Mag-log in数日後、ある人物が家を訪れた。
「ど、どうしてあなたがここに……」
扉の前にいる人物に、美里は驚きを隠せなかった。
「……今野さん」
「お久しぶりです、永山さん。いえ、今は城田さんになったんでしたね」
「……」
美里の悩みの種、今野萌子だった。
「私の話はもう聞いていると思います。しばらくは白羽区で過ごすことになりました」
「ええ、伺っています」
「ご挨拶もかねて、お菓子を持ってきたんです。よかったら一緒にお茶でもしませんか?」
「……」
美里は萌子とお茶をするどころか、家にすら入れたくなかった。
大学時代から、萌子は他人に対しての距離感が異常なほど近い人だった。
普通は、元カレの妻になど会いたくないと思うものではないのだろうか。萌子の考えがわからなかった。
しかし、追い返して宗助に泣きつかれでもしたら困る。
結局美里は、萌子を家に入れることを決めた。
「私がいない間に、宗助と結婚したと聞きました」
「ええ、そうですね」
まるで元々その席は私のものだったのだと言っているかのようだった。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
口元には笑みを浮かべていたが、目は笑っていなかった。
「そういえばこの間、宗助に会ったんですけど……」
「……」
「元気そうで安心しました。私がいなくなった後の彼のことが心配だったので……」
まるで宗助が自分なしでは生きていけないとでもいうかのような言い方だ。
いくらあなたが妻になったとはいえ、愛されているのは自分だと、遠回しに言われたかのような気分になった。
美里はそんな彼女ににっこりと笑いかけた。
「ご心配なさらないでください。宗助は元気にやっていますよ」
「……そうですか」
萌子が眉をピクリとさせた。
いくら宗助が萌子を愛しているとはいえ、本妻は美里だ。それだけは変わらない事実だった。
「籍を入れたのはいつ頃ですか?」
「一年くらい前です」
「まぁ、結構最近だったんですね。その間は故郷にいたもので、お二人の結婚のことを全く知りませんでした」
萌子は驚いたように目を見開いた後、呟いた。
「あと一年早ければ……」
「え?」
「いえ、何でもありません」
萌子はいつもと変わらない優雅な笑みを浮かべた。
「あまり長居するわけにもいかないので、今日はこれで失礼します。大学もあるので……」
「そうでしたね」
萌子は既に美里と宗助が卒業した難関私立大学に通い始めている。色々と忙しいのだろう。
「美里さんとお話できて楽しかったです」
「こちらこそ」
最後に握手を交わすと、美里は邸から出て行く萌子を見送った。
彼女に会うと、とても複雑な気持ちになった。
ここにいるのは自分ではなく、萌子のほうが相応しいのではないか。嫌でもそのような感情を抱いてしまうからだ。
扉の前で動けずにいると、家政婦が慌てた様子で美里に声をかけた。
「奥様!」
「どうかしたの?」
「社長より伝言です……今後のことで話があるからすぐに会社へ来てくれと」
「……宗助が?」
彼がこんな昼間に美里を呼び出すのは初めてのことだった。
「……すぐに行くわ」
美里は車に乗り、宗助の経営する会社のオフィスへと向かった。
宗助の会社に到着した美里は、急ぎ足で彼の元へと向かっていた。
「ふ、夫人……?どうしてこちらへ……?」
「宗助に用があるの、通してちょうだい」
「社長は今外出中です」
「……何ですって?」
人を呼び出しておいて外出中とは一体どういうことなのか。
美里は怒りを覚えながら来た道を戻っていた。帰ったら一言言ってやろう。
そんなことを考えながら歩いていたそのとき、後頭部の痛みと同時に美里の視界は暗転した。
薄れゆく意識の中で、自分に手を伸ばす誰かの姿を最後に、美里は意識を失った。
そのときになって、美里はようやく宗助の名を騙る何者かの罠に嵌められたのだということに気が付いた。
***
目を開けると、どこかの建物の地下にいた。
両手を縛られ、思うように動けない。美里は拉致されたのだった。
「やっとお目覚めか」
「あなたは……」
―「久しぶりだな、義姉上」
そんな彼女の目の前に現れたのは城田家の次男であり、宗助の実の弟・城田宗真だった。
「あなた、どうしてこんなことを!バレたらただじゃ済まないわ!」
その言葉に、宗真は面白そうに笑った。
「義姉上、どうやら自分の立場を理解していないようだな」
「うっ……!」
宗真は美里の腹部を思いきり蹴り上げた。美里は衝撃で後ろに倒れ、あまりの痛みにうずくまった。
美里は驚きを隠せなかった。
宗真は優秀な兄に比べて影が薄かったが、ここまで暴力的な人ではなかったからだ。
宗真は倒れている美里を見下ろし、激しい暴行を加えた。
「ううっ……」
「兄貴が助けに来てくれるといいな」
「宗助の名を騙ったのはあなただったのね……」
「正解。俺は昔から兄貴のことが嫌いだった。だから全てを奪ってやりたいんだ」
宗真がにやりと笑ったそのとき、奥の扉から複数の男たちが姿を現した。
下卑た笑みを浮かべて美里を見つめる男たちに、宗真は短く指示を出した。
「可愛がってやれ」
それから美里は三日間にわたり、激しい暴力を受け続けた。
殴る蹴るはもちろん、時には性的暴行まで……。あらゆる辱めに耐えなければならなかった。
それを宗真はすぐ傍で笑いながら見ていた。
三日目には身も心もズタボロだった。それでも美里は宗助が助けに来るのを待ち続けた。
「宗助は私を見捨てたりしないわ……きっと助けに来てくれるはずよ……」
その言葉に宗真は声を上げて笑った。
「お前、本当に馬鹿だな」
「あなたに宗助の何が分かるのよ……」
―「お前、今野萌子を白羽区に呼び戻した張本人が兄貴だって知らねえの?」
「え……」
呆気にとられる美里をよそに、宗真は話し続けた。
「兄貴、相当あの女に惚れこんでたようだな。親父が死ぬやいなやすぐに今野を白羽区に迎え入れる準備してたし。何ならあの女が住んでるマンションの家賃も大学の学費だって全部兄貴が負担してるんだぜ?」
「……」
そんな、嘘だ、そんなはずがない。真実を知った美里の目から涙が零れ落ちた。
「兄貴、お前がいなくなったのをいいことにそのまま今野と入籍するんじゃね?つまらないな、こんなことになるんだったら最初から今野のほうを狙っとけばよかったな」
あまりのショックで、宗真の聞くに堪えない戯言は耳に入ってこなかった。
だからいつまでたっても助けにこなかったのか。
宗助は最初から萌子と結婚するために彼女を白羽区に呼んだんだ。ようやく合点がいった。
真実を全て知ったときには、既に美里の体は限界を迎えていた。
だんだんと意識が薄れていき、瞼が重くなる。
死の間際、宗助と萌子の幸せそうな顔が脳裏に浮かんだ。
ああ、もしやり直せるのなら―今度は絶対に宗助を愛したりなんてしない。
それから萌子は城田家の御曹司である宗助からの猛アタックにより、彼と付き合うことになった。その間もずっと美里のことを意識していた。彼女は萌子にとって、唯一ライバルと呼べる女性だったからだ。自分と同じくらい美しい容姿に加え、自分には持ち合わせていない家柄まで。悔しかった。自分よりも勝っている女がすぐ近くにいるのは。しかし、そんな日々もすぐに終わりを迎えた。宗助と付き合い、彼の隣に立つようになってからというもの、美里の視線をよく感じるようになった。彼女は最初そのことを不思議に思っていたが、すぐに理解した。――あぁ、あの女は彼のことが好きなんだ。そういえば、城田家の御曹司と永山家のお嬢様は幼馴染だったっけ。萌子はだいぶ前にチラッと聞いた話を思い出した。美里は宗助と一緒にいる萌子に羨望の視線を向け、いつも彼らの後ろ姿ばかりを見つめていた。萌子はそんな彼女を見て優越感に浸った。――私、あの女に勝ったんだわ。あの女がどう頑張っても手に入れられなかったものを、私は手に入れた。その事実だけで心が満たされるような思いになった。それからというもの、萌子は行き過ぎた行動を取るようになった。『ねぇ宗助、美里さんっているでしょう?あなたの幼馴染の』『美里がどうかしたか?』『あの人を私に紹介してほしいわ』萌子の言葉に、宗助は眉をひそめた。『何故お前が美里に会う必要がある?』『宗助の大切な人なら、私も会いたいのよ!私はあなたの恋人だから』彼女は何とか彼を説得し、宗助は渋々萌子に美里を紹介した。『よろしくお願いします、美里さん』萌子は目の前にいる美里に完璧な笑顔を向けた。宗助の隣にいるのは私であって、あなたではないんだ。そのような思いも込めて。美里は悲しそうに目を伏せて挨拶を返した。『今野さん、よろしくお願いします』あぁ、その顔が見たかったのよ。たまらないわ。萌子は内側からゾクゾクするような感覚に襲われた。もっと悲しめばいい。もっと苦しめばいい。ほら、私と宗助をよく見なさい。あなたをより一層惨めにさせてあげるから。それから萌子の行動はエスカレートしていった。美里の前でわざと宗助の腕に手を絡めたり、三人でどこか行かないかと彼女を誘ったりもした。全てが順調だった。宗助は海星と違って頭も良いし、地位と財力もある。萌子にとってはこれまでにないくらい完璧な男だっ
今野萌子は昔から、何事においても他の女に負けたことがなかった。「萌子ちゃんよ!いつ見ても超美人!」学校内を歩けば注目を集め、男なら誰しもが彼女を好きになり、女は強い憧れを抱く。まさに誰もが認める学校のマドンナ。普通の男にとっては手が届かない存在であり、至高の女。それが今野萌子だった。(全てにおいて私が一番なのは当たり前よ)萌子は自分自身の美貌を誇りに思っていた。頭の出来が一般人より良いというところも。しかし、完璧な彼女の世界にも一人だけ邪魔な人間がいた。「萌子、あなたは絶対に良い男を捕まえるのよ?私は旦那選びに失敗したから今こんな貧相な暮らしをさせられているの。あぁ、妊娠なんてしなければあんな男と結婚しなかったのに……あのとき妊娠したことは唯一の失態だわ」「……」それが母親だった。萌子の母親はいつも平均的な収入で気の弱い父親に文句を言っていた。母は美人で、大学時代はミスコンにも出場するほどだったが、かなり気の強い性格だった。萌子と修人はそんな母の元、我慢を強いられる幼少期を送っていた。父親はいつも母親のご機嫌取りばかりしていて、萌子たちのことを気にかけている暇などなかった。萌子はそんな両親の姿を見て、幼いながらに思った。(……でも案外、お母さんの言う通りかもしれないわね)萌子はむしろ、母親よりも彼女に媚びへつらうことしかしない父親に嫌悪感を募らせた。私は絶対にあんな男と結婚しない。お金持ちで地位のある男を捕まえるんだ。(いけるわ、だって私には自慢の美貌があるもの)そのような思いから学生時代、萌子は様々な男と交際した。学内一の美女と呼ばれた萌子は男に困ったことなんて一度もなく、何もしていなくても男が寄ってくるほどだった。自分は周囲にいる全ての女よりも勝っている。略奪だって気にすることなくやってのけた。そのせいで一部の女子生徒からはかなり嫌われてしまったが。何とも思ってない人から嫌われたところで別にどうだってよかった。何より彼女には守ってくれる多くの男がいたからだ。(気に入らないやつは一度痛い目を遭わせればいいわ)そんな彼女の目の前に、ある日一人の女が現れた。「ねぇ、彼女すごく綺麗じゃない?まるで芸能人みたい!」大学に入学してから少しして、萌子は噂に聞いていた彼女と出会った。彼女は同じ女である萌子から見てもとても美しい人だった。
「美里、体は平気か?」「宗助」その日の夜、宗助が美里の元を訪れた。彼は彼女の傍までそっと歩み寄ると、その華奢な肩を優しく抱いた。彼の腕に包まれると、とても安心することができる。この世の全てから、彼が守ってくれるようなそんな気がして。「もう大丈夫そうよ、普通に外も出れるわ」「油断は禁物だ……萌子が何をするかわからないし」宗助は心配性だった。主に美里のことになると、だが。美里は宗助の腕に抱かれたまま、呟いた。「萌子さんは……どうしてあそこまで変わってしまったのかしら……」「……」美里はどうしても理解できなかった。何故、穏やかで上品だった萌子があんな風になってしまったのか。彼女が宗助と付き合っていた頃の記憶を全て掘り起こしたが、あのような彼女は出てこなかった。美里の言葉を聞いた宗助が、彼女を抱きしめる腕に力を込めた。「……人間の本質なんてそう簡単には変わらないものだ」「なら……」「最初から……萌子はああいう人間だったんだ……」宗助が悲しそうに呟いた。(最初からああいう人間……たしかにその通りだわ)一時は萌子に罪悪感すら感じていた。本来彼女がいるべきその場所を、自分が奪ってしまったようなそんな気がして。だけど、彼女がそういう人間であるのならば罪の意識を感じる必要はない。(何の迷いもなく……萌子を裁きにかけることができる……)宗助も昔の恋人を断罪する覚悟が決まっているのか、力強い目で前を向いていた。じっと部屋の中で抱き合っていたそのとき、突然宗助のスマホの着信が鳴った。ポケットからスマホを取り出した宗助は、相手を確認するとすぐに電話に出た。「しゃ、社長!大変です!」「どうした?」「――今野萌子が忽然と姿を消しました!」その一言に、宗助は眉をひそめた。「……何だと?」「も、萌子がいなくなったですって!?」宗助はどういうことかと説明を促した。「そ、それが……突然邸宅からいなくなり、その後姿が見えないそうです」「一体お前たちは何をしているんだ!」「も、申し訳ございません!」宗助は怒声を上げた。彼は美里が拉致されてからというもの、ずっと萌子の監視を部下に命じていた。「すぐに探し出せ……あの女は何をするかわからない……」「承知いたしました!」宗助はそれだけ命じると、電話を切った。「萌子がいなくなったの?」「あぁ…
家を飛び出した萌子は一目散にある場所へと向かっていた。心の中にはさっきと変わらず、美里と宗助への憎しみが渦巻いていた。かつて心から愛した宗助ですら、今は憎悪の対象だった。(そうよ、全てあの男のせいよ……あの男が変わってしまったからだわ……!)萌子は自分に冷たくする男が昔から嫌いだった。こんなにも美しく、頭の良い私を嫌うだなんてありえない。本気でそう思っていたからだ。美里と宗助には必ず、痛い目を遭わせてやる。萌子は一度決めたことは必ずやり遂げる女だった。萌子は住宅街をしばらく走り続け、ある大豪邸の前で足を止めた。息を整えながらインターホンを鳴らし、中から人が出てくるのを待った。それから少しして、彼女と同い年くらいの若い男が姿を現した。「――市原君!」「……萌子?」男の姿を見るなり、萌子は彼に抱き着いた。彼はいきなり自身の胸にしがみついた彼女にギョッとしながらも、その体を受け止めた。照れたように彼の頬が赤くなる。萌子は彼の胸ではらはらと涙を流した。「市原君、助けてほしいの!」「どうしたんだ、萌子?」彼は萌子の背中にそっと手を置いた。彼は弟の修人の友人で、萌子とも面識があった。「萌子、一体何があったというんだ……」「……」萌子は彼に気付かれないようにそっと口角を上げた。ずいぶんと歪んだ笑みだった。(ホンット、男ってちょろいわ……)彼が萌子を愛しているということは、萌子自身がよく知っていた。自分を気に入った男たちが、ちょっとお願いすれば何でも聞いてくれるということも。萌子は顔を戻し、彼を見上げた。「私、永山美里に命を狙われているの……」「な、何だと!?」衝撃的な話に、彼は思わず声を上げた。「ここだけの話……美里と宗助は婚約中なの……でもあの女は宗助の昔の恋人の私のことが気に入らないみたいでね……」「……」彼は驚いた表情で萌子の話を聞いていた。美里と宗助のことはもちろん知っていた。萌子と付き合っている宗助を羨ましく思ったことも一度や二度ではなかった。彼は初めて彼女と出会った頃――実に十年近く前から一途に萌子を想い続けてきた。だからこそ、彼女の泣く姿に耐えられなかった。「宗助も未だに私を愛しているようで……私を拉致しようとしているの。あの二人がいたら私……何されるか……」「萌子……」彼は萌子を可哀相だと思い、抱きしめた。
「ど、どういうことだ……」海星は反射的にドアを閉めそうになったが、警察がそれを手で阻止した。ドアをガッチリと押さえ、彼に逃げ場を与えない気だ。六年前の事件について再捜査を始めたということは聞いていたが、こんなにも早く俺に辿り着くだなんて。海星の握りしめた拳がプルプルと震え始めた。ここまで余裕がなくなるのは初めてかもしれない。警察はそんな彼を見ても、表情を変えずに言い放った。「……署までご同行願えますか?」「……」海星に最初から拒否権はなかった。彼は諦めたようにガックリと肩を落とし、警察について行った。***「ちょっと、海星ったら!どうして連絡がつかないのよ!」彼が警察に連れて行かれた頃、萌子は一人部屋で焦っていた。海星にどれだけ連絡しようとしても、一向に繋がらないのだ。(私を無視する気?私の弱みを握っているからって、偉くなったのね!)萌子は呆れたようにスマホを放り投げた。美里襲撃は失敗したし、海星とは連絡がつかないし。何だか最近全てがうまくいっていないような気がする。萌子はドサッとベッドに仰向けに寝転がった。(海星にアイツを消してほしいってお願いしたのはいいけど……私がやったってバレたら……)そのとき、ふとテレビに映っていた記者会見に目を留めた。「何よ……どういうこと……?」聞き覚えのある名前に、萌子は思わず見入った。久間田警視総監とは、まさに海星の父親だ。萌子は慌てて先ほど投げたスマホを拾い、ネットニュースを見た。「辞職ですって……?逮捕の可能性も……?」それに加え、六年前の事件についても公になっていた。遺族の強い願いで再捜査することになったのだという。萌子は焦りの色を隠すことができなかった。嘘よ、こんなの信じない。連絡がつかないということは、海星はもしかして――萌子の脳裏に、最悪の事態がよぎった。このまま海星と自分が捕まれば、美里と宗助は完璧な幸せを手に入れるだろう。自分たちはどん底に落ち、あの二人はその裏で幸せを享受する。彼女の頭に、美里と宗助の笑い合う姿が浮かび上がった。(いや……そんなこと絶対にあってはならないわ……)萌子は気を取り直した。そんなのは絶対に認められない。私の全てを奪ったあの二人が、幸せになるのを見過ごすわけにはいかない。(どうせ捕まるのなら……最後にあの二人に一泡吹かせてやらないと……)
数日後、警視庁のトップが緊急記者会見を開き、今回の件について弁明した。警察は身内の不祥事を庇う傾向にあるけれど、今回ばかりはさすがに擁護はできなかったようだ。久間田警視総監は辞任することが決まった。しかし、それでもまだ人々の非難は収まらないのだという。海星のやってきたことを考えれば当然だった。週刊誌の記事には、六年前の事件についても掲載されていた。海星が深く関与し、彼の父親が隠蔽したであろうあの事故。そして、警視庁の長官は記者会見でしっかりと言った。――六年前の事故について、再捜査すると。父親がその座から退いた今、海星はきっと捜査の手から逃れることができないだろう。悪事を働いた者は、必ず報いを受けるのだ。***「クソがッ!!!どういうことだ!?」その頃、海星は家でテレビを見ながら震えていた。動揺を隠しきれないようで、声を荒らげながら机を拳で叩いた。「六年前のあの事件が今になって再捜査だと!?こんなのは馬鹿げている!」海星は怒りを露わにしたが、このときかなり焦っていた。あの事件のことは後悔していた。殺すつもりは無かったし、被害者の男子生徒に対する後ろめたさだってあった。しかし、時間が経つと人は忘れるものだ。六年の年月が流れ、彼の記憶からあの事件のことが消えていた頃だった。海星は週刊誌のページをビリビリッと破り捨てた。顔を手で押さえ、何度も深呼吸を繰り返した。――捕まったり、しないよな……?呆れたことに、彼は自身の保身しか考えていなかった。海星は震える手で父親に電話をかけた。「親父……頼むよ……どうにかしてくれよ……親父ならあの事件をもみ消すことくらいどうだってことなかったはずだろ?」「……私はもう警察を辞めた。お前はやりすぎたんだ。いつまでも親に頼っていないで、あとのことは自分でどうにかしろ」父親は自分のことで手一杯なようで、海星にかまっている時間はないようだ。彼は悔しさで唇を噛んだ。今からでも証拠は全て捨てておかなければならない。元凶となった萌子との縁も切っておくべきか。彼は悩んだ末に、彼女の連絡先を携帯から削除した。これで仮に自分が捕まったとしても、萌子にまで捜査の手が及ぶことはない。最後に萌子を庇おうとしているのは、かつて心から愛した女だからだろうか。彼女に対する未練はもうないと思っていたが、どうやらまだ捨てられなかった







