咲夜の心の内を見透かしたかのように、千暁は彼女を見つめながら言った。「もし本当にお礼がしたいなら、数日後にあるオークションに付き合ってくれないか。女性の同伴者が必要なんだ」ちょうどいい機会だ。咲夜を自分の人脈や交友関係の輪に自然に溶け込ませることもできる。もっとも、彼女が引き受けてくれるかどうかは分からない。そう言い終えると、千暁はわずかに緊張した面持ちで咲夜を見つめ、その返事を待った。だが咲夜は、最初から断るつもりなどなかった。「分かった。いいよ」その返事に、千暁はふっと笑みを浮かべた。「じゃあ当日は迎えに行くよ。会場はクルーズ船の上なんだ」咲夜は隣の千暁を見つめ、少しだけためらう。彼が言っているのは、まさか「月華オークション」のことではないだろうか。全国各地の著名人や財界人が集うことで知られる、有名なオークションだ。荻野家の背景を持つ千暁が招待されるのは不思議でも何でもない。だが、まさか自分まで同行させるつもりだったとは思わなかった。咲夜の驚いた視線に気づいた千暁は、軽く笑う。「そんなに緊張しなくていい。ただのオークションだよ」その言葉を聞いて、咲夜はかえって笑えなくなった。千暁にとっては「ただの」オークションなのだろう。だが、それは本来なら自分のような立場では足を踏み入れることすらできない世界だ。緊張しないなんて、無理な話だった。それでも、千暁が自分を連れて行こうとする以上、何か考えがあるのだろう。結局、咲夜はその厚意を断らなかった。……智之と詩乃が到着した頃には、咲夜は千暁の隣で二人を迎えていた。食事が始まると、千暁は単刀直入に切り出した。「詩乃、前に景浦市への事業展開を考えているって言ってたよね。ちょうど花江グループでファッションショーを企画していて、信頼できるデザインチームを探しているんだ」その言葉に、智之と詩乃は同時に千暁の隣に座る咲夜に視線を向けた。咲夜は思わず背筋を伸ばす。今の花江グループの状況を考えれば、相手にとって自分たちを選ばなければならない理由などない。咲夜が自ら売り込もうとしたその時だった。智之が笑顔で口を開く。「千暁の紹介なら、僕はもちろん問題ないよ。あとは詩乃がいいと言うなら、僕も賛成だ」智之は千暁との長年の付き合いを信頼していた。
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