Semua Bab 獣人姫は逃げまくる~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかけて逃げた後その中の一人と番になる~: Bab 41 - Bab 50

224 Bab

10 囚人と看守 2

 ヴィクトリアは驚いて閉口している。(初日にも思ったけど、どうしてこの人はレインと私をくっつけようとするの?) 困惑しつつも、原因に思い当たる節はあった。シドが襲来した時にレインに言った、「抱いてほしい」のアレだ。 ジュリアスは知っているのではないだろうか。レイン本人は口が堅そうだが、あの時小屋の周りには大勢の銃騎士隊員がいたのだから、聞き耳を立てていた者がいたとしてもおかしくない。(絶対にそうよ。でなければこんなこと言い出すはずがないわ) ヴィクトリアが黙っていると、ジュリアスが話を続ける。「法律では『貴人またはそれに相当する者に限り獣人奴隷を所持可能』ってなってるけど、銃騎士も社会的信用が高い職業だから、総隊長の許可さえ下りれば可能なんだ。 俺としてもよく知らない奴に君を渡したくはないし、できれば銃騎士隊員の誰かに任せたいと思っている。 レインなら女嫌いだし、何回か美人に言い寄られたこともあったけど全然靡かなかったから、浮気もしないと思う。責任感もあるし、君のことを手放したりしないはずだ。どう?」「嫌よ」 ヴィクトリアは即答した。「なぜ? 理由は?」「だってあの人、私のこと嫌ってるじゃない」「そんなことない。レインは君を好きだと思う」「それはあなたの思い込みだわ。あの人ほとんど私と会話をしたがらないのよ」 昨晩から朝にかけてレインと会話が成立したのは数えるほどだ。ヴィクトリアはそのうちの一つを思い出していた。内容はリュージュの外套についてだ。『私をここに連れてきた時に外套がなかった? あれは大切な人のものだから、もしあなたが持っていたら返して欲しいの』『捨てた』『え?』『燃やした』『燃やしたって…… どうして?』 レインからの返答はなく、会話はそこで途切れた。服を勝手に燃やすとは、だいぶ怖い。かなり憎まれているようだ。 ジュリアスにそのことを話すと、なぜだか口元を手で抑えて笑いをこらえている。 ヴィクトリアはジュリアスの反応に少しむっとして、「笑い事じゃないわ」と言いながらチェスの駒を動かした。「ああ、笑ってすまないな。あいつ本当はそれなりによくしゃべるよ。そのうち話すようになるさ。夜だから寝てるのを見張るだけだし、会話をする機会もそんなにないだろ。まあ、ちょっと苛烈な所はあるが」「私としては、その『ちょっと苛
Baca selengkapnya

11 囚人と看守 3

 もやもやした気持ちを引きずったまま、結局チェスは負けてしまった。途中勝てそうだったのに、いつの間にか形勢をひっくり返されていた。ジュリアスは頭も良いようだ。 昼の時間になると昼食が運ばれてきた。ジュリアスは朝は食べてから来るらしいが、その後はずっとヴィクトリアの見張りになるので彼の分もある。手間を省くためか、ジュリアスの食事もヴィクトリアと同じ肉料理だけだった。 昨日は鉄格子の外で食べていたのに、なぜだかジュリアスは椅子を柵の中に持ち込んで、ヴィクトリアと同じテーブルにいた。 ヴィクトリアが笑っている。「本当に変な人ね。看守が囚人と同じ檻に入って食べるなんて普通ないわよ」「いいじゃないか。夕方まではもう誰も来ないだろうし、一緒に食べた方が美味しい」 そう言ってふわりと笑うジュリアスの周囲の空気が、この世の神聖なもの全てを掻き集めて圧縮させたかのようで、彼が清らかに澄み切った世界でただ一人超然と光り輝いているように見えた。  ヴィクトリアは、ジュリアスに親愛の情のような気持ちが湧き始めているのは自覚している。 昨日レインに忠告されたことは充分理解しているつもりだ。ジュリアスが冷酷だというのはにわかには信じ難いが、実際問題として置かれている立場が違う。ジュリアスはヴィクトリアを拘束して自由を奪っている側の者だ。  ジュリアス自身は素晴らしい人物ではあるが、自分たちは敵同士なのだから、心まで持っていかれては駄目だと思った。ジュリアスに尊敬の念は抱いているが、彼の魅力に傾倒して全面的に信頼を寄せすぎるのもよくない。(線引きはちゃんとしておかないと) ジュリアスはヴィクトリアの肉料理を切り分けてくれたり、口の汚れを拭ったりして甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。 普通、人間は獣人を蛇蝎の如く嫌うものだが、ジュリアスはヴィクトリアを蔑む様子は全くない。そういう所は好ましく思う。「シドは、これからどうなるの?」 食事ももう終わりかけになる頃、ヴィクトリアは意を決して昨日から思っていた疑問をぶつけてみた。「近日中に処刑される」 処刑――つまり死罪。「そう……」(シドは処刑されるのね……) シドの所業を思えばわかりきった答えではあったが、自分の父親が死ぬのだと思えば心境は複雑だった。 ほどなくして昼食を食べ終えたが、その間ジュリアスに話しかけら
Baca selengkapnya

12 間違えた

 ジュリアスはなぜか戻って来なかった。まさか夕食時になっても戻らないとは思わなかった。食事を持ってきた隊員から「今日は隊長代行はこちらに来られない」と伝えられた時はかなり落胆した。ジュリアスがいないとシャワーを浴びることができない。 夕食はレインの分も用意されていたが、皿の横に『彼女が食事中は席を外す事。必ず外で食え』という達筆な字体で書かれたメモがついていた。レインは指示通り椅子を外に持ち出して食事を取り、ヴィクトリアが食事を終えるまで中に入ってこなかった。 夕食も終わり、窓の外はすっかり暗くなってきた。小屋の照明器具に明かりが灯り、室内を照らす。 ヴィクトリアは悩んでいた。本当は小屋に来てシャワーを浴びた直後からずっと悩んでいた。だが恥ずかしすぎてジュリアスにも相談できなかった。何度か思いきって言ってみようと思った時もあったが、結局抵抗がありすぎて男性には話せなかった。    下着の替えがない。 ヴィクトリアは里から逃げた時につけていた下着をずっと着続けている。もう限界だ。誰か差し入れてくれないかなと思ったが、本日の夕方に来てくれた人たちが持ってきた品物の中にも、流石に女性物の下着はなかった。ほとんど知らない相手からもらった下着を身につけるのもどうかと思うが、背に腹は変えられない。匂いを嗅げば新品かどうかくらいわかるし、ちょっと期待していたが空振りに終わった。 だからこそジュリアスがいなくてシャワーを浴びられないのが痛かった。本当は、ジュリアスが抜ける直前くらいの遅い時間にシャワーを浴びて、ついでに今着ている下着を洗ってしまおうと思っていた。夜のうちに乾かして朝になったらそれを着る。  レインとはほとんど接触もしないし寝るだけだから、服装でごまかせば下着をつけていなくてもわからないだろうと思っていた。洗濯を繰り返せば一組しか下着がなくても着回していけるはずだと。 なのに頼みの綱のジュリアスがいない。 なぜ戻って来なかったのだろう。朝シャワーをしたから、もう本日は浴びるつもりがないと思っているのかもしれない。 レインは鉄格子の外からずっとこちらを見ている。ジュリアスは仕事を持ち込んでいたが、レインは冷たい目でヴィクトリアを観察するように見ているだけだ。若干視線が痛く感じるほどに脇目も振らずこちらを見てくるが、それが彼の仕事なのだから仕方ない
Baca selengkapnya

13 襲われる

「好きだ」 レインが切羽詰まったような声と表情で告げてくる。腕から抜け出そうとしていたヴィクトリアは頭が真っ白になった。「好きだ、ヴィクトリア」 動きの止まったヴィクトリアをレインがベッドに押し倒した。レインの顔が近い。「どうして? あなたは私が嫌いではなかったの?」 嫌われていると思っていた相手に実は好かれていたという展開についていけない。もしかしたら一夜の火遊びのつもりでそんなことを言っているのかもしれないと思った。人間にとっては遊びでも、獣人にとっては一生を左右する大事な問題だ。「嫌いなもんか。俺は君が好きだよ。一目惚れだ」 一目惚れ。どこかで聞いた言葉だ。「一体いつから?」「最初から。出会った時から」「どうして冷たくしたの? どうして私と話そうとしなかったの?」「ごめん、できるだけ優しくするよ」 レインの声もヴィクトリアを見つめる瞳も、ひどく優しい。あれほど冷たい目をしてたというのに。 ――どうしてあの時に抱かないって言ったの?    勢いで出かかった言葉を喉元で押し留める。そんなことを聞くのはいくら何でも恥ずかしすぎた。なのに、戸惑った顔をしていたせいか、言いたいことは伝わったらしい。「シドの処刑がすむまでは君に手を出すなと止められていたんだ。ごめんね、あれは本心じゃないから」 レインの手がヴィクトリアの髪を撫でていく。「大好きなんだ。本当はずっとずっと好きで、君のことを考えない日は一日だってなかった。口を開いたら思いの丈をぶちまけてしまいそうだったから、できるだけ話をしないようにしていたんだ。我慢してた。本当は愛し合いたい」 レインがキスしようとしてくるので咄嗟に横を向いて避けた。ドクドクと跳ねるみたいにヴィクトリアの心臓がわめいている。レインの手が顎にかかり、正面を向かせられる。彼の瞳が熱を帯びていて、強い視線に晒された。 顔が再び近づいてくる。レインはキスをした。 ヴィクトリアの手の平に。 ヴィクトリアは真っ赤になりながらも自分の手を差し込んでキスを拒んでいた。 レインはヴィクトリアを不思議そうに見下ろしている。「なんで拒む? 自分から誘ったくせに」「なっ、何てことを言っているのよ! 誘ったりなんてしていないわ!」 ヴィクトリアは心外だとばかりに言い返す。「君がそう思っていなくても誘っているよう
Baca selengkapnya

14 ファーストキス

 たぶらかして隙をついて鉄格子の鍵を奪うか、もしくは完全にこちら側の味方につけて逃げ出す手助けをさせる。  なにせ、ヴィクトリアは魔性の女であるらしいので。 レインには完全に嫌われていると思い込んでいたので誘惑作戦なんて効かないと思っていた。しかし元々こちらに好意を持っているのなら、半分成功したようなものだ。 宴会でシドにしていたようなことと、だいたい同じことをやればいい。 それでも演技で男性にしなだれかかるというのは抵抗があるし、できればやりたくない。 しかしその機会が向こうからやって来てしまった。 レインは熱のある瞳でヴィクトリアを見ている。 レインが一歩踏み出すのを見たヴィクトリアは腹をくくった。こちらが誘惑しなくても、向こうから襲いに来ているのだから、この状況ならやってもやらなくても同じ。(もうやるしかない) レインに対しては仲間に引き込んで一緒に逃げるという選択肢は消した。レインは愛が重いというか怖い感じがするので、一緒にいるのは危険だ。  一瞬、このままここにいて、ジュリアスの言う通りレインの獣人奴隷になる道もあるのかもしれないと脳裏をかすめたが、すぐに打ち消した。(ないないない。奴隷とか絶対嫌) 鍵を奪ってさっさと逃げよう。 ヴィクトリアは目を閉じた。 レインがヴィクトリアの目の前までやってきて、こちらに手を伸ばしてくる。(心の迷いを消す) ヴィクトリアは目を開けて愛情に満ちた優しい表情を作った。腕を掴まれそうになるがその前に一歩距離を詰めてレインの頬に触れた。「ごめんなさい。痛かったわよね」 頬を撫でながら顔を覗き込む。上目遣いに彼を見上げ、レインの瞳をじっと見つめて至近距離で微笑んだ。  シドならいつもこうすると機嫌を良くして楽しそうにヴィクトリアを見返してくるのだが、レインはすぐさま顔を赤くして憑かれたようにヴィクトリアを見ている。シドより反応が良い。 ヴィクトリアはレインの首に手を回して自分から抱きついた。耳元で「私も好きよ」と囁いてから、レインの頬に自身の唇を押しつけた。 レインが抱きしめ返してくるので、逆らわずに彼の体に手を回した。腰のあたりを探り、ベルトから音を立てないようにして鍵束を引き抜く。 鍵を手にしたヴィクトリアは思わず笑みを漏らした。妖艶な笑みだった。レインが顔を傾けてキスしようとして
Baca selengkapnya

15 エスケープ 1

 レインと唇が合わさる。 その瞬間世界が変わった。 獣人の血の匂いにまみれていたレインの体から、彼自身の匂いだけをより強く感じるようになった。レインの匂いに包まれていると、心臓をぐっと掴まれたように苦しくて、なのに血液は全身を駆け巡って喜びに沸き立っている。体中が彼を求めていた。 レインは角度を変えて口を吸い、舌を差し込んでくる。初めての柔らかな感触に頭がくらくらした。 だめだと理性が警告を発している。 これ以上すると彼から離れられなくなってしまう。 吐息が漏れる。息継ぎの瞬間に一度離れようとしたが、レインの唇が追いかけて来て再度塞がれた。 ヴィクトリアはキスの甘美な感触に蕩けていた。 急に室内に人間の男の匂いが増えても、ヴィクトリアはそんな事どうでもよくなるくらい、レインとのキスに夢中になっていた。 レインは茶髪の少年オリオンが現れたことに気づくと、ヴィクトリアのはだけた衣服を合わせて肌を隠し、自分の胸に抱き込んだ。 ヴィクトリアはより近くから香るレインの匂いに心臓が疼き、早い速度で鼓動が刻まれるのを感じていた。自分の変化に戸惑いつつも、胸から香るレインの匂いを嗅がずにはいられない。  いけないことをしているように感じながら、レインの匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。頭がぼうっとする。  ヴィクトリアはレインの体に手を回した。 レインはヴィクトリアが自ら抱きついてきたことに気づくと、彼女の唇をついばんだ。 二人が睦み合っているのを目の当たりにしたオリオンは、目を丸くしてしばし固まった後、「うわーっ!」と絶叫した。「レイン! あれほど姫さんに手を出すなって言ってたのに、何やってんだよ!」「ヴィクトリアが綺麗すぎて無理だった」「自重しろ馬鹿野郎! 俺たちを殺す気か!」 レインはオリオンを無視してまたヴィクトリアの唇を奪った。ヴィクトリアは頬を染めながら目を閉じてされるがままだった。 オリオンがレインを羽交い締めにしてヴィクトリアから引き剥がす。「イチャつくな! 今本当にやばい状況だからそういうのは後にしてくれ! シドがめちゃくちゃ怒ってる! とりあえず姫さんから離れろ!」 ヴィクトリアから引き剥がされたレインは不満そうな顔をオリオンに向けている。  ヴィクトリアもレインが離れた瞬間、一抹の寂しさを感じ、どうして邪魔するのとばか
Baca selengkapnya

16 エスケープ 2

「状況はどうなってる?」「今兄さんと俺しかいなくて、人数がいないでせいで弱まった封じの魔法をシドが力技でねじ伏せてる。半分くらい封印はまだ効いているけど、破られるのも時間の問題だ。本当にあの化け物は一体何なんだろな。今は兄さんが一人で抑えてる」「他の奴らはどうしたんだ?」「総大将はいつもの如くふらっとどこかに消えてるし、ノエは女の所に行っちまったし、セシは明日の訓練休めないとかで寮に帰っちまったよ。今全員呼んでるけどさ。セシはしょうがないけど約二名のわがままがなければシドが怒り狂っても抑えられたはずだ」 オリオンはヴィクトリアを抱え上げたレインを見上げた。「安全な所まですぐ飛ばす」「いや、このまま逃げる。完全に気配がなくなったらシドはここからすぐに離れるだろ。取り逃がすわけにはいかない。全員揃うまではこっちの場所が把握されていた方がいい。馬小屋まですぐそばだ」    懐から二本目の鉄格子の鍵を取り出したレインが解錠しながら答える。レインは椅子の上の鍵とは別に実はもう一本隠し持っていたようだ。「――――――」 叫び声が聞こえる。唸るような怨嗟の声だ。男二人の動きが止まる。ヴィクトリアは悲鳴を上げてレインに強くしがみついた。 オリオンがハッとした顔をする。「破られた! 早く行け!」 オリオンが叫ぶ。オリオンの手の平にバチバチと爆ぜるような光が現れた。 ヴィクトリアを抱えたレインが走り出したのと、小屋の壁を破壊して激高するシドが現れたのと、シドに向かってオリオンが電撃を繰り出したのがほぼ同時だった。「人間如きがァァァ! 殺してやる! 俺の女を汚したなァァァッ!」 電撃を避けたシドがレインに向かって跳躍する。シドの手が届く寸前、彼らの間に割って入る者がいた。 ジュリアスだ。 宵闇でよく見えないが、ジュリアスの剣の周囲に靄のようなものがかかり、空間が歪んでいる。  ジュリアスは下方向からシドを斬り上げようとするが、シドはレインを追った時に破壊した鉄格子の一部を拾い上げて、それで斬撃に
Baca selengkapnya

17 洞穴で二人

 二人は馬に乗り長い時間走り続けた。その間背後のレインに話かけようとしたが、舌を噛むからしゃべるなと言われてお互いずっと無言だった。  ヴィクトリアは太ももを締めてたてがみを掴み、疾走する駿馬から振り落とされないようにしていた。 レインが速度を緩めた。そろそろ馬を休ませないといけないと言う。二人を乗せて走っていたのだから馬も疲れただろう。  街道を逸れて樹木の中に入った。川のせせらぎが聞こえ、小川が見えた所でレインは馬を止めた。川の近くの木に手綱をくくりつけると馬は勝手に水を飲み始めた。 途中に人里もあったがレインはそこで休むことを選択しなかった。理由を聞けば、街にいてシドがやって来たら住民を巻き込むことになってしまうからだと言う。 二人は近くの木の根本に隣り合って腰を下ろした。驚くことにレインは荷物を持ってきていた。袋状の荷物入れの中からカンテラや水筒が出てくる。小屋でヴィクトリアの見張りをしていた時から持ってきていたのは見ていたが、「よく準備をしていたわね」と言うと、「不測の事態に備えていた」と答えが返ってきた。「万が一、君が逃げ出したらすぐに追いかけるつもりだった」 水筒の水をもらいながら、ヴィクトリアのすぐ近くで話すレインから目が離せない。特に彼の唇に目がいってしまう。不躾に見ていてもはしたないので、レインの唇からは意識して視線を外すようにしていた。 ヴィクトリアが口をつけた水筒にレインも口をつける。 レインは繊細さを感じさせる綺麗な顔立ちをしているが、水筒を持つ手や水を飲み下す喉は骨ばっていて男っぽい。 レインが荷物袋の中を探っている。袋の中に母の形見の短剣が入っているのが見えた。 レインはタオルを取り出すとヴィクトリアを抱えて小川のそばまで連れて行った。彼女を平らな石の上に座らせると、川の水でヴィクトリアの泥で汚れた素足を洗い流してくれた。「冷たい?」 ヴィクトリアが浮かない表情をしているのを見たレインが問いかけた。ヴィクトリアは首を横に振る。「シドが来たらどうしようと思って……」「まあ、そうだな……」 レインはヴィクトリアの足をタオルで拭きながら、何事かを考えている。   「もしオリオンたちが捕縛に失敗してシドが現れたら、万事休すだな」 ヴィクトリアが思い詰めた顔をする。レインはヴィクトリアの頭を撫でて、抱き寄せた
Baca selengkapnya

18 ためらい

 洞穴の天井をぼうっと眺めていたヴィクトリアは、洞穴の入口から一羽の黒い鳥が入ってくるのが見えた。「鳥……」 何気なく呟いたヴィクトリアの言葉にレインの体がビクッと反応する。レインはヴィクトリアの視線の先を確認すると、なぜかチッと舌打ちをし、下ろしかけていたキュロットを元に戻した。そしてまるでヴィクトリアの素肌を外部から隠すように、彼女のブラウスの前面をサッと引き合わせる。 レインは実に悔しそうな表情でヴィクトリアのブラウスのボタンを留め始めた。「どうしたの?」「……」 レインは眉間に皺を寄せた表情のまま無言である。ヴィクトリアは何か変だと思った。 黒い鳥は二人の近くに降りた。跳ねるような足取りでこちらに近づいてきて止まる。(随分と人懐っこい鳥ね……) ヴィクトリアは突然の闖入者が気になりつつも、こちらの服を整え終えたレインが、明らかに行為をやめてしまったのことの方が気になった。「……レイン、しないの?」「ヤリたいに決まってるだろ! ちくしょう! 嫌がらせか!」 レインは鳥を睨みつけながらそう叫ぶと、鳥に近づき、その足にくくりつけられていた白いものを抜き取った。すると鳥はすぐに羽ばたいて洞穴から出て行ってしまった。 白いものは丸められた小さな紙片だった。レインが引っ張ると広がり、中に文字が書かれているのが見えた。ヴィクトリアが覗きこもうとすると、それに気づいたレインが紙片を破って捨てた。二つになった紙片は地面に落下する間にどんどん縮んで小さくなり、最終的には跡形もなくなって消えた。「?」 ヴィクトリアは小首をかしげた。(今の現象は一体何?)「あなたは手品師か何かなの?」「俺は違う。機密文書だから細工がしてあるだけだ」 機密文書。伝令か何かだろう。「何て書いてあったの?」「君が気にするようなことは何も」 レインが近づいてくる。その分だけヴィクトリアは後退して距離を取った。レインが立ち止まる。「ヴィクトリア、なぜ逃げる?」「だってそれ、嘘よね? 私にとっては大いに気になる事よ。『シドは取り押さえた』んでしょ? どうして嘘をつくの?」「見えたのか?」「最初の一文だけ」 二人の間に沈黙が降りる。「ヴィクトリア、好きなんだ。俺のものになって」「嫌よ」 ヴィクトリアは首を振った。「あなたのことは信用できないわ」 
Baca selengkapnya

19 彼の奴隷にはなれない

 宿屋であてがわれた部屋の中を見た途端、ヴィクトリアは固まった。  部屋は簡素な造りで、大きめのベッドがあり、テーブルと椅子が二脚置いてあるくらいだったが、枕は二つ置いてあるのにベッドが一つしかない。(え? ここで寝るの? まさか一緒に寝るの?) ちらりと横目でレインの様子をうかがうが、涼しい顔をしたまま表情が変わっていない。この人が何を考えているのか全くわからない。 レインから視線を外したヴィクトリアは改めて部屋の中をぐるりと見渡した。するとすぐ、壁に扉がついているのを見つけた。 扉を開けて進み、その先の光景を見たヴィクトリアは感動でうち震えた。 お風呂。浴槽がちゃんとついている。何の変哲もない乳白色の浴槽だが、ヴィクトリアには光沢を持ったそれが光り輝いているかのように眩しく見えた。 ずっとシャワーばかりだった。しかも水。ここでならお湯を溜めてゆっくり過ごすことができる。ヴィクトリアはニコニコと満面の笑みで後ろからやってきた男を振り向いた。「レイン、お風呂に――」 入ってもいい? という続く言葉を飲み込んだ。(この人はシャワーを浴びただけで襲ってきたのだから、お風呂に入ってもいいか聞くだなんて、どうぞ襲ってくださいと言っているようなものじゃないの!) 高揚していた気持ちが沈んでいく。ヴィクトリアは悲しそうな顔で浴槽を眺めた。「俺は部屋の外に出ているから、好きなだけ入りなよ」 ヴィクトリアの心情を汲み取ったらしきレインが声をかけてきた。しかしそう言われても素直には承服できない。 なにせレインは鉄格子の鍵が一本しかないと見せかけておいて二本目を隠し持っていたような人物だから、彼を全面的に信じてしまって後で泣きを見るのは嫌だ。 戸惑うヴィクトリアにレインがさらに言葉をかけた。「あの時だって君がただ単にシャワーを浴びたいだけだとわかっていればあんなことはしなかった。それに朝までは手を出さないと誓ったし、約束は守る」「でも……」「鍵をかければいいだろ」 浴室及び脱衣所には内鍵がついていた。(至れり尽くせり!)  ******  浴槽にお湯を張ったヴィクトリアは、ルンルンと気分を弾ませながら前進を泡だらけにしていた。全身をすっきり、さっぱりと洗った後、長い髪の毛をまとめて湯船に浸かった。至福のひとときだ。 体を温めながら、先ほど体
Baca selengkapnya
Sebelumnya
1
...
34567
...
23
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status