All Chapters of 『RE:LAY ―幽霊となった伝説のモデルが妹をプロデュースする話―』: Chapter 31 - Chapter 40

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第31話《レイラのいない会社》

1.UTAHARA OFFICE・会議室/午前レイラの死から、数日後。UTAHARA OFFICE。白い壁。磨かれた床。壁に飾られた、過去のキャンペーン写真。その中心にいるのは、どれも歌原レイラだった。けれど今日は、空気が違っていた。スタッフは全員、会議室に集められている。チームレイラ。マネージャー・加納。スタイリスト・井原。カメラマン・黒瀬。SNS担当・南条。メイク・安藤。ディレクター。レタッチャー。そして、柳田真悠。事務所No.1マネージャー。その他、事務、経理、アシスタントたち。誰も、雑談をしない。椅子のきしむ音だけが、やけに大きく響いていた。ドアが開く。入ってきたのは、歌原和人。黒いスーツ。だが、喪服ではない。その後ろに、代理人弁護士が二人。さらに、事務担当らしき男がひとり。和人は会議室の前方に立つ。一度、室内を見渡す。その視線は、人を見ているようで、数を数えているようだった。代理人が一歩前に出る。代理人「本日はお集まりいただき、ありがとうございます」誰も返事をしない。代理人「歌原レイラ氏の逝去に伴い、相続および会社支配権に関する正式な手続きを進めております」紙がめくられる。代理人「現時点で有効な遺言書等は確認されておりません。そのため、法定相続人であるご両親が、歌原レイラ氏の財産および関連権利を承継する方向で手続きを進めています」加納の拳が、膝の上でわずかに握られる。黒瀬は目を閉じたまま、動かない。柳田は、表情を変えない。代理人「それに伴い、UTAHARA OFFICEの代表権についても整理を行います」一拍。代理人「正式な手続き完了後、歌原和人氏が代表取締役に就任する予定です」室内の空気が、音もなく冷える。南条が、唇を噛む。和人が軽く咳払いをする。和人「……まあ、そういうことだ」誰も見ない。誰も頷かない。和人「正直に言う」和人は、ゆっくり口を開いた。和人「俺と娘のレイラとの関係は、良くなかった」会議室の奥で、誰かが目を伏せる。和人「裁判の報道もあった。世間も、そこは知ってるだろう」淡々とした声。けれど、その淡々さが逆に薄かった。和人「だが、それでも俺はレイラの親だ」和人は壁の写真を見る。そこには、黒いドレスをまとったレイ
last updateLast Updated : 2026-04-27
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第32話《伝説と無職》

28歳・無職。伝説のモデルの墓を掃除した日、俺の人生は、ようやく動き出した。1.28歳無職の部屋/朝カーテンの閉じられた、薄暗い六畳間。PCモニターの青白い光が、無音の空間をぼんやりと照らしている。壁にはアニメポスター。足元には食べ終えたカップ麺の容器と、脱ぎ捨てられたTシャツ。エアコンの吹き出し口からは、かすかにカビの匂いがした。キーボードを叩く音だけが、部屋の呼吸を支配していた。良太(ナレーション)「与那嶺良太、二十八歳。職歴、空白。生きてるのに、生きてないような毎日。それが、俺の“現実”だ。」少し前に使ったティーバッグを、もう一度カップへ放り込む。お湯を注ぐ。薄い色が、ゆっくり滲む。良太は、それをじっと見た。良太「……二回目でも、まだ味するな」小さく笑う。良太「今の俺には、これで十分」ぬるい紅茶を一口すする。わずかに顔をしかめる。モニターの反射光に照らされた自分の腹を見下ろす。良太「……この腹、ひでぇな」思い出したように、苦笑する。良太(ナレーション)「近所のおばちゃんが言ってた。“稼がないのに、いいもん食べさせてもらってんだね。親に感謝しなよ”って。その通りだ。年金暮らしの父親の金で生きてる俺なんて、みっともねぇにもほどがある。」しばらく沈黙。良太「……痩せなきゃな」そう呟いても、立ち上がらない。良太はマウスを動かし、ニュースサイトを開く。画面に、芸能ニュースの見出しが並んでいた。『歌原和人氏、亡き娘・歌原レイラの事務所を承継へ』『UTAHARA OFFICE、代表交代で波紋』『“チームレイラ”主要スタッフが相次ぎ退職、今後の運営に不透明感』良太は、無言でモニターを見つめる。良太「……亡くなって、まだ一週間くらいだろ」スクロールする。画面には、短い記事本文が映る。歌原レイラ氏の死去に伴い、同氏が設立したUTAHARA OFFICEは、法定相続人である父・歌原和人氏を中心に承継手続きを進めている。一方で、長年レイラ氏を支えた主要スタッフはすでに退職し、それぞれ個別に活動を開始したとみられる。所属モデルであり、妹の歌原彩氏の今後にも注目が集まっている。SNSの反応が、画面の端に流れる。「レイラの会社、父親が継ぐの?」「裁判で揉めてた親じゃなかった?」「チ
last updateLast Updated : 2026-04-29
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第33話《条件は、すでに揃っていた》

1.霊界/閉ざされたランウェイ 暗闇。 何もない。 ただ、長いランウェイだけが、闇の中に伸びている。 照明は落ちている。 観客席は空。 カメラもない。 スタッフの声もない。 拍手もない。 レイラは、黒いランウェイの中央に立っていた。 レイラ(心の声) 「……終わった?」 一拍。 レイラ(心の声) 「終わった、のに」 胸に手を当てる。 鼓動はない。 呼吸もない。 身体の重さもない。 それでも、消えていないものが一つだけある。 レイラ(心の声) 「彩」 名前を呼んだ瞬間、闇がわずかに揺れた。 レイラ(心の声) 「……まだ、ある」 一拍。 レイラ(心の声) 「それが消えてないなら、終わってない」 レイラは顔を上げる。 ランウェイの先に出口はない。 どこまで歩いても、光は見えない。 レイラ 「私は、まだ行けない」 声が、暗闇に吸われる。 返事はない。 レイラ 「彩に会うまでは」 そのとき。 遠くで、音がした。 ——カシャン。 レイラが振り向く。 闇の端。 そこに、細い光が生まれていた。 線香の匂い。 湿った土の匂い。 誰かの手。 誰かの祈り。 レイラ(心の声) 「……触れてる」 一拍。 レイラ(心の声) 「誰かが、私に触れてる」 レイラは光へ向かう。 足は動いていない。 それでも、意識だけが近づいていく。 レイラ(心の声) 「彩じゃない」 光の向こうにいるのは、彩ではなかった。 知らない男。 くたびれた服。 伸びた髪。 伏せた目。 けれど、その男の内側には、大きな空白があった。 レイラ(心の声) 「……止まってる」 一拍。 レイラ(心の声) 「この人も」 レイラは指を伸ばす。 レイラ 「なら、使える」 光に触れる。 世界が、裏返った。 2.現実/墓地/午後 曇天。 町外れの共同墓地。 風が、枯れた草を撫でている。 与那嶺良太は、母の墓の前に座っていた。 花を供え、線香を立て、墓石を拭き終えたあとだった。 良太 「母さん」 一拍。 良太 「今年も、これだけ」 手を合わせる。 目を閉じる。 良太(心の声) 「間に合わなかった」 五年前の病室。 鳴り続ける携帯。 取引先の床。 上司の声。 帰れなか
last updateLast Updated : 2026-05-01
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第34話《同じ身体、別の合理》

墓地の外れ・夕方。 人気のない墓地に、風の音だけが通っていた。 足元では、線香の煙が細く揺れている。 ゆっくりと――良太の身体が立ち上がった。 数歩、歩き出す。 良太(心) 「……歩いてるの、俺じゃない。」 レイラ(内側) 「身体は借りる。問題ある?」 良太(心) 「もう借りてるだろ」 歩幅は一定だった。 迷いがない。 良太の身体は、そのまま墓地の出口へ向かう。 レイラ(内側) 「事務所に行く」 良太(心) 「場所」 レイラ 「八王子」 数歩。 良太(心) 「ここ、足立区」 歩みは止まらない。 良太(心) 「徒歩だと、到着は夜どころか日付変わる」 一拍。 良太(心) 「その前に膝が壊れる」 歩みが、わずかに緩んだ。 レイラ(内側) 「到着すればいい」 良太(心) 「壊れたら、到着しない」 風の音。 レイラ(内側) 「……なら、彩のところ」 良太(心) 「場所」 レイラ 「八王子の、二つ新宿寄り」 間。 良太(心) 「それも八王子」 歩き続ける。 同じ速度。 同じリズム。 良太(心) 「今日は帰る」 良太(心) 「移動手段を確保してから動く」 わずかに足が止まり、すぐに進む。 レイラ(内側) 「時間がない」 良太(心) 「身体は一つしかない」 一拍。 良太(心) 「壊れたら、終わる」 沈黙。 風が少し強くなる。 一歩。 レイラ 「お金を引き出して、電車で行く」 良太(心) 「本当に金はない。五年、無職だ」 レイラ 「……」 レイラが、呆然とした。 良太(心) 「俺ん家帰る? 帰ってから考えよう」 しばらく、放心状態のような沈黙が続いた。 やがて、進む方向が変わる。 墓地の外。 住宅街の方へ。 レイラ(内側) 「……家のお金をかき集めたら、交通費はある?」 良太(心) 「幽霊に金銭催促される俺……」 住宅街・夕方。 人通りはまばらだった。 街灯が一つ、また一つと灯っていく。 歩く速度は変わらない。 ただ、進む方向だけが変わっていた。 良太(心) 「憑依中は……主導権は全部そっちなんだな。身体が全然言うこと聞かない」 レイラ(内側) 「当
last updateLast Updated : 2026-05-04
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第35話《残された条件》

良太の部屋・夜 質素な部屋。 机の上には、並べられたフィギュア。 レイラがそれを見ている。 静止しているようで、視線だけが動く。 レイラ 「それ、現金化できるわ」 良太 「やめろ。それ俺のだ」 一拍。 レイラ 「一時的に借りるだけ」 良太 「は?」 レイラ 「対価は払うわ」 間。 良太 「……いくらだ」 レイラ 「五百万」 沈黙。 良太 「……本当に払えるのか」 レイラは答えない。 視線だけが、わずかに遠くを見る。 無音。 切り替わる。 回想 歌原レイラ(28)──裁判を終えた直後、死まで、あと28日。 ──三日間、熱に伏せていた。 裁判の勝訴の安堵と同時に、身体は容赦なく悲鳴を上げる。 姉であり続けるにも、 プロであり続けるにも、 体力が要る。 もし私に何かあれば、彩はまたひとりになる。 その想像だけで、胸が締めつけられた。 だから決めた。 ──備えを、残す。 私の不在が、あの子の未来を閉ざさないように。 彩名義の資産を。 それは弱さからの選択だった。 だが、結果としてそれは──“未来の条件”になる。 この時の私は、まだ知らない。 それが、どこで誰に使われるのかを。 1 銀行・個室ブース 静かなロビーの奥。 薄明かりの個室。 黒いサングラス、ロングコート。 足音は小さい。 銀行員 「“歌原 彩”様名義の新規口座、贈与契約に基づき開設いたします」 印刷機が動く。 通帳が吐き出される。 残高表示。 ¥500,000,000 銀行員 「本件は未成年名義の高額資産となりますので、歌原様は法定代理人として手続きを行っていただきます」 一拍。 銀行員 「なお、当該資産は受贈者ご本人の所有となります。相続財産には含まれません」 レイラは静かに頷く。 署名。 通帳と印鑑が、手元に置かれる。 レイラ(心) 形式に守らせれば、誰にも奪われない。 一拍。 レイラ(心) ──でも、形式だけでは守れないものもある。 彩が自分で未来を選ぶ日まで── これは確かな保障になる。 2 不動産会社
last updateLast Updated : 2026-05-06
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第36話《条件に辿り着く》 

1 良太の部屋・午前 質素な部屋。 机の上は、空いている。 そこには本来、 良太が集めてきたフィギュアが並んでいた。 今はない。 棚にも、ない。 箱の跡だけが残っている。 埃のない四角い跡。 レイラは、その前に立っている。 留守番をしているように、静かに。 けれど、そこに生活の気配はない。 幽霊は、部屋を散らかさない。 時間だけが過ぎる。 鍵の音。 ドアが開く。 良太が入ってくる。 手には、空の買取袋。 肩は落ちている。 靴を脱ぐ動きも重い。 良太 「……売ってきた」 レイラは振り返る。 レイラ 「そう」 短い。 良太は財布を取り出す。 中身を確認する。 紙幣。 小銭。 七万円と少し。 良太 「全部で、七万ちょい」 一拍。 良太 「思ったより、安かった」 沈黙。 レイラは、空いた机を見る。 レイラ 「移動には足りるわ」 良太 「……だろうな」 財布を閉じる。 音が小さく響く。 良太 「俺の宝物、交通費になったわけだ」 レイラ 「無駄にはしない」 良太 「そういう問題じゃねぇんだけどな」 一拍。 良太は笑わない。 怒りもしない。 ただ、空になった棚を見る。 良太 「……本当に戻ってくんのか」 レイラ 「何が?」 良太 「俺の人生」 沈黙。 レイラは答えない。 良太は続ける。 良太 「母親死んで、仕事もなくて、フィギュア売って、幽霊に身体貸して」 一拍。 良太 「普通に考えたら、終わってるだろ」 レイラ 「終わっていないわ」 短い。 良太 「根拠は」 レイラ 「まだ、動いているから」 沈黙。 良太は、空になった机を見る。 良太 「……雑な励ましだな」 レイラ 「励ましていない」 一拍。 レイラ 「事実を言っただけ」 良太、息を吐く。 良太 「まあ、そう言うと思った」 沈黙。 レイラの視線が、良太の財布へ落ちる。 レイラ 「交通費はある」 一拍。 レイラ 「行けるわ」 良太 「どこに」 レイラ 「残してある場所」 空気が
last updateLast Updated : 2026-05-08
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第37話《奪われる部屋、届く条件》

1.UTAHARA OFFICE・昼 静かな事務所だった。 本来なら聞こえていたはずの音が、もうない。 電話。 キーボード。 誰かが服を運ぶ音。 レイラのスケジュール確認。 撮影データのやり取り。 その全部が消えた空間には、空調音だけが残っていた。 壁には、レイラの巨大なポスター。 黒いドレス。 真っ直ぐな視線。 まるで、まだこの場所の中心に立っているみたいに。 だが現実には、誰もいない。 応接スペース。 彩はソファに座っていた。 制服姿。 膝の上で手を握っている。 その向かいに、和人。 机には資料。 マンション売却査定。 不動産会社の見積書。 代理人弁護士。 そして、南条。 南条だけが、この場に残っていた。 和人 「だから、もう決まった話なんだよ」 紙を軽く叩く。 和人 「レイラ名義のマンションは、相続財産になる」 和人 「つまり、所有者は俺たちだ」 彩は黙っている。 和人 「維持費も高ぇし、固定資産税もかかる」 和人 「だったら売った方がいいに決まってるだろ」 一拍。 和人 「場所もいいからな。かなり高く売れるらしい」 その声には、娘を失った父親の感情より、“利益の説明”の色の方が濃かった。 彩 「……」 和人 「だから、お前は出ろ」 短い。 あまりにも短かった。 和人 「実家戻って、そこから学校通え」 南条の眉がわずかに動く。 だが口は挟まない。 挟めない。 法律上、和人が正しいからだ。 代理人も止めない。 止める理由がない。 彩はゆっくり顔を上げた。 彩 「……あそこ」 小さな声。 彩 「お姉ちゃんと住んでた部屋です」 和人 「だから何だ?」 彩 「……」 和人 「レイラは死んだ」 静かな声だった。 だからこそ残酷だった。 和人 「人が死んだら、残ったもんを整理すんのは当たり前だろ」 南条が、机の下で拳を握る。 和人 「感情で残せる額じゃねぇんだよ、あの部屋」 彩は言葉を失う。 あの部屋。 朝、レイラが味噌汁を作っていた場所。 ソファで雑誌を読んでいた場所。 「行ってきます」と「おかえり」が存在した場所。 ようやく手に入れた生活。 ようやく始まった姉妹の時間。 それが、“高く売れるから”で終わる。
last updateLast Updated : 2026-05-11
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第38話《見えない姉が、残したもの》

1.UTAHARA OFFICE・応接スペース/昼空気が止まっていた。高層階。ガラス張りの応接スペース。磨かれた床。静かな空調音。その中央にいるのは、くたびれた男だった。黒いパーカー。少し伸びた髪。安物のスニーカー。眠れていない目。この場所に、明らかに似合っていない。良太は立ったまま、古い鞄を抱えていた。そして。その口から出た言葉だけが、異様だった。良太「……歌原レイラさんから、預かっているものがあります」沈黙。彩は、動けなかった。南条は眉を寄せたまま、良太を見ている。和人だけが、誰より早く反応した。和人「……は?」低い声。和人は、良太を頭から足まで見た。パーカー。擦れた袖口。安物の鞄。どう見ても。“歌原レイラの関係者”ではない。和人「お前、誰だよ」良太「与那嶺良太です」和人「いや、そういう話じゃねぇ」一歩、前に出る。和人「レイラの知り合い?」乾いた笑い。和人「……お前が?」彩の前に立つように、和人が身体をずらした。南条も、まだ黙ったまま良太を見ている。その視線は冷静だった。観察。評価。そして、警戒。南条「彩ちゃん」彩の前へ、半歩出る。南条「知らない人?」彩は、小さく頷いた。彩「……会ったこと、ないです」その瞬間。空気が完全に変わる。和人「はは……」笑う。けれど、目は笑っていない。和人「なんだよ」一歩。和人「ファンか?」さらに一歩。和人「それとも、レイラに近づこうとしてた連中?」南条が静かに続ける。南条「事務所を通していない接触ですよね」良太「……はい」南条「どこでレイラさんと知り合ったんですか」良太が詰まる。レイラが、良太のすぐ横で即答する。誰にも見えない。けれど、確かにそこにいる。レイラ(心)「言えないわよね、それ」良太(心)《幽霊です、って言えるか》和人「おいおい」笑いながら近づく。和人「まさかとは思うけど」和人「今、レイラが死んだから来た?」一拍。和人「金目当てで」彩の肩が、小さく震える。良太「違います」和人「じゃあ何だよ」良太「預かったものを――」和人「だからそれが怪しいっつってんだろ」遮る。和人「何をどうしたら、お前みたいなのがレイラと繋がるん
last updateLast Updated : 2026-05-13
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第39話《五百万と、働く理由》

1.UTAHARA OFFICE・小会議室/昼 机の上に、通帳が置かれている。 残高。 ¥500,000,000 彩は、まだその数字を見ていた。 見慣れない桁。 自分の名前。 姉が残したもの。 けれど、それは温かくなかった。 紙と印字と、銀行の数字。 冷たく、正確で、逃げ場のない現実だった。 良太は、向かいの椅子に座っている。 落ち着かない。 膝の上で手を組んだり、ほどいたりしている。 その横には、誰にも見えないレイラが立っていた。 レイラは彩を見ている。 ただ、見ている。 彩には見えない。 声も届かない。 それでも、そこにいる。 彩 「……これ、本当に」 一拍。 彩 「私のものなんですね」 良太 「はい」 彩 「お姉ちゃんが、私のために」 良太 「はい」 彩は小さく息を吸った。 泣き疲れた顔だった。 それでも、目の奥に少しだけ光が戻っている。 奪われるだけではなかった。 戻れと言われるだけではなかった。 姉は、もう一つの道を残していた。 良太は、その顔を見て、言い出しづらそうに視線を落とした。 良太 「……あの」 彩 「はい」 良太 「非常に、言いづらいことなんですが」 彩は顔を上げる。 良太は咳払いをする。 良太 「実は、レイラさんにこれらを託されたとき、条件がありまして」 彩 「条件?」 良太 「はい」 一拍。 良太 「その五億円の中から、僕が五百万円を受け取る約束になっています」 沈黙。 彩 「……え?」 良太 「ですよね」 良太は、苦笑しかけて、やめた。 ここで笑ったら、全部が軽くなる。 良太 「もちろん、いきなりそんなことを言われても困ると思います」 彩は、通帳と良太を交互に見る。 彩 「五百万……」 良太 「はい」 彩 「……お金、ですよね」 良太 「はい。かなり現実的なお金です」 レイラが横で腕を組む。 レイラ(心) 「回りくどい」 良太(心) 《お前が言わせてるんだろ》 良太は、改めて彩を見る。 良太 「でも、そのお金はただのお金じゃありません」 彩の手が、通帳の表紙に触れる。 良太 「レイラさんが、あなたが幸せになれるように残した、大切なお金です」 一拍。 良太 「だからこそ
last updateLast Updated : 2026-05-15
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第40話《名前を売った日》

1.空港近く・車内/夜 小雨。 フロントガラスを流れる水。 赤信号。 赤西が、運転席に座っている。 陽子は助手席。 二人とも、前を見たまま。 長い沈黙。 後部座席には、小さな封筒。 偽造パスポート。 身分証。 海外口座情報。 現地通貨。 闇売人経由で揃えられた、“消えるための条件”。 赤西 「……向こうなら」 一拍。 赤西 「日本よりは、追われにくいです」 陽子は答えない。 赤西 「しばらくは、不自由なく暮らせます」 陽子 「……そう」 声が乾いている。 赤西は、ハンドルを握ったまま言う。赤西「……心音の手術費と、家族が生きるための一億は、受け取りました」 赤西 「これくらいしか、できません」 沈黙。 陽子は、封筒を見る。 “逃げるための人生”。 それだけが入っていた。 陽子 「あなた」 赤西 「……はい」 陽子 「最初から、父親だったのね」 赤西は答えない。 できなかった。 赤信号が青へ変わる。 車がゆっくり動き出す。 陽子(心の声) 最初から、分かっていたのかもしれない。 この人は、 私を選ばない。 選べない。 この人には、 帰る場所があった。 私には、 もうなかった。 2.空港・国際線ターミナル/夜 巨大なガラス空間。 白い照明。 アナウンス。 スーツケースの音。 陽子は、一人で歩いている。 帽子。 黒いコート。 サングラス。 誰にも見つからないように。 誰にも、 “歌原レイラの母”だと気づかれないように。 けれど。 その背中は、 もう何者でもなかった。 スマホを見る。 海外口座。 換金済みの資産。 日本円ではない数字。 十四億を超える金。 一生、働かなくても生きていける額。 レイラが死んで残った金。 陽子(心の声) ……もう、どうでもいい。 欲しかったのは、 こんなものじゃなかった。 指が止まる。 連絡先。 『和人』 短く息を吐く。 発信。 数回のコール。 和人 『……もしもし』 雑音。 事務所らしい空気音。 和人は、 何も知らない声だった。 陽子 「私、しばらく海外へ行くわ」 和人 『ああ』 興味の薄い返事。 陽子 「数年かもしれないし……もっと長くなるかもしれない」 和人 『そうか』 沈黙。
last updateLast Updated : 2026-05-18
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