Todos los capítulos de 三年の冷遇、離婚の夜に夫は狂う: Capítulo 141 - Capítulo 150

194 Capítulos

第141話

昨夜は暑すぎたからかもしれない。怜央はそう思いながら、横目で悠里の様子をうかがった。彼女がいつもと変わらぬ平然とした顔をしているのを見て、それ以上は深く考えなかった。2人はホテルを出ると、飛行機に乗って海市へと戻った。……翌朝、目を覚ました陽咲は、悠里の裏アカウントから大量のメッセージが送りつけられているのに気づいた。眉をひそめ、タップして開く。目に飛び込んできたのは、ひどく過激な写真だった。2人の肌はぴたりと重なり合っている。怜央の胸に抱かれた悠里が、こちらを挑発するような視線を向けていた。悠里はわざと様々な角度から何枚も写真を撮っていた。陽咲の感情を逆撫でし、取り乱させる魂胆なのは明らかだった。だが残念なことに、彼女のその目論見は外れることになる。陽咲は微塵も動揺することなく、無表情のまま画像を閉じ、最初は即座にブロックしてしまおうかと考えた。しかし思い直し、まずは証拠として保存することにした。何しろ、怜央が婚姻関係にありながら不貞を働いた動かぬ証拠なのだから。これ以上見ていると目が腐りそうだったので、彼女は目を閉じると、記憶を頼りに手探りで画像を一つずつ保存していった。その後、アカウントをブロックした。だが、履歴自体は削除しなかった。後になって悠里がしらを切るのを防ぐためだ。証拠の保存を終えると、陽咲はベッドから起き上がり、洗面を済ませた。身支度を整え、1階へ降りて朝食をとろうとした時のこと。すでに食事をしていた絃葉が、彼女の早い起床を見て心痛ましそうに言った。「どうしてこんなに早く起きたの?もう少し寝ていればよかったのに。まだ怪我も完全に治っていないんだから」陽咲はふわりと微笑み、彼女の隣に腰を下ろした。「絃葉と一緒に朝ごはんを食べたくて」絃葉は呆れたように息をつきつつも、どこか甘やかすような優しい眼差しを彼女に向けた。食後、2人は腹ごなしに、庭をゆっくりと散歩した。「ねえ絃葉、今、お兄さんとはどこまで進んでるの?」絃葉はほんのりと頬を染め、どう答えるべきか迷った。少し考えてから、絃葉は言った。「友達以上、恋人未満……といったところかな」陽咲は悪戯っぽく笑い、わざと彼女をからかった。「なんだか、うちの絃葉からは近々いい報告が聞けそうな気がするんだけど?」絃葉は照れ
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第142話

電話を切ると、絃葉が心配そうに尋ねた。「陽咲、何かあったの?」陽咲は蒼空から聞いた話を絃葉に伝えた。それを聞いて、絃葉の表情もスッと引き締まった。「わかった、私も付き合うわ」陽咲は頷き、運転手の浩二に【白檀荘の正門前で待機してほしい】とメッセージを送った。陽咲の退院後、明美の気遣いにより、浩二は陽咲の専属運転手として配属されていた。おかげで、出かけるたびにわざわざタクシーを手配する手間はなくなっていた。浩二からはすぐに【承知いたしました】と返信があり、指定通り白檀荘の正門前で車を回して待機してくれた。2人が後部座席に乗り込むと、車は蒼空の住む御影荘へと真っ直ぐに向かった。……陽咲がこちらへ向かっていると知り、蒼空は立ち上がって執事に指示を出した。「お母さんの監視を頼む。絶対に外へ出さないように」今日は陽咲が初めて御影荘に足を踏み入れる日だ。彼女を驚かせ、怖がらせるような事態だけは避けなければならなかった。執事は真剣な面持ちで頷き、使用人たちを引き連れて下がっていった。……20分後、陽咲と絃葉を乗せた車は御影荘に到着した。蒼空が事前に手配を済ませていたおかげで、敷地内への進入は一切止められることなくスムーズに進んだ。車を停め、3人が揃って降り立つと、出迎えた使用人が浩二を休憩室へと案内した。陽咲と絃葉は、別の使用人の先導で蒼空のいる場所へと向かった。3人で廊下を歩いていたときのことだ。物陰に隠れていた蒼空の母の周防静香(すおう しずか)は、陽咲の姿を捉えた瞬間、パッと顔を輝かせた。――やっぱり、あの子とはご縁があったのね!思わず飛び出して陽咲に声を掛けそうになったが、見張りのボディガードに見つかるのを恐れ、ぐっと堪える。彼女は無言のまま、陽咲とその隣にいる見知らぬ女性をじっと見つめていた。だが、その視線が陽咲の隣を歩く絃葉に留まった瞬間。静香の心臓がチクリと痛み、名状しがたい切なさが胸の奥から込み上げてきた。彼女は呆然と絃葉の姿を見つめ、無意識のうちに両手を強く握りしめる。その瞳には、じわりと涙が滲んでいた。おかしい。この女性とは今日初めて会ったはずなのに。どうしてこんなに胸が締め付けられ、無性に労りたくなってしまうのだろう?静香の脳裏に、ふと、幼くして逝ってしまった自
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第143話

3人は彼女の前に腰を下ろした。「智琉から一体どんな見返りをもらったの?そこまでして彼を庇う義理がどこにあるのよ」陽咲が冷たい声で問い詰める。シッターは陽咲に向かってあからさまに白目を剥き、そのまま押し黙った。「警察に突き出されてもいいってこと?」絃葉が冷酷な眼差しを向け、氷のように研ぎ澄まされた声で告げる。それでもシッターは口を割らない。その頑なな態度を見て、蒼空はフッと冷笑を漏らした。先ほどまで部屋の外で見せていた柔らかな笑みは、すでに微塵も残っていない。彼は立ち上がり、シッターの前に歩み寄ると、彼女を見据えた。その眼差しは凍りつくほど冷たく、全身からゾッとするような威圧感を放っている。「言わないんだな?……いいだろう」シッターを見下ろす彼の瞳の奥には、確かな軽蔑の色が渦巻いていた。陽咲はこれほどまでに冷酷な蒼空を見たことがなく、思わず身震いした。「すでに調べはついている。お前は智琉から1千万円を受け取り、紬希を拉致した」その声は、まるで地獄の底から這い出た悪鬼のように恐ろしく、聞く者の背筋を凍らせた。「さらに、僕たちに見つかる前に、お前が自分の子供を海外へ逃がそうと手配していたこともな」彼はそう続けながら、コン、コンと指の関節で一定のリズムで机を叩く。その無機質な音が、シッターの心に底知れぬ恐怖を植え付けていく。「だ、だから何だって言うのよ……!?」シッターは震える声で強がった。蒼空は口角を吊り上げて笑う。「残念だったな。すでに手下を向かわせて、空港で全員引き留めてある」その言葉を聞いた瞬間、シッターは全身を強張らせ、信じられないというような目で蒼空を凝視した。「僕の家族、そして僕の大切な友人の家族に手を出したんだ。僕がお前の家族をどうやって痛めつけるか……想像できるか?」蒼空はゆっくりとした口調で告げると、シッターの反応など気にする素振りも見せず、机の上に置かれていたナイフを手に取り、手のひらで弄び始めた。「そういえば、お前の娘が男の子を産んだそうだな。今年でちょうど1歳になる……違ったか?」ナイフを指先で器用に回転させながら、彼は世間話でもするかのような口調で尋ねる。「なあ、お前が僕の身内にしたことと全く同じことを、お前の娘と孫にそっくりそのまま返してやったら……これでようや
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第144話

扉が蹴り破られると、部屋の中は荒れ果てており、人の気配は全くなかった。雅也は眉を深くひそめて部屋を出ると、隣の住人のドアをノックした。中年の男が恐る恐るドアを少しだけ開け、警戒した眼差しを向けてきた。口は固く閉ざされたままだ。「すみません、106号室の住人がどこへ行ったかご存知ありませんか?」蒼空が愛想よく微笑みかける。彼に悪意がないと見て取ると、男は口を開いた。「30分ほど前、智琉がこそこそとバカでかいスーツケースを引いて出て行ったよ」蒼空は丁寧にお礼を言い、ボディガードに心付けの紙幣を渡させると、きびすを返して再び106号室へと戻った。室内では、雅也がボディガードたちに指示を出し、決定的な証拠が残されていないかくまなく捜索させていた。蒼空は先ほどの隣人の証言を雅也に伝え、自らも捜索に加わる。その時、雅也の鋭い視線が、部屋の隅にある古びた本棚に何かの写真が挟まっているのを捉えた。歩み寄り、その写真を引き抜いた雅也は、一目見た瞬間、全身を震わせて嘔吐しそうになった。異変に気づいた蒼空が駆け寄り、彼の手から写真を受け取る。薄暗い光の中、そこに写っていたのは――得体の知れない溶液に浸された、老人の生首だった。両目を固く閉ざした老人の顔は、皮膚が溶液で焼け爛れており、見る者に寒気を覚えさせる禍々しさを放っていた。蒼空は深く眉を寄せ、心の中に戦慄を覚えた。直感が告げていた。この写真こそが、紬希のために奴に罪を償わせる最大の切り札になるはずだ、と。こみ上げてくる吐き気を必死にねじ伏せ、蒼空はボディガードから受け取った証拠品用の密閉袋に写真を慎重に収めた。その後も数人でしばらく室内を捜索したが、これといった成果は得られなかった。「どうやら、今のところ手掛かりはこの写真だけのようですね」と蒼空が言うと、雅也も無言で頷いた。蒼空は氷のように冷たい眼差しで続ける。「智琉は海市からは出ていないはずです。以前、陽咲から聞いたんですが、智琉は楓斗と裏で手を組んでいるそうですから。楓斗とはそれほど親交はありませんが、あいつは目的を果たすまで決して諦めない執念深い男だということは知っています。智琉をそう簡単に逃がすはずがありません。しばらくの間、僕の部下に楓斗をマークさせます。万が一に備え、雅也さんにも引き続き智琉
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第145話

怜央から、両親が自分を案じて会いに来ていると聞かされ――これまで散々、不愉快な出来事があったというのに。とうの昔に、両親には絶望していたはずなのに。それでも「案じてくれている」と知った途端、陽咲の胸には、抱くべきではない僅かな期待が芽生えてしまっていた。自立心があり常に冷静な彼女でさえ、心の奥底ではまだ両親の愛情というものに一縷の幻想を抱いていたのだ。その期待は、まるで甘い蜜を塗りたくった劇薬のように、胸の痛みを束の間だけ和らげてくれた。傍らにいた使用人に一言告げると、彼女は絃葉を伴って白檀荘へと急ぎ戻った。だが、白檀荘へ足を踏み入れた途端、目に飛び込んできたのは、居間のソファに腰掛けた聡子が悠里の手を握り、甲斐甲斐しく機嫌を取っている姿だった。怜央は2人から少し離れた場所に座っている。大輔もその傍らで、慈愛に満ちた眼差しを悠里に向けていた。「悠里、ここ数日の出張は疲れたでしょう?もうすぐお正月だし、しんどいなら仕事なんて辞めてしまいなさいな」聡子が心底不憫そうに言う。「なんだか最近、すごく痩せた気がするわ。特にそのお顔、どうしてそんなに蒼白なの?」悠里は後ろめたさからスッと視線を逸らした。まさか昨夜、修平と一睡もせずに過ごしたせいで顔色が悪いなどと、口が裂けても言えなかったからだ。少しの沈黙の後、悠里は微笑んで誤魔化した。「最近ちょっと女の子の日が来ていて、それで少し顔色が悪いだけよ。大丈夫、お母さん」そう聞いて、聡子はようやく安堵の息をついた。この光景を目の当たりにした絃葉は、胸を痛めながら陽咲を盗み見た。彼女の傷はまだ癒えておらず、これ以上刺激を与えたくなかったからだ。つい先ほど車中で、陽咲はひそやかな期待を込めて口にしていたのだ。「私が事故に遭ったと知って、心配して来てくれたのかな」と。なんと言っても、陽咲は聡子がお腹を痛めて産んだ実の娘なのだから。しかし目の前の光景は、鋭利な刃となって陽咲の心臓に深々と突き刺さり、容赦なく抉り回した。胸の奥がズタズタに引き裂かれる感覚に襲われ、陽咲は手足から血の気が引くのを感じながら、ただその場に立ち尽くす。その瞳はこらえきれない涙でかすみ、視界がじんわりと滲んでいく。「陽咲、とりあえず2階に行こ」絃葉が気遣わしげに声をかけ、陽咲の体を支える。
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第146話

「お義母さん、陽咲もあなた方の娘なんですから、あからさまに差をつけるような真似はいけませんよ」怜央は聡子に視線を向け、冗談めかして言った。娘婿に公然とそんなことを言われ、聡子はばつが悪そうに顔を強張らせた。その横でずっと沈黙を保っていた大輔が、その言葉を聞いて、聡子を横目でちらりと見た。「聡子、お前もゆえなく陽咲を冷遇するものではない。どちらも我々望月家の子供なのだからな」聡子は渋々頷きながら陽咲を一瞥したが、あわや露骨に嫌な顔をしそうになるのを、ぐっとこらえた。怜央が自ら進んで陽咲を庇ったのを見て、悠里は驚愕の眼差しを彼に向けた。直後、やり場のない惨めさと悔しさが胸の奥でどろどろと渦巻き始める。悠里は目頭が熱くなるのを感じた。怜央が陽咲と結婚してからの2年間、彼が陽咲のために口出ししたことなど、ただの一度でもあっただろうか?今日が初めてだ。どういうわけか、彼女の胸に得体の知れない焦燥感と恐れが湧き上がってきた。ここ最近、怜央の自分に対する態度がどこか冷たい。まるで別人のようになってしまい、どうしようもない不安に苛まれていた。悠里は陽咲をそっと盗み見た。禍々しい考えが、脳内でどろどろと増殖していく。――この女さえ消えれば、怜央の視線は、ずっと私だけに向けられるのではないか?そんな考えが頭をよぎった、まさにその時だった。玄関から雅也の声が響いた。「お母さん、悠里のところには来るなと言ったはずだけど?」雅也は不満を露わにし、悠里へ冷ややかな視線を一瞥させると、大股で踏み込んできた。聡子はその言葉に納得がいかず、即座に反論した。「悠里は私の目の中に入れても痛くない宝物よ!私が会いに来なくて誰が来るっていうの!?」傍らのソファに静かに座っていた悠里は、いかにも理不尽な仕打ちを受けたと言わんばかりに、うるうると目を赤くしてみせた。だが、誰よりも悠里の本性を知る雅也は、その哀れっぽい外見に騙されることなどなかった。「お母さんは忘れたのか?悠里が自分の実の母親を唆して、陽咲と紬希を傷つけようとしたことを。あの時の落とし前は、まだつけ終わっちゃいないんだぞ。悠里が事故に遭ったのをいいことに、お母さんたちが躍起になって俺を止め、彼女に厳罰を下すのを邪魔しなきゃ、今頃とっくに海外へ放り出され
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第147話

聡子は金切り声を上げ、憎悪に満ちた眼差しで陽咲を射抜いた。「陽咲なんて、ただの疫病神よ!自分の祖母を死に追いやっただけじゃ飽き足らず、私たちまで呪い殺そうっていうの!?今日、大輔と私でハッキリさせておくわ。陽咲が生きようが死のうが、私たちには一切関係ない。どうせ野良育ちのよそ者なんだから、大輔も私も気になんてしないわ!」大輔もそれに同調した。「名家は血筋を最も重んじると言うが、我が家においては、幼い頃から見守ってきた悠里のほうに当然ながら深い情がある。恨むなら、陽咲の星回りが悪かったとしか言いようがないな」陽咲は短く冷笑を漏らした。その瞳は、冬の日の雪のように凍てついていた。聡子と大輔から放たれた言葉は、彼女が親子の情に抱いていた最後の一縷の期待を、無惨にも断ち切った。「そういうことなら」彼女は冷徹な声で言い放ち、聡子と大輔を一瞥すると、決然として告げた。「それなら絶縁状にサインして。今後、私が生きようと死のうと、望月家には一切関わりのないことよ!」その言葉を言い終えた瞬間、彼女は胸元に走った鋭い激痛に、思わず後ろへよろめいた。血の気を失った蒼白な顔で、胸元を強く押さえる。それに気づいた怜央は、反射的に立ち上がり、手を差し伸べようとした。だが、絃葉の動きは彼よりも早かった。陽咲の体をしっかりと支え、痛ましさに満ちた瞳で彼女を見つめる。陽咲が退院する前、医師からは「患者を決して刺激しないように」と厳命されていた。この騒動のせいで、絃葉のただでさえクールな顔立ちは一層の冷気を孕み、激しく凍てついていた。冷酷な眼差しで大輔夫婦を一瞥すると、感情の失せた声で言った。「怜央さん、悪いけれど書斎で絶縁状を1部プリントアウトしてきてくれないか」怜央は陽咲を心配げに一瞥し、立ち上がって書斎へと向かった。雅也も陽咲の先ほどの苦痛に満ちた様子を目にし、スッと顔を強張らせた。「お母さん、あなたは昔から俺に教えてきたよな。血の繋がりがあろうとなかろうと、自分の身内には優しくしろって。それなのに、お母さんはどうだ?お父さんと2人で一体何をしてる!?陽咲は退院したばかりで、刺激を与えちゃいけないんだ!なのに、あなたたちは何度も何度も彼女の心を深く抉りやがって!後になってから後悔しても知らないぞ!?」聡子は答えなかった。リビ
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第148話

雅也は一瞬ハッとして口ごもり、どう誤魔化すべきか答えに窮した。何しろ、明美が対外的に説明しているのは、「陽咲は交通事故で負傷して入院した」という建前だったからだ。陽咲が銃弾を受けたことなど、夫である怜央でさえ知らされていない。雅也は沈黙したまま、ただ無言で車を急発進させた。絃葉はほんの一瞬口ごもったが、すぐに取り繕った。「陽咲の怪我自体は軽症だけれど、心臓に近い場所だから。過度な刺激を与えるのは厳禁なの」怜央はそれをあっさりと信じ込み、それ以上深くは追及しなかった。その様子に、絃葉と雅也は内心で安堵の息を漏らした。陽咲の胸元から滲み出す鮮血がみるみるうちに広がっていくのを目の当たりにし、怜央はぞっと頭の芯が痺れるような恐怖を覚えた。思わず雅也を急かす。「お義兄さん、もっとスピードを出せませんか!陽咲の容態、かなりまずいですよ!」絃葉は彼を横目で一瞥した。怜央の瞳に浮かぶ焦燥と懸念はどうやら偽りではないようだったが、彼女は何も言わず、ただ陽咲の体をしっかりと抱き締めた。雅也が思い切りアクセルを踏み込む。普段なら20分はかかる道のりを、強引に10分で駆け抜ける。車が停まるや否や、怜央は絃葉の腕の中から意識を失った陽咲を奪うように抱きかかえ、そのまま大股で病院へと駆け込んだ。陽咲は直ちに緊急処置室へと運び込まれた。3人は扉の外で待機したが、誰一人として言葉を発する者はいなかった。30分後、処置を終えた医師が出てくるなり、酷く咎めるような視線で彼らをねめつけた。「患者にはくれぐれも刺激を与えないようにと申し伝えていたはずですが。ご家族はいったいどんな看病をされているんですか?」雅也はひどく狼狽し、医師の口から「銃創」という真相がこぼれ落ちるのではないかと肝を冷やした。慌てて医師の言葉を遮る。「申し訳ありません、我々の不注意でした。今後は十分に気をつけます」医師は頷き、「患者はあと半時間ほどで目を覚ますでしょう。今度こそしっかりと見守り、二度と同じような真似はさせないでください」と念を押した。雅也は短く首肯した。30分後、陽咲は意識を取り戻した。覚醒した途端、胸元に肉を引き裂かれるような激痛が走る。雅也は自責の念に駆られた表情で彼女を覗き込んだ。「すまない、陽咲。俺がもっと早くお父さんとお母さんを止め
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第149話

病院で5日間を過ごすうちに、陽咲は目覚ましい回復を見せた。彼女の度重なる強い要望に、雅也もついに根負けし、退院の手続きを取ってやることにした。後ろでそれを見ていた絃葉が、呆れたような視線を雅也に向ける。「あなたって人は、本当にこの子に甘いんだから」雅也はただ目を細めて優しく笑うだけで、何も言い返さなかった。3人で白檀荘へ戻ってから、陽咲は悠里がまだこの屋敷に帰ってきていないことに気がついた。「悠里は?」陽咲は幸子を呼んで尋ねる。悠里の名を聞いた途端、幸子の目にはありありと憤りの色が浮かんだ。「先日奥様の胸の傷が開いたあの日、悠里様はご実家の方々と一緒に帰られたきり、ここ数日ずっとお屋敷には戻られていません」陽咲は小さく頷いただけで、悠里の動向にはひどく無関心だった。顔を見ずに済むなら、その方が気が楽だからだ。怜央はまだ会社で仕事に追われているらしく、帰宅していなかった。夕食後、絃葉はリビングでしばらく陽咲のゲームに付き合ってくれた。そんな折、蒼空から体調の回復具合を尋ねるメッセージが届いた。陽咲は昨日彼が口にしていた「写真」の件を思い出し、すでに退院して家に戻っていると返信した。【じゃあ、今は時間があるかな?さっき君に画像を送信しようとしたんだけど、なぜか送れなかったみたいなんだ】【大丈夫、5分待って】そう返信して画面をオフにすると、彼女は隣の絃葉を振り返った。「絃葉、少し眠くなっちゃった。そろそろ寝ない?」絃葉は特に怪しむ様子もなく頷いた。互いに「おやすみ」を告げた後、陽咲は自室のドアをしっかりと閉め、蒼空にビデオ通話をかけた。白檀荘の各部屋は遮音性に優れており、隣室の絃葉に声が漏れる心配は微塵もない。発信すると、間髪を入れずに通話が繋がった。「陽咲」蒼空が優しく名前を呼ぶ。陽咲が画面に目を向けると、そこには書斎のデスクの前に座る彼の姿があった。胸元の深く開いた黒いガウンを纏い、目元を和ませてこちらを見つめている。気のせいだろうか。蒼空がスマートフォンを持つ手を、意図的に少しだけ下へずらしたような気がした。最初は彼の顔が画面全体に収まっていたはずなのに、いつの間にか、陽咲の視線は彼のくっきりと浮かび上がる鎖骨のラインに釘付けになっていた。漆黒の生地が、彼の肌の透き通
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第150話

陽咲は我に返ると、スマートフォンを画面伏せでデスクの上に置き、ドアを開けて怜央に視線を向けた。彼女の血の気のない顔を見て、彼は思わず尋ねた。「ひどい顔色だぞ。熱でもあるんじゃないか?」陽咲は退院したばかりで、まだ体が弱っている時期だったからだ。陽咲は一歩後ずさって彼の差し出そうとした手を避け、淡々と言った。「何か用?」そう言われて初めて、怜央は彼女の部屋を訪れた目的を思い出し、軽く咳払いをして切り出した。「医者が、君の傷口にはまだ薬を塗る必要があると言っていたから……俺が塗ってやろうと思ってな」言いながら、彼はドアを押し開けて中に入ろうとした。彼は今でも、数日前に陽咲の胸元から血が流れていた光景を鮮明に覚えており、思い出すたびに背筋の凍るような恐怖に襲われていた。しかし、陽咲は何かを警戒するように胸元を庇い、鋭い視線を向けた。「薬なら、もう絃葉が塗ってくれたわ。あなたにしてもらう必要はない」怜央は困惑した。こんな風に露骨に警戒されれば、以前の自分なら苛立っていたはずだ。だが、陽咲が胸を血に染めて病院へ運ばれて以来、ここ数日は仕事中であっても、眉をひそめて苦痛に耐える彼女の姿ばかりが脳裏をよぎった。自分でもどうしてしまったのか分からないほど、頻繁に陽咲のことを思い出すようになっていたのだ。この胸の揺らぎを打ち明けられる相手もおらず、怜央は結局、その感情を「陽咲に対する罪悪感」ゆえなのだと自分に言い聞かせるしかなかった。何しろ陽咲が入院していた間、自分は出張中で付き添うことができなかった。かつて悠里が交通事故に遭った際には、まる3日間にわたって甲斐甲斐しく看病した。そう思うと、怜央は言葉を継いだ。「陽咲、俺は君の夫なんだ。そんなに俺を警戒する必要はないだろう」陽咲はただ冷ややかな目で彼を見つめ返した。――夫?心の中で冷笑が漏れる。悠里から、2人が同じベッドに横たわるあの生々しい写真を見せつけられた時から、怜央へのわずかな情すら完全に消え失せていた。あの日を境に、陽咲は怜央と距離を置くようになり、言葉を交わすことすら拒むようになった。汚らわしくて耐えられなかったのだ。瞳の奥の嫌悪を押し隠し、陽咲は投げやりに答えた。「他に用はない?ないならもう寝るから」怜央は彼女の心中など知る由もなく、
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