それは、私の矜持が許さなかった。 何より、私が彼を「明るい場所」へと引きずり上げたという自負が、それを邪魔していた。 私という「主人」がいなければ、彼はまた、あのジャスミンの匂いが漂う、血と泥に塗れたスラムの底へと帰ってしまうのではないか。 あの女の言う通り、彼は私の「おままごと」に付き合っているだけで、本当は汚泥の中で牙を剥いている方が、息がしやすいのではないか。 そんな疑念が、私の足元を不安定に揺さぶっていた。「……御意。失礼、いたします」 千隼の声は、空洞のように響いた。 彼は深く、深く頭を垂れたまま、音もなく部屋を後にした。 ピシャリ、と。 重いオーク材の扉が閉まる。 彼の気配が完全に消えた瞬間、ピンと張り詰めていた糸がプツリと切れた。 膝から力が抜け、私はその場にへたり込んだ。 着物の帯が肋骨を締め付け、呼吸をするたびに肺が痛い。「……っ」 喉の奥から、しゃくり上げるような嗚咽が漏れた。 両手で顔を覆う。指の隙間から、熱い涙がボロボロとこぼれ落ち、手のひらを濡らしていく。 広い自室に満ちるのは、千隼の残り香ではなく、私のお気に入りのベルガモットの、清潔で、どこか味気ない香りだけだ。 それが、どうしようもなく私を孤独にした。 どうして、あんな酷いことを言ってしまったのだろう。 彼があれほど怯えて、縋り付いてきたのに。彼にとって、私から拒絶されることがどれほどの絶望を意味するのか、私が一番よく知っているはずなのに。 千隼を傷つけた。私自身の言葉が、彼を切り裂く刃になった。 その事実が、たまらなく恐ろしかった。「バカみたい……。私、本当にバカだ……」 声に出すと、余計に涙が溢れてきた。 親戚の家をたらい回しにされ、「余り物」として扱われてきた幼い頃の記憶が蘇る。 誰も私を一番には選んでくれない。いつかは見捨てられる。 そんな私を、初めて「
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