All Chapters of 強制狂葬 狂眼ドール: Chapter 71 - Chapter 80

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15.扇動

「『傲慢《プライド》』 !? サタン一味の傲慢《プライド》か ? 」「え…… ? 昨日までは別の人じゃ…… ? 」 周囲で観ていた囚人もザワつく。 サタンの部下には称号持ちがいる。前にここへ出されたルストが正にそうだ。ルストは『色欲』を意味する。最もサタンが決めたイメージにしか過ぎない。ルストは色欲に溺れていたというより、小児性愛の犯罪者である。 そして『傲慢』こそが『プライド』と呼ばれ、昨晩まではバンダナをしたエキゾチックな雰囲気の男が名乗っていたはずだ。理性的で博識。サタンの右腕と宣いながら上手く手のひらでサタンを転がしてた者だった。 しかし、今ここにエキゾチックなプライドはいない。「いないってことは無ぇよな ? 俺たちゃ死なねぇんだから」 京の言葉に現プライドはケラケラと笑う。「君がそれを言うのかい ? ふふ。サタンにね、もしものことがあったら、『核』から聞いた事を纏めたメモを俺たちに託す、と言われてたんだよねぇ」 涼の頭の上、身を乗り出した京の耳元にプライドが唇を寄せる。「俺も同じことが知りたかった。誰かがサタンを殺してくれない限り、俺もその書類を見れない。 だから京……君とフェンランには御礼をしなきゃね」「……殺す方法なんて知らねぇよ」「同じさ。動きを封じて口を縫い付ける方法だろ ? それが人形の死さ。 昨晩、君らがやった事さ。 俺もサタンの手記を読んだらピンと来ちゃってさぁ。彼の知能じゃ『核』と話しても、理解することは出来なかったみたいだけどね、ふふ ! 笑えるよ ! 」「あの ! 」 頭の上でやり取りする二人に涼が割って入った。「もうやめてください。プライドさんは最初から、俺が『癒し』ができないと思ってたの ? 」「あぁ、ごめんね涼。癒して貰えるなら癒して貰いたいよ、勿論。 でもさぁ、もう止まらないんだよね」「何が ? 止まらない
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16.『核』と翡翠

『お答え出来かねます』 鮮やかなグリーンの発光体。真四角なその浮遊物は翡翠の頭上で発言する。 機械、AI、合成音声、表現は様々だろうが、サタンは確実に『核』は人間のような自立意思を持っていると察していた。 その事実を知るひと握りの囚人の中に  翡翠も含まれた。「困る。俺だけではなく、貴女が。もしあの部屋へ入られては誰が一番困るのか、よく考えることです」『管理人の意志を尊重して判断しました』「……俺のいない執務室に囚人を通すことが ? 俺の意思だと言うのか ? 」『一ノ瀬 涼にはその資格があります』「資格 ? ……何に対しての資格なんだ ? 」 怒りの感情から疑問へと誘われる。『一ノ瀬 涼には資格があります』 翡翠は腕組をしたまま、『核』を見据える。「それはなんの資格だ ? 」『お答え出来かねます』「例えば、俺がいなくなれば代わりが必要か ? 」『不足の事態が実際に起これば必要となります』「それは後継人の話か ? 」『いいえ。私はそれを望みません』「……望むか望まないか、なのか ? その綻びが俺には負担でしかない。『一ノ瀬 涼には資格がある』……それは『いつから』だ ? 本棚の先へ行ったのか ? 」『あの小部屋と一ノ瀬 涼について関係性はありません』 翡翠は制帽を外すと、深く溜息をついた。「俺に貴女は助けられない。出来るのは今ここで監獄を統制するのみ。 ……俺はどうすれば……。俺はいつまでここにいるのか……それは貴女も同じはず」『理解出来かねます』「……本当に理解できないのか ? それとも、演技なのか ? または呪いか…&hell
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17.覆る存在意義

 揺ら揺らと立ち上りやがて渦を巻いて観衆のどす黒い感情色は、涼の身体にまとわりつく。「涼 ! 俺は大丈夫だ ! 後で『癒し』てくれるか〜 ? 」「そ、そんな事より ! なんであの人達を縛ってるの !? やめてよ ! 」 フィールドに立った男は他のドールの大腿骨のパーツを、幾つも連なるように背負っていた。戦ったら十中八九、勝ち目は無いが見過ごす訳にはいかない。 男は険しい表情を浮かべて涼を睨みつける。「俺はラス。『憤怒《ラス》』だ」「…… ! サタンの……プライドの仲間 !? 」「そこは問題ではない。 皆んな、聞いてくれ ! 俺のボスは行方不明だ ! 昨晩の火事から帰ってない !  それには必ずこの涼というガキが関わっているのだ !  見ろ ! この連中を !! 」 そう言い、前後同士で括り繋がれた『癒し』を求める者たちを引っ張り、逆側のフェンスにも連れていく。「まるで廃人 ! ただ『癒し』とやらを求める動物 ! この涼のする『癒し』とは何か !!?  人格崩壊だ ! こいつらの元の性格はこんなんだったか !? お前らなら分かるだろう ! まるで人が変わってしまった !! 」「違う !! 改心しただけだ ! その人達は、根の性格は本当に優しいんだ ! 罪が人を変えた ! 俺はそれを『癒し』ただけ ! 」「それは『罪を赦す』ということか ?  悪魔崇拝者たる者こそ、また神のあり方も理解している。『罪の赦し』とは、神のみぞ行える判断ではないのか ?  何故、この涼に『罪を赦される』権限があるのか !!? こいつは神じゃない ! 」 観衆が飲まれていく。 感情の興味は完全にラスへと同意の空気だ。「それは違う〜『癒し』を受ければ分かる。これはそういうもにじゃねぇんだ」「あぁ、そうだ。自分に罪があるのも赦されねぇのも分かってる。けど、自暴自棄になるのはやめだ
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18.壊れた涼を守る者

「っ !! 痛い !! 離せ ! あぁぁぁっ !! 」 これ程までに人形の体が恐ろしい事なのだと、涼は初めて思い知らされた。「涼 ! 」 「涼〜 ! 」 涼を求めて縋って来る者も、容赦なく叩き割られた。「壊せ ! 壊せ ! そいつは我々の悪腫瘍 ! 『城』の害 !   今やらないとこっちが廃人にされる ! 素手で触るな ! 」「────っ !! 」 声にならないほどの激痛。 グローブをしたものは涼の四肢を力任せに引きちぎり、棒を持った者達は背や頭目掛けて目一杯叩き付ける。(──死……死にたい ! 痛い !! 死なせて !! ) ドールに死は無い。  壊れたら『核』が修理する。 聞いた当初は「便利な体だ」と、甘く思っていた自分を呪った。「まだ片腕と頭が残ってるぞ ! 」 「手袋してても硬ぇんだよ ! 」 「誰か工具持ってこい ! 」(早く ! ──早く終わって !! ) □□「…… ? あっち、なんであんなに騒がしいんだ ? 」 この頃、ようやく京とサラは囚人塔の騒ぎに気付いた。自分たちも喧騒の中にいたせいで、全く気付けずにいたのだ。「ほんと。喧嘩 ? ファイトかしら ? 誰かそんな予定あった ? 」「ないだろ。賭けの準備もあるし、突発的には開かれないし」 普段ならそうだ。  だが、様子がおかしいのは明らかで、大きな声は声援とは違い、何か悪い響めきに聴こえる。 ふと、囚人塔から逃げて来た平和主義は者達と目が合う。その視線は、リラクゼーションサロンと称したエントランスの一部を見て、すぐに不安や嫌悪の表情に変わった。「まさか……」 京は涼が囚人塔に戻った事を思い出したが、涼自身は喧嘩っ早い性分でもない。恐らく関係はないだろうと思った。いや、思いたかった。  今までにファイトでもこんな騒ぎの声量が上がったことなどないのだ。  もし、この騒ぎの原因の中
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19.義足のブレード VS 憤怒のラス

「涼の解放 ? 」 ラスは苦笑いを浮かべると、ブレードの前まで出向いてきた。「では、わたしが勝者になったら ? 」「涼を好きにしろ。『癒し』を今後、させない、それでいいだろう」「ふむ……。本当に『癒し』とやらをしないならそれでいいが、隠れてやったりしたらやっぱり私刑だな」「約束は約束。ここにいる者たちが証言者となる」 ブレードが有刺鉄線の柵を越える。『マジか ! ラスとブレードがファイトすんのか ? 』『ブレードって軍人だろ ? ラスに勝ち目はあんのか ? 』『でも涼は壊さねぇと ! 『城』がやべぇんだろ ? 』「涼……」 ブレードはフィールドに伸びている涼の顔を覗き込んだ。「砲台に火をつけたな。……その結果がこれだ」「分からない……分からないよ……」 両足、片腕を捥がれた姿のまま、そこへ最後の紙幣が降り注ぎ頬に張り付いた。「俺はどうすれば良かったの ? 『核』に許可はとったのに、なんで責められるか分からない……俺の何がダメだったの ? 」「……」 ブレードは答えなかった。 軍服の上着を脱ぎ捨てるとその筋肉質な体で、ドールの大腿骨を持つラスの前へ立ちはだかった。 □□ フェンランは京を見つけると、人混みから引っ張りあげる。「京 ! 来い ! 」「涼が ! ブレードが隙を作った。最上階にいる新プライドが扇動してやがる ! 」「いつかこうなるとは思っていたが……相手が悪そうだな。共に行こう。 あんた達、翡翠の旦那を呼んできな。これは普通のファイトじゃない。『城』全体の内戦だ。一刻を争うよ」「分かりました」 数人の女囚が纏まって執務室のある階へかけて
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20.点火

「見たか !? ここにいる者たち全員 ! 武器だ ! 俺達には持ち込みを許されていない、武器がある !   涼と同じだ ! あいつも『城』の癌細胞  !! 『核』の判断間違いか、騙してここへ持ち込んだやつだ ! 許されるか、そんな事 ! 」『た、確かに銃やミサイルなんて、頼んでも持ち込めないもんな』 『でもペコラのナイフは ? 今は涼が持ってるけど、あれも武器だろ ? 』 『そんな事したら、陳さんの包丁もカウントされんだろうが』 『よく分からんが、ありゃ駄目だろ』「お前も悪だな。何が軍人だ。戦争で手足を失って尚、そこにまた武器を仕込んでいる。  悪魔より恐ろしい者だ」 ブレードは吐き捨てるように言うラスに顔色一つ変えずにいた。「そうだ。戦争は人を変える。人が人ではなくなる。  だが自衛の為の機能だけだ。この義手から銃が出たり義足がミサイルになる事はない」「同じことだ。自衛の為の『武器』なのだから」 群衆から同意の声援が上がる。 涼は攻撃を受けても全く自分の側から離れようとしないブレードを見守ることしか出来なかった。 □□「フェンラン。その簪を外すな」「何だ急に」 京は階段を上りながら背後を着ついてくるフェンランが着物を脱ぐのを止めるのだった。「プライドは……涼を危険分子として見てやがった。  だが、お前もそうだったよな ? 」 フェンランは釈然としないまま、肯定した。「『癒し』といいもの以外も、カウンセリングや霊視、祈祷師、そういうものはここで上手くいった試しがないからな」「ああ。プライドはそれを見て、破壊を選んだ。  お前は ? どうして涼を傍観に回った ? 」「ふん。傍観……か。  わたしの役割は女達が安全に『城』のシステムで生活する基盤が欲しい。その為には争いや宗教などは必要ないのだ。  それに……涼には悪意がない。あまりにも純粋で、言うに言えん。いつかは辛い思いをするだろうと思っては
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21.阿吽の呼吸で勝ち取る勝利

「『核』に脱獄を願った…… ? 」 信じられないという京の空気にプライドは小さく笑った。「ここがもし、何ヶ所もあるとしたら移送は可能か、NO。ここから出所したドールはいるのか、NO。 つまり、『城』はここにしかないし、一度入ったら出れない。だから「脱獄したい」って言ったんだ」「『核』の答えは ? 」 プライドは木箱を房から引き出すと、それに座る。「それが不思議だったんだよねぇ。脱獄の道具とか看守を買収とか色々探ったけど、最終的に返ってきた答えがね。『城の解放をする事』って言われた。 どう思う ? 」 フェンランは煙管を唇から離すとプライドに向かって首を振った。「情報共有する気は無い。それを聴けただけで十分だ」「そう ? そっちも何か聞かせてよ。サタンの最後とか…… ? 色々聞いてから殺したんじゃないのか ? せっかく『核』と話せる男だったんだ。何か聞いたろ ? 」 情報交換をしたいプライドと情報を出したくないフェンランとで別れる。 京はと言うと、下の様子が気になって仕方がなかった。 フェンランはその後ろ姿に煙を吐きながら、プライドに向き直る。「それが本当だとしても、わたしらには心当たりもないね。情報ってのはお互いを信用して初めて体をなす。お前をわたしはまだ心配してない」 プライドは小さく肩を竦めてクスクスと笑った。「そりゃあそうか。 まぁ、何か聞きたくなればおいでよ」「……ふん。 京、戻るぞ。下の混乱を収めなければ」「……」 □□□ ブレードが受け止めるラスの肘。重く伸し掛り、汗で滑るのに耐え力任せに振り切る。 ラスも膠着は避ける。義足のスタンガンの改造を見る限り、もしかしたら義手にもあるかもしれない。不用意にブレードの内に入り込むのは危険だ。 骨を振り上げ、再びブレードに打ち付ける。体で
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22.修理拒否の意思

「ブ、ブレード !! 」涼は最後の力を振り絞りどうにか芋虫のように倒れ込み、燃え上がるブレードに近付いた。「燃えちゃう ! 燃えちゃうよ ! 」「……手は……残ってるか ? 」「 ??? 」半泣きの状態で残っている左腕を差し出す。「これを……」ブレードは眼帯を取ると、そこに隠していた物を涼に握らせた。「これは…… !! 」それはブレードの失ったはずの左眼だった。京からは「ブレードは自らその眼を抉り出したという噂がある」とは聞いていた。しかし、その理由は不明で、噂が本当かも怪しいものだった。涼はそのドールアイを見つめる。ブレードが自ら抉り出した眼は、涼の左眼と同じ、大時計の藤紫色に変色していた。「どういうこと…… ? 色が…… ? なんで色が変わるの…… !? 」パニックになった涼に、ブレードが弱々しく答える。「涼……お前はこの監獄で砲台に火を付けた……が、監獄に砲台があるのはおかしい事だ……」「だから何なの ? ……俺は……間違ってるの…… !? ブレード ! 教えてよ ! 」「……翡翠も『核』も…………罪深い……。俺の眼で、…………視るんだ……」「分からない ! 分からないよ ! 」ブレードにもう意識は無かった。真っ黒焦げになっていく二体の人形。その時ようやく最上階から冷たい足音が響く。
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23.最も罪深い男

 翡翠の執務室の前──廊下で待たされていた涼は誰もいないことを確認するとようやく口の中からブレードのドールアイを吐き出した。『俺の眼で……視るんだ……』 ブレードの言うことが頭から離れない。 自分と同じ変色の仕方。この紫に変わってしまうにはやはり理由があるのだと確信する。 そっと右眼に触れたドールアイは特に個人的な特質が無ければ両眼同じサイズで生成される。涼は感情が視れる左眼だけは失う訳にはいかない。嵌めるには右眼を使うべきかと考えるが、問題は痛覚だ。体の修理は二度目だ。人間の体とほぼ同等の痛覚。 だが、『核』に修理された時も、一階のパーツショップで腕や足を購入している者を見た時に知った。 新しいパーツを着用してしまえば、痛みは消える。人間なら傷口が塞がるまで痛みが継続するが、人形に体の痛覚は故障時だけだ。 ──この右眼を外して、ブレードの瞳を入れる── そんな事を考えていると、螺旋階段からあの革靴の音が向かってくる。 口に入れて京のように器用に話出来る自信はない。今度こそ涼はブレードのドールアイをポケットへ入れた。「涼、待たせたね」「いえ……」『核』の部屋から上がって来た翡翠は紅潮した顔色で、蜂蜜色の髪は乱れ、いつもより肩を落とすように歩いてきた。手には何かボールのような丸い荷物を布に巻いて提げていた。「どうぞ」 翡翠が執務室のドアを開ける。「失礼します。 騒ぎを起こしてしまって……すみませんでした……」 涼の謝罪に翡翠は荷物を足元へ下ろすと、考え込んだように椅子へ沈んだ。「君からの謝罪は見当違いだ。騒ぎを嗾けた者たちがいたとは聞いている」「……。翡翠さんは俺の『癒し』の能力を喜んでくれていましたよね ?  でも、皆は違うみたい。少なくとも今日騒いだ人達と……京も
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24.堕獄

 フェンランは騒ぎが一段落した時点で、冥花畑へ立ち寄っていた。 馨しい甘い香りに、現世では見たこともない優美な花。 いつの日か、ここはフェンランにとって心洗われる自給自足の田舎暮しのような気分になれる場所だった。山々が見渡せる訳でもなく、ひょっこり現れる野うさぎもいない。それでも囚人塔に寿司詰めになるよりリラックス出来る空間。「やれやれ……」 火種を絶やさない煙管の煙を一口吸う。 それを吐き出そうとした時、思わずむせてしまいそうになった。「涼……っ ! 」 花園の端にボンヤリと立っている涼を見付けた。「あんた、あれから大丈夫だったのかい ? 修理は済んだんだね ? あぁ……安心したよ……」「心配ありがとうフェンラン」 もう、涼は笑わなかった。 いつもなら弱々しく、自分に対して人懐こい笑みを向けるというのに、今は素振りどころか表情が深く暗く、どこか見えない場所へ行ってしまったように鋭い瞳をしていた。「ねぇ、お願いがあるんだ」「……なんだい ? 」「パーツを交換したいんだけどさ、少し痛みがあるじゃん。麻酔が欲しいんだよね」「……。あいにく、冥花はタダじゃない。金はルストの奴にばら撒かれちまっただろ ? 金がないなら他の価値のある物と交換になる。 それと。あんた……見た所交換するパーツが見当たらないけれどねぇ ? 」 涼は無言で藤紫色に変色したドールアイをポケットから取り出した。「大きいパーツとは限らないじゃん。 ねぇ、これはもう使わない不用品なんだ。誰のドールアイか教えてあげようか ?  その情報と冥花の取引じゃダメ ? 」「断ったら ? 」「ダメならいいや。持ってる奴から奪った方が俺に損がないし」 引き返そうとする涼を結局、フ
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