展示会会場。 昼過ぎ。 人の流れは途切れない。 ブランドの説明。 商談。 名刺交換。 笑顔。 評価。 数字。 その中を。 良太と彩は歩いていた。 「すごいな」 良太が周囲を見回す。 「全部服の展示会なんだよな」 彩も静かに頷く。 学校帰りでは見られない世界だった。 服を作る人。 売る人。 選ぶ人。 着る人。 その全部が集まっている。 彩は一つ一つのブースを見ていた。 有名ブランド。 大手メーカー。 海外インポート。 整然と並ぶ服。 完成されたブース。 どれも綺麗だった。 だから。 彩の足は止まらなかった。 ただ見ていく。 その時だった。 彩が立ち止まる。 良太も止まる。 「どうした?」 彩は答えない。 視線の先。 会場の隅。 小さなブース。 Atelier SAKUMA。 並んでいるのは。 ジャケット。 コート。 シャツ。 どれも派手ではない。 ブランド名も知らない。 けれど。 彩は動かなかった。 その瞬間。 レイラが小さく呟く。 「……あら」 《何だ?》 レイラは服を見る。 一拍。 「面白い服」 さらに数秒。 「ハンガーで損してる」 《分かるのか?》 「分かるわよ」 少し笑う。 「だって私」 「こういう服で仕事してきたもの」 彩は小さく呟く。 「この服」 一拍。 「着てみたいです」 良太が服を見る。 正直。 よく分からない。 綺麗な服だとは思う。 だが。 それ以上は分からない。 彩だけが。 何かを見ていた。 その時。 ブースの奥から男が出てきた。 佐久間圭介。 一瞬。 彩を見る。 そして。 奏の言葉が蘇る。 ――あの人が着たら。 ――服、起きると思います。 佐久間は思わず息を止めた。 同じ人だった。 奏が指差した少女。 「えっと……」 佐久間は迷う。 こういうことは慣れていない。 営業も苦手。 声を掛けるのも苦手。 それでも。 言わずにいられなかった。 「もしよかったら」 良太が振り向く。
Last Updated : 2026-06-12 Read more