酒井瞳(さかい ひとみ)は、業界では有名な小悪魔だった。彼女の少し上がった赤い唇に、その色っぽい目元はいつも男を誘っているようだった。三浦英樹(みうら ひでき)は、とある財閥の最も優秀な跡取り。誰もが憧れる高嶺の花であり、禁欲的で知られていた。そんな正反対の二人が、誰にも知られず情を交わしている。深夜のマイバッハの後部座席で体を重ね、チャリティーパーティーの化粧室で激しく求め合う。そして、プライベートワイナリーの大きな窓の前では、英樹に強く腰を引き寄せられ、キスを交わしていたのだった。今回も情事が終わったあと、バスルームからシャワーの音を聞きながら、瞳はベッドにもたれかかり、父の酒井翔平(さかい しょうへい)に電話をかけた。「盛沢市のあの死にかけの御曹司のところへ嫁いであげてもいいわ。でも、条件が一つあるの……」すると電話の向こうから、翔平の隠しきれない喜びの声が聞こえてきた。「言ってみなさい!嫁いでくれるなら、どんな条件だって呑むぞ!」「詳しいことは、家に帰ってから話す」そう言って彼女の声は優しいのに、瞳の奥は凍えるように冷たかった。そして瞳は電話を切り、服を着ようと体を起こした。その時、ふと、英樹がそばに置いたノートパソコンが目に入った。ラインの画面はついたままだ。一番上には「百合」という名前の相手からの新着メッセージが表示されているのだ。【英樹さん、雷が鳴ってるの、こわいよぉ……】それを見て瞳の指先が、ぴくりと震えた。すると突然バスルームのドアが開き、英樹が出てきた。まだ濡れたままの鎖骨を、水滴が伝い落ちていき、シャツのボタンを二つほど無造作に開けたその禁欲的な姿に、どこかアンニュイな色気が混じっていた。「会社で用事ができたから、もう行く」英樹は上着を手に取った。その声は、いつも通り温度感がないものだった。それを聞いて瞳は、赤い唇の端を上げて笑った。「会社に用事って?それとも、あなたの『初恋の人』にでも会いに行くのかしら?」だが、英樹は聞き取れなかったのか、「何だって?」と聞き返した。「なんでもないわ」瞳は素足でベッドから降りると、柔らかいカーペットの上に立った。すると英樹は少し沈んだ目線で、彼女の腫れあがった瞳と唇を親指でなぞった。「いい子にしてろ。面倒は起こすな」ドアが閉まった瞬間、瞳
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