Masuk三浦美都は、離婚調停の席で結婚生活に終わりを告げた。 冷静な顔で嘘を積み重ね、美都を陥れ、愛人と一緒になるために離婚準備を整えた夫の蒼大。 そして彼の弁護士、財前理人。彼は美都の旧友で、彼女に恩があった。 美都を助けるために、ある提案を持ち掛ける。 「俺と結婚してほしい」 しかしこれは契約再婚で、元夫をやり込めるためだと聞かされる。 貯金もすべて取られてしまい、行く宛てもない美都は理人の申し出を承諾する。 『あの人の罪を暴いてやる――!!』 理人との結婚生活は予想以上に快適だけど、 彼の義妹がふたりの仲を猛烈に邪魔をしてくる。 さらに元夫が復縁しようと迫ってきて―ー? 離婚→再婚からの逆転劇物語!
Lihat lebih banyak(どうしてこんなことに……)
離婚調停がうまくいかなかったため夫に裁判を起こされた私は今、家庭裁判所の法廷にいる。そこは、想像していたよりずっと小さかった。
私は傍聴席ではなく被告席にひとりで腰掛けている。お金がないから無料相談の弁護士に成功報酬でお願いしていたのに、突然依頼を降りるとキャンセルされてしまい、ひとりで闘うことになった。
この狭い世界にただひとり、まるで罪人になったかのようで息がつまる。視線の先、原告席には夫の小倉蒼大(おぐらそうだい)とその代理人である弁護士が並んで座っている。夫はスーツ姿で表情一つ変えず前を見据え、隣の座高が高く鋭い目をした弁護士が差し出す書類に軽くうなずいている。私の知っている夫とは別人のように冷たい横顔——それが今、私と対峙する原告の顔だ。
裁判官が開廷を告げ、それぞれが証言台に向かって宣誓書の読み上げ(嘘をつかない宣誓)、粛々と手続きが進んでいく。形式的な言葉が交わされ、事件番号や双方の氏名が読み上げられるのをどこか他人事のように聞いている。心ここにあらず、という言葉があるけれど、まさに今の私がそうだ。現実感がない。自分がこうして法廷で夫と争っているという事実さえ、どこか遠くで起きている出来事のように感じられる。
「それでは原告側の主張をお願いします」
裁判官の淡々とした声に意識が現実に引き戻される。夫の弁護士――財前理人(ざいぜんりひと)が立ち上がり、一礼してから静かに口を開き、低く落ち着いた声が法廷に響く。淡々としているのに、不思議と通る声だ。私の胸がどくんと高鳴る。
弁護士は用意してきた書面を見ながら、整然と夫側の言い分を読み上げていく。
「被告は婚姻期間中、家庭生活において度重なる不誠実な行為を行い、夫である原告に多大な精神的苦痛を与えました」
淡々と紡がれる言葉は刃物のように突き刺さる。一語一句が私を断罪する判決文のように響き、息が苦しくなる。
不誠実な行為に精神的苦痛——なにそれ、それは私がぜんぶ受けてきたこと。
それはこっちが言いたいことだ、と叫びたくなる。 確かに私たちの結婚生活はうまくいっていなかった。でも、その原因は夫にあるはずだ、と私の頭の中で反論の声が渦巻く。夫の蒼大は、いつだって私を傷つけてきた。
ひどい暴言に無関心、夫の希望で専業主婦になったのに、生活費は満足にもらえず挙句セックスレス……挙げればきりがない。けれどそれを証明するものなんてどこにもない。ただ私の胸に刻まれた記憶があるだけだ。私は拳を握りしめ、震える息をどうにか整えようと必死になる。
弁護士の言葉は続く。「原告は誠意をもって家庭を維持しようと努めましたが、被告の度重なる問題行動によって夫婦関係が破綻し、離婚を考えるに至ったのです」
まるで作り話だ。私が過ごしてきた現実とは似ても似つかない、勝手に書き換えられた物語。それが今、夫の『真実』として語られている。
夫はあろうことか、私が怠惰で情緒不安定のためすぐに泣き出し、手が付けられないと訴えてきたのだ!病院送りにされ、勝手な診断書まで作られた。夫の友人が経営する病院だから、診断書に適当なことを書いても誰も偽物だとは思えない。ただ、私が情緒不安定になったのは紛れもない事実。それは夫の暴言が怖く、彼に睨まれるとなにも言えなくなって過呼吸状態になり、ポロポロと涙が出るようになってしまったからだ。
辛気臭い女、お前と一緒にいると飯がまずくなる、さっさと家を出ていけ、ごくつぶし――これらの言葉はかわいらしいものだ。もっとひどい言葉を投げつけられたこともある。
生活費も満足にもらえなかった私は、みすぼらしい女性に成り下がってしまった。最低限のお洒落もさせてもらえず、勿体ないと言われてスマートフォンも取り上げられ、夫の暴言を録音する手段を遮断された。全ての行動を『俺の管理下に置く』とされ、監視されていたから日記や記録を残すことも無理だった。
裁判官がこちらを見る気配がする。
「被告は、ただいまの原告の主張について何か反論はありますか?」
静かな法廷に裁判官の抑揚のない声が落ちる。私の喉はカラカラに渇いている。なにか言わなければ——そう思うのに、夫が見ているのだと思うと怖くて頭が真っ白になる。
「あの……」か細い声が、自分のものとは思えない声が喉から漏れる。
いけない、しっかりしなきゃ!!
胸の奥で警鐘が鳴る。ここで黙っていては、本当に私が全面的に悪かったということになってしまうのよ。 私は震える膝を押さえつけ、なんとか声を振り絞る。「その……こちらにも、言い分があります」精一杯絞り出した声は、自分でも情けないほど頼りない声だ。理人の重なりは、驚くほど慎重で、それでいてひりつくような渇望に満ちていた。 私の肌に触れる彼の指先が、わずかに躊躇うように震えるのを感じる。彼はまだ、私の中に眠るあの日の恐怖に対して遠慮しているのだろう。「嫌ならすぐに止めるから」 耳元で掠れた声が響く。私は応える代わりに、彼の背中に腕を回し、その逞しい身体を自分の方へと引き寄せた。「もっと、あなたを感じさせて……」 その言葉が合図となった。深く、熱い接吻が何度も交わされる。男たちが触れようとした肩、髪、そして唇。そのすべてを理人の香りと熱量で塗り潰していく。 優しいのに、なぜ、こんなにも狂おしい愛撫だと思うのだろう。 同じ男の人でも、理人は違う。私をいつも、心から愛いて、大切にしてくれるのが伝わってくる。 切なさに身を捩る。 理人は今すぐにでも爆発させたい欲望を閉じこめ、私に優しく、優しく触れてくれる。「君だけを大切にしたい」「私も……理人をずっと大切にしたいと思うわ」 何度も絶頂を教え込まれた体は火照り、理人を欲している。「理
「美都。今夜だけは、一人の男として君を独占させてほしい」「えっ……」「ごめん。もう限界なんだ。美都に触れたくて仕方ない」 ぎゅっと抱きしめる理人の腕は、言葉とは裏腹に震えていた。 遡ること30分前。例の事件から一週間が過ぎた。理人の徹底した看病と、片時も離れない過保護なおかげで、私の身体の傷はすっかり癒えていた。 明日からは理人も法廷に戻り、日常が再開する。そんな夜、彼は人美を信頼できるベテランシッターに預け、私を寝室へと呼び出し、先ほどの台詞を聞いたところだ。「人美はよく眠ってくれるいい子だ。万が一の時はもちろん、至急連絡をもらうことにしている。邪険に扱うつもりではないが、明日から仕事だ。美都をチャージさせて欲しい。今夜だけ、俺に君の時間を独占させてくれないか」 理人の瞳は、どこか切なげで、それでいてひどく情熱的に潤んでいた。 彼は私の手を引き、寝室の大きなベッドへと誘う。部屋には彼が好む白檀の香りが微かに漂い、室温は私を労わるように心地よく保たれていた。「美都」 理人は私の手首に指先を這わせた。もう跡は綺麗に消えたけれど、掴まれたりすると怖い。ビクッと肩を揺らす私を見て、彼は動きを止め、私の瞳をじっと見つめる。「俺に触れられるのは怖いかな?」
目を覚ますと朝だった。隣にはまだ眠りについている理人の姿があった。 昨夜の阿修羅のような激しさは消え、眉間の皺も解けて、穏やかな寝顔を見せている。 ――夢じゃなかったんだ。 自分の手首を見ると、そこにはロープの擦り傷を保護するガーゼが丁寧に貼られていた。理人が昨夜、寝る間も惜しんで手当てしてくれた証拠だ。 そっとベッドを抜け出し、近くに置いたベビーベッドの中で眠る人美の様子を見に行った。中で小さな拳を握ってスースーと眠る娘。その温もりを確認した瞬間、ようやく本当の意味での「日常」が戻ってきたことを実感し、鼻の奥がツンとした。 「……おはよう、美都」 背後から温かい腕が伸び、私の腰を抱き寄せた。いつの間にか目を覚ましていた理人が、起きたての低い声で私の耳元に囁く。「かわいい天使はねんね中かな?」「ええ。ごめんなさい。様子が気になったから……理人、起こしちゃった?」 「いや……君が隣にいないと、すぐに目が覚める体質になったらしい」 彼は私の肩に顎を乗せ、一緒に人美の寝顔を見つめた。その眼差しはどこまでも優しいが、私を抱きしめる腕の力は、二度と離さないと言わんばかりに強かった。 「今日から一週間、休みを取った。屋敷のセキュリティもすべて最新鋭のものに更新させる。もうこれで心配ない」 「お金かかっちゃう……」 「そのくらい安いものだ。SPも2倍雇ったから」 「ええっ」 旦那様の心配性に拍車か
屋敷へと戻る車中、理人は一度も私を離さなかった。 人美はすでに私の腕の中で、理人が用意してくれた最高級の柔らかな毛布に包まれ、規則正しい寝息を立てている。その無垢な寝顔を見るたび、張り詰めていた緊張が涙となって溢れ出した。 「……泣かないで。もうすべて終わったんだ」 理人は私の涙を指先で優しく拭い、そのまま何度も私の額に唇を落とした。 屋敷に戻ると、理人は手際よく人美をベビーベッドへと寝かせた。信頼できる専属の看護師を呼んでくれていたので、異常がないか念入りに確認させる。結果、異状はなにもないとのことで、心の底から安堵した。もしもこの子になにかあったらと思うと、胸が痛い。恐ろしい愛憎劇に巻き込んでしまったことを後悔する。「人美は大丈夫だ。もう心配ない。さあ、次は君の番だ」 理人は私を抱き上げ、寝室の大きなベッドへと横たえた。 汚れた洋服を脱がせ、温かいタオルで泥に塗れた私の身体を丁寧に拭いていく。指先が私の肌に触れるたび、そこから熱が伝わり、凍りついていた心と身体がじんわりと解けていった。「理人、自分でやるわ。あなたも疲れているでしょう?」 「だめだ。今は俺に甘やかされてくれ。……君がどれほど恐ろしい思いをしたか、それを思うだけで胸が潰れそうなんだ」 理人の声は微かに震えていた。 彼は私の膝の上に頭を埋め、まるで祈るように私の腰に腕を回した。無敗の弁護士と呼ばれ、
Ulasan-ulasan