温かい湯気が鼻先をかすめた瞬間、心臓がドクンと嫌な音を立てた。 レモンの爽やかな香りの奥に、金属が錆びたような、あるいは腐った果実のような、生理的な忌避感を覚える異臭が微かに混じっていたのだ。 「美都、どうしたの、飲まないの?」 早苗の声が、一段低くなった気がした。私はカップを口に触れさせる直前で止め、そっとテーブルに戻した。「ごめん、早苗。……なんだか急に、胸がムカムカして。せっかく淹れてくれたのに、ごめんなさい」 沈黙が訪れる。 「でも、それを飲めば母体にいいのよ。せっかく持ってきたんだから、ひとくちだけでも飲んでよ」 彼女はこんな無理強いをする子だったかな。 なんだか様子もおかしいし、私は大事を取って遠慮することにした。「ごめんね。私、結構つわりがひどくて。せっかくなのに申しわけないけれど、受け付けないものを無理に摂ると、戻してしまうの」 すると早苗は俯いてしまった。チッ、と舌打ちされたので驚いた。「せっかく、赤ちゃんに『良いもの』を混ぜてあげたのに」 顔をあげた早苗が無造作に脚を組み替えた。その拍子にテーブルがガタリと揺れる。 彼女の瞳から、先ほどまでの親しげな光が消え、底なしの暗い濁りが溢れ出した。 「早苗? なにを言っているの……?」「美都。あなた、本当に最低ね。蒼大さんをあんなに苦しめて、自分だけ立派な屋敷に住んで、蒼大さんの子供を他の男に育てさせようとして、彼からお金を引っ張ったりして! 恥ずかしくないの?」 寝耳に水だった。元夫の名前が出るとも思わなかったし、全くねじ曲がって湾曲された事実を語られて困惑した。「どうして蒼大のことを知っているの?」 私の問いに答える代わりに、早苗はバッグからボロボロになった面会票を取り出し、テーブルに叩きつけた。そこには、収監されているはずの蒼大の名前があった。「蒼大さんはね、私に全部話してくれたわ。あなたが妊娠を盾に彼を脅して、大金をむしり取ろうとしたこと。思い通りにいかないからって、権力のある弁護士を抱き込んで、彼を無実の罪で嵌めたことよ!」 信じられない! 蒼大は塀の中からまだ私を攻撃し続けているなんて。 嘘を塗り固め、早苗を都合の良いとして利用して、ほんとに最低な男!!「蒼大とはいつ知り合ったの?」 「1年くらい前よ。行
Terakhir Diperbarui : 2026-04-14 Baca selengkapnya