どれくらい走っただろう。夜明けはまだ遠い。いくつかの村や街に入りそうになったが、人間に見つかるわけにはいかない。迂回して人間たちが通常使う道は通らずに、岩だらけの坂道や鬱蒼とした森の中を進む。 目指すは港まで。(出港しそうな船の船底にでも潜り込もう!) 走りながらそう決めた。 ヴィクトリアの額からは汗が流れ、喉はカラカラだった。現在位置はわかっているつもりだが、ここから港がある場所までは遠すぎる。全力疾走しても朝までに着くのは不可能だ。 しかし、シドが追いかけてくる可能性を考えると、何とか今日中にこの国から出てしまいたかった。 ヴィクトリアは次に人里が見えたら馬を拝借しようと決め、少しだけ休むことにした。 ヴィクトリアがいるのは樹木が生えた林の中で、隠れられそうな場所はなかなか見当たらない。少し走った所で大樹の幹に人が一人入れそうな樹洞を見つけたので、そこに身を潜ませることにした。 一度座り込んでしまうと体から強く疲労を感じた。眠るつもりはなかったが、つい、うつらうつらとしてしまう。ヴィクトリアは意に反して少しだけ寝入ってしまった。 ザッ、ザッ、ザッ…… 草を踏むかすかな足音が聞こえて、ハッとしたヴィクトリアは薄い眠りから目覚めた。シドが現れることを恐れ気が張っていたので、眠っていてもすぐに物音に気づけた。 あたりの気配を探るが、風が吹いていて周囲の匂いを感じ取りにくい。けれど足音は確実に聞こえてくる。(誰かがこっちに来る) 緊張と不安がヴィクトリアの全身を襲った。 足音は一人。どこか目的地へ向かい通り過ぎる風ではなかった。足音は時々立ち止まり、あたりを歩き回っている。(何かを探している……?) ヴィクトリアは肝が冷えた。体が震え出す。(もしシドに見つかったら、犯される) ヴィクトリアは震える手でガーターホルダーから短剣を抜いた。シドを刺した時の血はぬぐったが、完全ではないため、まだ赤く汚れている。 ヴィクトリアは短剣の切っ先を自分の胸に向けた。
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