Share

第4話

Auteur: みそ煮
last update Date de publication: 2026-02-09 19:13:07

「ええ!?宗助との婚約を破棄するだって!?急にどうしたんだよ、美里」

「もう決めたことなの」

母親に婚約破棄を打ち明けた翌日、美里は近所のカフェで親友の萩田流星(はぎたりゅうせい)に会っていた。流星は美里のもう一人の幼馴染であり、彼女の気の置けない友人だった。彼は当然、小中学校の同級生だった宗助のこともよく知っていた。

だからこそ、美里の決断に驚きを隠せなかった。

「美里、お前あれほど宗助のこと好きだっただろ。喧嘩でもしたのか?」

「……そういうわけじゃないのよ。知っているでしょう?宗助が愛しているのは今も昔も今野萌子ただ一人だということを」

「……」

そして彼は今野萌子とも面識があった。宗助と萌子の仲をよく知っていた。

「まぁ、お前が決めたことなら反対しないけどさ」

「あなたならそう言ってくれると思ったわ」

美里は嬉しそうに笑った。

「流星は恋人とかいないの?」

「俺は親父の会社継ぐために忙しいんだ。彼女作ってる暇なんてねえよ」

「そう、あなたならすぐにできそうだけど」

流星は見た目も良いうえに、萩田家の御曹司だった。萩田家は城田家ほどではないにしろ、かなり名の通った資産家の一族だった。女子人気もそこそこあったはずだが、その年になって彼女の一人もいないなんて。

「彼女ができたら紹介してね、流星に相応しい相手かどうか私が確認してあげるから」

「……お前は昔から心配性だな。まるで俺の母親みたいだ」

「あら、心配するのは当然でしょう?流星は私にとって大切な友達なんだから」

「友達……か」

流星がボソッとつぶやいた。

「何か言った?」

「いや、何でもない」

流星はいつもの笑顔に戻ると、突如真剣な顔で話し始めた。

「ところで婚約破棄の件、両親には言ってあるのか?」

「お母さんには話してあるわ。お父さんもきっと反対しないと思う。問題は……」

「宗助のご両親……ってところか」

「そうね」

宗助が婚約破棄を渋るとは思えなかったが、社長夫妻の考えは違う。夫妻は一般庶民の萌子を嫌っていたこともあり、永山家の令嬢である美里との結婚をとても喜んでいた。

今思えば、全て彼らが元凶だった。夫妻が最初から宗助と萌子の結婚を認めていれば、美里は無意味な期待を抱いて辛い思いをすることはなかったのだから。その点でいえば、宗助や萌子も被害者だった。そのことを考えると、とても複雑な気持ちになった。

「婚約破棄するにあたって宗助のご両親を説得するのは避けては通れない道よ。私が何とかするわ。こんなことにほかの人を頼るわけにはいかないもの」

「美里……」

流星が机の上に置かれていた美里の手に触れた。

「お前は昔から一人で頑張りすぎなんだよ」

「流星……」

「俺は今野萌子が大学からいなくなった後、どれだけお前がアイツを励まそうと努力していたか知っている」

「……」

大学二年生の頃、両親によって今野萌子と別れさせられた宗助は、愛する女性を失って憔悴していた。美里はそんな彼を励ますためにありとあらゆる手を尽くした。

しかし、美里ではやはり萌子にはなれなかった。それでも美里は諦めず、萌子をどうにかして白羽区に戻そうともしたが、彼女の力ではどうすることもできなかった。

「美里、何かあったら俺に言え。俺にできることなら何だって協力してやるから」

「流星……」

「俺はあいつとの婚約破棄、賛成だからな」

「ありがとう、流星」

美里は流星の手を握り返すと、にっこりと笑った。あの頃と違い、彼女は一人ではなかった。優しい両親に、頼れる親友までいる。

前世では宗助のことしか見ていなくて気付かなかったのだ。

自分はとても恵まれているのだということを美里は実感した。あっという間に時間が過ぎ、カフェから立ち去る美里の後ろ姿をじっと見つめていた流星がぽつりとつぶやいた。

「……おかしいな、宗助は今野萌子のことなんかとうに忘れて美里のことを愛していると思っていたのに」

そのつぶやきは誰にも聞き取られることなく、消えていった。

***

家へ帰った美里は、スマートフォンに宗助からのメッセージが届いていたことに気付いた。

内容は結婚指輪についてだった。いつ頃なら空いているか、どこで買うか、など、淡々とした内容のメールだった。

美里は返信に悩んだ。当然だ、彼女は今世では宗助と結婚するつもりなど微塵もないのだから。

「今思えば、愛してもいない相手と結婚だなんて変な話ね」

美里は結局、宗助からのメールに返信しなかった。これまで、彼からのメールは届いた瞬間すぐに返事をしていた。ちょっとでも遅れると、彼が愛想を尽かしてしまうのではないかと心配で。

しかし今はもうそんな心配をする必要もなかった。宗助のために生きるのはやめたのだ。

「そういえば、もうすぐ中学校の同窓会があったわよね?」

前世、結婚の準備で忙しかった美里は、中学校の同窓会に参加することができなかった。宗助も似たような理由で参加しなかったはずだ。まぁ、彼の場合はただ行くのが面倒なだけだったという可能性もあるが。

「……久しぶりだし、行ってみようかしら」

美里は同窓会に着て行くドレスを選びに、再び家を出た。

Continuez à lire ce livre gratuitement
Scanner le code pour télécharger l'application

Latest chapter

  • 今世は貴方を愛さないと誓ったのに、何故縋りついてくるのか   第127話

    萌子の弟の修人とは、前に二度会ったことがある。約束して会ったわけではなく、偶然のことだった。そのため、二人は特別仲が良いというわけではない。少なくとも二人の間には、友人のような気軽さはなかった。「お久しぶりです、美里さん」「ええ、今野さん」美里は目の前にいる修人の顔をじっと見つめた。やっぱり、いくら見ても萌子と似ているところが全くない。言われなければ誰も姉弟だとは気付かないだろう。実際、美里も彼らに血の繋がりがあるとは思ってもみなかった。「美里さん……姉が迷惑をおかけしました」「……気にしないでください、今野さん……いえ、修人さんがそのように思う必要はありません」美里は修人に優しく声をかけた。今回の一件に修人は無関係だ。彼は萌子の企みなんて何も知らなかったに違いない。その点で言えば、彼もまた被害者だった。萌子が捕まったことにより、犯罪者の家族という汚名は永遠について回ることとなる。彼女の犯した罪の責任を取らなければならない日も、もしかすると来るかもしれない。修人はどのような判断を下すのだろうか。自分の将来のことを考えれば、彼女とはキッパリ縁を切ってしまったほうがいいはずだ。しかし、彼の口から出てきたのは予想外の言葉だった。「僕は……姉さんを見捨てる気はありません」「……本気で言っているのですか?」理解できないというような美里に、修人は頷いた。「美里さんには本当に悪いことをしてしまったと思います……ですが、姉さんは僕にとってたった一人の姉で……家族に変わりはありませんから」「修人さん……」修人は自身の過去についてを語り始めた。「僕たちの母は……気が強く、過干渉な人でした。それが他人を傷つけていい理由にならないことはわかっています。ですが、そのような母の教育方針が姉さんを変えてしまったのだと思います」「……そうだったんですね」愛に溢れた家庭で育った美里には、萌子の辛さなんて理解できない。ただ、彼女も苦しんでいたのだろう。「――今日は美里さんに、そのことに対して許しを得るためにここへ来たんです」「……どういうことですか?」目の前で膝をついて彼女を見上げた修人に、美里は目を見張った。「前に、一つだけ願いを叶えてほしいと言いましたよね?僕があなたに危害を加えようとした姉さんを見捨てないこと、時々は面会に来ることを……どうか許してくだ

  • 今世は貴方を愛さないと誓ったのに、何故縋りついてくるのか   第126話

    死ぬことが贖罪になるわけではない。彼女が死んだところで、亡くなった被害者が帰ってくることは無いのだから。少なくとも、美里はそう思っていた。「……そうね、あなたはこれから一生自らの行いを後悔して生きていくべきだわ」「あなたからそんなことを言われるだなんてね」萌子は表情を変えずに美里をじっと見つめた。不思議と、そこには以前感じていた憎悪や妙な違和感のようなものは見えなかった。萌子は本当に変わったというのか。誰よりもプライドの高いあの萌子が?美里はすぐには信じられなかった。今目の前にいる彼女は全て演技であり、本当は全く別のことを頭の中で考えているのかも……と探るような目で彼女を見た。そんな視線の意味を萌子も感じたのだろう、不快そうに眉を上げた。「私、あなたのことがとっても嫌いだったわ」萌子が美里の目を見つめて言った。彼女が自分を毛嫌いしていることは以前から感じていたため、美里は特に何とも思わなかった。「私と違って全てを持ち合わせているあなたがすごく羨ましかったの。だからあなたが彼と笑い合っている姿を見て耐えられなかった。地に落ちてほしい……とずっと思っていたわ」「……」初めて語られる萌子の本心。一体いつからそのような気持ちを抱いて美里に接していたのか。美里は気になったが、それ以上は聞かなかった。その代わりに、お返しとでもいうかのように、彼女もまた本音をさらけ出した。「私もあなたのことが嫌いだったわよ。ポッと出のあなたが宗助の傍にいるということが不愉快だったわ、とってもね」「ふふ、お互い様ね」萌子は嬉しそうに笑った。いつものような貼り付けた笑みではなく、心からの笑顔だった。ここまでどん底に落ちてもなお、そのような笑顔を見せるとは。やはり、本当に彼女は変わったようだ。「最後にあなたの本当の気持ちを知れたことだし……私はそろそろ帰るわ」「私も最後にあなたと話せてよかったわ」美里は席から立ち上がり、座ったままの萌子に背を向けた。彼女が部屋から出ようとしたそのとき、背後から萌子のか細い声が耳に入った。「……たくさん迷惑かけてごめんなさい」「……萌子」美里はその言葉に反応することも振り返ることもなく、部屋から出て行った。最後に余計な情を残したくなかったのだ。ただ、彼女がこの先自らの行いを悔いてくれることを願うだけだ。面会室から出た美里は、あ

  • 今世は貴方を愛さないと誓ったのに、何故縋りついてくるのか   第125話

    数日後、萌子が勾留されたとの知らせを受けた。彼女の勾留から数日経ったあと、美里は彼女に会いに行った。美里にとって萌子は仇も同然の女だった。そんな女に最後に会うことを決めたのは、自分の手で全てを終わらせたかったからだろうか。美里自身、よくわからなかった。自分が彼女に何を望んでいるのか。萌子はまさに物語に出てくるような悪女だった。自らの美貌を利用し、他者を貶める。そんな悪女の末路としてはピッタリだ。宗助を外で待たせ、部屋に入ると、俯いて座る萌子が視界に入った。髪はボサボサで、眠れていないのか目の下にクマがあった。しかし、彼女はそれでも一般女性よりずっと美しかった。悔しいが、美里はそのことを認めた。「……」面会室に現れた美里の姿を見て、萌子は一瞬だけ目を見開いたあと、すぐに視線を下に落とした。気まずいのか、美里と一切目を合わせなかった。美里は彼女の正面に用意された椅子に座った。透明な仕切りを挟んで、彼女と向かい合った。こうやって彼女と向かい合うのは、萌子が白羽区に来たあの日以来かもしれない。(あのときは随分馬鹿な計画を立てていたわね……今では懐かしさすら感じるわ……)あの日、萌子と楽しくお茶をしたときの記憶が美里の脳裏によぎった。少なくとも、あのときの彼女の楽しそうな笑顔に嘘は無いように思えた。何があなたをここまで壊してしまったのか。宗助への未練?富や名誉に対する執着心?美里は俯く萌子を正面から見据えて口を開いた。「久しぶりね、萌子……」その一言に、彼女は頭を上げて美里を見た。焦点の合わない虚ろな目が、彼女を捉えた。「自分から警察に行ったって聞いたわ」「……」萌子は顔を上げたまま何も言わなかった。どうして急にそのような行動を取ったのか。聞いたところで彼女は何も言わないだろう。美里は萌子を嘲笑うように口角を上げた。「驚いたわ。あなたにそんな良心が残っていたのね」「……ええ、自分でも驚いているわ」「……何ですって?」萌子は美里とじっと目を合わせた。「ちょっと前までは、こんな風に惨めな暮らしをするくらいなら死んだ方がマシだと思ってた……」「……」「でもね……今は違う……何故かわからないけれど、今は死にたくないの……」萌子は視線を宙に彷徨わせながら言葉を続けた。「この状況になっても……死にたいとは思わない……自分がこんな感情を抱く

  • 今世は貴方を愛さないと誓ったのに、何故縋りついてくるのか   第124話

    ちょうどその頃、永山家では宗助が電話で誰かと話をしていた。美里はそんな彼の姿をベッドに座りながらじっと見つめていた。電話の相手はおそらく秘書だろう。萌子捜索の件で何か進展があったのかもしれない。萌子が行方不明になったと聞いてから、美里は落ち着かなかった。彼女がまた何か仕掛けてくるのではないかという不安はいつまでも美里の胸に残ったままだった。「……そうか、わかった」宗助は通話を終え、美里のほうを向いた。「美里、萌子が見つかったそうだ」「萌子が見つかった!?一体どこにいたというの?」美里は驚いて彼に尋ねた。どれだけ探しても消息を掴めなかった萌子が突然姿を現したのだから、驚くのも当然だ。「……警察署だ」「……警察署?」美里は口をあんぐりと開けたまま、聞き返した。「自分から警察に出頭したそうだ」「どうして急に……」「さぁ……逃げ切れないと思ったんじゃないか?」数日前、警視総監の不祥事が明らかになり、ついさっき海星が捕まったところだった。自分に捜査の手が及ぶのも時間の問題だと考え、自首したのかもしれない。(でも変だわ……萌子の性格上、そんなことをするとは思えない……)彼女ならどんな手を使ってでも逃げ切ると思っていた美里にとって、それは想定外のことだった。「それと、自首する間ずっと弟が付き添っていたそうだ」「弟……?」萌子に弟なんていたのか。美里はそのことを今初めて知った。少なくとも萌子と一年近く交際していた宗助は知っていたようだった。「今野修人って言うんだが……」「修人……?」聞き覚えのある名前に、美里はピクッと眉を動かした。「美里、知っているのか?」前にデパートで会ったあの青年。今野という白羽区ではありがちな苗字のせいで気が付かなかった。萌子と血縁関係にあったのか。「えぇ……前にたまたま外で会ったことがあったの。大切なものを落としたときに拾ってくれてね……特別仲良くしているわけではないけれど……」「そうだったのか……」あのときの人当たりのよさそうな好青年が萌子の弟だったのか。外見含め、彼女とは全く似ていなかったため美里は少し驚いた。「萌子は今警察署にいるのね?」「あぁ、あのようなことをしたんだ。彼女もただでは済まないだろう」「そうね……」美里は大学時代に見た萌子の姿を思い浮かべた。周囲にいる誰よりも美しく、誰より

  • 今世は貴方を愛さないと誓ったのに、何故縋りついてくるのか   第123話

    修人はロープを木の枝にかけようとしている萌子に駆け寄ると、彼女の体を抱きしめた。弟の体が小刻みに震えていることに気付いた彼女は、驚きを隠せなかった。「修人……?」「姉さん、馬鹿なことはやめてくれよ!」「どうしてあなたが……」修人は萌子から体を離すと、涙を流して彼女を見つめた。萌子は二度目の衝撃を受けた。修人とは姉弟とはいえ、性格が正反対のせいかそりが合わず、昔から喧嘩ばかりしていた。そんな彼のことだから、私が死んだところで何とも思わないと思っていたのに。「……遺書を読まなかったの?」「やっぱり遺書だったんだな……姉さん、死ぬつもりだったのか」修人は責めるような目で萌子を見た。「市原から全部聞いたんだよ……姉さんがアイツに何を頼んだのか」「市原君が……」萌子が最後に願いを託した相手は、彼女の計画には乗らなかったようだ。このとき初めて知ったことだったが、実は彼は既に萌子のことを過去だと割り切っており、新しく好きな女性ができていたのだ。そんな彼が、彼女の馬鹿げた頼みなど聞き入れるはずがない。萌子は全て失敗したことを悟った。「そのときに最後のお願いって言ったんだろ?市原がお前の様子が変だって俺に電話してきたんだ」「……」修人は何とか萌子を捜し出し、ここまでやって来た。彼は萌子の肩を掴んで揺さぶった。「姉さん、頼むから馬鹿なことはやめてくれよ」「あなた、私が何をしたのか知らないの?――私は殺人者よ。海星が捕まった今、私の罪もすぐに明らかになるわ」「……」修人は黙ったまま萌子の話を聞いていた。弟である彼にとっては、かなりキツい内容だろう。しかし、修人は動じることなく意外な反応を示した。「……知っていたよ、姉さん。姉さんが寝言であの事故のことをブツブツ喋ってたからさ……」「な……う、嘘でしょう……?」萌子と海星が墓場まで持って行くつもりだったことは、弟の修人には隠せていなかったようだ。「姉さん、姉さんは昔から大きくなったらお金持ちと結婚するだの何だの言ってただろ?覚えてるか?」「……」萌子は一般家庭に生まれ、周囲のお金持ちを羨んできた。そのせいか、幼い頃からかなり金に執着していたのを修人はよく知っている。「裕福じゃなくてもさ、家族で幸せに暮らせていければそれでいいんじゃないのか?」「修人……」「お金があるからって幸せだとは

  • 今世は貴方を愛さないと誓ったのに、何故縋りついてくるのか   第122話

    「アイツ……アイツのせいで全て壊れてしまったんだわ……!」萌子の父親が自動車事故を起こし、宗助との関係が終わったとき、彼女は家族を憎んだ。やっとあの人たちから離れて完璧な幸せを手に入れられると思っていたのに。そして、憎しみの対象は城田夫妻や、関係のない美里、宗助にまで及んだ。今自分がこんなにも惨めな暮らしを送っているのは全てアイツらのせいだ。そうに違いない。「アイツらだけが最後に笑うだなんて絶対に許さないわ……どうせ地獄に落ちるなら……誰か一人でも道連れにしないとね……」萌子は森の中で一人不気味な笑みを浮かべた。まだ昼だというのに、白羽区にあるこの森は暗く影を落としていた。まるで萌子の今の心境を表しているかのようだった。彼は木の葉の隙間から見える青い空を見上げた。「思えば、最初からこんなドブみたいな人生だったわね……」萌子は森の中で幼少期の記憶に思いを馳せた。両親がいて、弟がいて、祖父母がいた。あの頃は何も考えていなかった。もしかすると、幸せだったのかもしれない。今ではあまりよく思い出すこともできないが。母親はたしかにキツい性格だったが、萌子に勉強を教えてくれたりもした。料理が得意で、彼女の好きなものをよく作ってくれた。父親は気が弱くいつもオドオドしていたが、休みの日は必ず萌子たちをどこかへ連れて行ってくれた。叱られたことなんて一回も無いのではないだろうかと思うほど、穏やかな人だった。弟の修人は父に似た、優しい性格だった。いつも姉である萌子のことを心配し、家族内で最も彼女を気遣っていた。「……」萌子の手が止まった。家族のことを思い浮かべると、何だか複雑な気持ちになった。萌子は捕まって惨めな女として生きるくらいなら、ここで全てを終わらせようと思っていた。しかし、今になって生への未練が出てくるのか。ちょうどスマホを開くと、海星が捕まったというニュースが報道された。警察のトップが長い間ずっと隠蔽してきた身内の不祥事に、人々は注目した。容疑者として連行される海星の写真が掲載されていた。こんな風になるくらいなら萌子は死んだほうがマシだ、と彼を嘲笑った。「……そうよ、全部終わらせるべきだわ」萌子は何かを決意したかのように、懐から買っておいたロープを取り出した。修人には遺書を残しておいた。我儘で傲慢でどうしようもない姉だったが、彼のことは大

Plus de chapitres
Découvrez et lisez de bons romans gratuitement
Accédez gratuitement à un grand nombre de bons romans sur GoodNovel. Téléchargez les livres que vous aimez et lisez où et quand vous voulez.
Lisez des livres gratuitement sur l'APP
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status