All Chapters of 今世は貴方を愛さないと誓ったのに、何故縋りついてくるのか: Chapter 1 - Chapter 10

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第1話

永山家の令嬢・美里と城田財閥の御曹司である宗助は幼馴染だった。 お金持ちの家の子が通うことで有名な幼稚舎で二人は出会い、美里は宗助に一目ぼれをした。 それから小中高と、美里と宗助は他の誰よりも共に時間を過ごし、お互いにとってかけがえのない親友となった。その間も美里の宗助への思いが変わることはなかった。 しかし十八歳になったある日、宗助は同じ大学で出会った今野萌子と恋に落ちる。 「あんなに綺麗な人は初めて見たんだ、俺はきっと恋をしたんだと思う」 宗助は嬉しそうに頬を赤らめた。美里は今さら宗助に気持ちを伝えることなどできなかった。 宗助の初恋の相手である今野萌子は、同じ女である美里から見てもとても美しいと思える女性だった。 二人は恋人となり、お互いに結婚を望むようになったが、萌子は一般家庭の生まれで次期社長の宗助と釣り合う身分ではなかった。 二人の結婚に猛反発した宗助の両親は権力を使い、萌子を大学から追い出し、宗助との関係を強引に絶たせた。 萌子を失った宗助は悲しみに暮れ、笑わなくなった。 それでも美里は彼の傍を守り続けた。いつかは彼が笑顔を取り戻してくれることを願って。 時が経ち、大学を卒業して社会人となり数年が経過した頃、美里に縁談の話が持ち上がる。相手は何と意中の相手・宗助だった。 萌子を失って以来、彼女を忘れられずに恋人を作らなかった宗助と、そんな彼を密かに想い続けていた美里。 美里は彼の気持ちを誰よりもよく知っていたが、満面の笑みで頷いた。 「彼との結婚を受け入れます。こんなにも幸せなことはありません」 一方の宗助も、特に興味のない様子で美里との結婚を受け入れた。萌子と一緒になれないのなら、別に誰だってよかったのだろう。 宗助との婚約中、美里は幸せの絶頂にいた。萌子が現れた時点で彼と結ばれることは諦めていたからだ。 身分の違いで引き離されてしまった萌子には悪いが、美里は他人のことなど考えている場合ではなかった。彼女がどこかで幸せに暮らしていればいいなと願うばかりだった。 約一年の婚約期間を経て、美里と宗助は結婚した。 結婚してからも宗助は美里に萌子に向けていたような笑顔を見せることはなかったが、彼の妻でいられるのならそれでよかった。 後継者として父親が経営する会社の役員となった宗助は多忙で、家に帰らない日も多く、二人
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第2話

数日後、ある人物が家を訪れた。「ど、どうしてあなたがここに……」扉の前にいる人物に、美里は驚きを隠せなかった。「……今野さん」「お久しぶりです、永山さん。いえ、今は城田さんになったんでしたね」「……」美里の悩みの種、今野萌子だった。「私の話はもう聞いていると思います。しばらくは白羽区で過ごすことになりました」「ええ、伺っています」「ご挨拶もかねて、お菓子を持ってきたんです。よかったら一緒にお茶でもしませんか?」「……」美里は萌子とお茶をするどころか、家にすら入れたくなかった。大学時代から、萌子は他人に対しての距離感が異常なほど近い人だった。普通は、元カレの妻になど会いたくないと思うものではないのだろうか。萌子の考えがわからなかった。しかし、追い返して宗助に泣きつかれでもしたら困る。結局美里は、萌子を家に入れることを決めた。「私がいない間に、宗助と結婚したと聞きました」「ええ、そうですね」まるで元々その席は私のものだったのだと言っているかのようだった。「おめでとうございます」「ありがとうございます」口元には笑みを浮かべていたが、目は笑っていなかった。「そういえばこの間、宗助に会ったんですけど……」「……」「元気そうで安心しました。私がいなくなった後の彼のことが心配だったので……」まるで宗助が自分なしでは生きていけないとでもいうかのような言い方だ。いくらあなたが妻になったとはいえ、愛されているのは自分だと、遠回しに言われたかのような気分になった。美里はそんな彼女ににっこりと笑いかけた。「ご心配なさらないでください。宗助は元気にやっていますよ」「……そうですか」萌子が眉をピクリとさせた。いくら宗助が萌子を愛しているとはいえ、本妻は美里だ。それだけは変わらない事実だった。「籍を入れたのはいつ頃ですか?」「一年くらい前です」「まぁ、結構最近だったんですね。その間は故郷にいたもので、お二人の結婚のことを全く知りませんでした」萌子は驚いたように目を見開いた後、呟いた。「あと一年早ければ……」「え?」「いえ、何でもありません」萌子はいつもと変わらない優雅な笑みを浮かべた。「あまり長居するわけにもいかないので、今日はこれで失礼します。大学もあるので……」「そうでしたね」萌子は既に美里と宗助が卒業した難
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第3話

「里…………美里!!!」「!!!」目を開けると、どこか懐かしさを感じさせる場所にいた。永山家の邸宅だった。結婚を機に家を出てからはほとんど帰っていなかったため、ここへ来るのは随分と久しぶりだった。「どうかしたのか?美里。何だか顔色が悪いぞ」「そ、宗助……!?」目の前に座っていたのは宗助だった。どうして彼がここに。私は死んだはずなのに。そしてあなたは私が死んだあと、今野萌子と再婚したでしょう?彼は驚いた顔をする美里を見て短く笑った。「君がボーっとするだなんて珍しいな、何かあったのか?」「何か……」宗助の弟である宗真に拉致され、複数人の男から凄惨な暴力を受け、命を落とした。夢にしてはあまりにも生々しかった。そんなことを口にしたらきっと頭がおかしくなったと思われるだけだろう。「いいえ、何でもないの……」「そうか……俺たちの結婚式まであと半年だな。そろそろ準備をしなければならない頃だろう」「結婚……?」美里は目の前に座る宗助をじっと見つめた。彼が冗談を言っているようにはとても思えなかった。二人は美里の誕生日である四月に入籍した。そして部屋に飾ってあるカレンダーからして今は十月。ということは、宗助と結婚する前に時間が戻っているということだろうか。信じられないが、時間が巻き戻ったようだった。「結婚指輪は……やはり二人で見に行ったほうがいいだろう。時間はあるか?」「……」美里はその質問に答えることができなかった。今の問いは、前世で既に美里が経験していたものと完全に一致していたからだ。だとしたら、私は本当に過去に戻ってきたというのか。夢のような結婚生活は地獄の始まりに過ぎなかったこと、宗助が萌子を忘れられず白羽区に呼び戻したこと、宗真に拉致され、悲惨な最期を迎えたことまで。美里はどれも鮮明に記憶していた。だからこそ、今度はそのような末路をたどるわけにはいかなかった。「宗助、私たちの結婚についてなんだけど……もう少しだけ待ってほしいの」「……美里?」「私、いざあなたと結婚するってなってまだ気持ちが追いついてないみたい。だから少しだけ一人で考えたいの」「そうか……まぁ、そういうこともあるだろう」宗助はそれだけ言うと、椅子から立ち上がった。「俺はここで失礼するよ。また連絡するから」「ええ……」美里は立ち去る宗助の後ろ姿をしば
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第4話

「ええ!?宗助との婚約を破棄するだって!?急にどうしたんだよ、美里」「もう決めたことなの」母親に婚約破棄を打ち明けた翌日、美里は近所のカフェで親友の萩田流星(はぎたりゅうせい)に会っていた。流星は美里のもう一人の幼馴染であり、彼女の気の置けない友人だった。彼は当然、小中学校の同級生だった宗助のこともよく知っていた。だからこそ、美里の決断に驚きを隠せなかった。「美里、お前あれほど宗助のこと好きだっただろ。喧嘩でもしたのか?」「……そういうわけじゃないのよ。知っているでしょう?宗助が愛しているのは今も昔も今野萌子ただ一人だということを」「……」そして彼は今野萌子とも面識があった。宗助と萌子の仲をよく知っていた。「まぁ、お前が決めたことなら反対しないけどさ」「あなたならそう言ってくれると思ったわ」美里は嬉しそうに笑った。「流星は恋人とかいないの?」「俺は親父の会社継ぐために忙しいんだ。彼女作ってる暇なんてねえよ」「そう、あなたならすぐにできそうだけど」流星は見た目も良いうえに、萩田家の御曹司だった。萩田家は城田家ほどではないにしろ、かなり名の通った資産家の一族だった。女子人気もそこそこあったはずだが、その年になって彼女の一人もいないなんて。「彼女ができたら紹介してね、流星に相応しい相手かどうか私が確認してあげるから」「……お前は昔から心配性だな。まるで俺の母親みたいだ」「あら、心配するのは当然でしょう?流星は私にとって大切な友達なんだから」「友達……か」流星がボソッとつぶやいた。「何か言った?」「いや、何でもない」流星はいつもの笑顔に戻ると、突如真剣な顔で話し始めた。「ところで婚約破棄の件、両親には言ってあるのか?」「お母さんには話してあるわ。お父さんもきっと反対しないと思う。問題は……」「宗助のご両親……ってところか」「そうね」宗助が婚約破棄を渋るとは思えなかったが、社長夫妻の考えは違う。夫妻は一般庶民の萌子を嫌っていたこともあり、永山家の令嬢である美里との結婚をとても喜んでいた。今思えば、全て彼らが元凶だった。夫妻が最初から宗助と萌子の結婚を認めていれば、美里は無意味な期待を抱いて辛い思いをすることはなかったのだから。その点でいえば、宗助や萌子も被害者だった。そのことを考えると、とても複雑な気持ちになった。「
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第5話

「とてもよくお似合いです!さすがは永山家のご令嬢ですわ!」「あ、ありがとうございます……」美里は車に乗り、白羽区にあるデパートへ来ていた。そこで彼女が向かったのは有名なドレスショップだった。美里はたった一度着るドレスなど安物でもかまわなかったが、彼女の通っていた中学校は普通の学校ではなかった。お金持ちの家の子息・息女が通う都内でも有名な私立中学校だ。そんな場に永山家の令嬢ともあろう美里が安物のドレスを着て行けばきっと永山家は経営不振だとか様々な憶測を立てられるだろう。家の面子をつぶすわけにはいかなかった。「こちらのデザインもよくお似合いですが……美里様にはこのようなドレスもお似合いかと」「……私には少し派手ではありませんか?」販売員が持ってきたのは、レースをふんだんに使った赤いドレスだった。他のドレスより丈が短めで、肩のあたりが大きく開いていた。これを私が着るのか。美里はこのようなドレスは今までで一度も着たことがなかった。「そんなことはありません!私の目はきっと間違っていないはずです!美里様にはこのドレスが相応しいですわ!」「そ、そう……?」「ええ!きっと会場にいる全員の目を引くはずです!城田様も美里様に惚れなおすかと!」「……」美里はパーティーに参加するとき、いつもシンプルで上品なドレスを選んでいた。宗助が派手な服はあまり好きではないということを知っていたからだ。そんな彼に配慮し、自分の意思を持つことなくそのようなドレスばかり身に着けていた。しかし、今回は宗助のことを考える必要はない。大体彼は同窓会には来ないのだから。そうね、たまにはこういうのもいいのかもしれない。美里は赤いドレスを手に取った。「これを買います」「ありがとうございます!」それからドレスに合うピアスやネックレスを買い、美里は店を後にした。まだまだ時間があるし、面倒なことは忘れてウィンドウショッピングでもしようかな。そう思いながらデパート内を歩いていると、やけにスタイルの良いスーツ姿の男性が少し離れたところで立っていることに気が付いた。その姿はまるで物語の中から現れた王子様のようで、周囲の女性たちの関心を集めていた。「……………宗助?」そこにいたのは秘書を連れた宗助だった。美里は慌てて近くにある柱に隠れた。何故彼がここにいるのか。宗助は人の多い場所
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第6話

同窓会の日。ドレスに着替えた美里は、会が開かれる都内の高級ホテルへと訪れていた。会場入りした美里は、すぐに人々の視線を集めることとなった。「見て、すごく綺麗な人……」「あれってもしかして……」人々が噂するのも当然だった。赤いドレスは華やかな美里の外見によく似合っており、適度な露出は彼女のスタイルの良さを際立たせていた。本人は気付いていないだろうが、美里は元々かなりの美人で、大学時代はあの今野萌子にも引けを取らないと言われていたほどだった。当の本人はそんな男たちの熱を帯びた視線など気にも留めていなかったが。彼女はキョロキョロとあたりを見回したが、知らない顔ばかりで困惑していた。そんな美里に、背後から声がかかった。「もしかして美里!?」「あなたは……」「私のこと覚えてる!?ほら、中二のときによく遊んでた――」「里奈!?」神城里奈(かみしろりな)――美里の中学時代の唯一の友人だった。美里は中学時代、同性の友人がほとんどいなかった。宗助や流星など、女子人気の高い男子たちと親しくしていた美里は学年の女子から目の敵にされていたからだ。宗助や流星とは特に男女の関係ではなかったが、二人ともあまり異性を寄せ付けないタイプだったため、美里は女子たちのグループからは自然とハブられていた。そんな中で唯一話しかけてくれたのが里奈だった。「里奈、久しぶり!中学のとき以来ね!」「美里、ものすごく綺麗になってて驚いちゃった!」二人は手を取り合って再会を喜んだ。「嬉しいなぁ、てっきり美里はこういう場には来ないと思ってたから……」美里は中学時代一度もクラスの集まりに参加したことがなかった。里奈が来ないだろうと思うのも当然かもしれない。「実は、本当は行かないつもりだったんだけど……久しぶりにみんなの顔を見たくて来ちゃった」「そうだったのね!会えてうれしい!」クラスの人気者だった里奈は一人ぼっちだった美里をいつも気にかけてくれていた。美里にとっては恩人だったのだ。「そういえば、あの子は来ないの?ほら、中学の頃美里とよく一緒にいた宗助くん!」「宗助?」里奈は興奮気味で口を開いた。「そうそう、城田宗助くんよ!うちの学校のアイドルだったじゃない!たしか美里、彼と仲良かったよね?彼がいつ来るかとか聞いてない?」「宗助は……来ないでしょうね」「そうよね
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第7話

それからすぐに、同窓会が始まった。ワイン片手にかつての友人たちと思い出を語り合う。そんな和やかな時間が流れた。美里は交友関係の広い流星の後ろに付き、彼の友人たちと挨拶を交わした。そんな中、顔を真っ赤にした友人の一人が、彼の背中に抱き着いた。「流星ー!」「か、和也……!?お前、酔っ払いすぎだろ……」和也と呼ばれた彼は、流星の中学時代の友人で、今でも連絡を取り合っている仲らしい。「いいだろ別に、普段仕事でストレス溜まってんだから今日くらい羽目外したって」「外しすぎだろ!」「あーなんか吐きそう……」「おいおい、やめてくれよ」明らかに飲みすぎて吐きそうになっている和也を見た美里は心配そうに声をかけた。「流星、かなりお酒を飲んでいるみたい……」「そうだな、ここだと人目が多いし、一旦外へ連れてくか」流星が彼の腕を掴んだそのとき、背後にいた美里を視界に入れた彼の目が丸く見開かれた。和也はしばらく美里を見つめた後、ものすごい力で流星の腕を振り払い、彼女の前に跪いた。「美しいお嬢さん、よければこの後俺とデートでも……」「早く行くぞ!!!」流星は和也の体を引っ張り、足早に会場の外へと向かったのだった。流星がいなくなり、美里は会場に一人取り残された。一人になった美里を見た男たちの目がギラリと光った。***「永山さん、本当に綺麗になったね。驚いたよ」「ありがとうございます」「俺のことを覚えているかな?君と同じクラスではなかったんだけど、何回か話したことがあって……」「ああ……はい……」これで何人目だろうか。美里は次から次へと男たちが自身の元へ来る、この状況に困惑していた。彼女は前世含めて宗助や流星以外との男性とはほとんど関わったことがなかった。当然、今話しかけてきた男たちもどこの誰だかまったく覚えていなかったのだ。ここにいるということは、美里の同級生であることに間違いはないだろうが。「永山さん、よかったら連絡先を交換しないか?」「連絡先……ですか?」「ああ、俺は君のことをもっと知りたいんだ」そのうちの一人の男が頬を染めながら彼女を見つめた。美里は類稀なる美貌を持ち合わせているうえに、永山家のお嬢様。彼女と親しくなりたいと思う男はいくらでもいる。そして今ちょうど、彼女を守ってくれるはずの流星は不在だった。美里は断ろうと口を
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第8話

「婚約破棄……?何を言っているんだ……?」「宗助、あなたには悪いと思っている。だけどね、私たちが結婚しても幸せにはなれないと思うの」「幸せだと?急に何を言い出すんだ」「あなたは今でも今野萌子さんのことを想い続けている。そうでしょう?」「……」宗助は黙り込んだ。それがまさに肯定を意味していた。彼はしばらく黙り込んだ後、ゆっくりと口を開いた。「俺たちの結婚に愛なんてないのは当たり前だろ」「……!」胸がチクリと痛んだ。美里は宗助が自分を愛していなかったことを知っていたが、本人の口からハッキリと言われるのは辛かった。この結婚は宗助にとってはただの政略結婚にすぎなかったようだ。「お前もそのことを知っていて受け入れたんじゃないのか?」「……ええ、そうね。そうよ、その通りだわ。だけどね……」美里は痛む胸を押さえながら口を開いた。「私、愛のある結婚がしたいの」美里は宗助を真っ直ぐに見つめた。しかし返ってきた彼の目はどこまでも冷たかった。「愛?そんなもので既に決まっている婚約を破棄するというのか?」「すべて私のせいよ、わかっているわ。だからどんな代償を払うことになったとしても受け入れるつもり。お金が欲しいのならいくらでも渡すわ」「……」宗助は城田財閥の御曹司。当然、金銭などそのようなものは望んでいないだろう。「……城田家の夫人となり、お前が子を産めば、その子が次期後継者となる。お前にとっても悪い話ではないはずだ」「……」美里は宗助が何故ここまで自分を引き留めようとするのかがわからなかった。宗助は結婚相手など誰だっていいのではなかったのか。「宗助、私がそんなことを望んでいるわけではないということはあなたが一番よく知っているんじゃないかしら?」「……」宗助は黙り込んだ。彼が美里の気持ちに気付いていないはずがなかった。『愛なんて望まないでほしい、疲れるんだ』前世、夫となった宗助に言われた言葉だった。彼は今野萌子を深く愛していた。まぎれもない、彼の初めての愛だった。しかしその愛は、彼の両親によって無惨に打ち砕かれてしまった。あの一件によって宗助は、愛など何の意味もないものだと、そう思うようになってしまったに違いない。「宗助、私は何が何でもこの婚約を破棄するわ。どんな手を使ってでもね」「美里!」宗助の怒鳴り声に、そばを歩
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第9話

「美里!」「流星!戻ってたのね」美里が会場へ戻ると、流星が彼女を待っていた。どうやら和也の処理を終えたようだった。「どこへ行っていたんだ?」「ちょっとお手洗いに……」「そうか、何もないならよかったよ」流星に余計な心配をかけたくなくて、美里はとっさに嘘をついた。「私、そろそろ帰ろうと思うの。慣れないことばかりでちょっと疲れちゃって……」「そうか、なら車まで送っていくよ」「ありがとう、流星」流星は美里を永山家の車まで送っていった。黒塗りの外車に乗り込んだ美里は、改めて流星に礼を言った。「流星、今日はありがとう。おかげで楽しい一日になったわ」「俺も美里と会えて嬉しかったよ」「会えて嬉しい?私たち、ちょっと前にも会ったじゃない」「そ、そうだけど……」流星は言葉を詰まらせた。「まぁ、とにかく会えてよかったよ!またな!」「ええ、また今度」挨拶を終えると、美里を乗せた車が発進した。流星は車が見えなくなるまで手を振り続けた。「美里は昔から変わらないな……」彼女のことを考えると、彼の口元に自然と笑みが浮かんだ。「可能性がないと思って諦めてたのに……」流星は美里が宗助との婚約破棄について話していたときのことを思い浮かべた。流星はずっと美里に思いを寄せていた。しかし、美里が宗助を好きだったのは誰から見てもわかることだった。彼女に迷惑はかけたくないという理由でずっと諦めていたのだ。流星がこれまでずっと彼女を作らなかったのも、美里を忘れられないからだった。「――流星」「…………宗助?」背後から彼に声をかけたのは宗助だった。宗助と流星は小中学校の同級生であり、お互いよく知る仲だった。美里ほどではないにしろ、一緒に遊んでいた時期もあった。しかし今二人の間に流れている空気は、少なくとも友人同士のものではなかった。まるで恋敵を前にしているかのようだった。「流星、話があるんだ。俺と来てほしい」「お前が直々に呼び出すだなんて、相当大事な話みたいだな」流星はそう言いながらも提案に賛成し、宗助について行った。***「美里、お帰り。同窓会は楽しめた?」「うん!久々にみんなと会えて嬉しかったよ」「そう、ならよかった」家に帰った美里は、母と会話をしながら結っていた髪の毛をおろした。「お母さん、私ね、宗助に婚約破棄について話したの」
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第10話

「お父さん、お帰りなさい」「ただいま、美里」夜になり、美里の父親――永山政則(ながやままさのり)が帰ってきた。美里は母親には婚約破棄の件を伝えたが、父親にはまだ言っていなかった。美里に惜しみない愛情を注いでくれた父が婚約破棄を反対するとは思えないが、それでも話すのは勇気のいることだった。「お父さん、話があるの」「何だ?」机に鞄を置いた政則が、珍しく真剣な表情の娘に目をやった。彼は美里が何か大事な話をしようとしていることを察した。「私ね、宗助との婚約を破棄したいと思っているの」「……」政則は何も言わずにしばらく黙り込んだあと、表情を変えずに口を開いた。「……そうか、お前の好きにしなさい」「……お父さん、反対しないの?」あまりにもあっさりとした父親の返答に、美里は驚きを隠せなかった。反対されることはないにしても、理由くらいは聞かれると思っていたからだ。「もちろん、反対する気持ちが無いわけではないが…親として、娘の意思を尊重するのは当然のことだ」「お父さん……」美里は父親の優しい言葉に涙が出そうになった。「宗助くんには話してあるのか?」「ええ、今日同窓会で話してきたわ」「そうか……それで……彼は、婚約破棄を受け入れたか?」「……?戸惑っているようだったわ。でもきっと受け入れてくれるはずよ。だって彼は私を愛していないもの」「そうか……」父親は何か言いたそうに美里を見つめていた。彼女は不思議に思いつつも、やることが山積みだったため、そのまま自室へと戻った。***美里が部屋へ戻ったあと、リビングのソファでくつろいでいた政則に妻の美穂(みほ)が声をかけた。「あなた、美里から婚約破棄の件について聞いた?」「ああ、ついさっきな」美穂は政則の隣に座った。「驚いたわ。美里、あんなに宗助くんのこと愛していたのに……」「……そうだな」政則も美穂と同じく、美里の決断に驚いていないわけではなかった。ただ、父親として娘の恋愛事情をあまり詮索したくなかったというだけだ。愛する娘の望みなら出来る限り叶えてやりたいと思うのが親というものだ。「でも私は婚約破棄に賛成よ。宗助くんはとても素敵な男性だけれど美里の結婚相手として相応しくないわ」「お前」「あなたも知っているでしょう?宗助くんが大学時代の恋人を忘れられないということを」美穂
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