1.1207号室・昼 静かな部屋。 新築マンション、1207号室。 昼の光が、白い床に薄く広がっている。 まだ家具は少ない。 白いテーブル。 椅子が数脚。 置かれたばかりの書類。 その上に、スマホ。 ニュース画面が光っていた。 『HORIZON、UTAHARA OFFICE買収を正式発表』 『歌原レイラ関連ブランド・契約資産を継承』 『業界最大手による異例の即時吸収』 彩は、その文字を見ていた。 隣には南条圭介。 向かいには与那嶺良太。 テーブルの端には、スーツ姿の弁護士。 歌原レイラの親権裁判でも関わっていた代理人弁護士だった。 そして、その後ろに――誰にも見えない歌原レイラ。 沈黙。 ニュース動画の中では、HORIZON本社ビルが映っている。 巨大なガラス張りの建物。 日本最大手芸能事務所。 かつて、レイラが所属していた場所。 彩 「……買われたんですね」 小さな声だった。 良太は頷く。 良太 「はい」 一拍。 良太 「UTAHARA OFFICEは、もうありません」 彩は、少しだけ目を伏せる。 潰れたわけではない。 けれど、残らなかった。 姉が作った場所。 姉が守っていた場所。 姉の名前で人が集まり、姉のために動いていた場所。 それは今、HORIZONの一部になった。 レイラは静かに画面を見る。 レイラ(心) 《当然ね》 《あの規模の事務所を、空席のまま放置する会社じゃない》 《私がいなくなった時点で、あそこは“資産”になった》 南条が苦笑する。 南条 「動き、めちゃくちゃ速かったですね」 一拍。 南条 「まあ……HORIZONならやるか」 彩 「……みんな、どうなるんですか」 南条 「残る人もいます」 一拍。 南条 「でも、“チームレイラ”は、ほぼ解散です」 静かな言葉だった。 南条 「レイラさんのために集まってた人たちだから」 彩は何も言えない。 その言葉が、正しすぎた。 レイラは目を伏せる。 レイラ(心) 《そうよ》 《あそこは、“私が立つための場所”だった》 《だから、私がいなくなった時点で終わってる》 沈黙。 弁護士が、静かに書類を一枚、テーブルへ置いた。 弁護士 「歌原さん」 彩が顔を上げる。 弁護士
Last Updated : 2026-05-19 Read more