゃんも無事よ。手術して、今は眠っているの」 「おじい様も隣のベッドで眠っています。安心してくださ
last updateÚltima actualización : 2026-08-20
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384話

祖母ルリが目覚め、医者がルリの状態を確認してくれた。 検査の結果や、祖母の受け答えがしっかりしている事。 それらを確認した医者は、明日退院して大丈夫な事。退院後は自宅で安静にしている事を説明してくれた。 そして、医者と看護師が帰った後の病室内──。 「もみじちゃん。私は大丈夫だから、家に帰って。明日からもお仕事でしょう?」 「お仕事は大丈夫。髙野辺さんとも話をして、在宅で仕事が出来るようにしてもらったから。だから、私はおばあちゃんとおじいちゃんの家に暫く居るよ」 「でも……心配しなくても大丈夫よ……?私の怪我は軽い物だし……」 「ううん。おじいちゃんがまだ目覚めてないもの。それに、おじいちゃんは骨折しているでしょ?おばあちゃんだけじゃお世話が大変でしょ?私も暫く残るから……」 「──私ももみじさんと一緒に残ります。週中には1度出社しなければいけませんが、すぐに戻ってきます。事故に遭われたばかりです。無理はしないでください」 もみじだけではなく、髙野辺にまで言われてしまい、ルリは困ったように眉を下げる。 「髙野辺さんまで……。お仕事が忙しいでしょうに……」 「もみじさんのおばあ様です。……私の大切な人の家族なんですから、私にとっても大切な方です。どうか無理はしないでください」 髙野辺にもそう言われてしまい、ルリは困った表情をしつつ、どこか嬉しそうだった。 「……そうね、そう言ってくれるなら、今だけはお言葉に甘えるわ。ふふっ、それにしても舞奈より前に私たちがお墓参りしてもらうような事にならなくて良かったわぁ」 「お、おばあちゃん!縁起でもないことを言わないで!」 ルリの言葉に、もみじは声を上げる。 ふふふ、と笑うルリは心配しすぎるもみじを和ませるようにそんな事を口にしたようだった。 ぷりぷりと眉を吊り上げて怒るもみじに、ルリは続ける。 「私は元気だから、心配しないで。おじいさんも私がしっかり見ているから、あなた達は一旦家に戻りなさい」 「──えっ、でも、明日退院だから私も髙野辺さんもこのまま病院に泊まるよ?」 「病院だとちゃんと休めないでしょう?簡易ベッドだって1つしかないし、髙野辺さんは身長が高いから窮屈でしょう。家にある布団でちゃんと寝た方がいいわ」 「だけど、おばあちゃん──」 「ああ……少し疲れたわ……。ゆっくり眠
last updateÚltima actualización : 2026-08-20
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385話

◇ ──祖父母宅。 もみじと髙野辺は、病院から祖父母の家に戻ってきた。 祖母ルリに半ば追い出されるように家に戻ってきた2人は、途中コンビニで夜ご飯を購入し、手早く済ませた。 「もみじさん。食べ終わったゴミはどこに?」 「──あっ、ゴミ箱はここです」 「ありがとうございます」 2人でキッチンに並び、洗い物を全て済ませてしまう。 明日は、午前中にルリの退院だ。 この後「やる事」があるため、2人は言葉少なに手早く片付けを済ませた。 「それじゃあ、行きましょうかもみじさん」 「ええ、髙野辺さん」 もみじも、髙野辺も。 動きやすい服装に着替え、玄関に向かう。 帰宅する車の中、2人が話し合い、決めた事──。 それは、祖父母の家の周辺を歩いて回り、防犯カメラが設置されていないか自分の目で確認する事だった。 「蒔田秘書に調べてもらうよう手は打っていますが……現地にいる俺たちが実際自分の目で確認する事の方が早い」 「そうですね。私は土地勘もありますし……警察の現場検証が始まる前に、ある程度周辺を確認しておきましょう」 明日、ルリが戻ってきたら警察に連絡をするつもりだ。 そうすれば、警察の捜査が本格的に始まる。 そうなってしまえば、この辺りを暫く自由に動き回る事ができなくなってしまうかもしれない。 そうなってしまう前に、もみじも髙野辺も時間がある今がチャンスだ、と周辺を見て回る事にしたのだった。 2人、手を繋ぎながら家を出て歩き始める。 「祖父母は、家から離れていないこの辺りで車に轢かれたんですよね?」 「ええ、確かそう仰っていましたね。警察も初動捜査をした痕が残っていますね……接触した場所はこの辺りのようです」 地面には、白いチョークで何か印のような物が書かれていた。 その場所を見たもみじは、振り返って祖父母の自宅との距離を確認する。 そして、道路の先を見て首を傾げた。 「……見通しが悪いって訳じゃないのに。……曲がり角を曲がってから、少し距離がありますね」 「……恐らく、脇見運転をしたんじゃないでしょうか。だから、前方にいるもみじさんの祖父母に気が付かなかった……」 「……事故が起きてしまったのは、仕方ない事ですけど、その後の対応が酷すぎます。自分が事故を起こしたのに、救助せずに逃げるなんて……」 「ええ。車を運転す
last updateÚltima actualización : 2026-08-21
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386話

「あっ、ここのお家防犯カメラがあります……!」 「本当ですね!待ってください、メモしておきます」 「あと、こっちの道を行った所には、この辺りでは大きめの公園があります。公園の入口や駐車場にカメラがあると思います……!」 「それなら、車がどっち方面から来て、どっちに抜けて行ったか分かりますね」 もみじと髙野辺は、暗い夜道を話しながら進む。 道路にカメラの設置は殆ど確認する事は出来なかったが、住宅には防犯カメラが設置されている所が多かった。 「これだけカメラが多ければ……!」 髙野辺を振り返ったもみじの表情が明るい。 そんなもみじを見て、髙野辺も頷いた。 「ええ、警察も付近の住宅にカメラ映像を確認するでしょうし、手がかりを掴める可能性が高いですね」 「──良かった……!」 ほっとしたように息を吐き出し、胸の前で両手を握るもみじ。 髙野辺はもみじの手を取り、優しく自分の両手で包み込んだ。 「俺も……」 髙野辺は言葉を発したが、そこで言葉を止めた。 「髙野辺さん?」 どうしたのだろうか、ともみじが不思議そうに髙野辺を見上げたが、髙野辺は言葉に詰まったまま、曖昧に微笑んで、首を横に振った。 「──俺も、出来る限り協力します」 「ありがとうございます、髙野辺さん。今だって凄く助かっています。本当にありがとうございます」 嬉しそうに笑うもみじに、髙野辺はどこか後ろめたさを感じた。 だが、それを誤魔化すように笑い、もみじの手を引いて歩き出したのだった。 (──俺の、家の権力を使えば……確実に犯人を捕まえる事が出来る……。だけど、それをしてしまえば……。いや、カメラがこれだけあるんだ。警察がきっと見つけてくれる……) ◇ 翌日、早朝──。 もみじは目覚ましのアラームが鳴る前にふ、と目が覚めた。 いつもの、髙野辺の家の自室では無い風景。 懐かしい祖父母の家の匂い、畳の香り。 年代を感じる事の出来る、木の温もりと黒い染みがある天井。 もみじは寝起きのぼうっとする頭で、天井の黒い染みを見つめた。 幼少期は、あの黒い染みがオバケのように見えて、とても怖かった覚えがある。 そんな懐かしい幼少期の思い出を思い出し、もみじはくすりと笑った。 「──懐かしいわね」 呟き、もみじは布団から起き上がる。 そして、隣の部屋を見た。 襖
last updateÚltima actualización : 2026-08-21
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387話

「髙野辺さん、おはようございます。よく眠れましたか?」 ふわりと微笑んだもみじに話しかけられ、髙野辺は一瞬もみじに見惚れた。 言葉を返してこない髙野辺に、もみじが不思議そうな顔をすると髙野辺ははっとしてすぐに言葉を返す。 「おはようございます、もみじさん。寝過ぎてしまいました。朝食の支度、もみじさんに任せてしまってすみません」 俺にも手伝える事はありますか?とキッチンにやってくる髙野辺に、もみじはそれじゃあ食器を、とお願いをする。 ダイニングテーブルを拭き、食器を並べていく。 すると、もみじの朝食も丁度出来上がった。 「お待たせしました、食べましょう髙野辺さん」 「もみじさん、ありがとうございます」 2人で「いただきます」と手を合わせ、朝食を食べる。 朝食の間、テレビをつけていたがありふれたニュースがテレビからは流れているだけだ。 朝食を食べ終え、片付けは髙野辺が担当した。 髙野辺が洗い物をしている間に、もみじは祖母ルリを迎えに行く準備をする。 もみじが身支度をしている間、洗い物が終わった髙野辺は自分のスマホを確認した。 チカチカと通知のランプが光っている。 髙野辺がスマホを確認すると、秘書の蒔田から電話が1件あった。 そして、その後メールが一通来ていた。 「──しまった、洗い物の音で気が付かなかったな。蒔田秘書には悪い事をした」 髙野辺はすぐにメールを確認する。 送り主は蒔田だ。 電話が繋がらなかったため、すぐにメールで報告をしてくれたのだろう。 蒔田のメール内容は、昨夜髙野辺がもみじと一緒に周辺を見回った時に確認出来た防犯カメラの件だった。 公園に設置されている防犯カメラ映像は既に取得済。 住宅に設置されている個人の防犯カメラについては、今日対応する事が書かれていた。 その他、仕事に関する内容にも目を通した髙野辺は、蒔田への返信を打つ。 「──そうだ。あれも確認しておかないとだな」 ふ、と文章を打つ手を止め、髙野辺はぼそりと呟く。 再びスマホの画面に目を落とした髙野辺は、蒔田へのメール返信の中に新たな指示を記載した。 全て打ち終わり、送信する。 髙野辺が蒔田への連絡を終え、スマホをポケットにしまった所でもみじも丁度支度が終わったのだろう。 「お待たせしました、髙野辺さん。おばあちゃんを迎えに行きまし
last updateÚltima actualización : 2026-08-22
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388話

病院の駐車場に着き、車を降りる。 その瞬間、髙野辺のスマホが鳴った。 「──すみません、もみじさん。電話に出ますね」 「分かりました。私は先におばあちゃん達の病室に行ってます」 「ええ、すぐに追います」 もみじはその場で髙野辺と別れ、先に祖父母の病室に向かった。 病院に歩いて行くもみじの背中を見つつ、髙野辺は電話に出た。 「──もしもし」 〈社長〉 「蒔田秘書か。何か分かったか?」 電話の向こうから聞こえてきたのは、髙野辺の秘書である蒔田の声だ。 髙野辺は先程、蒔田に追加で指示を送った。 その確認が済んだのだろうか──。 そんな髙野辺の考えが当たったのだろう。 電話越しの蒔田の声は、とても真剣だった。 〈指示された件を確認した所、本日、都内で1件車の引き取りが発生したようです〉 「──何だと!?」 〈現在、業者を確認中なのですが……〉 そこで言葉を濁す蒔田に、髙野辺は眉を寄せた。 「妨害があったのか……?」 問いかけるような内容だが、髙野辺の声音からそれは既に決定事項のように感じられた。 はっきりとした、何か確信めいたものが髙野辺の中にあるのだろう。 それを肯定するように、蒔田が電話越しに「──はい」と答えた。 髙野辺は自分の顎に手を当て、暫し考え込む。 (どうする……?髙守(たかかみ)の名前を出して調べる事は簡単だ……。だが、そうしてしまえば、じい様達に……。いや、この件は【髙野辺】の名前だけで解決する。髙守財閥の名前だけは絶対に使わない──) 髙野辺が考え込んでいる間に、蒔田が心配そうに「社長?」と髙野辺を呼ぶ。 蒔田の声に、髙野辺はハッとすると答えた。 「──すまない、少し考え込んでいた。……業者を確認するのに妨害があったのならば、相手もある程度の権力を持っているのかもしれないな。……もしくは、金を握らせたか、だ」 〈はい。私も社長と同じ考えです〉 「だが、都内に車の処理を引き受けた業者がいる事が分かった。それだけでも収穫だ。引き続き頼む」 〈かしこまりました。本日は、事故現場付近に住んでいらっしゃる住人の方々に聞き込みをしてまいります〉 「ああ、ありがとう。頼むよ」 蒔田との電話が終わり、髙野辺は小さくため息を零す。 「──くそ。向こうはある程度金がある家だな……。若しくは、権力者……。調
last updateÚltima actualización : 2026-08-22
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389話

髙野辺が電話をしている間に、祖父母の元へ先に向かったもみじ。 もみじは祖父母の病室の前に着くと、ノックをしてから扉を開けた。 「おばあちゃん、おはよう。迎えに来たよ」 「もみじちゃん、おはよう」 既にルリは起きていたのだろう。 扉を開けてもみじが入って来ると、ルリが笑顔で挨拶をしてくれる。 ルリは既に身支度を終えており、自分のベッドの上に小さな紙袋がぽつんと置いてあった。 ルリは今、祖父のベッドの横にある丸椅子に座り、祖父の手を握っている。 もみじがそうっと近付いて行くと──。 「──おじいちゃん!目が覚めたの!?」 ルリに手を握られ、握り返している祖父・耕三が見えた。 「この人ね、今朝目を覚ましたのよ。まだ喋る元気は無いけど。お医者様にも診ていただいて、数週間入院して、治療するって」 「本当、おばあちゃん」 「ええ。完治したら退院ですって。良かったわぁ……」 ルリは心底ほっとしたように表情を和らげ、ほろりと涙を零す。 もみじはすぐにルリに駆け寄り、寄り添うようにルリを支えた。 そして、耕三を見やる。 すると耕三ももみじを見ていたようで、ぱちりと目が合った。 もみじと目が合うと、耕三はゆるゆると目を細め、まるで「心配するな」と微笑んだ。 微かに頷くような仕草をした耕三を見て、もみじもようやくほっと安堵した。 ルリは自分の目元を指で拭いつつ、もみじに顔を向ける。 「もみじちゃん、そう言えば今日は1人、なの……?昨日は髙野辺さんが一緒に、って言っていたけど……」 「──あっ、髙野辺さんは今、電話対応をしていて。私だけ先に来たの。髙野辺さんも電話が終わったらこっちに来るわ」 「あらあら、そうだったのね。髙野辺さんもお仕事が忙しいのに……ご迷惑を掛けちゃったわね」 申し訳なさそうに眉を下げるルリに、もみじが言葉を返そうとした時。 部屋の入口から髙野辺の低い声がルリに返した。 「迷惑なんてとんでもないですよ。もみじさんと一緒に来れず失礼しました。おばあ様、お加減はいかがですか?」 「まあまあ、髙野辺さん」 髙野辺は柔らかく微笑むと、そのままもみじの隣に歩いて来る。 そして、耕三が目覚めている事に気がつくと、驚きに僅かに目を開いた。 「おじい様!良かった、目を覚まされたんですね」 髙野辺の嬉しそうな声に、耕三も小
last updateÚltima actualización : 2026-08-23
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390話

◇ 「我が家はほっとするわねぇ……」 「おばあちゃん、お疲れ様。少しお部屋で休んだらどう?その間、私は買い出しに行ってくるわ」 退院手続きが終わり、祖父母の家に帰宅した。 帰宅するなり、ルリはほっとしたように声を出し、ダイニングテーブルにくたりと座った。 「もしお部屋で休まれるなら、支えますよ」 髙野辺の言葉に、ルリは些か迷ったようにしたが、髙野辺の言葉に甘える事にした。 「じゃあ、お願いしてもいいかしら髙野辺さん」 「ええ、もちろんです。俺に掴まってください」 椅子から立ち上がるルリを、手助けするように髙野辺が動く。 キッチンの冷蔵庫から飲み物を出していたもみじは、髙野辺に顔を向けた。 「髙野辺さん。おばあちゃんの部屋は1階の1番奥にあります」 「分かりました」 「おばあちゃん、後で飲み物を持って行くからね。ゆっくり休んで」 「もみじちゃんも、髙野辺さんもごめんなさいね……。2人とも、お仕事が忙しいのに……」 「そんな事気にしないで、おばあちゃん。今はゆっくり休んでね」 怪我が酷くないとは言え、交通事故に遭っているのだ。 精神的疲労は計り知れないだろう。 髙野辺がルリを支え、歩いて行くのを見送り、もみじも急いで飲み物の用意をする。 ルリのグラスに緑茶を注ぎ、トレーに乗せて持って行く。 キシ、キシ、ともみじが歩く度に廊下の板が軋む音が響く。 子供の頃は気が付かなかったが、大人になってこうして改めてこの家をじっくり見てみると、大分古くなっている。 「手直しした方がいい所が沢山あるわね……」 もみじは廊下や天井、そして床を見てぽつりと零す。 子供の頃。 母親が亡くなって辛い時に沢山助けてもらった。 愛してくれた祖父母。 だが、今までは自分の事で精一杯になっていて、大切な祖父母に目を向けられなかった。 「……改修工事とか、必要そうね。今度業者さんに連絡してみようかな」 幸いにも、自分には今、貯蓄がある。 祖父母の家の改修工事代は、自分で出せるのだ。 「おばあちゃんやおじいちゃんを、一時的にこっちに呼ぶか……。それとも、私がこっちに引っ越す……?」 髙野辺とは離れてしまうけど、だけど。 祖父母は、自分の大切な唯一無二の家族だ。 それに、母・舞奈が生まれ育った実家を、可能な限り修繕して、残したい。 そし
last updateÚltima actualización : 2026-08-23
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