『罠だったんです! 不来方のジジイは、うちが白鷺を叩きに来るのを読んで、わざと急所を晒してたんだ。うちの連中が差し押さえに入った瞬間、それを「反社による不当な恐喝と、資金洗浄の隠蔽工作」だって特捜部にタレ込みやがった!』 スマートフォンを握る手が、ガタガタと震え出す。 千隼の言葉が、耳の奥で残酷にリフレインした。『あからさまに隙だらけの急所を見せてくる奴は、大抵、その裏に致命的なカウンターを隠し持っています』 私は、不来方の張った蜘蛛の巣のど真ん中に、自ら嬉々として飛び込んでいったのだ。 相手の資金源を断つどころか、自らの手で久遠組のフロント企業を、特捜部の餌食として差し出してしまった。「……現場の、被害は」 かすれた声で、かろうじて問いかける。『フロントの社長と、手続きに行った若衆が五人、その場で手錠をかけられました。それだけじゃねえ!』 鬼瓦の背後で、ガシャン、というガラスの割れるような激しい音が響いた。『特捜部だけじゃねえ、不来方の息がかかった半グレどもがカチコミかけてきやがった! うちの別のダミー会社の事務所に、奴らが裏で飼い慣らしてる連中が乗り込んできて、今、現場で大乱闘になってます! 連中、警察が来る前にうちのシマを物理的に荒らし回る気だ!』「乱闘って……相手は武器を!?」『向こうは鉄パイプとバットで武装してます! こっちは急なことで……っ、くそ、また数人やられた! お嬢、すぐに増援を! 若頭に指示を仰いで……!』 ブツッ。 鬼瓦の焦燥しきった声が、不自然なノイズと共に突然途切れた。「もしもし!? 鬼瓦さん! もしもし!」 何度呼びかけても、スピーカーからはツーツーという無機質な電子音が返ってくるだけだった。 スマートフォンの画面が暗転し、私の顔を映し出す。 血の気が完全に引いた、幽霊のような顔。 失敗した。 私の浅はかな過信が、完璧だと思い込んでいた幼稚な論理が、現場の人間たちを最悪の危険
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