Masuk「里…………美里!!!」
「!!!」
目を開けると、どこか懐かしさを感じさせる場所にいた。
永山家の邸宅だった。結婚を機に家を出てからはほとんど帰っていなかったため、ここへ来るのは随分と久しぶりだった。
「どうかしたのか?美里。何だか顔色が悪いぞ」
「そ、宗助……!?」
目の前に座っていたのは宗助だった。どうして彼がここに。私は死んだはずなのに。そしてあなたは私が死んだあと、今野萌子と再婚したでしょう?
彼は驚いた顔をする美里を見て短く笑った。
「君がボーっとするだなんて珍しいな、何かあったのか?」
「何か……」
宗助の弟である宗真に拉致され、複数人の男から凄惨な暴力を受け、命を落とした。夢にしてはあまりにも生々しかった。そんなことを口にしたらきっと頭がおかしくなったと思われるだけだろう。
「いいえ、何でもないの……」
「そうか……俺たちの結婚式まであと半年だな。そろそろ準備をしなければならない頃だろう」
「結婚……?」
美里は目の前に座る宗助をじっと見つめた。彼が冗談を言っているようにはとても思えなかった。
二人は美里の誕生日である四月に入籍した。そして部屋に飾ってあるカレンダーからして今は十月。
ということは、宗助と結婚する前に時間が戻っているということだろうか。
信じられないが、時間が巻き戻ったようだった。
「結婚指輪は……やはり二人で見に行ったほうがいいだろう。時間はあるか?」
「……」
美里はその質問に答えることができなかった。今の問いは、前世で既に美里が経験していたものと完全に一致していたからだ。
だとしたら、私は本当に過去に戻ってきたというのか。
夢のような結婚生活は地獄の始まりに過ぎなかったこと、宗助が萌子を忘れられず白羽区に呼び戻したこと、宗真に拉致され、悲惨な最期を迎えたことまで。美里はどれも鮮明に記憶していた。
だからこそ、今度はそのような末路をたどるわけにはいかなかった。
「宗助、私たちの結婚についてなんだけど……もう少しだけ待ってほしいの」
「……美里?」
「私、いざあなたと結婚するってなってまだ気持ちが追いついてないみたい。だから少しだけ一人で考えたいの」
「そうか……まぁ、そういうこともあるだろう」
宗助はそれだけ言うと、椅子から立ち上がった。
「俺はここで失礼するよ。また連絡するから」
「ええ……」
美里は立ち去る宗助の後ろ姿をしばらくじっと見つめていた。
彼とこのように向かい合って話すのはとても久しぶりだったからか、妙に緊張してしまった。
結婚まであと半年。今度は宗助と結婚するわけにはいかない。一度決まった婚約を破棄するのは簡単ではないだろう。それに加え、相手は大財閥の御曹司だった。
しかし、まだ美里と宗助の婚約は正式に発表されていなかった。可能性が全くないわけではなかった。
宗助は美里を愛していたから彼女との結婚を受け入れたわけではない。別に誰でもよかったのだ。どうせ萌子とは結ばれないのだから。
美里はどうにかして婚約を破棄する方法を考えた。永山家はいくつもの会社を経営する資産家の一族だったが、大財閥の城田家にはかなわない。つまり相手のほうが立場は上だった。
美里は悩みに悩んだ末に、両親に気持ちを打ち明けることを決めた。
「お母さん、話があるの」
「どうかした?美里」
「実は、宗助との婚約の話をなかったことにしたいの」
「あら……どうして急に……?宗助くんとの婚約は昔からあなたが強く望んでいたことでしょう?」
「私……自分が愚かだったことにようやく気付いたの。宗助は私を愛していない。今でも萌子さんのことだけをずっと想い続けているのよ」
「美里……」
「そんな人と結婚しても幸せになんてなれないわ。私、できることならお父さんとお母さんのような仲のいい夫婦になりたいの」
「まぁ……」
母は比較的裕福な家の生まれだったものの、永山家の御曹司だった父と釣り合う身分ではなかった。当然、父の両親からの反対には遭ったものの、父は半ば強引に母を娶ったのだ。
「彼女と一緒になれないのなら、家を捨てて出て行く」と宣言したのは有名な話だった。だから美里は、両親ならきっと自分の気持ちを理解してくれると信じて疑わなかった。
「美里、あなたの気持ちはよく理解したわ。私もあの人も美里の幸せを誰よりも願っている。きっと反対なんてしないはずよ」
「ありがとう、お母さん」
「ただ、宗助くんやご両親が合意するかはわからないわ」
「……」
社長夫妻はまだしも、宗助が婚約破棄に同意しないなんてありえるのだろうか。彼は今でも萌子だけを想い続けているのだから、美里との婚約がなくなったところで何とも思わないだろう。
どうせあと一年半後には萌子は白羽区に帰ってくるのだ。他の誰でもない、宗助が直々に呼び戻して。そのときになれば宗助も萌子のことで頭がいっぱいになって、美里のことなど気にも留めていないだろう。
「お母さん、何も心配はいらないわ。きっとすべてうまくいくはずよ」
美里は笑顔で母に向かって言った。
それから萌子は城田家の御曹司である宗助からの猛アタックにより、彼と付き合うことになった。その間もずっと美里のことを意識していた。彼女は萌子にとって、唯一ライバルと呼べる女性だったからだ。自分と同じくらい美しい容姿に加え、自分には持ち合わせていない家柄まで。悔しかった。自分よりも勝っている女がすぐ近くにいるのは。しかし、そんな日々もすぐに終わりを迎えた。宗助と付き合い、彼の隣に立つようになってからというもの、美里の視線をよく感じるようになった。彼女は最初そのことを不思議に思っていたが、すぐに理解した。――あぁ、あの女は彼のことが好きなんだ。そういえば、城田家の御曹司と永山家のお嬢様は幼馴染だったっけ。萌子はだいぶ前にチラッと聞いた話を思い出した。美里は宗助と一緒にいる萌子に羨望の視線を向け、いつも彼らの後ろ姿ばかりを見つめていた。萌子はそんな彼女を見て優越感に浸った。――私、あの女に勝ったんだわ。あの女がどう頑張っても手に入れられなかったものを、私は手に入れた。その事実だけで心が満たされるような思いになった。それからというもの、萌子は行き過ぎた行動を取るようになった。『ねぇ宗助、美里さんっているでしょう?あなたの幼馴染の』『美里がどうかしたか?』『あの人を私に紹介してほしいわ』萌子の言葉に、宗助は眉をひそめた。『何故お前が美里に会う必要がある?』『宗助の大切な人なら、私も会いたいのよ!私はあなたの恋人だから』彼女は何とか彼を説得し、宗助は渋々萌子に美里を紹介した。『よろしくお願いします、美里さん』萌子は目の前にいる美里に完璧な笑顔を向けた。宗助の隣にいるのは私であって、あなたではないんだ。そのような思いも込めて。美里は悲しそうに目を伏せて挨拶を返した。『今野さん、よろしくお願いします』あぁ、その顔が見たかったのよ。たまらないわ。萌子は内側からゾクゾクするような感覚に襲われた。もっと悲しめばいい。もっと苦しめばいい。ほら、私と宗助をよく見なさい。あなたをより一層惨めにさせてあげるから。それから萌子の行動はエスカレートしていった。美里の前でわざと宗助の腕に手を絡めたり、三人でどこか行かないかと彼女を誘ったりもした。全てが順調だった。宗助は海星と違って頭も良いし、地位と財力もある。萌子にとってはこれまでにないくらい完璧な男だっ
今野萌子は昔から、何事においても他の女に負けたことがなかった。「萌子ちゃんよ!いつ見ても超美人!」学校内を歩けば注目を集め、男なら誰しもが彼女を好きになり、女は強い憧れを抱く。まさに誰もが認める学校のマドンナ。普通の男にとっては手が届かない存在であり、至高の女。それが今野萌子だった。(全てにおいて私が一番なのは当たり前よ)萌子は自分自身の美貌を誇りに思っていた。頭の出来が一般人より良いというところも。しかし、完璧な彼女の世界にも一人だけ邪魔な人間がいた。「萌子、あなたは絶対に良い男を捕まえるのよ?私は旦那選びに失敗したから今こんな貧相な暮らしをさせられているの。あぁ、妊娠なんてしなければあんな男と結婚しなかったのに……あのとき妊娠したことは唯一の失態だわ」「……」それが母親だった。萌子の母親はいつも平均的な収入で気の弱い父親に文句を言っていた。母は美人で、大学時代はミスコンにも出場するほどだったが、かなり気の強い性格だった。萌子と修人はそんな母の元、我慢を強いられる幼少期を送っていた。父親はいつも母親のご機嫌取りばかりしていて、萌子たちのことを気にかけている暇などなかった。萌子はそんな両親の姿を見て、幼いながらに思った。(……でも案外、お母さんの言う通りかもしれないわね)萌子はむしろ、母親よりも彼女に媚びへつらうことしかしない父親に嫌悪感を募らせた。私は絶対にあんな男と結婚しない。お金持ちで地位のある男を捕まえるんだ。(いけるわ、だって私には自慢の美貌があるもの)そのような思いから学生時代、萌子は様々な男と交際した。学内一の美女と呼ばれた萌子は男に困ったことなんて一度もなく、何もしていなくても男が寄ってくるほどだった。自分は周囲にいる全ての女よりも勝っている。略奪だって気にすることなくやってのけた。そのせいで一部の女子生徒からはかなり嫌われてしまったが。何とも思ってない人から嫌われたところで別にどうだってよかった。何より彼女には守ってくれる多くの男がいたからだ。(気に入らないやつは一度痛い目を遭わせればいいわ)そんな彼女の目の前に、ある日一人の女が現れた。「ねぇ、彼女すごく綺麗じゃない?まるで芸能人みたい!」大学に入学してから少しして、萌子は噂に聞いていた彼女と出会った。彼女は同じ女である萌子から見てもとても美しい人だった。
「美里、体は平気か?」「宗助」その日の夜、宗助が美里の元を訪れた。彼は彼女の傍までそっと歩み寄ると、その華奢な肩を優しく抱いた。彼の腕に包まれると、とても安心することができる。この世の全てから、彼が守ってくれるようなそんな気がして。「もう大丈夫そうよ、普通に外も出れるわ」「油断は禁物だ……萌子が何をするかわからないし」宗助は心配性だった。主に美里のことになると、だが。美里は宗助の腕に抱かれたまま、呟いた。「萌子さんは……どうしてあそこまで変わってしまったのかしら……」「……」美里はどうしても理解できなかった。何故、穏やかで上品だった萌子があんな風になってしまったのか。彼女が宗助と付き合っていた頃の記憶を全て掘り起こしたが、あのような彼女は出てこなかった。美里の言葉を聞いた宗助が、彼女を抱きしめる腕に力を込めた。「……人間の本質なんてそう簡単には変わらないものだ」「なら……」「最初から……萌子はああいう人間だったんだ……」宗助が悲しそうに呟いた。(最初からああいう人間……たしかにその通りだわ)一時は萌子に罪悪感すら感じていた。本来彼女がいるべきその場所を、自分が奪ってしまったようなそんな気がして。だけど、彼女がそういう人間であるのならば罪の意識を感じる必要はない。(何の迷いもなく……萌子を裁きにかけることができる……)宗助も昔の恋人を断罪する覚悟が決まっているのか、力強い目で前を向いていた。じっと部屋の中で抱き合っていたそのとき、突然宗助のスマホの着信が鳴った。ポケットからスマホを取り出した宗助は、相手を確認するとすぐに電話に出た。「しゃ、社長!大変です!」「どうした?」「――今野萌子が忽然と姿を消しました!」その一言に、宗助は眉をひそめた。「……何だと?」「も、萌子がいなくなったですって!?」宗助はどういうことかと説明を促した。「そ、それが……突然邸宅からいなくなり、その後姿が見えないそうです」「一体お前たちは何をしているんだ!」「も、申し訳ございません!」宗助は怒声を上げた。彼は美里が拉致されてからというもの、ずっと萌子の監視を部下に命じていた。「すぐに探し出せ……あの女は何をするかわからない……」「承知いたしました!」宗助はそれだけ命じると、電話を切った。「萌子がいなくなったの?」「あぁ…
家を飛び出した萌子は一目散にある場所へと向かっていた。心の中にはさっきと変わらず、美里と宗助への憎しみが渦巻いていた。かつて心から愛した宗助ですら、今は憎悪の対象だった。(そうよ、全てあの男のせいよ……あの男が変わってしまったからだわ……!)萌子は自分に冷たくする男が昔から嫌いだった。こんなにも美しく、頭の良い私を嫌うだなんてありえない。本気でそう思っていたからだ。美里と宗助には必ず、痛い目を遭わせてやる。萌子は一度決めたことは必ずやり遂げる女だった。萌子は住宅街をしばらく走り続け、ある大豪邸の前で足を止めた。息を整えながらインターホンを鳴らし、中から人が出てくるのを待った。それから少しして、彼女と同い年くらいの若い男が姿を現した。「――市原君!」「……萌子?」男の姿を見るなり、萌子は彼に抱き着いた。彼はいきなり自身の胸にしがみついた彼女にギョッとしながらも、その体を受け止めた。照れたように彼の頬が赤くなる。萌子は彼の胸ではらはらと涙を流した。「市原君、助けてほしいの!」「どうしたんだ、萌子?」彼は萌子の背中にそっと手を置いた。彼は弟の修人の友人で、萌子とも面識があった。「萌子、一体何があったというんだ……」「……」萌子は彼に気付かれないようにそっと口角を上げた。ずいぶんと歪んだ笑みだった。(ホンット、男ってちょろいわ……)彼が萌子を愛しているということは、萌子自身がよく知っていた。自分を気に入った男たちが、ちょっとお願いすれば何でも聞いてくれるということも。萌子は顔を戻し、彼を見上げた。「私、永山美里に命を狙われているの……」「な、何だと!?」衝撃的な話に、彼は思わず声を上げた。「ここだけの話……美里と宗助は婚約中なの……でもあの女は宗助の昔の恋人の私のことが気に入らないみたいでね……」「……」彼は驚いた表情で萌子の話を聞いていた。美里と宗助のことはもちろん知っていた。萌子と付き合っている宗助を羨ましく思ったことも一度や二度ではなかった。彼は初めて彼女と出会った頃――実に十年近く前から一途に萌子を想い続けてきた。だからこそ、彼女の泣く姿に耐えられなかった。「宗助も未だに私を愛しているようで……私を拉致しようとしているの。あの二人がいたら私……何されるか……」「萌子……」彼は萌子を可哀相だと思い、抱きしめた。
「ど、どういうことだ……」海星は反射的にドアを閉めそうになったが、警察がそれを手で阻止した。ドアをガッチリと押さえ、彼に逃げ場を与えない気だ。六年前の事件について再捜査を始めたということは聞いていたが、こんなにも早く俺に辿り着くだなんて。海星の握りしめた拳がプルプルと震え始めた。ここまで余裕がなくなるのは初めてかもしれない。警察はそんな彼を見ても、表情を変えずに言い放った。「……署までご同行願えますか?」「……」海星に最初から拒否権はなかった。彼は諦めたようにガックリと肩を落とし、警察について行った。***「ちょっと、海星ったら!どうして連絡がつかないのよ!」彼が警察に連れて行かれた頃、萌子は一人部屋で焦っていた。海星にどれだけ連絡しようとしても、一向に繋がらないのだ。(私を無視する気?私の弱みを握っているからって、偉くなったのね!)萌子は呆れたようにスマホを放り投げた。美里襲撃は失敗したし、海星とは連絡がつかないし。何だか最近全てがうまくいっていないような気がする。萌子はドサッとベッドに仰向けに寝転がった。(海星にアイツを消してほしいってお願いしたのはいいけど……私がやったってバレたら……)そのとき、ふとテレビに映っていた記者会見に目を留めた。「何よ……どういうこと……?」聞き覚えのある名前に、萌子は思わず見入った。久間田警視総監とは、まさに海星の父親だ。萌子は慌てて先ほど投げたスマホを拾い、ネットニュースを見た。「辞職ですって……?逮捕の可能性も……?」それに加え、六年前の事件についても公になっていた。遺族の強い願いで再捜査することになったのだという。萌子は焦りの色を隠すことができなかった。嘘よ、こんなの信じない。連絡がつかないということは、海星はもしかして――萌子の脳裏に、最悪の事態がよぎった。このまま海星と自分が捕まれば、美里と宗助は完璧な幸せを手に入れるだろう。自分たちはどん底に落ち、あの二人はその裏で幸せを享受する。彼女の頭に、美里と宗助の笑い合う姿が浮かび上がった。(いや……そんなこと絶対にあってはならないわ……)萌子は気を取り直した。そんなのは絶対に認められない。私の全てを奪ったあの二人が、幸せになるのを見過ごすわけにはいかない。(どうせ捕まるのなら……最後にあの二人に一泡吹かせてやらないと……)
数日後、警視庁のトップが緊急記者会見を開き、今回の件について弁明した。警察は身内の不祥事を庇う傾向にあるけれど、今回ばかりはさすがに擁護はできなかったようだ。久間田警視総監は辞任することが決まった。しかし、それでもまだ人々の非難は収まらないのだという。海星のやってきたことを考えれば当然だった。週刊誌の記事には、六年前の事件についても掲載されていた。海星が深く関与し、彼の父親が隠蔽したであろうあの事故。そして、警視庁の長官は記者会見でしっかりと言った。――六年前の事故について、再捜査すると。父親がその座から退いた今、海星はきっと捜査の手から逃れることができないだろう。悪事を働いた者は、必ず報いを受けるのだ。***「クソがッ!!!どういうことだ!?」その頃、海星は家でテレビを見ながら震えていた。動揺を隠しきれないようで、声を荒らげながら机を拳で叩いた。「六年前のあの事件が今になって再捜査だと!?こんなのは馬鹿げている!」海星は怒りを露わにしたが、このときかなり焦っていた。あの事件のことは後悔していた。殺すつもりは無かったし、被害者の男子生徒に対する後ろめたさだってあった。しかし、時間が経つと人は忘れるものだ。六年の年月が流れ、彼の記憶からあの事件のことが消えていた頃だった。海星は週刊誌のページをビリビリッと破り捨てた。顔を手で押さえ、何度も深呼吸を繰り返した。――捕まったり、しないよな……?呆れたことに、彼は自身の保身しか考えていなかった。海星は震える手で父親に電話をかけた。「親父……頼むよ……どうにかしてくれよ……親父ならあの事件をもみ消すことくらいどうだってことなかったはずだろ?」「……私はもう警察を辞めた。お前はやりすぎたんだ。いつまでも親に頼っていないで、あとのことは自分でどうにかしろ」父親は自分のことで手一杯なようで、海星にかまっている時間はないようだ。彼は悔しさで唇を噛んだ。今からでも証拠は全て捨てておかなければならない。元凶となった萌子との縁も切っておくべきか。彼は悩んだ末に、彼女の連絡先を携帯から削除した。これで仮に自分が捕まったとしても、萌子にまで捜査の手が及ぶことはない。最後に萌子を庇おうとしているのは、かつて心から愛した女だからだろうか。彼女に対する未練はもうないと思っていたが、どうやらまだ捨てられなかった







