「それも少しはあるけど、一番の理由は、私にもっと重要なやらなきゃいけないことができたからよ」芽衣は少し落ち込んだ様子で言った。「楓さんが辞めたら、新しく来る研究員とうまくやっていけるか不安です。はぁ……」楓は笑い、優しい声で慰めた。「相手がどんな人でも、自分の仕事をしっかりやれば大丈夫よ」「そうするしかないですね」午後、楓は荷物をまとめるために展望技術へ行った。新しい創薬研究員はまだ来ておらず、芽衣は実験を中断してオフィスで文献を読んでいた。楓が荷物をまとめて帰ろうとした時、芽衣はたまらず彼女に抱きついた。「楓さん、退職しても、これからも絶対連絡取り合いましょうね!」芽衣の名残惜しそうな様子を見て、楓は頷いた。「ええ。律さんへのアプローチのことは、これからはあまり力になれないと思うけど、自分で頑張ってね」「はい」芽衣に別れを告げ、楓が部屋を出ようとした時、突然オフィスのドアが開かれた。二人が同時に出入り口に目を向けると、そこには厳しい表情の恭平がおり、その後ろには黒いスーツ姿の男たちが二人続いていた。恭平が険しい目で自分を見ているのに気づき、楓の目に疑問が浮かんだ。「恭平さん、どうしたんですか?」「楓様、会社の機密を漏洩した疑いがあるため、今はまだお帰りいただけません」楓は眉をひそめた。「機密とは、何のことですか?」隣にいた芽衣も口を挟んだ。「恭平さん、何か間違いじゃありませんか?楓さんは展望技術の社員でもないですし、私たちは毎日実験室で実験しているだけで、展望技術の社員の方と接点なんてありません。機密を漏らす機会なんてどこにあるんですか?」恭平は無表情で彼女を見た。いかにも事務的な態度だった。「楓様だけでなく、相沢さんも調査に協力していただきます。外部に漏れたのは、あなたたちの実験データだからです」芽衣は信じられないというように目を丸くし、怒って言った。「私たちが実験データを誰かに漏らしたって疑ってるんですか!?」「疑っている段階ではありません。現在、和信(わしん)が最新の喘息薬の実験進捗を公開しましたが、その中の多くのデータが、あなたが今行っている実験データと酷似しています。この実験はあなたが責任者です。真相が明らかになるまで退職は認められません。毎日会社
Read more