Alle Kapitel von 獣人姫は逃げまくる~箱入りな魔性獣人姫は初恋の人と初彼と幼馴染と義父に手籠めにされかけて逃げた後その中の一人と番になる~: Kapitel 61 – Kapitel 70

224 Kapitel

30 レインの本性

 脳内にレインの言葉が響き渡る。すぐにはその言葉の意味も、取りつけられた首輪の感触も受け入れられない。(彼は私のことを尊重してくれると思っていたのに…… どうして? 何故?)「レイン…… 奴隷は嫌だって…… 私……言ったわよね?」 問いかけるが返答はない。レインは妖しい光を瞳に宿して無言のまま、カリリ、と歯の奥で何かを噛み、飲み込んでいる。 こちらを見つめるレインの雰囲気が怖い。小屋で冷たい目を向けられていた時よりも、さらに冷え切ってゾッとするような瞳の色をしている。 レインのことは愛している。凍えるような冷たい瞳を向けられても、騙し討ちのように首輪をかけられても、それでも慕う気持ちがなくならない。彼のことをまだ信じたいと思っている。(でも、奴隷は嫌。奴隷になるくらいなら誰とも添わずに一人でいる) 逃げよう。そう思った。レインは奴隷になっても大切にすると言っていたが、今のレインがその言葉を実行するようには思えない。 首輪をかけられた状態ではあるが、その鎖の先をレインがただ握っているだけだ。腕力ならこちらの方が上だ。 思いっきり引っ張ると案の定レインの手から鎖がするりと抜けた。ヴィクトリアはレインから背を向けて店を飛び出す。 しかし―― 走りながらヴィクトリアは体の異変に気づく。(上手く、走れない。おかしい。思った通りに体が上手く動いてくれない) 俊敏な動きを失った足はやがてもつれ、ヴィクトリアは路地の真ん中で膝を折り、座り込んだ。(体に力が入らない…… 立てない……) どうしてこうなったのだろうと絶望的な気分になりながら考えて、先ほどレインに妙なものを飲まされたからだと思い至る。 あれはおそらく体の自由を奪うようなもので、そのあとレインが噛んでいたものは解毒剤か何かだろう。口移しだったから、レイン自分も薬にやられないようにと…… その場から一歩も動けずにうずくまっていると、背後から足音が聞こえてきた。振り返ると冷たい表情をしたレインが立っていた。「君は今日から、俺の『犬』だ」 ヴィクトリアは唇を強く噛みしめ、レインを睨みつけた。『犬』とは、獣人の蔑称だ。 きっとレインはヴィクトリアを対等に扱うつもりはないのだろう。物か、畜生か、そんな扱いだ。「好きだったのに! 何でこんなことするのよ! 今まで優しくしてくれたのは一体何だっ
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31 出生の秘密

 ヴィクトリアの体がビクリと反応する。 レインにリュージュの名前を言ったことは一度もない。 ヴィクトリアがレインを見つめる瞳は驚愕に見開かれていた。「何で、レインが…… リュージュのことを知っているの?」「君のことならたいていのことは知っている。食べ物の好みも、繰り返し読んでいるお気に入りの本の名前も、服のサイズも、好きな相手も…… 銃騎士隊の情報収集能力を舐めるなよ」(銃騎士隊……) レインは銃騎士隊員で、ジュリアスと同じ二番隊所属だ。 ヴィクトリアは昔読んだ銃騎士隊についての本の記述を思い出した。二番隊は特殊部隊で、その仕事は情報収集、戦略、諜報…… ――諜報?(まさか、里の中に敵が潜んでいた? 里の内情が銃騎士隊に漏れていたということ?) そう考えれば、ヴィクトリアがレモネードが好きなことをジュリアスが知っていたことにも説明がつく。彼らはそんな細かいことまで知っていたということだ。 レインは直接会っていなくてもヴィクトリアのことをよく知っている―― つまり、ヴィクトリアとリュージュの関係性についても、レインには全部筒抜けだったということか。 ヴィクトリアは青くなってきた。「まだ、そいつのことが好き? 浮気は許さないよ」 ヴィクトリアはぶんぶんと首を振る。「リュージュは弟なんだから、浮気だなんてそんなことにはならないわ。それにリュージュは私のことなんか眼中になかったもの」 レインの顔に不機嫌さが増す。「『リュージュはヴィクトリアを姉だと思っているから大丈夫』だなんて、俺も言われたけど…… そんなのわかるものか。あのクソ男の血を引いているんだから、何をするかわかったものじゃない」「それなら私だって同じだわ」 ヴィクトリアもシドの娘だ。「それは、違う」 レインが頭を振った。「君が、君みたいな子が、あんな汚れた野蛮な奴の血を引いているわけないじゃないか。君は、君のお母さんとその番――お母さんが真実愛した人との子供だよ。シドの娘じゃない」 レインの発言から衝撃を受けるのは何度目だろうか。驚きに硬まるヴィクトリアを見たレインの顔つきが、少しだけ柔らかくなる。「ああ、もっと早く言ってあげればよかったね。そうすれば、あの男の呪縛から解放されて、君の心は自由になれたのに」「それ、は…… 確かなこと、なの……?」「君の故郷に
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32 再び襲われる

 自分がシドの娘ではなかったという衝撃に戸惑うヴィクトリアは、ほとんど抵抗らしい抵抗も出来ずにレインに抱き上げられたまま宿屋まで戻って来ていた。出かける時も姫抱きだったし、宿屋の主人はこの光景に慣れたのか、戻ってきた二人に「おかえりなさいませ」と会釈をしただけだった。  部屋に向いながらヴィクトリアは焦っていた。レインはじっとりと絡みつくような視線をヴィクトリアに向けている。これからどうなるのかなんてわかる。レインはヴィクトリアを抱くつもりだ。  部屋に入るとレインはベッドに直行した。ベッドの端に下ろされると、同じく腰かけたレインに見下される。  ヴィクトリアは距離を取ろうと動くがレインに鎖を引っ張られて離れられない。  レインはヴィクトリアを抱き寄せて、頬に手を置いた。指の腹でヴィクトリアの唇を撫でながら彼女をじっくり眺めている。  眼光を鋭くしながらも微笑むレインは顔に浮かぶ劣情を隠そうともしない。 「ねえ、あれ、また言ってくれない?」  緊張してレインから目が離せなくなっていたヴィクトリアは、問いかけられても何の事を言われているのかわからなかった。 「抱いてって、また言ってほしい」  シドに妙な事を言わされるのには慣れていたが、レインにまで屈したみたいで言いたくなかった。 「最初に言われた時、やっぱり俺たちは引き合う運命なんだって思ったんだ。君も俺を好いてくれているんだって思ってすごく嬉しかった。必死な君が愛おしくてたまらなくて、あの時は本当に抱いてしまおうかと思った。すごく我慢したんだよ。今度はもっと可愛くおねだりしてほしい」 「そんな事、言えないわよ」  こっちは裏切られた気持ちでいるのに、そんなこと言えるはずがない。ヴィクトリアは顔を強張らせていた。 「そう、残念。まあ、言わなくても抱くけど」  レインはヴィクトリアをベッドに押し倒した。 「自分から言いたくてたまらないようにしてあげるよ」  レインがキスしようとするが、ヴィクトリアはそれを拒んだ。レインは怒るのだろうかと思ったが、戸惑うヴィクトリアの顔を眺めている。 「本当は、ヴィクトリアだけを手に入れても駄目なんだ。あのクソ野郎をブチ殺さない限り、俺の復讐は終わらない」  言葉の後半から低く唸るように言うので、ヴィクトリアはレインに恐怖心を抱いた。 「元々、ヴィク
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33 危機一髪

 ヴィクトリアがいきなり大泣きをし始めたので、レインがぎょっとする。  もちろん、涙は演技なのだが。心配そうにこちらを見るレインに優しさが戻った気がして、嘘をつくことに罪悪感が生まれる。 「ヴィクトリア、すまない。酷い事をしているのはわかっている。でも、こんなことをしてしまうくらい、君のことが大好きなんだよ」 「私だってあなたのことが好きよ。あなたに抱かれてもいいってずっと思っていたのよ。なのに、体の自由を奪ってこんなことをするなんて酷いわ。初めてなのよ。獣人にとってはこの先もずっと一生心に刻まれ続けるすごく大切な行為なのよ。押さえつけるのではなくてもっと優しくして。  それに、せめて体の汚れを落としてからじゃないと嫌よ。綺麗な体であなたに抱かれたいわ」 「……わかった。風呂くらい入りたいよな。じゃあ、一緒に入ろう。準備してくるから待ってて」  ヴィクトリアはそれとわからないくらいの微かな安堵の息を吐き出した。レインが少しの間だけでも離れる。その隙に逃げよう。  と、思ったのに――  レインはベッド近くに落としていた荷物袋の中から手枷を取り出した。手枷は片手ずつを別々に拘束する作りで、一端をヴィクトリアの右手首に取りつけると、鎖で繋がれたもう一端をベッドの頭部付近にある飾り柵にくくりつけてしまった。  これではこの場から動けない。ヴィクトリアは内心で焦ったが、唖然ともしていた。  この手枷はヴィクトリアに使用するつもりでさっきの店で買ったのだろうが、一体どういう状況を想定していたのか。そんなものを準備していたことが怖い。  大方ヴィクトリアの逃走防止のためだろうとは思うが、レインは何を考えているのか掴み辛い所がある。  凹んではいられない。レインが離れたこの隙に逃げることができなければ、心身を奪われてもう彼の奴隷になるしか道がなくなる。  ヴィクトリアは心のどこかでそれでも構わないと思っている部分もあった。レインのことが好きだから。  でも、納得できないことがあるのに一緒になっても、どこかで上手くいかなくなってくる気がした。 (レインだって理由はわからないけど、急に態度が変わって少し変よ。一度離れてお互いに頭を冷やすべきだわ)  とにかく手枷を外す鍵を見つけなければ。怪しいのは荷物袋の中だろう。  足を伸ばし、足首で引っかけて荷物袋
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34 協力者

 外からの空気が入り込んできたことで、感度の落ちた嗅覚でも窓の外にいる人物の匂いを拾うことができた。(まさか、どうしてここにいるの?) ヴィクトリアは驚きの表情で窓を見続けていた。 現れた白い手が、窓を解錠する。スーッと音を立てないように窓が開かれて、彼女が軽やかに床に降り立つ。 嗅いだことのあるその懐かしい匂いは、紛れもない、二年前に里から出奔したはずの――(ナディア!) 猿ぐつわをしていなかったら、もしかしたら驚きでその名を叫んでいたかもしれない。 長かった茶色の髪はバッサリ切られているが、顔立ちも匂いも間違いなく異母妹のナディアだ。いや、ヴィクトリアがシドの娘ではなかったのだから、ナディアのことは「元」異母妹と呼ぶべきか。 ナディアは化粧をしてとても綺麗になっていた。服も薄桃色のシャツに花柄のふんわりスカートを履いていて、以前は暗い色の服ばかり好んでいたのに雰囲気が随分と明るくなっている。 ナディアの表情は険しい。眉間に皺を寄せたナディアは、人差し指を唇に当ててヴィクトリアに声を出さないように合図してから、口元の猿ぐつわを取ってくれた。次いで手枷を破壊してヴィクトリアの手首を自由にしてくれる。(ナディア…… 助けてくれるの……?) 彼女の行動からその意図を理解したヴィクトリアは、安堵と感謝から胸が震えぽろぽろと涙を流した。『泣かないの』 ナディアが声を出さずに口の動きだけでそう告げた。ヴィクトリアはうなずいて涙を拭う。 ナディアが首輪も壊そうとするが、手枷よりも厚みがあり彼女の力では壊せなかった。ナディアは仕方なく鎖の部分を根元から引きちぎった。こうしておけば鎖が逃走の妨げになることはない。 ヴィクトリアは脱がされた衣服をナディアに手伝ってもらいながら急いで身につけ、手を借りてベッドから床に下りた。薬のせいで体が鉛のように重く感じたが、歩けないほどではない。  ヴィクトリアは床に転がる母の形見の短剣を、ずっと空っぽだったままの太もものガーターホルダーに収めた。あるべきものがあるべき場所に戻ってきて、萎えかけていた心が少しだけ持ち直す。 部屋の入口ではレインと銃騎士隊員の男二名が話している声がする。二人は音を立てないようにして窓に歩み寄った。 小窓は壁の上部にあり、手を伸ばしても下の窓枠に指先が触れる程度だ。ナディアが椅子を持
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35 銃騎士なんて絶対駄目

「ヴィクトリア!」 レインの焦ったような声が響いてくる。部屋を抜け出したことに気づかれたらしい。(まずい…… こんな所で悠長に話をしている場合ではないわ) ヴィクトリアはナディアと共に逃げようとしたのだが―― ドサリ、と何かが落ちた音と、次いで呻き声が聞こえてくる。 考えるよりも先に体が動いていた。嫌な予感がする。重く感じる体に鞭打って来た道を戻った。「姉様! 駄目!」 ナディアの制止の声も聞かず、ヴィクトリアは建物の角を曲がろうとした。ナディアが追いついてきて止めだが、ヴィクトリアの体の大部分が角の向こうに出てしまった。 ヴィクトリアの目が驚愕に見開かれた。 レインが地面に倒れている。レインは足を抑えながら苦悶の表情を浮かべていた。「レイン!」 飛び降りた。レインが、あの窓から。 人間があんなところから落ちたらただではすまない。「ヴィクトリア……」 レインは現れたヴィクトリアに視線を固定していた。倒れたままのレインは顔を歪めながらも、ヴィクトリアの名を呼んで彼女に手を伸ばしていた。 ヴィクトリアはレインの元まで行こうとしたが、ナディアに腕を引かれて押し留められる。「獣人姫が逃げたぞ! 捕まえろ!」 部屋の窓から銃騎士隊員がこちらを覗き込んで叫んでいた。銃騎士隊員はすぐに姿を消したが、玄関を回って捕まえに来るつもりなのだろう。「姉様!」 レインを見つめたまま動かないヴィクトリアに、ナディアが焦れたように声をかける。後ろ髪を引かれる思いではあったが、ヴィクトリアは踵を返して角の向こうに消えた。「待ってくれ! 行かないでくれ! ヴィクトリア!」 レインは叫ぶだけで追いかけては来ない。きっと怪我をして動けないのだろう。心配だけど、助けには行けない。戻ったら、また彼に酷い事をされてしまう。もうレインに近づいてはいけない。 ヴィクトリアは泣いていた。レインのことが好きだった。(あんなことをされてもまだ好きで、好きで、好きで……) ヴィクトリアは思いを振り切るように首を左右に振った。(このまま逃げよう。レインの奴隷にはなれない) ヴィクトリアはナディアに引っ張られるようにして走ろうとするが、レインの元に引き返そうとした時の動きが嘘のように、ヴィクトリアの足運びは遅い。 路地裏を移動する二人に銃騎士隊員たちの足音が段々と近づ
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36 妹の告白

 ヴィクトリアの言葉を受けたナディアが目を見開き驚いている。「ナディア一人だけなら逃げ切れる。二人して捕まるよりずっといい」「何言ってるのよ! 姉様を置き去りになんてできないわ!」 ナディアが顔を強張らせて強く拒否するが、ヴィクトリアは穏やかな表情で微笑み、首を振る。「私なら大丈夫よ。捕まっても、きっと命まで取られることはないから」「……それで捕まったら、あの男か、それとも別の人間の奴隷になってもいいってこと?」 人間が獣人を奴隷として所持できることは、ナディアも知っているらしい。「よくはないけど…… でも、それしか方法がないじゃない」 追手の人数は増えている。狭い路地裏で挟み撃ちにされたら逃げ場はないし、逃げた先で袋小路に迷い込んでしまう可能性もある。緊張を強いられる追いかけっこで、ヴィクトリアを抱えて逃げるナディアは明らかに体力を消耗していた。機敏に動けるうちに一人だけでも逃げてもらうのが得策だ。 ナディアは険しい顔でヴィクトリアを見つめた。「嫌よ」「ナディア……」「姉様、聞いて。私ね、ずっと後悔していたの。里にいた頃、姉様がずっと傷ついて悩んでいたことを知っていたのに、私、見て見ぬふりして、何もしなかった。あの父様と戦うなんてことは流石にできなかったけど、話くらいなら聞いてあげられたのにね」 ヴィクトリアは目を見開き驚いていた。(ナディアがそんな風に考えていてくれたなんて)「ありがとう」 自然と感謝の言葉が口をついて出てくる。だが、ナディアは首を振った。「違うの。感謝される筋合いなんて全然ないの。本当はね、私、ずっとヴィクトリア姉様のことを妬んで恨んでいたの。姉様がとても綺麗だったから。 姉様はこの世のものとは思えないほど美しいのに、どうして私は獣人として最低限持っているはずの美しさすら持っていないんだろうって思って、悔しかった。 私たちは年も同じで姉妹なのに、どうしてこんなに違うのって思ってた。きっと、姉様が私が生まれる前に、私の美しさを全部持って行ってしまったと思っていたの。 でも、そんなのはただの八つ当たりのやっかみよ。ヴィクトリア姉様に責任なんてちっともないのにね。私、逆恨みみたいなことしてたの。恥ずかしいわ。 それに私たち、血なんて一滴も繋がっていなかったんだから、似ていなくて当然なのにね」「ナディア……
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37 帰郷

 ナディアは腰まであるヴィクトリアの長い髪にハサミを入れた。ヴィクトリアの髪は、肩くらいまでの半分ほどの長さになった。  ナディアは金髪のウィッグの毛先に、短く切った結い紐をいくつも使ってヴィクトリアの銀髪を取りつけていく。頭部付近は元々のウィッグからなる金髪なので、ストールを被ってその部分を隠せば、長い銀髪の人物に見えた。 「良く見ると変だってバレちゃうけど。あまり銃騎士隊員に近づきすぎないようにするわ。もうすぐ夕方だから、薄暗くなってきたのは好都合ね」  二人は衣服を交換した。  ヴィクトリアは自身の銀髪は隠さなければならないので、髪の毛を一つにまとめてから黒髪のウィッグを被った。念の為その上から帽子も被り、目元のわからなくなる色眼鏡をかけた。  そうして二人は銃騎士隊の追跡を避けながら、宿の付近まで戻って来ていた。  曲がり角に身を潜めるのは、薄桃色のシャツと花柄のスカートを着て、黒髪に帽子を目深に被り、さらに色眼鏡をかけた女――ヴィクトリア。  もう一人は、ストールを頭から被って顔を隠し、ストールの端から背中側に向かって特徴的な銀髪を垂らした女――ナディア。  周囲は薄暗くなり始め、夕方に差しかかってきている。  ナディアが道の向こうを探っている。銃騎士隊員数名の姿が見えたナディアは、後ろのヴィクトリアを振り返った。 「姉様、どうか無事で。またどこかで会いましょう。それからこれだけはどうしても言わせてほしいけど、銃騎士を番に選んだら絶対に駄目だからね。ちゃんと、姉様を大切にしてくれる人を選んでね」  ヴィクトリアはうなずいた。銃騎士は敵だ。今回のことでヴィクトリアもそのことがよく身に沁みた。銃騎士――レインと番になることはおそらくないだろう。 「じゃあ私もう行くね。そっちも気をつけて」 「ナディアこそ捕まらないようにね。無事に逃げ切るのよ」  うなずいたナディアは曲がり角から一人身を踊らせると、銃騎士隊員たちのそばまで駆けた。 「私ならここよ、間抜けな銃騎士さん」  ナディアはわざと煽るような事を言ってから身をひるがえす。 「いたぞ! 待て!」  銃騎士隊員たちがストールから銀髪を覗かせた女を追い始める。  隊員の一人が笛を吹き、標的が見つかったことを他の仲間に知らせた。笛の音に散らばっていた他の銃騎士たちも集まってきて
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《『番の呪い』前編》1 変化

 ヴィクトリアはリュージュに抱えられたまま里に向かっていた。馬は人慣れしているらしく、移動しようとするとついてきた。    ヴィクトリアはリュージュの首に腕を回したまましばらく泣いていたが、やがて落ち着きを取り戻した。 「大丈夫か?」  ヴィクトリアが泣き止むと、リュージュが眉を寄せながらとても心配そうな表情で問いかけてきた。一度は止まった涙だったが、いたわるような声をかけられると嬉しいのか悲しいのか鼻の奥がつんとしてしまい、ヴィクトリアは再度泣き出してリュージュを慌てさせた。 「ヴィクトリア、落ち着いてからでいいから何があったのか全部話してくれ」  ヴィクトリアはうなずいた。リュージュが命がけでシドから逃がしてくれたのに、戻ってきたら首輪がはめられて、髪の毛もざんばらに短くなっていて、それにレイン――人間の男とキスして体を触られてた事も匂いでわかっているだろうし、リュージュにしてみればこの数日で何でこうなったと心配になってしまうのもわかる。  ヴィクトリアはレインのことをまた思い出してしまい、切なくなった。レインのことを頭から追い出すように、ヴィクトリアはリュージュにしがみついて彼の匂いを嗅いだ。  リュージュは、まだサーシャと番になっていなかった。  リュージュには申し訳ないが、ヴィクトリアとしてはまだ完全に他の女性のものになっていない彼の匂いは、ずっと求めていた大好きな匂いのままで、リュージュの匂いに包まれているのが嬉しかった。  ヴィクトリアはリュージュの腕の中にいると、とても安心して安らげた。傷ついた心が癒やされていくようだった。  レインに抱えられていた時とは真逆の心の動きだ。  レインにお姫様抱っこされた時は恥ずかしいのが先行したが、胸が高鳴って落ち着かなくなり、離してほしいのに離してほしくなくて、ごちゃごちゃとした心の動きをしたものだった。  かつてリュージュにもレインに対した時のように胸が騒いでどうしようもなくなる時があった。なのに、今リュージュへ感じる気持ちはそれとは対局のものになっている気がした。  信頼に基づいた揺るぎない安心感。ヴィクトリアのリュージュへの思いは、恋心と呼ぶには少し変化しているようだった。  だがリュージュにはサーシャがいるのだから、むしろこれでいい。 (私は、レインでもリュージュでもない、別
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2 真相

「えっ!? 何で?!」 ヴィクトリアはリュージュの衝撃発言に唖然として、瞬きも忘れて彼の横顔をぽかんと見つめた。(え? 結婚式は? 誓いのキスは? 二人で幸せになるんじゃなかったの?) 数々の疑問が浮かぶが混乱して言葉にならない。 うなだれたリュージュが憔悴しきっているように見えた。別れたのは冗談ではなく本当のことのようだ。(何でそうなったの? 私が身を引いたのは一体何だったの?)「どうして…… そんなことになったの?」 色んな考えがぐるぐると頭を巡るが上手く言葉にできず、理由を尋ねるのが精一杯だった。「あいつは元々、俺のことなんて好きじゃなかったんだ。別の相手が好きだったらしい。でも、その相手が自分を好きになることは永遠にないって言ってた…… その相手が誰なのかは、結局最後まで教えてはもらえなかった。 俺の告白を受け入れたのは、シドに脅されたからだって。俺と番にならなければ、あいつの母と弟妹を殺すと。追い詰められて、俺と恋人になるしかなかったそうだ」 結婚式の日のサーシャの様子を思い出す。ヴィクトリアが祝いの言葉を言った時、サーシャは悲しそうにして、こちらを責めるような顔をしていた。 幸せいっぱいのはずの花嫁が結婚式当日にする表情ではない。 ヴィクトリアが里を出奔した時も、サーシャにリュージュをよろしく頼むと言ったが、彼女は返事をしなかった。もしかしたらサーシャは、あの時にはもう、リュージュと別れることを決めていたのかもしれない。 ヴィクトリアは確信した。自分のせいだと。 シドは、リュージュが他の女性を選ぶことで、リュージュを好きなヴィクトリアが傷ついて、自分になびくかもしれないと思ったのだろう。(あれは、あの失恋は、仕組まれたものだった…… シドは、あの時私のことを心配して寄り添ってくれたんじゃない。全然違う。全部自分で仕掛けて、私が闇落ちするのを待っていたんだ。 なのに私は、あんな人のことを……) ヴィクトリアは青くなった。「シドは、俺がお前とずっと一緒にいることが気に入らなかったんだろうな。俺に番ができれば、俺がお前から離れていくと思ったのかもしれない」 リュージュは、ヴィクトリアがリュージュを好きだったことを知らないのだから、そう思っても不思議ではない。でも、真相は彼の考えとは違う所にある。「違うの、私が――」 
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