地上係員は困惑した表情で湊を一瞥し、事務的な礼儀正しさで拒絶した。「恐れ入りますが、お客様の個人情報をお教えすることはできかねます」「俺の妻なんだ!」湊は充血した目で怒鳴り散らした。「いいから教えろ、話があるんだ!」「お客様、お急ぎでしたらご本人様に直接ご連絡をお取りください」「電源が切れてるんだよ!」「……左様でございますか。ですが、私どもでお力になれることはございません」行き交う人々で溢れ返るロビーの真ん中で、湊は生まれて初めて、巨大な喪失感と途方もない無力感に打ちのめされた。あてもなく広いフロアを何度も何度も彷徨い歩く。電光掲示板には、世界各地へと飛び立つフライト情報が無情に更新され続けていた。彼女がどこへ向かったのか、見当もつかない。どこから手をつければいいのかさえ、今の彼には分からなかった。結局、湊は独り、自宅へと車を走らせるしかなかった。小夜子のいない家は、まるで氷穴のように冷え切っていた。以前なら、どんなに帰りが遅くなっても、リビングには必ず彼女が灯した明かりが待っていた。だが今は、底冷えするような暗闇があるだけだ。スイッチを入れると、無機質な照明ががらんとした室内を白々と照らし出した。湊は酒棚へ歩み寄り、強い酒のボトルを掴むと、そのまま喉に流し込んだ。焼けるようなアルコールが食道を通り抜けるが、胸の奥で渦巻く空虚な恐怖までは消してくれない。ボトルの半分も空けた頃、湊はたまらず洗面所に駆け込み、胃の中のものをすべてぶちまけた。床に膝をつき、意識が遠のくほどの嘔吐を繰り返す。ようやく顔を上げると、鏡の中には無様に変わり果てた自分の姿があった。目は赤く血走り、顎には無精髭が伸び放題で、まるで追い詰められた野良犬だ。ふと視線を落とすと、薬指には薄っすらと指輪の跡が残っていた。彼はそれを剥ぎ取るように外そうとし、あるいは投げ捨てようとして、指に力を込める。だが、どうしても手放すことができなかった。湊は指輪を手のひらの中に強く、強く握りしめた。金属の感触が皮膚に食い込み、鋭い痛みが走った。その時、ポケットの中でスマートフォンが震えた。画面には「理央」の文字。通話ボタンを押すと、甘ったるい猫なで声が鼓膜を打つ。「湊さん、私一人で怖いの……今夜、来てくれない?」
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