二か月。 およそ六十日。 長いようで、世界を目指す人間にとっては決して長くない。 けれど、その六十日でできることはある。 日本最大級のモデル事務所・HORIZONは、その時間と組織を、たった一人のモデルへ集中させることを決めていた。 * 午前九時二分。 HORIZON本社、大会議室。 正面の大型モニターには、一人の女性の写真が映し出されている。 御堂玲奈。 その下には、 RE:CODE MODE CONTEST 開催まで 残り60日 会議室に集まっているのは二十名を超えていた。 マネージャー。 広報。 分析担当。 スタイリスト。 ヘア担当。 メイク担当。 トレーナー。 コンディショニングを管理するスタッフ。 そのほかにも、ブランドとの調整や契約を担う人間がいる。 一つの大会のためとは思えない人数だった。 扉が開く。 入ってきたのは、玲奈を担当する第一マネージャー、久我沙織。 抱えていた資料をテーブルへ置く。 「御堂玲奈のスケジュール調整が完了しました」 大型モニターが切り替わった。 ドラマ。 CM。 イベント。 雑誌。 テレビ。 六月から八月にかけて入っていた大量の予定。 その横には、 【調整済】 【延期】 【代替対応】 という文字が並んでいる。 若手スタッフが思わず聞いた。 「……全部ですか?」 「全部です」 久我は淡々と答えた。 「今後二か月、玲奈にはRE:CODE MODEの準備を最優先してもらいます」 会議室が静かになる。 「すでに動いている契約については先方と調整済みです。代替可能な案件は、本人と先方の了承を取った上で他の所属者へ振り分けました」 モニターに所属モデルやタレントの名前が表示される。 いくつもの仕事が、 別の人間へ移されていた。 若手が小さく呟く。 「そこまで……」 久我が見る。 「そこまでやります」 声を張るわけでもない。 それでも、 迷いはなかった。 「負けるつもりはありませんから」 * 次に表示されたのは、過去のNORDI COLLECTIONの資料だった。 会場。 照明。 ランウェイの形状。 衣装。 演出。 過去の映像まで並んでいる。 分析担当が説明を始める。 「過去十年分を、改めて洗い直しました」
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