All Chapters of 強制狂葬 狂眼ドール: Chapter 61 - Chapter 70

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5.『核』の暴露

「煙管に火をおくれ」「……今かよ」「吸い終えるまで待ってやる。仲良しこよしなら他でおやりよ」「はいはい」 京はフェンランの煙管に火を着けると、再びサタンに向き直る。「まずは『脱獄した者は居るか』聞け」「以前聞いたが ? 」「いいからもう一度聞け」「──」 サタンが目を閉じる。「── ! いるらしい ! 」「誰だ !? 」「────。いや、言えないらしい。だが、『城』へ戻ったそうだ」「……何故、そいつは誰にも言わない ? 囚人じゃないのか ? そいつは囚人か ? いや、翡翠か ? 聞け ! 」「──。翡翠様じゃない」 フェンランも京と顔を見合せて眉を寄せた。「どういうことだい ? 」「塀の外へ行った奴はいる。でも何か理由があって戻った。 そいつの戻った理由を聞け」「────いや、駄目だ。脱獄や外については答えられないらしい。 そうだな、質問の仕方を変えてくれ。何を知りたいのか知らねぇが、抜け道になるような質問の仕方をしてくれ」「……なら……翡翠は『核』の味方か ? 『核』は人なのか。聞け」「…… ? わ、分かった。 ────。『核』については答えられないらしい。翡翠様は以前は敵だったと……。どういうことだ ? 翡翠様は初代管理人の血縁者って自分で言ってたぜ ? 喧嘩でもしたのかぁ ? 」 翡翠は『核』と不仲だった。 翡翠は現在『核』に行動を制限されている。 これが本当なら、翡翠は出たくても『城』に縛り付けられているのかもしれない。 そしてこの質問から分かった事。「初代管理人……」「どうやらそのようだね。どういう原理か知らんが、こんな世
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6. 執務室の夜

 寝静まった『城』の中。小さな足音に気付いたサラが身を起こす。 大時計の光りを全身に浴び、銀髪のドールヘアが藤紫色に反射する。サラリとした柔らかそうな髪の下は少女のように可愛らしい造形。 自分の娘が生きていたらと、いつもサラは涼を見て胸を痛めていた。 この『城』に来るということは生者の世界には既にいない。自分より若くして死に、女囚たちの噂で原罪は自死だと知った。(あの……起きてますか…… ? ) 涼はキョロキョロとしながら不安そうにサラの房を覗いてきた。「起きてるわ」 サラは慌てて鉄格子に張り付く。同房のサラの今の恋人もモタモタと起きて顔を出した。「あれ ? 一人なのかい ? 」「はい。起きたら京がいなくて」「そう……」「彼はよくフラつくからね。俺はピッキング出来ないし、閉まってた方が安心して眠れるけど……。 一人でウロつくの辞めた方がいいんじゃないかな」「ええ。涼くん、もう戻った方がいいわ」「そうですかね ? じゃあ……部屋で待とうかな……」 戻ろうか迷う涼を見てサラは不安に駆られる。「ここに来るまで、誰かと話したりした ? 」「ううん。でも、人影がね。あっち側の通路にも出歩いてる人、チラホラいるみたいだね。大丈夫だよ」「……」 サラに心配をかけまいとしているのか、油断なのか、涼はオッドアイを細めて微笑む。「涼くん、翡翠様と仲がいいのよね ? 今日は避難させて貰ったら ? 」「おいおい。それじゃ、鍵を開けた京がバレるだろ ? やばいんじゃないのか ? 」「京くんは常習犯だし……そんなに怒られるかしら ? 死もない、この『城』で。翡翠様が囚人に非人道的な罰則を与えたことは無いもの」「罰則が無いと
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7.視える大罪

「── やばっ !! 」 数時間後、涼が慌てて起き上がる。 寝転んでいたソファが不自然にたわんでいる事に気付き、側にいる翡翠を見上げた。「あの、勝手に……ごめんさない……」 翡翠は腕組をしたままどこか上の空で座っていた。起き上がった涼に気付き、ふと微笑みを浮かべる。「看守に事情を聞いたよ。構わない。 京は毎晩か ? 」「いえ、今晩だけ……です」「まだ皆寝静まっている。君も朝まで寝ていなさい」「はい……ありがとうございます」「手に触れていてもいいか ? 」「あ、どうぞ。 エントランスで『癒し』を使ったリラクゼーションを始めたんです。順調ですけど……。 実は最近、不思議な力が同時に出てきて……他人の人の罪が左目で視え……」 話に頷く翡翠を真っ直ぐ見つめ、新しい能力の扱い方に助言を乞おうと──そう考えて翡翠を見上げた涼は、なにかの景色に言葉を失った。 左眼のヴァイオレットに映る精悍な顔つきの青年の姿だ。 一気に脳裏を駆け巡る。 よく見れば彼も囚人だ。ドールの無機質な手に首の球体関節、蜂蜜色に輝く美しい髪色。 だがその手元は不穏。 他のドールの頭部が握られていた。 髪を束ね葡萄のように、いくつ人もの頭部パーツを手に提げている。頭部同士がぶつかり合い、ガランガランと音を立てる。 恐ろしい光景だ。 更に、頭だけのドール達は、まだ何か喋っていた。青年は冷たい目元をそのままに冥花の咲き乱れる庭園に立っている。足元にもスイカのように転がるドールヘッド。涙を流す者もいた。 やがて青年は大きく振りかぶる。 手にした頭部を投げる。砲丸投げのように大きく飛距離を伸ばし──やがて、遠くでゴッと音を立てた。 青年がどこへドールヘッドを投げたのか
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8.火炎日和

 囚人達が予想していたより、火災は小規模だった。『城』の外壁にも庭にも問題はなく、石畳や木の根の一部が炭になった程度だった。 それでも大きな騒ぎになったのは水が無いからだ。安易に消火できる設備がないところを、看守ドールが鑑賞池からバケツリレーをしたという。なんとも原始的な造りだ。 食堂の隅、目玉焼きに視線を落としながら涼はぼんやりと昨晩の事を考えていた。 京がしつこく『城』の構造について、おかしいおかしいと繰り返していたこと。自分の知らない何かを知っているから、そう思うのではないかと。  考えすぎか ? 確かにそう涼は考えていた。  しかし翡翠の過去を視て、不信に思えてきたのも事実。  そもそも涼の紫色のドールアイに視えるのは、その人間の原罪だ。  何故、ドール姿の翡翠が視えたのか ?   何故翡翠の原罪だけドール姿だったのか。あの人形の頭が原罪だとしたら、この『城』に来た理由の説明がつかない。(原罪が視えるって言うのが、そもそも違うのかな ? だって罪を犯さない人はいないし。  そうだ……誰か違う罪状で何犯も罪を犯してる人がいたら……どう視えるんだろう ? ) 可能性として考えられるのは、『城』に来る理由となった罪が視えるか、今現在までで一番重い罪が視えるかだ。もしくはランダム。(今現在までで一番重い罪……それが一番有り得るかも。京だって、囚人達の噂じゃここに来てから何度も火を使ってるみたいだし。でも俺が視たのは生前の京だ) ──小脇に抱えた新聞紙を手早く捻り、その先に灯る赤い炎。それはスゥっと弧を描き本棚へ吸い込まれるように差し込まれていく。手際の良さも、暗闇で揺れる灯火も。京が炎で、何度も何度も弧を描く光景が忘れられない衝撃だった。(不謹慎だけど……。  なんか……綺麗だったかも……) ガンッ !! 「ヒェっ !! 」 突然目の前にトレイが叩きつけられ涼の口から情けない声が出た。「京 ! 」「あ〜腹減った腹減った」 トレイの主は京だっ
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9.左眼の真意

「涼くん〜無事ね〜 ? 」 食堂を出るとサラとその連れが駆け寄ってきた。「ボヤ騒ぎ大変だったわね。皆その話で持ち切り !   京くん。お願いだから涼くんを一人にしないで」「……いや、俺にも用事くらい……」「とーにーかーくー ! ダメよ。今は涼くんを必要としてる人が沢山いるんだから。  さ、涼くん ! 行きましょ ! 」 サラは強引に涼の腕を取る。「え ? 今からすぐ ? 」「えっとねー……今日は二十人の予約よ。  大丈夫 ! 一人につき五分〜十分程度だし。一日がかりじゃないわ」「二十人 !? 」 京が声を荒らげる。「消耗が激しいって言ってあっただろ ! なんでそんなに予約入れるんだよ ! 」「だって希望人数が凄いんだもん。このくらいしないと捌けないわ ! 」「駄目だ ! 減らせ ! 」「京、やるだけやってみるよ」「涼 ! もうやめろ、こんな事 ! 多分やらねぇ方がいいんだ」「どうしてそう言えるの ? 」 涼のこの問いには今回、圧があった。京がドキリと口を噤む。「やらない方がいいって、なんでそう思うの ? サタンも同じことを言ってたよね ? あいつから何か聞いたの ? 」 それは「お前は昨晩、サタンを焼いただろうう」という言葉と同義。  京は奥歯を鳴らすと、涼とサラからそっぽを向いた。「それこそ守秘義務だな」「ふーん」 意味があるらしい、というのは涼に伝わっただろう。しかし、京としてもまだまだ『癒し』を止める為の証拠や証言が足りない。何がどうダメなのかを伝えない限り、涼は止まらないだろう。「サラ。京。実は確認したいことがあるんだ。その二十人の中で、同程度の重犯を持ってる囚人を視てみたいんだ」「重犯 ? なんで ? 」 涼が答えを京に告げるより早く、サラの連れの男が予約メモを読み、横から指をさした。「俺、こいつ知ってるけど
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10.心臓部

「サタンが『核』に願ったものはな、いつでも『核』と会話できる権利さ」「『核』と……話す…… ? 」「お前はどう思う ? アレと話してみて、何か視えたか ? 」 涼は京の質問の意図が理解出来なかった。大事な話をされている自覚はある。しかし昨晩、京が加害したサタンの話に、何故自分の『癒し』が絡むのかが見えないのだ。無理もない。京も全てを涼に開示していないのだから、察しようがない。「『核』はいかにもコンピュータって感じじゃない ? 無機質って言うか……」「そうだよな。けれど、知りたいことは教えてくれそうじゃん。『城』の『核』なわけだろ ? 」「それは別じゃない ? 京が言ってる『城』の七不思議みたいなのって、あの世なのにシャワーから水が出る、とか……冥花って結局何科の有毒植物なんだろうって……『城』の構造の話でしょ ? 『城』の『心臓』であって、『脳』じゃないよ」 京はガックリと肩を落とすと深く溜息をついてしまった。「…………ハァ〜〜〜……。お前の心臓は他人と会話すんの ? 七不思議とか構造とか、俺がそんな大工みたいな事を気にすると思うか ? 」「え〜 ? 俺は気になるよ。シャワー室の排水溝のね、使った水はどこに行くのかなぁ〜とか」「一生考えてろよ、バカ……」「なんだよ……だって気になるじゃん。生前の世界に戻るのか、それって下水のどこかにワープするのかな〜とか。 そういう不思議な場所じゃん、『城』って。ここが皆んなが言う天国や地獄とは思えないよね。翡翠さんだって「連れてくる」って言ってたし」 京がピクリと反応した。「確か、「連れてくる奴は『核』が選ぶ」って言ってたんだったな」「うん。そうなるとさ、翡翠さんって半分『城』から出てるじゃんね ? 」
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11.揺るがない花

 いくら考えようが答えなど出るはずがない。『核』と話せるサタンですら大きな情報は掴んでいなかった。当然、サタンは悪魔を崇拝し、この世界が地獄とするなら『城』での覇権は握りたかった。その為に『核』を使い他者を出し抜こうとした。 サタン一味に脱獄の意思が無かったのは京もフェンランも聞いている。『幻のドールアイ』の存在を鼻で笑っていた。「とにかく、何か翡翠から聞き出せるとしたら、お前しか──」「涼くんー ♪」 二人の肩が飛び上がる。「サ、サラ…… ! びっくりした ! 」「用意出来た ? 」「え、と。まだ……少し休憩してから行ってもいい ? 」「いいわよ。京くん、君は駄目。早くキャンドルに火をつけてよね」「あぁ"〜 ? 高々数本だろ ? 」「増やしたのよ。余ってる石鹸とか、他にもいろいろ作りようがあったから、作業してるうちに増えちゃった♪」「なら少しずつ使えばいいだろ一度に使うなよ。酸欠になんぞ……」 そういいながらも京は渋々房を出る。「じゃあ先に行くぜ」「うん」 京がサラに引き摺られて行くのを見送ると、涼も持ち物の支度を始めた。 □□□「フェンラン、私達も『癒し』を受けるべきなの ? 」 フェンランのそばに残ったのは数人……元の半分の人数だった。 皆、冥花栽培には来るのだが、『リラクゼーションルーム』と称した癒しが始まると、兼業としてフェンランの元を離れるようになった。皆、涼の『癒し』を受けた者だ。「あたし興味無い。冥花だけでいい」 女子高の制服を来た女子だけは頑なに癒しを拒んだが、他の女囚は悩んでいた。 フェンランのそばにはいたいが、集団として同じ事をすべきなのか、涼という少年は信用できるのか。現にフェンランは止めも勧めもせず、今は静観の動きだ。それを敏感に感じ取った者はフェンランの元へ残った。「私も&
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12.監獄少年の一時

涼がリラクゼーションルームへ行くと、数人の男たちがサラを相手に揉めていた。「なんでだよ !! おかしいだろ ! 」「何のための予約だよ ! 」予約の順番を変える事に不満を抱えた者たちだ。当然だ。多い囚人たちの中から並んでまで勝ち取った順番なのに、後から来た者を先に視るというのだから。涼は自分のせいだと名乗り出ようとして一歩踏み出すが、他の囚人に止められた。「涼さん、今はあかん。ああいうのはゴネれば何とかなるんちゃうかと思ってんねん」「まぁ……そうかもしれないけど……。俺が変えちゃったし……」「予約担当はサラの仕事やろ。任しとき」「はい。じゃあ……」周りを見渡すと、頭を抱えてしゃがんでいる京がいた。「京、準備出来た ? 」「出来ねーよ。バーカバーカ」「なんだよ急に」「見ろよ ! このキャンドルの量 ! 」壁や通路至る所に手作りの燭台が立っている。食堂の陳が割れのある食器を女囚に譲った。彼女たちはそれを加工し燭台のように工作したのだ。「京が一個火をつけて、皆で分けて、それぞれつけていけばすぐ終わるじゃん」「俺もそう思う。俺も !! そう思う !! 誰だって思うよな !? 」「う、うん」「キャンドル、ぜ〜んぶ燭台にくっつけちまった ! 」「外せないの ? まさかこの量、全部ライターでつけて回るの ? 」「俺もう逃げたい……。親指痛てぇよ……」長く使い、ライターのホイールが熱で熱くなる。親指を添える度に手を振る京に涼が言った。「京のライターって、あのンギギギってなるやつじゃないんだね」全く伝わらない説明に京は苦い笑みを返した。涼の会話はいつもそうだ。グルグル〜や、こういう感じ、など、涼の主観で語られることが多いのだ。「ンギギギって
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13.最初の脱獄者

 涼は池から離れると、今度は門の方へ行ってみようと歩き出す。『幻のドールアイ』さえあればこの門は開く。そう噂されながら、ずっと誰も探そうとしない。いや、探している者はいる。京と翡翠だ。「これだ。網膜スキャンするやつ……」 虹彩認証機器としては監獄という場所で不利にも思える。機械など叩き壊してしまえば済むことだ。現に塀の有刺鉄線はファイトのリングに使用されているため所々無くなっている。(俺たちは人形だから、確かに生きた人がここを作ったなら正しい判断かも。でも、この世界に出入り出来る人間って限られるよね……。霊能者……それも凄い本物な人とか、お坊さんとか ? 女性なんだったっけ ? ) 涼が門の格子の先を見通す。 いつ見ても何も見えない。本当の黒色とはこういう物を言うのではないかと絵の具の黒色を思い浮かべる。するとなんとも絵の具の方が可愛らしいとさえ思えてしまうと感じた。「あ〜あ。結局、京も本気じゃ無さそうだしなぁ……」 その時、涼へ向かって足音が聞こえてきた。 サクサクという地面の雑草を踏む音と軍服の衣擦れ音だ。「あ、ブレードさん ! おはようございます ! 」「ああ。何やらエントランスが騒がしいようだが」「癒しのリラクゼーションサロンを始めたんです。でも準備に手間取ってて。順番待ちでもお客さんが揉めちゃって」「……」 ブレードは涼の顔を覗き込むと、難しい顔で藤紫色の左眼を見詰めた。「その『癒し』とやらを、使わん方がいいと忠告したはずだ。もう少し賢いかと思っていたが──そのままでは持たなくなるぞ」「持たない……? それって能力が減るってことですか ? 使えなくなる ? 」「いいや。もっと大事な物を失うのさ」「ごめんなさい。京にもやめた方がいいって言われるけど、俺には何故なのか全然分からないです。 この力は『核』に許
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14.癒しの限界 プライド·ホワイト

「お待たせしました」 サラが一礼してパーテーションを開ける。その風圧でキャンドルの灯火が揺らめいた。  中心に置かれた椅子はさながら玉座のようで、銀色の髪と片目が紫色の涼の姿はまるで──「予定の変更について、大変ご迷惑をおかけしました。ですが、今日ご予約の方は確実に視ますのでご安心ください」 微笑み、群衆に語りかける。 その涼の姿を京はなんともいえない気持ちで眺めていた。以前の様に、戸惑い、不安げで、自分に縋り付いてきた涼はそろそろ消えていくだろう。 これが、『城』で生きるために模索した、涼の生き方なのだ。受け入れなければならない。「それでは、ルキ · ホワイト様から……。どうぞ、こちらの椅子に」 サラが案内する長身痩躯の日系人。  年は三十代半ば。金髪に白い肌、切れ長の瞳はシルバーグレイ。俳優のような美しい男だった。「ふふ。俺を先に視たいとはね。お目が高い、のかな ?  でも……あいにく俺はどこにでもいる、ただの出来損ない人間だよ 」『あいつスリだっけ ? 』 『いや、確か強盗致傷じゃねぇか ? 』 『え ? 俺はポリに手を出して捕まったって聞いたぜ ? 』 『捕まってムショに入ったんじゃ、この『城』には来ねぇはずだよな ? 』 『じゃあ、なんでここに来たんだ ? 』 男の言う罪が数多くある中の一部なのか、それとも出任せの嘘なのか。  涼の左眼がそれを見抜く時だ。「では、手を。俺に触れてください」「こう ? 」 男は躊躇いなく涼の手を握った。  男のその眼光。鋭く、涼を値踏みするようにもう片手で頬杖を付く。  そして涼の集中を乱すように、握った手を緩めると、スルスルと指を絡めて弄び始める。「おい、てめぇ…… ! 」 京がやめさせようとするが、涼にはもう言葉は届かなかった。 男の握る手。  その感覚から来る視覚情報。  まずは右目に写る囚人達の群衆が消え、次に取り巻きとなったサラや他の女囚達の気配も取り除かれる。威圧感の強い京の気配と、最後にキャンドルの光りが無くなり、闇の中にポツンと置かれたカフェテーブルの上で手を取り合い、涼と目の前にいる男だけの空間に切り替わる。 二人だけの世界。 初めに視えたのは少年の姿。黒髪で高校生の制服を着たどこかの生徒。  少年は噴水のある広場にいたのを、この男は気にかけた
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