All Chapters of 縁が逆転~元カレの叔父が夫~: Chapter 291 - Chapter 300

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第291話

それから間もなく、恭平は大輔が展望技術と来月提携を予定している企業の代表と、こっそり接触している事実を突き止めた。彼はすぐに雅也に報告した。「社長。大輔様が本日昼、上川料亭(うえかわりょうてい)で城戸(きど)社長と会食の約束を取り付けております」雅也の瞳はひどく冷え込んだ。「同じ店に席を取れ」「承知いたしました」昼時。大輔が上川料亭に到着したまさにその時、偶然にも雅也と出くわし、彼の顔色が一瞬不自然に強張った。「……どうしてお前がここに?」雅也は片眉を上げ、薄ら笑いを浮かべて彼を見下ろした。「どうしてだ?お前が来られるなら、俺が来てはいけない理由でもあるのか?」大輔の目に氷のような敵意が閃いたが、彼はすぐに愛想笑いを貼り付けた。「いや、そんなつもりじゃない。ただ、まさかお昼を食べに来て、こんなところで会うなんて、奇遇だと思って」「ああ、実に奇遇だな」二人は並んで料亭の中へ足を踏み入れた。雅也が、大輔が事前に予約していた八号室の方向へ迷いなく歩いていくのを見て、大輔の瞳が暗く沈み込んだ。雅也がまさに八号室のドアの前を通り過ぎようとしたその瞬間、大輔は耐えきれずに彼の前に立ち塞がった。「叔父さん、これはどういうことだ?」彼の瞳の奥に一瞬だけ閃いたやましさを的確に捉え、雅也は無表情のまま尋ねた。「何がだ?」大輔は奥歯を噛み締めた。「俺は今日、ここでクライアントと大事な会食があるんだ。お前がずっと俺の後をつけてくるのは、少々よくないじゃないか?もし俺と一緒に食事がしたいなら、日を改めてくれ」「考えすぎだな。俺はお前と一緒に食事をする気などない」「だったら、どうして俺が予約した個室の方へ向かって歩いているんだ!」彼の目には隠しきれない警戒と疑いが剥き出しになっており、雅也の言葉を微塵も信じていなかった。「お前が予約したのは九号室か?」それを聞いて大輔は一瞬呆気にとられ、反射的に首を振った。「いや……お前の予約が九号室なのか?」「それ以外に何がある。そんなに怯えた顔をして、何か人に見られて困ることでもしているのか?」雅也の冷徹な眼差しは、大輔の胸の奥底をすべて見透かしているかのようだった。大輔は無意識に体をこわばらせ、誤魔化すように鼻の頭を掻いた。「まさか。俺の予約した部
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第292話

「城戸社長、お待ちください!実は秘書がすでに修正済みの契約書を持ってこちらに向かっております。あと五分で到着しますので!」城戸社長は眉をひそめ、不満そうにした。「桜井社長。我々はすでに契約の合意に至っております。私が言ったことを反故にすると思っているのですか?あなたはどうしてそんなに急いでいらっしゃる?私が裏切るとでも?」城戸社長の明らかな怒りを感じ取り、大輔は慌てて弁解した。「い、いえ!城戸社長、決してそのような意味では……」「ではどういう意味です?私はフライトの時間が迫っているとお伝えしたはずだ。それを強引に引き留めるとは……桜井社長、私にとってビジネスのパートナーは、決してあなたの会社だけではないのですよ!」そう言い捨てて、城戸社長は立ち上がり、個室のドアを開けて外へ出た。大輔が慌てて追いすがろうとしたその瞬間、隣の九号室のドアが開き、中から雅也が出てきた。「城戸社長……私が車で空港まで……」大輔の言葉は途中で凍りついた。隣のドアの前に立つ雅也の姿を見た瞬間、彼の顔色はひどく難しいものに変貌した。城戸社長も雅也の姿を見て一瞬驚いたが、すぐに笑顔で歩み寄った。「おお、雅也社長!まさかこんなところでお会いするとは。大輔社長からは、あなたが最近ご多忙で商談のお時間が取れないため、代わりに自分が担当すると伺っておりましたが」雅也は片眉を上げ、大輔が一体どんな手口を使って展望技術の契約を騙し取っていたのか、その全貌を完全に理解した。彼は大輔を一瞥し、口元には笑みを浮かべていたが、その瞳には少しも温度がなかった。「ほう?俺が多忙でクライアントと商談する時間すらないとは……俺自身も初耳だね」大輔の顔がこわばり、数秒間の重い沈黙の後、ようやくしどろもどろに声を絞り出した。「……俺と城戸社長は、すでに契約の合意に至っているんだ。社長はこれからフライトがあるから、俺が空港までお送りするところで……」雅也は口角に冷ややかな笑みを刻んだまま、一言も発しなかった。しかし、歴戦の経営者である城戸社長が馬鹿なはずがない。この短いやり取りだけで、自分が大輔の嘘に完全に騙されていたことに気づいたのだ。彼は激怒して大輔を振り返り、歯を食いしばって怒鳴った。「あなた……よくも私を騙したな!どうしてあんなに必死になって、
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第293話

大輔は雅也のその恐ろしい目に視線を合わせることができず、深くうつむいた。「叔父さん……俺が悪かった……」雅也は怒りのあまり、逆に笑いを漏らした。「悪かっただと?自分が犯罪に手を染めている自覚はあるのか?展望技術の名前を騙って他社を欺き、自分の会社と契約を結ばせる。……この事実が明るみに出れば、お前は間違いなく法廷に引きずり出されるんだぞ!」まさか、大輔がこれほどまでに愚かで大胆なことに走るとは思わなかった。自分がまずい状況にいることをようやく理解し、大輔は慌て、恐怖に引き攣った顔で雅也に懇願した。「叔父さん!本当に悪かった!親父から会社を引き継いだ時、もう資金繰りが完全にショート寸前だったんだ!どこか大手の企業とすぐにでも契約を結ばなければ、確実に倒産していた……!頼む、今回だけは見逃してくれ!これからは絶対に二度としないから!」やましさに怯える大輔の惨めな姿を見下ろしながら、雅也の瞳には怒りが浮かんでいた。「自分が悪事を働いていると分かっていながら、意図的に犯罪に手を染めたのか」応接室は重苦しい沈黙に包まれた。しばらくして、大輔はようやく顔を上げ、すがりつくように雅也を見た。「叔父さん……どうすれば俺を許してくれるんだ?本当に……叔父さんの前に跪けと言うなら、そうするから!」雅也が不快げに眉をひそめ、冷酷な言葉を下そうと口を開きかけたその瞬間、テーブルの上のスマホが震えた。画面に表示された静香の名前に、彼は立ち上がり、少し離れた場所で電話に出た。「……何の用だ?」彼のその事務的で冷淡な声色を聞き取り、電話の向こうの静香の目に深い落胆の色が走った。「雅也。今夜は家に帰ってきて夕食を食べてくれるかと思って……あなたの好きな料理を作ろうと思っているんだけど、どうかしら?」雅也は疲れたように眉間を揉み解し、声を低く抑えた。「まだ分からない。お前はただゆっくり休んでいればいい。食事の支度なら大鳥さんにやらせろ」「でも……私、あと何回あなたに手料理を作ってあげられるか分からないもの。この先、あなたの記憶の中に残るのが、ただベッドで寝たきりの弱々しい姿だけだなんて嫌なの……あなたの中に、私のいい思い出を少しでも残しておきたいのよ」雅也の瞳の奥に強い苛立ちが閃いた。しかし、彼女の残り少ない命を思い出し、彼
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第294話

多くの研究員が参加を熱望する会議だが、参加のハードルは極めて高く、一般の研究員が招待状を手に入れることなどほぼ不可能だった。「大学時代の先輩が譲ってくれたの。今回のシンポジウムのテーマが、ちょうど彼女の現在の研究領域と重なっているらしくて」「うわあ、楓さんの先輩ってめちゃくちゃ凄い人なんですね!あの、楓さん……私、このシンポジウムのテーマにすごく興味があるんです。もし良かったら、私を同伴者として連れて行ってもらえませんか?」楓は元々自分が行くべきか迷っていたが、芽衣の熱意に押されて頷いた。「分かったわ。先輩に、同伴者を一人増やせないか聞いてみる」「本当ですか!?ありがとうございます!」楓が結衣にメッセージを送ると、すぐに【もちろん大丈夫よ】という返信が来た。自分も最高峰のシンポジウムに参加できると知って、芽衣はすっかり興奮した様子だった。「楓さん、本当にありがとうございます!大好きです!」「はいはい、大袈裟ね。それより早く実験室を片付けて。もう退勤時間よ」そう言い残し、楓は立ち上がって実験室へと向かい、芽衣も慌ててその背中を追った。二人が立ち去った後、律はゆっくりと振り返り、楓のデスクの上に無造作に置かれたあの招待状を一瞥した。彼の瞳の奥に、何かを考えるような色が閃いた。一方その頃。雅也が社長室で書類を処理していると、涼から電話がかかってきた。「雅也。最近、聖都で『次世代抗がん剤の開発と臨床応用』に関する国際シンポジウムが開催されるのを知っているか?実は、そのシンポジウムに登壇するある研究員の研究領域が、静香の病気の治療に直結しているらしいんだ。お前、静香を連れてそのシンポジウムに参加してみないか?」雅也は数秒間無言で考えた後、重い声で答えた。「わざわざシンポジウムに行かずとも、直接その研究員にアポイントを取れば済む話だろう」「それができれば、俺がとっくにやってるさ!その研究員はスケジュールが埋まっていて、ここ数日は面会のアポなんて取れないんだ。しかも、このシンポジウムが終わった直後に、また別の国際会議のために海外へ飛んでしまうらしい。彼女に直接接触できるチャンスは、このシンポジウムの会場内しかないんだよ」「……分かった。日時と場所の詳細をメールで送っておけ」通話を切り、雅也は再びスマホを伏
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第295話

雅也が車を降りた瞬間、マンションの入り口からもう一人が姿を現した。雅也の足がピタリと止まり、その瞳がすっと暗くなった。律が楓の前に立ち塞がり、彼女を見下ろしていた。楓は微かに眉をひそめていた。メイクすらしていないすっぴんの顔だったが、それでも美しく、律の胸の奥には無意識のうちにさざ波が立っていた。「何か用?」彼女の冷淡な声色に律の目には落胆が走ったが、彼はすぐに無理な笑みを作った。「楓。さっき恒一さんの見舞いから帰ってきたんだが、彼がすごく君に会いたがっていたよ。明日の夜、もし空いているなら一緒に見舞いに行かないか?」楓は下唇を噛み締めた。「分かったわ。時間ができたら、私一人で行くから」律とこれ以上の接点を持ちたくない一心で、楓はそう言い残して離れようとした。律が彼女を引き留めようと手を伸ばしかけたその時、不意に、冷たい視線を感じた。振り返ると、殺気立った顔で、こちらへ真っ直ぐに向かってくる雅也の姿があった。楓も雅也の存在に気づき、その瞳を一瞬だけ複雑に揺らした。静香との復縁を大々的に世間に公表したというのに、一体何の用があって私の前に現れたの?そう考えると、楓は踵を返してエレベーターホールへ向かい、雅也の存在を見なかったことにした。律は口角に余裕の笑みを浮かべた。「社長。どうしてこんなところに?」「彼女に用があるだけだ。お前には関係ない」「関係ないはずがありませんよ。私は楓の兄ですから。それに、社長には今は彼女がいるはずです。このような夜更けに私的に楓に会いに来るのは、いささか不適切ではありませんか?」雅也は彼を冷徹に睨み据えた。「これは俺と彼女の問題だ。お前が口を挟む筋合いはない」「ですが、楓はあなたに会いたくないようですよ?」雅也の瞳が険しく細められ、その全身から肌を刺すような険悪な空気が放たれた。律は相変わらず口元に笑みを浮かべたままで、雅也の冷気にも微塵も怯むことなく、真っ向から視線を交錯させていた。二人の男が火花を散らす中、エレベーターのドアが音を立てて開いた。楓は二人の諍いに関わるのも面倒になり、無言のままエレベーターに乗り込んだ。ドアが閉まりかけたその瞬間、外からスッと一本の長い腕が差し込まれ、ドアの軌道を塞いだ。センサーが反応し、エレベーターのド
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第296話

「大輔も、私を愛していると言いながら智美と不倫しました。あなたも、私を愛していると言いながら静香さんと復縁した。……あなたたちにとって、『愛している』という言葉はどれほど価値があるものなのでしょうね?あなたたちに好かれたからには、私が感謝し、あなたたちが裏で何をしようと黙って受け入れなければならないとでも?」雅也は顔を険しく歪めた。「俺はそんな意味で言ったんじゃない……」楓は自嘲気味に笑った。「あなたがどんな意味で言ったのかなんて、もう重要ではありません。私と中越さんの間で、あなたは彼女を選んだ。それでおしまいです」彼女の瞳があまりにも静かに澄み切っているのを見て、雅也の胸の奥に、彼女を永遠に失ってしまうという強烈な恐怖とパニックが広がった。「楓……」「私たちの間で話すべきことは、これですべて終わりました。これ以上無様な未練を晒すのはやめましょう。これで、さようならです」彼らの愛はあまりにも傲慢で、上から目線で、最初から最後まで対等ではなかった。そんな残酷な愛なら、いらない。部屋に戻り、楓がソファに腰を下ろして息をついた途端、田中弁護士から電話がかかってきた。「木村さん。桜井大輔氏との財産分与の計算がすべて完了いたしました。最終的にあなたに分与される金額は、112168700円となります。それと、桜井直人氏の事件についても進展がありました。明日、お時間を頂けませんか?直接お会いして詳細をお話ししたいのですが」「分かりました。明日の退勤後なら空いています」待ち合わせの場所と時間を決め、楓はスマホを置いてシャワーに向かった。その間、直人の件を今後どう扱うべきか考えを巡らせた。今、彼女はすでに雅也と別れた。桜井家の連中は、もう雅也の存在を恐れて彼女に手加減することはないだろう。このまま桜井家と対立し続ければ、間違いなくこちらが不利になる。だが、ここで引き下がるのはどうしても納得がいかなかった。やっとの思いで直人を警察にぶち込んだのだ。もし今回彼をこのまま釈放させてしまえば、今後再び彼を法で裁くことなどさらに難しくなる。シャワーを浴びながらいくら考えても妙案は浮かばず、楓はとりあえず考えるのをやめ、明日の田中弁護士との面談を待つことにした。翌日の夜。約束の場所に現れた田中弁護士は、財産分与の合意
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第297話

楓は眠い目を擦りながら時計を見た。まだ朝の七時だ。シンポジウムの開始は九時からのはずだが。「……あなた、来るのが早すぎない?」寝起きのせいで、彼女の声は少しかすれていた。芽衣の声は興奮で上ずっていた。「楽しみすぎて昨日の夜から全然眠れなくて、つい早く来ちゃいました!朝ごはんも買ってありますから、ゆっくり準備してください。私はその辺を散歩して待ってますから!」楓は呆れながらも苦笑し、部屋の階数を教えて彼女を上へ上がらせた。楓が身支度を整えて家を出たのは八時過ぎで、二人がシンポジウムの会場に到着したのは八時半前だった。エントランスに向かって歩いていると、真横に二台の高級車が停車した。車のドアが開き、まず前の高級車から雅也と静香が、後方の高級車からは涼が降りてきた。三人が姿を現すなり、シンポジウムの運営スタッフがすぐに熱心に出迎えた。「桜井社長、結城社長、それに中越様!本日はご足労いただき誠にありがとうございます!どうぞ、こちらのVIP専用通路へご案内いたします」今日の静香は純白の清楚なワンピースに身を包み、腰まで届く長い髪をなびかせていた。薄く施されたメイクが彼女の儚げな美しさを引き立て、雅也にぴったりと寄り添うその姿は、風に吹かれれば折れてしまいそうなほどか弱く、思わず守ってやりたくなるものだった。雅也の冷淡な視線が楓の姿を捉え、一瞬だけピタリと止まったが、彼はすぐに何事もなかったかのように視線を外し、彼女を見なかったことにした。楓は静かに目を伏せ、胸に一瞬浮かんだ寂しさを強引に押し殺した。彼が私を赤の他人として扱ってくれるなら、それでいい。このまま関係を引きずり続けるより、遥かにマシだ。彼らはスタッフの案内で、VIP専用通路から会場の奥へと消えていった。その光景を見ていた芽衣は、思わず羨望のため息を漏らした。しかし、楓と雅也が別れた原因が静香の帰国であることを思い出し、彼女は慌ててその羨望の眼差しを引っ込めた。「楓さん、私たちも中に入りましょう!」一方、VIP専用の特別個室に通された三人。ソファに腰を下ろすなり、涼は雅也を見てからかうような笑みを浮かべた。「おい雅也。俺の見間違いじゃなければ、さっき入り口で木村楓を見かけたぞ。どうして挨拶の一つもしてやらなかったんだ?」雅也は顔に冷たい表
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第298話

「過去一年にわたり、我々の研究チームはがんの発症メカニズムを深く研究し、努力を重ね、新たな治療アプローチを模索し続けてまいりました。そして今、胸を張って皆様にご報告いたします。我々はついに、『長く効く薬』を見つけたのです」島崎博士の口調は、誇らしげだった。「この『長く効く薬』は、高い標的性を持ち、がん細胞に正確に作用する特性を有しているだけでなく、体内で有効成分が長期にわたって徐々に放出されるため、治療効果を長く保つことができます。これが臨床応用されれば、がん患者のより長い生存期間と、より良い生活の質をもたらすことが可能となるでしょう」島崎博士の発表が終わると、会場からは割れんばかりの拍手と歓声が沸き起こった。その後も、ほかの研究者たちが次々と登壇し、自らの研究成果を発表していった。結衣の登壇順は五番目だった。彼女は簡潔で品のある白衣を身にまとい、髪を後ろでキッチリと束ね、専門的でてきぱきした印象だった。彼女はまず、スクリーンに投影された見やすく整ったデータグラフをレーザーポインターで指し示し、明瞭な声で解説を始めた。「こちらは、我々が過去数ヶ月間にわたり実施した、『長く効く薬』に関するin vitroおよびin vivoの実験データです。これらのデータから明確に読み取れる通り、本薬剤はがん細胞の増殖および転移を抑制する点において、非常に顕著な効果を実証しております」続いて、結衣は実験動物の治療経過を示す写真と動画を提示した。「本薬剤を投与された実験動物の群では、腫瘍体積の顕著な縮小が確認され、かつ目立った副作用は見られませんでした。これは本薬剤の安全性と有効性を強く裏付けるものです。……ただし、皆様ご承知の通り、基礎研究の段階から実際の臨床試験を経て市販化に至るまでには、まだまだ長い時間がかかります」結衣の淀みないプレゼンテーションは、会場の参加者たちから強い関心を集めた。発表後には「長く効く薬」についてもっと詳しく知ろうと、参加者たちが次々に質問した。結衣は寄せられた質問に一つ一つ丁寧に答えた。シンポジウムが進行するにつれ、会場の熱気はどんどん高まっていき、閉会を迎えてもなお、参加者たちの興奮は冷めやらぬ様子だった。このシンポジウムは、単なる学術的な知見の共有だけではなかった。聖都の名士たちがVIP
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第299話

「そ、そうなんですか?」楓は雅也一行から視線を静かに戻し、淡々と告げた。「さあ、私たちも帰りましょう」会場のゲートを出るまで、芽衣の興奮状態は全く冷める気配がなかった。「楓さん、今日は本当にありがとうございました!あのシンポジウムを聞いて、私、薬の研究の道に進みたい気持ちがもっと固まりました!」彼女の頬は上気し、瞳は希望にキラキラと輝いていた。楓は思わず微笑んだ。「どうして急にそんな風に思ったの?」以前、楓と芽衣の実験が連日のように失敗続きだった時、芽衣は明らかに落ち込み、完全に自信を喪失していた時期があった。楓はてっきり、彼女がいずれ諦めるだろうと思っていたのに、今日になってこんなにもやる気を見せるとは驚きだった。「あなたの先輩が言ってたじゃないですか。何千回実験に失敗しても、決して諦めずに最後までやり遂げたって。それって本当に凄くて、格好いいなって思ったんです。……私もいつか、先輩みたいにあんな大舞台に立って、自分の研究成果をみんなに発表してみたいです!」そこまで一気にまくし立ててから、芽衣は少し恥ずかしそうに頬を掻いた。「私、今まで何かに本気で打ち込んで、最後までやり遂げたことって一度もなかったんです。でも、薬の研究は、頑張って続けてみたいんです」楓は優しく頷いた。「あなたがそう決めたのなら、それならいいわ」「楓さん、この後私に食事をご馳走させてください!今日のシンポジウムに連れてきていただいたお礼です!」「気持ちだけ受け取っておくわ。この後、約束があるの」「えーっ、そうなんですか。分かりました」芽衣と別れた後、楓は一人で地下駐車場へ向かい、車の中で結衣が戻ってくるのを待つことにした。一方、会場の奥では、結衣が雅也たちと三十分以上話し込んだ。会談が終わり、結衣がスマホで楓に【今から駐車場に向かうね】とメッセージを打ちながらエレベーターホールへ向かうと、そこでまた雅也たちと鉢合わせた。静香は笑みを浮かべ、結衣に向かって優しく声をかけた。「結衣さん。私たち、これからランチに向かうのですが、もしお時間があればご一緒しませんか?」結衣はスマホをしまい、静香を見て愛想よく答えた。「お誘いいただきありがとうございます。ですが、昼はすでに先約がありまして」それを聞いて、静香の
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第300話

結衣は、その場の空気がどこかおかしいことに気づいていた。気のせいだろうか。彼女は訝しげに振り返り、楓に視線を送ったが、楓は表情一つ変えずに低く言った。「行きましょう。予約の時間が過ぎてしまいます」そう言いながら、楓は結衣の腕を引いて駐車場へと向かい、雅也たちに何の説明も残そうとはしなかった。静香は下唇を噛み締め、無意識に雅也を見上げた。彼の視線が、楓が去っていく方向を見つめているのを見て、彼女の爪が手のひらにギリッと食い込んだ。胸の奥で嫉妬が野草のように広がり、楓への憎悪がさらに強まっていく。しかし彼女はすぐに目を伏せ、自分の感情をうまく隠した。「雅也……結衣さんは木村さんの親しい先輩なのよね……木村さんは私のことが嫌いだから、結衣さんに私の悪口を吹き込むかもしれないわ……もし結衣さんまで私を嫌うようになったら、どうしよう……」言葉を濁しながら言いかけてはやめる彼女を見て、雅也は不快げに眉をひそめた。「俺はすでに彼女たちの研究室への出資を決めている。彼女がお前をどう思おうが関係ない。研究室が開発した最新の抗がん剤は、お前に使えるようにする」雅也の言葉の端々に楓を庇うニュアンスが含まれているのを感じ取り、静香の瞳は微かに沈んだが、彼女はすぐに青白い顔で弱々しい笑みを作った。「……分かったわ」傍らで見ていた涼は、静香が不当に虐げられ、健気に耐え忍んでいる姿を見るのが一番我慢ならなかった。彼は冷たく言った。「もし木村楓が裏でお前の悪口を吹き込んでいるなら、あいつがろくな人間じゃないって証拠だ!」その言葉が落ちた瞬間、その場の空気が急に冷え込んだ。涼がハッとして顔を上げると、雅也の険しく陰った瞳と真っ向からぶつかった。涼は無意識に眉を寄せた。「雅也。俺が何か間違ったことでも言ったか?」「お前が彼女を批判する資格はない。それに……彼女に負い目があるのは俺の方だ」涼は鼻で冷笑した。「負い目だと?お前が彼女に何を引け目を感じる必要がある?忘れるな、あの女は少し前にお前の実の兄貴を警察に捕まらせたんだぞ。もしお前が裏で庇っていなければ、親父さんの容赦ない報復を受けて、あの女が今まで無事でいられるはずがないだろうが!」「これは俺と彼女の問題だ。お前が口を挟む筋合いはない……二度と俺の前で、彼女の悪口を
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