歌原レイラ、二十八歳。 死まで、あと十日。 ノルディ・コレクション東京開催まで、あと三か月。 春の朝。 空気はやわらかいのに、街だけが妙に落ち着かなかった。 駅の大型ビジョン。 通勤電車の車内モニター。 コンビニのレジ横。 ホテルのロビー。 百貨店のエントランス。 どこへ行っても、同じ顔と同じ文字が流れている。 《速報 ノルディ、東京開催へ》 《アレッサンドロ・ノルディ氏、会場視察のため来日》 《世界最高峰の舞台、日本上陸》 ニュースキャスターの声が、朝の空気を塗り替えていく。 『ファッション界の帝王、アレッサンドロ・ノルディ氏が本日来日しました。三か月後に開催されるノルディ・コレクション東京の会場視察、および関係各所との会談が予定されています』 映像が切り替わる。 羽田空港。 黒塗りの車列。 規制線の向こうに集まった報道陣。 長いレンズが一斉に同じ方向を向き、フラッシュが途切れない。 『ノルディ・コレクションがアジア圏で本格開催されるのは極めて異例です。世界各国からモデル、デザイナー、バイヤー、編集者、ブランド関係者らが来日するとみられています』 街頭インタビューでは、若い女性が目を丸くしていた。 「え、あのノルディが東京でやるんですよね? 本当に?」 別の男性が笑う。 「今年のファッション業界、全部これに持っていかれるんじゃないですか」 経済番組では、ホテル、交通、小売、広告、警備、配信まで数字が並んでいた。 開催されるのは一つのコレクション。 それなのに、動くのは一つの業界だけではない。 画面の右上には、すでにいくつもの言葉が並んでいた。 《#ノルディ東京開催》 《#世界が東京に来る》 《#レイラは本当に伝説だった》 そして、その中に一つ。 《#歌原彩がいなければ》 彩の名が混ざっていた。 * 午前のワイドショーでは、巨大モニターいっぱいにノルディの写真が映されていた。 司会者も、いつもより明らかに声が高い。 「朝からこのニュース一色です。ノルディ・コレクション東京開催。これ、どれくらいすごいことなんでしょうか?」 招かれていたファッション誌の編集長が、少し考えてから答えた。 「普通、コレクションに合わせて人が動くんです」 「人が?」 「はい。モデルも、メディアも、バイヤーも
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