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第2話

Author: みそ煮
last update publish date: 2026-02-08 00:29:42

数日後、ある人物が家を訪れた。

「ど、どうしてあなたがここに……」

扉の前にいる人物に、美里は驚きを隠せなかった。

「……今野さん」

「お久しぶりです、永山さん。いえ、今は城田さんになったんでしたね」

「……」

美里の悩みの種、今野萌子だった。

「私の話はもう聞いていると思います。しばらくは白羽区で過ごすことになりました」

「ええ、伺っています」

「ご挨拶もかねて、お菓子を持ってきたんです。よかったら一緒にお茶でもしませんか?」

「……」

美里は萌子とお茶をするどころか、家にすら入れたくなかった。

大学時代から、萌子は他人に対しての距離感が異常なほど近い人だった。

普通は、元カレの妻になど会いたくないと思うものではないのだろうか。萌子の考えがわからなかった。

しかし、追い返して宗助に泣きつかれでもしたら困る。

結局美里は、萌子を家に入れることを決めた。

「私がいない間に、宗助と結婚したと聞きました」

「ええ、そうですね」

まるで元々その席は私のものだったのだと言っているかのようだった。

「おめでとうございます」

「ありがとうございます」

口元には笑みを浮かべていたが、目は笑っていなかった。

「そういえばこの間、宗助に会ったんですけど……」

「……」

「元気そうで安心しました。私がいなくなった後の彼のことが心配だったので……」

まるで宗助が自分なしでは生きていけないとでもいうかのような言い方だ。

いくらあなたが妻になったとはいえ、愛されているのは自分だと、遠回しに言われたかのような気分になった。

美里はそんな彼女ににっこりと笑いかけた。

「ご心配なさらないでください。宗助は元気にやっていますよ」

「……そうですか」

萌子が眉をピクリとさせた。

いくら宗助が萌子を愛しているとはいえ、本妻は美里だ。それだけは変わらない事実だった。

「籍を入れたのはいつ頃ですか?」

「一年くらい前です」

「まぁ、結構最近だったんですね。その間は故郷にいたもので、お二人の結婚のことを全く知りませんでした」

萌子は驚いたように目を見開いた後、呟いた。

「あと一年早ければ……」

「え?」

「いえ、何でもありません」

萌子はいつもと変わらない優雅な笑みを浮かべた。

「あまり長居するわけにもいかないので、今日はこれで失礼します。大学もあるので……」

「そうでしたね」

萌子は既に美里と宗助が卒業した難関私立大学に通い始めている。色々と忙しいのだろう。

「美里さんとお話できて楽しかったです」

「こちらこそ」

最後に握手を交わすと、美里は邸から出て行く萌子を見送った。

彼女に会うと、とても複雑な気持ちになった。

ここにいるのは自分ではなく、萌子のほうが相応しいのではないか。嫌でもそのような感情を抱いてしまうからだ。

扉の前で動けずにいると、家政婦が慌てた様子で美里に声をかけた。

「奥様!」

「どうかしたの?」

「社長より伝言です……今後のことで話があるからすぐに会社へ来てくれと」

「……宗助が?」

彼がこんな昼間に美里を呼び出すのは初めてのことだった。

「……すぐに行くわ」

美里は車に乗り、宗助の経営する会社のオフィスへと向かった。

宗助の会社に到着した美里は、急ぎ足で彼の元へと向かっていた。

「ふ、夫人……?どうしてこちらへ……?」

「宗助に用があるの、通してちょうだい」

「社長は今外出中です」

「……何ですって?」

人を呼び出しておいて外出中とは一体どういうことなのか。

美里は怒りを覚えながら来た道を戻っていた。帰ったら一言言ってやろう。

そんなことを考えながら歩いていたそのとき、後頭部の痛みと同時に美里の視界は暗転した。

薄れゆく意識の中で、自分に手を伸ばす誰かの姿を最後に、美里は意識を失った。

そのときになって、美里はようやく宗助の名を騙る何者かの罠に嵌められたのだということに気が付いた。

***

目を開けると、どこかの建物の地下にいた。

両手を縛られ、思うように動けない。美里は拉致されたのだった。

「やっとお目覚めか」

「あなたは……」

―「久しぶりだな、義姉上」

そんな彼女の目の前に現れたのは城田家の次男であり、宗助の実の弟・城田宗真だった。

「あなた、どうしてこんなことを!バレたらただじゃ済まないわ!」

その言葉に、宗真は面白そうに笑った。

「義姉上、どうやら自分の立場を理解していないようだな」

「うっ……!」

宗真は美里の腹部を思いきり蹴り上げた。美里は衝撃で後ろに倒れ、あまりの痛みにうずくまった。

美里は驚きを隠せなかった。

宗真は優秀な兄に比べて影が薄かったが、ここまで暴力的な人ではなかったからだ。

宗真は倒れている美里を見下ろし、激しい暴行を加えた。

「ううっ……」

「兄貴が助けに来てくれるといいな」

「宗助の名を騙ったのはあなただったのね……」

「正解。俺は昔から兄貴のことが嫌いだった。だから全てを奪ってやりたいんだ」

宗真がにやりと笑ったそのとき、奥の扉から複数の男たちが姿を現した。

下卑た笑みを浮かべて美里を見つめる男たちに、宗真は短く指示を出した。

「可愛がってやれ」

それから美里は三日間にわたり、激しい暴力を受け続けた。

殴る蹴るはもちろん、時には性的暴行まで……。あらゆる辱めに耐えなければならなかった。

それを宗真はすぐ傍で笑いながら見ていた。

三日目には身も心もズタボロだった。それでも美里は宗助が助けに来るのを待ち続けた。

「宗助は私を見捨てたりしないわ……きっと助けに来てくれるはずよ……」

その言葉に宗真は声を上げて笑った。

「お前、本当に馬鹿だな」

「あなたに宗助の何が分かるのよ……」

―「お前、今野萌子を白羽区に呼び戻した張本人が兄貴だって知らねえの?」

「え……」

呆気にとられる美里をよそに、宗真は話し続けた。

「兄貴、相当あの女に惚れこんでたようだな。親父が死ぬやいなやすぐに今野を白羽区に迎え入れる準備してたし。何ならあの女が住んでるマンションの家賃も大学の学費だって全部兄貴が負担してるんだぜ?」

「……」

そんな、嘘だ、そんなはずがない。真実を知った美里の目から涙が零れ落ちた。

「兄貴、お前がいなくなったのをいいことにそのまま今野と入籍するんじゃね?つまらないな、こんなことになるんだったら最初から今野のほうを狙っとけばよかったな」

あまりのショックで、宗真の聞くに堪えない戯言は耳に入ってこなかった。

だからいつまでたっても助けにこなかったのか。

宗助は最初から萌子と結婚するために彼女を白羽区に呼んだんだ。ようやく合点がいった。

真実を全て知ったときには、既に美里の体は限界を迎えていた。

だんだんと意識が薄れていき、瞼が重くなる。

死の間際、宗助と萌子の幸せそうな顔が脳裏に浮かんだ。

ああ、もしやり直せるのなら―今度は絶対に宗助を愛したりなんてしない。

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