強制狂葬 狂眼ドール

強制狂葬 狂眼ドール

last updateLast Updated : 2026-04-12
By:  神木セイユUpdated just now
Language: Japanese
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️脱獄するには幻のドールアイを略奪せよ ! ️不遇な生活を送っていた一ノ瀬 涼。他人の感情が視認出来る体質と辛い家庭環境に悩んでいた。そんな涼は放課後に、屋上公園へ行くルーティンがあった。 ️ある日翡翠と名乗る男が現れ、涼は『既に自死して、その一日をループしていた』事を知る。 翡翠により助け出された涼が連れて来られたのは霊界にある犯罪者の霊を監禁する為の通称『城』と呼ばれる監獄だった。 ️その『城』では人形の体が与えられる。 翡翠と懇意になった涼は脱獄の為に『幻のドールアイ』が必要だと知らされるが、失われた片眼を盗んだ囚人は同房の紅 京だった。 ️脱獄を試みる中で、涼は翡翠と京のどちらに付くか悩み苦しんでいく。

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Chapter 1

0.プロローグ

「絶対内緒にしろよ ?

 この『城』から出る方法があるけど、聞くか ? 」

「それ、脱獄ってこと ? そりゃあ ! 聞くよ ! 」

「元々、ここの管理人は生きた人間でさ……」

「人 ? 俺たちみたいな……『人形』じゃないの ? 」

「そう。それでさ、管理人は自分の目玉を『城』全体の鍵にしてたんだ。

 ある日、囚人の一人に目玉を無理矢理奪われた」

「え…… ? 生きた人の目だよね ? 奪っても……そんなの、使えないよね ? 」

「普通はそうだな。その囚人は特殊な方法で、管理人の目玉を俺たちみたいな人形の眼に加工したんだってさ」

「剥製みたいな物 ? その瞳があれば、この『城』から抜け出せるの ? 」

「多分ね。その眼には特殊な術がかかってるらしい。

 でも問題もあるな。その目玉を手に入れた囚人が、別な囚人に片目を強奪されたって噂。もう誰が左右片方を持ってるのか、分からないときたもんだ」

「なら、今もそいつらは……ここにいるのか…… ? 」

「ああ。俺たちの誰かだろうな。

    両眼が揃わないと出れないし、片方を盗んだのも誰か分からない。

 幻のドールアイってわけ。この城自体から抜け出す最後の砦が、たった一人の目玉の剥製。笑えるだろ。二つ揃えばこの監獄から抜け出せるってのに、誰も名乗り出ない。

 俺はどうしても『幻のドールアイ』が欲しい。

 どうだ ?

    俺を最後まで信用できるか ? 」

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0.プロローグ
「絶対内緒にしろよ ?  この『城』から出る方法があるけど、聞くか ? 」 「それ、脱獄ってこと ? そりゃあ ! 聞くよ ! 」 「元々、ここの管理人は生きた人間でさ……」 「人 ? 俺たちみたいな……『人形』じゃないの ? 」 「そう。それでさ、管理人は自分の目玉を『城』全体の鍵にしてたんだ。  ある日、囚人の一人に目玉を無理矢理奪われた」 「え…… ? 生きた人の目だよね ? 奪っても……そんなの、使えないよね ? 」 「普通はそうだな。その囚人は特殊な方法で、管理人の目玉を俺たちみたいな人形の眼に加工したんだってさ」 「剥製みたいな物 ? その瞳があれば、この『城』から抜け出せるの ? 」 「多分ね。その眼には特殊な術がかかってるらしい。  でも問題もあるな。その目玉を手に入れた囚人が、別な囚人に片目を強奪されたって噂。もう誰が左右片方を持ってるのか、分からないときたもんだ」 「なら、今もそいつらは……ここにいるのか…… ? 」 「ああ。俺たちの誰かだろうな。 両眼が揃わないと出れないし、片方を盗んだのも誰か分からない。  幻のドールアイってわけ。この城自体から抜け出す最後の砦が、たった一人の目玉の剥製。笑えるだろ。二つ揃えばこの監獄から抜け出せるってのに、誰も名乗り出ない。  俺はどうしても『幻のドールアイ』が欲しい。  どうだ ? 俺を最後まで信用できるか ? 」
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【第一章】1.一ノ瀬 涼の重罪
  一ノ瀬 涼は今日も登校を繰り返していた。 松木市の中心部に位置する赤松高校。  校則が緩く、現代的な教育方針は生徒に人気の学風。入学した生徒の殆どが楽しい学生生活を送る。  しかし涼はそうではなかった。 突発的な衝動で染色した銀の髪に白いYシャツ。透けるような白い肌。細身で身長も低く、男性らしいとは言いきれない。挙句、友達作りもスタートから出遅れた。  それでも涼は理解している。  外見の問題ではなく、自分の中にある他人とは違う能力。 涼を苦しめる特異な視覚だった。「でさ、こないださ」「え〜、やべぇ〜 ! 」「きゃははは ! 」 中身のない上辺だけの軽快なトーク。相槌を打つ腰巾着。  下心見え見えの男子と、女子の甲高い笑い声。 教室から廊下にまで漂うそれは、様々な色味を帯び、涼の視界を覆う。金色、桃色、水色。色々混ざりあって涼の周囲を掻き乱し、やがて窓から抜けていく。 涼は今日も限界だった。 キーンコーンカーンコー……ン 机に広げた教科書をロッカーに詰め込み、リュックを背負うと教室を出る。「……涼……くん」「先生。何ですか ? 」「う、ううん。帰るの ? 」「はい」 若く大人しい女性教員。学生生活の上手くいかない涼には、教員として限度がある家庭の事情もあった。結局、今日も会話は切れる。 涼は校舎を出ると裏校門から市街地へ向かった。 Pirrrrr.pirrrrrr スマホに母親のアイコン。 『18:00に駅前。黒のジャケットの男が今日の客だよ。前回みたいに暴れて途中で帰ったら報酬無いんだから ! 』「……」 ビル風が街路樹を吹き抜け、小さな砂が涼の頬に当たる。  松木駅前には大きなショッピング施設がある。併設された立体駐車場には、小さな空中庭園。遊具があるわけでもなく動物もいないが、美しい日本庭園に精一杯の小川。   今日も涼はそこへ向かう。 水のせせらぎを聴きに行く放課後のルーティン。  ただそれが癒しだった。 大掛かりな割にファミリー層には需要が無いのか、植物の公開イベントなどがある時だけは人が来るような場所だった。 涼はその公園のベンチに腰をおろすと、日が暮れ始めるまで身体を休める。ぼんやりとした頭を抱えて、ひっきりなしに続く母親からの着信に耐えられ
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2.同居人 紅 京《くれない きょう》
「そ、そんな……」  涼にとって、これではなんの意味もない。  全て──消えて無くなりたかったからだ。  特定の宗教を否定も肯定もしない。  スピリチュアルに茶々を入れることもなく。  目の前に神社仏閣があれば、勿論いたずらな事はしない。  だが、それはモラルであり、信じているかどうかなど別なのだ。  この世に神など存在しないと確信している。 「うおぉっ !! 」 「翡翠様を呼んでこい !! 」  とてつもない怒号が飛び交うが、房にいる囚人たちではない。  遥か下。  涼はそっと鉄格子に近づくと、そこにある背丈の牢の一部が開くことに気付く。  キィ……。  恐る恐る下位層を見下ろす。  この牢の集まりは漏斗状になっている。そしてその下位層は学校のトラック一周程の広さしかない。そこでは他の人形たちが争い事をしていた。拳を突き上げ、戦う二人にエキサイトしている人形たちに涼は『怒り』の感情が強いのを見て不思議に思う。 「何を……してるんだ…… ? 」  戦っていた大柄な人形はガラクタのようになった人形を周囲の人形に抑えさせ、大きなナイフでドールアイを抉り出し始める。 「 !!? ……っ酷っどぃ……」  そこへ当然背後から声をかけられた。  背後は自分のいた房のはず。 「よう、新入り」 「 !! なんの用だよ。そこ、俺の部屋なんだけど ? 」 「いやいや。あはは、俺は最初からいたんだけど…… ? 全然スルーするじゃん、びっくりした」  そう言ってクスクスと笑う。  この男は涼と同じくらいの年齢だ。黒髪に黒のレザージャケット。自分と同じ人形姿だが、衣服やグローブで綺麗に球体関節を隠している。まるで普通の人間と変わらないように見えた。  そして、この男の強い感情を涼は視る。 『楽』の感情だ。  人が持つ喜怒哀楽のうち、『楽』が強い。  瞬時に理解する。この男は状況を楽しんでいる。この状況下で。  異常だ。 「最初から…… ? 」 「ここはどこも二人部屋。俺たちは同居人ってこと」 「あれ……。あの喧嘩は何してるんだ ? なんで目を……」 「ただの小競り合いさ。要らぬことを言って、袋叩きにされた。  ま、説明は順番が大事。ここの話をしてやるから来いよ。一時間後に翡翠さんが来る前に、俺に聞いた方がいい事が沢山あるぜ
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3.狂葬城のドールたち
「壊れると、人形はどうなるんだ ? 」 「残念ながら、新しい体が作られるだけ。生前の姿に似せて作られるって聞くけど、お前はなんっていうか……すげぇ子供みてぇだな。その銀髪は生前染めてたのか ? 綺麗に色入ってんな」 「……」 「あ、悪い。子供っぽいってのコンプ ? 」 「……。そうだけど。悪い ? 」 「ご、ごめんごめん」  その時、疑わしいものが涼の視界に入った。  見目麗しい着物を粋に着こなす女性の姿だ。  その周囲だけが花束のように色鮮やかで、現代的な女子高生のブレザーや、パーティドレスを着た中年女性が屯していた。 「お……んな ? 」 「ぷっ ! お前それ、生まれて初めて女を見たロボットの反応じゃん……」  京が苦笑いを見せる。 「そりゃあ、ここは罪人用の『城』。体は人形だし、男女なんか関係なく来るさ」 「でも、それじゃヤバくないのか ? 」 「ヤバいって何が ? 」 「ここには『強姦犯』もいるんだろ ? 狙われたりとか……」 「あー……。とはいえ彼女らは彼女らで強かに生きてるよ。あんまり関わんなよ。めんどくせぇから。  房の棟の隣に食堂がある」 「ふーん」  涼の薄い反応に京も拍子抜けするが、無知ゆえだ。食堂の椅子に座って向かいに座るよう涼を促す。 「広いけど、全員入るのか ? 」 「一時間交代で入れ替えるんだ。順番は日によって違う。今日俺たちは二時間目に夕食」 「時間はどうやって分かるんだ ? 」  すると京が上を指差す。 『城』に天井はなく、その代わりに大きな時計盤が浮いていた。 「デ、デカ…… ! 」  巨大なアナログ時計は薄暗い中、紫に光っていた。 「……不思議……。ここは蛍光灯で照らしたような白い明るさなのに……あの時計は眩しいくらいに紫色に光ってる」 「不気味って言うか、いかにもあの世っぽいよなぁ」  時計をぼんやり見上げる涼を、京は機嫌良く眺める。  涼の姿は本当に見れば見るほど童顔で、自分と同じ歳とは思えない。銀色の髪は艶があり、今のドールの姿と絶妙にマッチしているのがどうにも唆られるのだ。 「お前、可愛いな」  この一言に、思わず涼はギクッと身を強ばらせる。男同士で出る言葉にしては少し不自然だと過敏に反応してしまった。自身の自死の理由に直結するような気がして。思わず身構えてし
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4.女囚 風蘭《フェンラン》
「京、待って…… ! 」 涼が慌てて立ち上がると、長髪の男の取り巻きが押さえ込んだ。「離せ ! 痛ぇな !! 」 口をついて出たセリフに自分で驚く。(痛い !? 本当に痛覚がある !? 人形の体なのになんで感覚まで再現されてるんだっ !? )「お前は商品だ。下層まで来い ! 」 凶悪そうな人形だ。自分の染髪された姿を考えると、この連中も生前を模して作られているはずだ。もし街中でこんな奴がいたら涼は絶対に近寄らないだろう。いかにもな髪の剃り込みにピアスだらけの顔。「行く ! 行くってば !! 触んな !! 」 涼の頭を掴んで引き摺ろうとする。元より京と離れたら、こんな奴ばかりかもしれない場所に置き去りにされるのはごめんだ。 京も京で涼には既に目もくれず、さっさと一人で下層へ降りてしまった。「あんたら、やめときな」 抵抗を諦めそうになった時、涼の背後から女の声で呼び止められた。 ピアス男は涼を掴んだまま睨み返す。「下層に連れて行きゃいいんだろ ? わたしが連れて行くから、乱暴はおやめなさいな」「ぐぅぅ〜っ ! 生意気な女ボス ! 翡翠様に言って罰則を食らわすぞ !! 」 女は煙管を咥えると、ツゥッと口に煙を吸い込み、その煙を何でもない顔でピアス男に吹きかける。「臭ぇ ! 」 この時、涼の目には異質が視えていた。大声で吠えるピアス男より、煙管を咥えた女ボスは恐ろしく、そして珍しい気質。感情の色だ。 着物姿の女性は激しく強い『怒り』の感情を纏っていたのだ。その色は真っ赤で、心臓から燃えるように吹き出す血のような赤色だ。「そいつとの同居を主人は望んでんだろ ? 景品に傷をつけるわけにいかないだろうにさぁ……」「わ、分かってる。 いいか ? 一番下に来い ! ここに逃げ場はねぇんだからな !? 」 ピアス男は階段へ逃げて行く。「全く、しょうもないねぇ」 一瞬。 一瞬だ。 ピアス男がいなくなると同時に彼女の赤色がスっと消える。 怒っていたのは演技か ? 否、感情の起伏が激しい故の現象である事を涼は生前の経験から知っている。階段に逃げ込んだピアス男の方が余程人間らしい感情構造なのだ。この女は癇癪で何をするか分からない
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5.地獄寸前
「ねぇ、フェンラン。女性の方はここにいる方だけ ? 」 「ああ。他にもいたけれど。わたし達と群れるのが嫌な子、一緒にいても男どもに気を許した子。そういう女から消えていくの」 「消える……。ここから抜ける……死ぬ方法があるのか !? 」 涼の問いにフェンランが立ち止まり、冷たい顔で見下ろす。着物の昇り龍と目が合った涼は、その奥から再び吹き出す赤色に気まずさを隠せない。 「あんた、自殺者かい ? 」 「……そうです」 「……」 女豹等と生易しいものでは無い。フェンランの持つ『怒り』の強襲はまるで雷のように、晴れていても不自然に起きる天候のようだ。 「ふん。他の連中に言わないことだね。「『自殺』したいなら殺してもいいんだろ ?」ってね。これがここにいる奴らの思考回路さ。 でも、無理なのさ。この『城』には意思がある。神のようなものでさ。『城』が決めるまで、体は与え続けられる」 「『城』に出てもいいと認められるにはどうしたらいいんだ ? 」 「黙りな。そんな話はしていない。 ここには罪を犯したくてウズウズしてるサイコパスの巣窟。そこに「殺してください、死にたいです」なんて自ら言う羊が来たらどうなるか……見せてやるよ」 そういうとフェンランは涼の腕を抓るように強く掴み、階段を降りたキリのいい階の牢へ連れていった。 「ご覧よ」 その牢には二人の人形がいた。片方は小柄だが薄汚れた眼鏡の男の人形。彼は自分の腕や額をひたすら壁にゴリゴリと擦り続けている。ストレスか……自傷行為に近いものなのだろうか ? どちらにせよ、話が通じると思えない。 その男が立つベッドの上に、もう一体の人形が座っていた。 座らされている、と言うのが正しいだろう。 俯き、とめどなく溢れる絶望の色。涼の視界にゾッとする程の黒い霧がかかる。この絶望は二体の人形それぞれから出ている。 「っ ! 」 思わず顔をしかめる。 そしてよく見ると、ある不自然な部分を見つける。 「あのベッドの人形……。彼は……いや、彼女…… ? 」 胸がある。 確かに顔は青年。身長も180はあるだろう。程よく筋肉質な体の人形だ。生前は相当な色男だっただろう。だがその胸部だけが不自然に膨らみがあるように見える。何よりその部分だけドレスのような露出的な服を着せられていた。 「あの本来の胸の持ち主はわたし
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6.『楽』の狂人
 京と長髪の男が対峙する。「俺は勝ったらあの同居人をいただく ! 」「ん。俺が勝ったらその腰のナイフを貰う」 レフェリーはいない。  有刺鉄線の中。二人は観衆に宣言をする。  そして観衆の囚人たちは、それをギラついた眼差しで魅入っている。『おう、京に賭けた奴いるか ? 』 『俺ぁ、今回はパスだよ。オッズが偏って意味がねぇ』 『皆が京に賭けたら意味がねぇもんな』 『俺はペコラに賭けたぜ』 『チャレンジャーすぎるんだろ』 そんな会話が飛び交ってくる。  涼は周囲を見渡し、フェンランに教えを乞う。「賭けって、ここでは何を賭けるんだ ? 金……とか、あるのか ? 」 フェンランは唇から煙管を離すと、難しそうに首を傾げた。「金なんてないさ。賭け事用の手作り紙幣はあるが、大抵は賭ける相手を探して……賭けてもいい物を提示する。物々交換。それで成立さ。  わたしら女は賭け事はしないけどねぇ」「じゃあ、フェンラン達の稼ぎってなんなんだ ?  最初に翡翠ってやつに欲しいって言ったのか ? 」 するとフェンランは急に顔色が変貌する。なんとも雨模様の曇り空のような色を漂わせた。「ああ。あんた、まだ翡翠の旦那と面会前だったね。  いいかい ? 何を取引したかなんて、誰にも言うんじゃないよ。わたし達の事を嗅ぎ回るのもおよしなさい。  そうさね。世間話くらいにしておきなよ。わたしはあんたたちが言う世代より、ずっと前の時代の人間らしい。人種も色々だ」「日本人だけじゃないんだ……。  フェンランは、もしかして戦前の人 ? 」「そういや、デカい戦があったらしいね。  わたし以外の女にも年齢なんて聞くんじゃないよ ? 生前を探る事になるからね。それはここに堕ちた原罪にも繋がる」「エイジハラスメントとかより、そっちの方が大事なのか。話を聞く限り女性に限った話じゃないんだね」「そうさ。分かったかい ? まぁ、わたしは女性であることが、何よりも武器だと思うけどね」 着物姿の派手めな女囚。  フェンランの言うことに涼は焦燥感を覚える弱い立場の人間が、性を武器に太刀打ちする事は決して公平で等価交換とは思えなかったからだ。「俺は……」 一度言葉を飲み込み、表現を探す。「フェンランのように女性の華やかさはないけど……。そういうのは……望んでないし。無
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7. 京の罪状
 ペコラの長い腕から繰り出されるナイフ。目で追うのも難しい驚異的なスピード。  ところが何回も何回も斬り掛かるが、京は黒のレザーパンツのポケットに手を突っ込んだままひょいひょいと交わし続ける。  更にその視線はナイフという恐ろしい獲物を見ていない。薄ら笑いを浮かべて、ペコラの怒りに満ちた顔色を伺っている。「強い……」 ペコラには躊躇いがない。  現実の世界であんなナイフの振り回し方をするのは、相手の生死を問わない異常者だけだ。人間は知らず知らずのうちに攻撃は躊躇い傷になりがちだ。心の奥底にある、少しの罪悪感がそうさせる。  だがここは人形たちの世界。加えて壊れても修理されるという事もタチが悪い。  死ぬほどの痛みを感じても死ぬことを許されないのだ。 それだと言うのに、京の余裕ぶりはペコラより異常に見えた。「ちっ ! 逃げんじゃねぇ !! オラァ !! 」 ヒュパッ !  突き出された銀色の切っ先が遂に、京の顔に迫る。  その隙だ。  大きく利き手を伸ばしたペコラの腕に、京は脱いだジャケットを叩き付けるように打ち付ける。その黒い布は反動でペコラの腕にギュルリと巻き付き、京が思い切り自分側へ引き倒す。「ぐっ ! 」 ペコラが体勢を大きく崩しかけるが腕だけだ。長い足を京のそばに差し込むと、前のめりに倒れることだけは何とか避ける。 京の狙いはこのタイミングだった。  そして、その攻撃が来ることをペコラは何度も京の戦いを観て知ってはいたはずなのだ。  だが実際に対峙すると、そこまで反応が追いつかなくなる。 京はペコラの胸元に潜り込むと、一瞬だけ腕を巻き付けるような動きを見せ、すぐに背面へスルリと抜けて行く。  その両手には小さな灯火。 ライターが握られていた。 火はペコラの長い髪──毛先と、首に巻いたスカーフに着火。一気に燃え上がる。『ひぇぇぇっ ! いつ見てもやべぇ』 『今の動きでなんであんなに燃える ?! 』 『おーい、水の用意出来てるかー ? 』 そんな声が聞こえてくる。 目の前で慌てて藻掻き火を消そうとするペコラを見下ろす京が突然ケラケラと笑い出す。「ぎゃははは !! 」 それを見て、涼は恐怖した。  笑みを浮かべたままの京の眼光はまるで玩具を見る子供のようなのだ。「京は……京の罪は……『放火』……
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8 . 左の塔
 房がある塔は円形で漏斗状になっている。  その囚人たちの建物から内廊下で、左右それぞれに別な塔がある。  漏斗状の囚人の塔を支えるように、左右は直立した建物だ。  外壁には固く閉じられた正門があり、高く、越えることは出来ない。その外壁は闇の中に存在する三つの塔、『城』を囲っている。  正門から見て右の塔は囚人たちの食堂やリネン置き場。人形である彼らにとって、大それた入浴は必要ない。房に備え付けの水道だけで事なきを得るが、必要に応じて使用できるシャワー室もある。  自害の心配がない人形の体は、実に人間ほど管理に手間はかからない。 正門から向かって左の塔が、管理人である翡翠の執務室がある場所だ。 左塔へ続く内廊下に向かう翡翠と自分に、皆の視線が集まるのを涼は感じていた。  これから何が始まるのかも、まだぼんやりしていて把握していないのが現状だった。「こっちだ」 重い錠前を外し、中へ入る。その中にも鉄の扉に南京錠。木製のドアに鍵を差し込む。  何枚ものドアを抜けてようやく左塔の中に入る。  その時、涼は初めて窓を見た。  窓の外には中庭があり、外壁、その先の漆黒の世界だ。「ここは……死後の世界なの ? 」「そうだ。死後、罪を清算する監獄だ」「地獄じゃなくて ? 」 翡翠は答えなかった。  通されたのは執務室。  机と資料。質のいい万年筆もあるが、使っている感じはしない。 ソファに座るよう促される。 どこを見ても生活感の無い部屋だった。寝室は別なのだろうかと思ったが、すぐにソファの凹みにムラがある事に気付く。  恐らくここで翡翠は寝ている。  この神経質そうな男が、である。  真っ白いカーテンのそばには小さな観葉植物があった。 翡翠は手袋をしたままそっと水差しを手に取ると観葉植物の鉢に少しだけ流し込む。「さて。ここについての話を始めよう。  来て早々、君の取り合いがあったと聞いたが ? 」「あれは…… ! 俺に興味を示した奴から、京が守ってくれたんだ。フェンランって人も。そばに居てくれた」「……。意外だな。京もフェンランも、他人に興味を示すタイプではないが……」 それこそ涼には分からない話である。「他に質問したいことは ? 」「ある。あれなんだったの ? 」 翡翠の問に、涼は用意していた質問をぶつける。「
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9.執務室
 執務室を出て今度は長い螺旋階段を降りる。  涼は感覚的に、囚人塔で一階に降りた時の事を考えると、更に下に感じた。 下──つまり『城』の地下である。 階段を降り切ると、そこは広く、何も無い無の世界だった。  あるのは『城』と同程度の空間であることと、透き通るように澄んだ空気なのに何故か薄いグリーンの光が灯っている場所である。  それだけだ。  強いていえば、そのグリーンの光は中心に浮かんでいモノから発光しているものだ。「あれは……何 !? 」 驚く涼に翡翠が折りたたみ椅子を広げ、小さく溜息をつき「いいから」と涼を座らせた。「まず一ノ瀬 涼。君には『自害』の原罪がある。そして地縛霊になってしまったが為に、あのループから抜け出せずにいた」「……俺は……確かに人生からは逃げたかもしれない。でもこんなところに連れてきて欲しいなんて願ったことなんて無いんだ……」「知っている。ここにいる全ての死者も同じだ。強制的に連れてこられたんだ。  普通は自動で『城』へ辿り着くが、君は土地に縛られていた。彷徨っていたり、封印がある場合は俺が向かう。生者の世界へ戻って、その囚人に介入し『死の瞬間』を変える。  君は俺に投げられた事で、君の中の「死の原因」はその日だけ「他殺」になったわけだ。  そしてようやく現世を離れ、『城』へ来ることができた。地縛霊のプログラムを一時的に書き換えたと言えば分かりやすいだろうか」 翡翠の台詞は感謝しろと言わんばかりだが、この時──いや、部屋を出る時から不思議に思っていた。 涼が視る翡翠の感情の色だ。 それはとても寂しく弱々しい色に、激しい哀しみの色だった。  どちらも混ざりに混ざり、青だったのかどうかも分からない。クラウドグレーと強い青、一筋だけ絶望の黒がぐるぐると回る。しかし絵の具と違いこの感情の色は混ざり色を変えることはない。 涼は翡翠をジッと見つめる。「どうかしたか ? 」 説明不足でもあったのかと、翡翠も涼を見つめた。大半は『城』に連れてこられた事を、翡翠に暴言を吐くのがこのタイミングだからだ。  しかし涼はなんとも不思議な表情で自分を見あげるのだから調子が狂ってしまいそうになる。「説明を続けていいか ? 」「え !? あ ! すみません……大丈夫です」 涼は今、何かを見て放心していたと翡翠は受け取っ
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