◇ (まずい流れになっているな……) 玉櫛 樹は表面上は普段通りを装いながら、胸中で焦っていた。 今までよりも余所余所しい態度の人間達。 あからさまに接触を避けている人間達。 (今まであれほど目を掛けてやっていた連中も、手のひらを返しやがって……!) 樹の苛立ちが、全く収まらない。 それでも挨拶にやってくる人間はまだいる。 由緒ある財閥の人間や、大企業の重役達は樹と距離を取っているが、中小企業や、樹──玉櫛家にかなり世話になった人間は樹に挨拶をしにやってくる。 それらに適当に挨拶を返しながら、樹は考える。 (裕衣め、余計な事をしやがって……。最近様子が変だと思っていたら、あんな連中と取引をしたのか……?奴らは裏社会の人間だ。そんな奴らと繋がっていると大っぴらになれば……) 玉櫛ホールディングスの信頼は失墜する。 (奴らと付き合うなら、もっと表でバレないように付き合え……!俺たちのような立場の人間は、皆そうやって生きてきた……!) 裏社会の人間と関わる事だって、生きていればそれなりにある。 ましてや、樹のような財閥に生まれた人間なら関わる可能性だって高い。 使う店が被ったりする事だってあるのだ。 お互い素性を分かっているので、騒ぎにはしない。 ひっそりとやり取りをしてその場を凌ぐ事だってある。 (それなのに、こんなに大っぴらに……!これでは、音羽に擦り付けたあの事件だって……!) 音羽が収監されたあの事件だって、結局は裕衣に泣きつかれて樹が証拠を偽装したのだ。 それに、玉櫛は警視庁と検察の上層部にある程度顔がきく。 穏便に済ませたと言うのに、今更過去の事件が掘り返され、再捜査が始まれば──。
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