All Chapters of 交際0日、再婚相手は元夫の弁護士です ―復縁狙いのクズ夫が詰みました―: Chapter 1 - Chapter 10

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第1話 私が「悪い妻」にされた日 01

(どうしてこんなことに……) 離婚調停がうまくいかなかったため夫に裁判を起こされた私は今、家庭裁判所の法廷にいる。そこは、想像していたよりずっと小さかった。  テレビで見る「裁判」のような圧倒的な迫力はない。けれどその分、逃げ場がない。  正面に腰ほどの高さの木の壁が立ち上がり、その向こうに裁判官席がある。  淡い木目のパネルが視界をまっすぐ切り分け、こちら側とあちら側を別の世界みたいに隔てている。裁判官席は一段高く、中央の大きな椅子が主役のように据えられていた。 私は傍聴席ではなく被告席にひとりで腰掛けている。お金がないから無料相談の弁護士に成功報酬でお願いしていたのに、突然依頼を降りるとキャンセルされてしまい、ひとりで闘うことになった。  この狭い世界にただひとり、まるで罪人になったかのようで息がつまる。 視線の先、原告席には夫の小倉蒼大(おぐらそうだい)とその代理人である弁護士が並んで座っている。夫はスーツ姿で表情一つ変えず前を見据え、隣の座高が高く鋭い目をした弁護士が差し出す書類に軽くうなずいている。私の知っている夫とは別人のように冷たい横顔——それが今、私と対峙する原告の顔だ。 裁判官が開廷を告げ、それぞれが証言台に向かって宣誓書の読み上げ(嘘をつかない宣誓)、粛々と手続きが進んでいく。形式的な言葉が交わされ、事件番号や双方の氏名が読み上げられるのをどこか他人事のように聞いている。心ここにあらず、という言葉があるけれど、まさに今の私がそうだ。現実感がない。自分がこうして法廷で夫と争っているという事実さえ、どこか遠くで起きている出来事のように感じられる。「それでは原告側の主張をお願いします」 裁判官の淡々とした声に意識が現実に引き戻される。夫の弁護士――財前理人(ざいぜんりひと)が立ち上がり、一礼してから静かに口を開き、低く落ち着いた声が法廷に響く。淡々としているのに、不思議と通る声だ。私の胸がどくんと高鳴る。 弁護士は用意してきた書面を見ながら、整然と夫側の言い分を読み上げていく。「被告は婚姻期間中、家庭生活において度重なる不誠実な行為を行い、夫である原告に多大な精神的苦痛を与えました」 淡々と紡がれる言葉は刃物のように突き刺さる。一語一句が私を断罪する判決文のように響き、息が苦しくなる。 不誠実な行為に精神的苦痛——なにそれ
last updateLast Updated : 2026-02-11
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第1話 私が「悪い妻」にされた日 02

 「私も……家庭を守ろうと、努力しました……」 言葉がうまく続かない。頭の中で言いたいことは次々浮かぶのに、口から出てくるのは途切れ途切れの断片だけ。胸がざわざわして鼓動が早鐘のようだ。裁判官がじっとこちらを見つめているのがわかる。表情は読めない。 原告席の弁護士がすっと片手を上げ、冷静な声で割って入ってくる。「被告の主張は具体性を欠いています。感情に基づく憶測ではなく、事実に即した反論をお願いできますか」 感情に基づく憶測——その言葉が頭の奥で反響する。カンジョウニモトヅクオクソク。私の必死の訴えは、彼らにはただの感情的なわがままに映っているのだ。事実に即した反論?そんなもの、できるならとっくにしている。証拠がないから闘っているのに。私は唇を噛む。嫌な味が口の中に広がる。血の味だ。「ですが……」 やっとの思いで声を絞り出すが、裁判官の一言にかき消される。「被告は落ち着いてください。先ほどの原告側の主張に対し、何か証拠をもって反論できますか?」 その声は穏やかながらも突き放すようだ。証拠——また証拠だ。  結局、この場で意味を持つのは形に残るものだけ。私がどんなに胸の内を叫んでも、涙を流して訴えても、それは無いも同然なのだ。「証拠は、あ、ありませんが、でも……」  声が震える。だめだ、言葉が続かない。  視界が滲み、裁判官の顔がぼやけていく。頭の奥がじんじんと痛む。恥ずかしい。悔しい。何もできない自分が情けなくて、泣き出しそうになるが、それでもなんとか踏みとどまる。ここで泣いたら終わりだ。私はぎゅっと目を閉じ、一度だけ大きく息を吸い込む。 目を開けると、夫の弁護士が小さく肩をすくめるのが見える。そして夫は、私をきっと睨んでくる。  ああ……その鋭い眼差し、冷徹な瞳……少し前までの悲惨な夫婦生活が蘇り、フラッシュバックして涙が出そうになる。  彼の横顔は石の彫刻のように硬く、冷たい。私がどんなに心を砕いて訴えても、あの人の心にはもう届かないのね。かつて愛した夫が、今ではこんなにも遠い存在になってしまった。 法廷には沈黙が満ちている。裁判官は私が何も差し出せないとわかると、小さくうなずき、手元の書類に目を落とす。 ペン先が紙を擦る音が、妙に大きく聞こえる。  私の発言が今、文字になって整理されていく。  整理されないまま、喉の奥で湿
last updateLast Updated : 2026-02-11
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第1話 私が「悪い妻」にされた日 03

 私が黙っていることをいいことに、原告席の弁護士が即答する。「はい。原告は早期解決を強く望んでおります。離婚は前提です。その上で、被告に過大な請求をせず、公平な条件を提示しております」 公平——  この裁判自体、不公平なのに。なにを公平だというの。 裁判官は「では」と区切り、私のほうを見た。「被告はどうですか。離婚自体について、反対ですか」 反対と言えばいい。  反対だと言ってしまえばいい。 でも——反対と言った瞬間、次に来るのは「では証拠を出してください」だ。  私は出せない。  出せない私の言葉は、虚言として切り捨てられる。 喉の奥が、ぎゅっと縮む。「離婚、は……」 待って。  私が悪いと思われていたとしても、もう、離婚でよくない?  夫の暴言や急変する態度に怯えて生きなくてもいいなら、このまま離婚に同意するほうが、ずっといいような気がした。 裁判官が私の言葉を待つ。  まるで秒針の音が聞こえそうな静けさ。 原告席の夫がこちらを見た。  氷みたいな目。家で何度も見た目だ。  私が黙るまで、じっと追い詰めてくる目。 その目を向けられると、ひゅっと息が詰まってもうなにも言えなくなる。 弁護士が紙を一枚差し出した。「和解案として、次の条件で進めたいと考えています」 内容を淡々と読み上げる。「財産分与はなし。婚姻期間が1年と短く、共有財産が実質的に形成されていないためです。慰謝料もなし。原告は被告を責める意図はありません。ただし——」 弁護士が一拍置く。「今後一切、原告に対して連絡・接触をしないこと。SNSを含め、原告の名誉やプライバシーに関わる発信を行わないこと。また、原告が被告に対しても同様とさせていただきます。双方子はおりませんので、ここで終結できます」 綺麗に整った言葉。  “ここで終結できます”という言い方が無機質で冷たい。まるでAIロボットのようだった。 裁判官が補足するように言う。「被告にとっても、紛争が長引くことは精神的負担が大きいでしょう。訴訟を継続すれば、主張と立証のやり取りが必要になります。早期解決の可能性があるうちに、よく考えてください」  面倒なことはさっさと終わらせろ、と言われているようだ。 私は机の端を見つめた。「……あの」 言いかけた瞬間、原告席の弁護士に追い打ちをかけ
last updateLast Updated : 2026-02-11
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第2話 再婚話 02

 私は反射的に椅子の背もたれを掴んだ。柔らかい革がきしむ。今まであった会話がなくなり、個室の静けさが残る。「顔、上げて。……謝られても、意味がわかんない」 財前君はゆっくり顔を上げた。さっきまでの、無機質な弁護士の顔じゃない。  目の奥が揺れている。罪悪感を隠せない人間の目だ。「俺は……今日、君を傷つけた。わざとだ」「……わざと?」 喉がひゅっと鳴った。  冗談じゃないわ!  私は今、無一文で、家にも帰れなくて、人生を壊されて——それをわざと? 私の視線が鋭くなるのを察したのか、財前君は先に言い切った。「許せないと思う。君の気が済むまで殴ってくれていい」「そんな……殴らないよ。わざとってどういうこと? 理由を言って」「俺が小倉蒼大の弁護を引き受けたのは、懇意にしている会社の顧問をしている関係がある。そこからの依頼で引き受けた。正直、最初はいつもの離婚弁護案件だと思ってた」『いつもの』――その言い方だけで胸が痛くなる。彼にとって『離婚』というのは、よくある案件のひとつにすぎない。そこには様々な夫婦のドラマがあるのに。「でも、法廷で君を見た瞬間……震えたよ。君が、同級生の三浦美都だって」 心臓が一拍遅れて鳴った。「……じゃあ、最初から気づいてたの?」「ああ。しかも案件自体は最悪だってわかっていた。本来なら君に有利な離婚案件でないといけないはずなのに……」 財前君の指が名刺の角を強く押す。紙が少したわむほどに。「俺は弁護士だ。依頼人の利益のために動く。依頼を受けた以上、簡単に裏切れない。しかも相手が——君だと知ったのは後からだ」 言い訳に聞こえた。  でも目は逃げていない。「だから、俺は……一番早く集結するやり方を選んだ」「どういうこと?」 財前君は頷いた。「君が戦い方を知らないのを見てわかった。三浦さんは、小倉の証言を覆せるほどの証拠を持ってない。君が依頼していた弁護士も、小倉が根回しをしたんだ。買収して君の弁護士を降りるように仕向けtたんだ。実際君は、弁護士にキャンセルされて困っただろう?」 なんてこと……!「小倉は卑怯な手を使うやつなんだ。それで裁判を続けたら、君の精神も、お金も、時間も削られる」 私は唇を噛んだ。  図星だ。  でも、それを言われると腹が立つ。涙が出る。「だから俺は、一発で終わらせるよう
last updateLast Updated : 2026-02-27
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第3話 交際0日婚後、まさかの同居 02

 清良さんは吸い寄せられるように理人のもとへ駆け寄った。  華奢な指が理人の上質なスーツの袖を掴み、潤んだ瞳で彼を見上げる。その姿はストーカーに怯える「守られるべき可憐な妹」そのものだった。「ごめん、遅くなったね。……清良、紹介するよ。さっき電話で伝えたと思うけど、妻の美都さんだ」  「……え?」 清良さんの動きが止まる。一瞬彼女の顔から表情が消えた。まるで美しい陶器の仮面にひびが入ったような、形容しがたい空白。 けれど彼女はすぐに、完璧な笑顔を張り付け直した。「……嘘でしょ、お兄ちゃん。冗談だよね? だって、そんな……そんな何年も会ってなかった同級生といきなり結婚だなんて……私、認めないから!」「冗談じゃない。本気だ。幼い頃、俺を助けてくれた唯一の恩人なんだ。ずっと片思いしていたんだけど、再会してプロポーズさせてもらった。今、美都はとても困っているんだ。だから助けたい」 理人の声は穏やかだが、そこには弁護士らしい拒絶を許さない強さがあった。 清良さんは、次に私へとその視線を向けた。値踏みするような、それでいて深い憎悪を孕んだ鋭い光。 さっきまでの「潤んだ瞳」はどこへ行ったのだろう。私に向けられたのは、獲物の急所を狙う毒蛇の目のように思える。「美都……さん。初めまして」 彼女は口角を上げたが、その目は一切笑っていない。私は気圧されそうになりながらも、なんとか挨拶を返した。「初めまして、清良さん。突然お邪魔してしまって、ごめんなさい。ストーカーのことで大変な時に……」 「あ、いいの。別に。――お兄ちゃんが連れてきた人なら、私はなにも言えないし」 清良さんは投げやりな言葉を口にすると、私の差し出した手を握をぎゅっと握った。痛いほどに。 すっと私から視線を逸らせ
last updateLast Updated : 2026-03-03
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第3話 交際0日婚後、まさかの同居 03

  理人に促されるまま、私は彼が寝室と呼ぶ部屋に足を踏み入れた。  そこはリビング以上に彼のプライベートな香りに満ちていた。高級なウッディ系の香水と、かすかな清潔感のある石鹸の匂い。 部屋の中央には、一般の家では見たこともないほど大きなキングサイズのベッドが鎮座している。  シルクのような光沢を放つシーツが窓から差し込む夜景の光を反射して、どこか非現実的な美しさを湛えていた。 「……あの、理人。私、本当にここでいいの?」 「今日からここは君の家で、俺たちは夫婦だ。不自然な振る舞いをすれば清良も疑うだろ」  理人は淡々と、けれど当然のことのように言いながら、クローゼットから新しいタオルを取り出した。  確かに、清良さんは「ストーカーが怖い」という名目でこのマンションに居座っている。 もし私たちが別々の部屋で寝ていることが知れたら、彼女はすぐに私のことを疑い、追いだす隙を突いてきそうだ。 「シャワーを浴びてくるといい。清良のパジャマを借りる話をしたけれど……あいつのものは君には少し小さいかもしれないな。俺のシャツで良ければ、好きに使って」  差し出されたのは、仕立ての良さそうな厚手の黒いTシャツだった。  それを受け取る時、指先が微かに理人の手に
last updateLast Updated : 2026-03-04
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