冒頭ナレーション 世界が一人の名前を叫んでいる朝、 その名前の人間は、キッチンで卵を焼いていた。 1 歌原レイラのマンション・朝 高層マンションの朝。 大きな窓から入る光。 白いキッチン。 フライパンの上で、卵が焼ける音。 ジュッ、という音だけが静かな部屋に響く。 テレビでは朝のニュース。 「昨日、世界的デザイナー、アレッサンドロ・ノルディが来日し――」 「ノルディ・コレクション東京開催について――」 「開催の背景にはモデル・歌原レイラの存在が――」 テレビの中では、ランウェイを歩くレイラ。 会見で話すレイラ。 世界が彼女の名前を繰り返している。 その同じ部屋で、 エプロン姿のレイラが味噌汁の火を止める。 彩が寝室から出てくる。 少し寝ぐせのついた髪。 まだ眠そうな目。 彩 「……おはよう」 レイラ 「おはよう。顔洗ってきなさい。朝ごはんできてる」 テレビの中では「世界のレイラ」。 目の前にいるのは、味噌汁の味を確かめている姉。 彩は少し不思議そうに、その背中を見る。 テーブルに並ぶ朝食。 焼き魚 卵焼き 味噌汁 ごはん 小さなサラダ 彩 「……ねえ、お姉ちゃん」 レイラ 「なに?」 彩 「テレビの中のお姉ちゃんと、 ここにいるお姉ちゃん、同じ人に見えない」 レイラは少しだけ笑う。 レイラ 「同じ人よ。ちゃんと二人分食べるけど」 彩、少し笑う。 彩 「なんかね……変な感じ」 少し考えて、言う。 彩 「世界にいるお姉ちゃんと、 わたしの前にいるお姉ちゃんが、 同じ人だって、まだうまく分かんない」 レイラは少しだけ考えてから答える。 レイラ 「分からなくていいわよ」 彩 「え?」 レイラ 「あなたの前にいるのが、私。 テレビにいるのは、仕事してる私」 味噌汁をよそう。 レイラ 「あなたが知ってるほうが、本物よ」 彩は少し黙って、うなずく。 2 出発前 レイラは彩に弁当を渡す。 きれいに詰められた弁当箱。 レイラ 「今日は体育ある?」 彩 「うん」 レイラ 「じゃあ、ごはん多めに入れてある」
続きを読む