幼い頃に契約した神様が、今も俺を離してくれない のすべてのチャプター: チャプター 11 - チャプター 20

38 チャプター

第11話 湯気の向こうの神性

「……リョウ、だいじょうぶ?」  耳元で囁かれた声に、思わず目を細める。  身体の奥にはまだ、残響のような熱が残っていて、意識が霞んでいた。 「……っ、アマ……」  見上げると、金の瞳が俺を覗き込んでいた。  その瞳はいつも通り無垢で、優しいのに──どこか、底知れない静けさがあった。  佐伯が片手を上げて、間に入ろうとする。 「はいはい、これぐらいにしとこっか。さすがに遼の身体が壊れちまう」  その軽薄な口調に、胸の奥が軋んだ。  アマが、じっと佐伯を見る。 「……きみ、リョウにさわるの、もうやめて」  その声は無垢で幼いのに、鋭く、ひやりとした温度を孕んでいた。  佐伯の笑みが、わずかに凍る。 「……なにそれ。嫉妬?」 「わかんない。でも、きみが、なんかいうと……リョウのここが、かなしくなる」  そう言って、アマは俺の胸を、そっと指先でついた。 「──え?」 「ぼく、ちがうのが、いい。リョウのここが、あったかいのが、いい」  その言葉に、なぜか喉が詰まった。  佐伯が眉をひそめて言う。 「……何なんだよ、お前は。本当に、なんなんだ?」 「わかんない。けど、きみはリョウにちかづかないで」  アマはそう言って、俺を抱き寄せた。  その指先が、微かに熱を帯びている。  いや、違う──熱ではない。力だ。  神性に近い、何か得体の知れない存在の圧が、背中越しに伝わってくる。 「リョウは……だれにも、わたさない」  ぞくりと、背筋に悪寒が走る。  アマの声は変わらない。でも、その言葉の奥に潜んでいたのは、甘さではなかった。  ──「神様」が本気で奪われることを拒む時、それは――何を意味するのか。  佐伯も気づいたのだろう。  目を細め、言葉を慎重に選ぶように口を開いた。 「……へぇ、やる気か? お前、マジで人間じゃないんだな」  アマは答えない。ただ、ゆっくりと俺の前に立ち、間に入る。  まるで、俺を神域の内側に囲うように。  俺は震える指で、毛布を掴んだ。  佐伯の視線と、アマの背中の間で、胸の奥がちりちりと焦げるような感覚が広がる。 「……やめろ、二人とも……もう、いい……佐伯、今日はもう帰ってくれ」  沈黙が落ちる。  しばらくののち、佐伯が肩をすくめた。 「了解。じゃあな、遼。また呼ばれ
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第12話 湯上りのキス

 風呂上がり。  俺はタオルで髪を拭きながら、リビングのソファに腰を下ろした。 「おい、アマ。こっち来い。髪、乾かすぞ」  バスタオルを腰に巻いただけのアマが、ぴょこ、とこっちを見る。  子供みたいな顔で駆け寄ってきて、ちょこんと床に座った。 「なにこれ?」 「ドライヤーだ。じっとしてろよ、火傷すんなよ」  電源を入れると、アマがびくりと肩をすくめた。けど、次第に心地よさそうに目を閉じる。濡れた金髪がふわふわと揺れて、俺の手の中で乾いていく。 「……きもちいい」 「寝るな、こら」  ドライヤーをかけながら、なんだか俺は不思議な気持ちになっていた。こうしてアマの世話を焼くのは、面倒なはずなのに──悪くない。  指のあいだをすり抜ける髪は、湯気をまだ少しだけ含んでいて、やわらかかった。乾いていくたびに金色がふわりと広がって、まるで光そのものを撫でているみたいで、妙に落ち着かない。  こんなふうに誰かの髪を乾かしてやるなんて、いつ以来だろう。いや、そもそも記憶にない。なのに、アマが気持ちよさそうに目を細めるたび、胸の奥のどこかがじんわり緩んでいく。  風を切って温風が止まると、アマが振り返った。 「ありがと。リョウ、やさしい」 「別に……誰でもやる。普通だ」  乾いた髪に手を差し込んで軽く梳くと、アマがくすぐったそうに肩をすぼめた。  ふと気づくと、アマが着ているTシャツが後ろ前だ。襟ぐりが詰まりすぎていて、タグが堂々と胸元に出ている。 「……おまえ、それ後ろ前だぞ。着方が違う」 「ちがうの? でも、こっちのほうがリョウのにおいが強い」  そう言って抱きしめるようにTシャツの胸元をぎゅっと掴むその仕草に、思わず笑ってしまった。  たぶん本人は本気で言っている。冗談でも、照れ隠しでもなく、ただそう感じたからそのまま口にしているだけだ。  だから余計にたちが悪い。  こっちは一言で心臓を跳ねさせられてるっていうのに、当の本人はまるで分かっていない。 「……まあいいや。明日は休みだから、服買いに行くか。おまえに着せる服、ちゃんと選ばないとな」 「リョウとどこかいくの? うれしい」 「……そうだな」  アマは俺の言葉にぱあっと笑顔を浮かべた。  そうしてるうちに、アマは俺の隣にぴたっと座ってテレビに目を留めた。  ソファ
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第13話 無垢で、淫らで、あたたかい

 夜。  アマは当然のように俺の布団に潜り込んで、俺を抱きしめた。  背中を撫でる手は、ただあたたかくて、優しい。 「……リョウ、ぬくいね。すき」 「……いいから、早く寝ろ」 「うん……」  少し沈黙。けれど、アマの声がまた囁く。 「ねえ、リョウにさわりたい。キスしてもいい?」 「……っ」  どうしようかと迷っていると、アマの唇が、そっと触れる。  一度だけ。触れるようなキス。 「ん……ちゅ」 「……お前」 「ん……リョウのくち、やわらかい」  アマは微笑んで、唇にまた口づける。  ただ触れているだけのはずなのに、なぜかじんわり熱がにじんでくる。 「……なんかね」 「……ん?」 「ちゅーしてたら、リョウのこと……たべたくなっちゃった」 「……っ、は?」  一瞬、全身が硬直した。 (なに言ってんだこいつ……いや、まて、ほんとに何を……) 「だめだって、そういうのは──」 「ちょっとだけ」 「いや──」  言い切る前に、アマの唇がまた重なる。  今度は、押し込むように、少しだけ強引に。  そして──舌先が、唇のすき間にぬるりと滑り込んできた。 「っ……ま、て……っ」 「はむ……、リョウのした……、おいしい」  舌が、やわらかく吸いついてくる。  俺の舌先を、まるで小動物が大事な餌を味わうように──小さく、丁寧に、何度も噛むように。 「や、やめ……っ」 「……こわい?」  囁くように聞かれて、リョウは一瞬言葉を失う。 (……確かに怖い) (食べるって……本気じゃないよな?)  けど── 「ちゅ……ん、んちゅ……」 (なんで……気持ちよくなってんだ、俺……)  舌先が絡め取られ、逃げても追ってくる。  くちゅ、くちゅ、と微かな音とともに唾液が混じり、喉の奥がじんと熱くなる。 「リョウ……もうすこし、してもいい?」 「おまえ……ほんとに……」  身体が、少しずつ溶けていく。  怖いはずなのに、舌を取られて、吸われて、柔らかく甘く包まれて──  止めなきゃ、って思ってるのに。  でももう、キスを拒む力が抜けていく。 「んっ……や、ぁ……アマ……っ」  鼻に抜けるような声が漏れる。逃げようとするたび、アマの舌が追いかけてくる。  唇を割って、口内にまで入り込んで── 「ん、ちゅ
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第14話 神に熔かされる夜

 俺は目を伏せて、深く息を吐く。 「……わかった。準備、するから……少し待て」  ベッドサイドの引き出しを開け、潤滑剤のボトルを手に取る。  キャップを外す手が微かに震えていた。冷たい感触が指にまとわりついて、喉の奥が熱くなる。 (まさか、こんなこと、自分でする日が来るとはな……) 「んっ……」  苦笑めいた息をつきながら、腰の奥を濡らした指で探り、それからゆっくりと指を差し入れる。ぬるりと滑るそれに、太ももが無意識に震えた。    羞恥と火照りが入り混じり、触れる指先がもどかしくなる。  そのとき。  視線を感じて顔を上げれば、アマが目をきらきらさせてこちらを見ていた。 「リョウ、きもちいい。ぼくもやる」  無邪気すぎる声が、やけに艶っぽく聞こえるのは、今の状況のせいか。 「っ、待て、アマ、おまえ……っ」  言いかけた瞬間、アマが潤滑剤のボトルを掴んだ。  ちょこんと膝をついて、ボトルを傾け、自分の指にたっぷりと液を垂らす。 「リョウ、ひとりだから……ぼくがする」  その指が、そっと俺の足の間に忍び込んでくる。  最初はおっかなびっくりだったが、すぐに慣れた様子で撫でてきて── 「あっ……く、ぅ……! そこ、いきなり……っ」  いきなり奥まで押し込まれて、思わず腰が浮く。  低く押し殺した声が喉から漏れた。  だがアマは気にする様子もなく、くちゅ、くちゅ、と水音を立てながら指を進める。  ぐっ、と浅いところを押し込んで、ぴくんと跳ねた俺の反応を見てにこりと笑う。 「いま、ここ……ふるえた」 「ッ……アマ、それ……っ、やめ……っ、違……っ……!」  恥ずかしさに喉がひりつく。  けれど、その指は確実にいいところばかりを撫でてくる。  わざとか? と思うほどに、反応のいい場所を外さない。  腰が熱くなる。理性が削れていく。 「ん、んく、ぁっ……♡ っ、なんで……うまっ……ッ♡」  声が甘く割れたのを自覚して、唇を噛む。だが、止まらない。  アマの指が、内側をなぞって、擦って、時折きゅっと押し込んできて── 「リョウ、なんか……ここ、ぴくぴくしてる。きもちいいんだね?」 「だ、めっ……それ、そこばっか、っ……っあ、あぁ……♡♡」  背がのけ反る。  喉からしぼり出る声は、男としての誇りす
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第15話 息の仕方を忘れるほどに

 朝日がカーテンの隙間から差し込み、部屋の空気がほんのり金色に染まる。  俺は伸びをしながら、隣の布団に転がるアマの頭を軽くぽんと叩いた。「買い物行くぞ」 「かいもの……?」  アマがぱちくりと瞬きをする。「いつまでも俺の服ばっか着せられないだろ」 「リョウのふくすき。いいにおいする」  Tシャツの襟をくんくん嗅ぎながら。 「……サイズが合わない。あと、たぶん楽しいぞ」 「たのしい? いく!」 支度を済ませ、車を出す。  どうやら、アマにとっては車も初体験らしい。 ハンドルや窓ボタンに興味津々で、エンジン音が鳴るたびに「おおっ」と歓声を上げる。ひとしきり騒いだ末、ようやく助手席に収まったものの──その間にドリンクホルダーを一度壊されかけた。 モールに着くまでも、窓の外を見ては騒ぎ、信号を数え、ワイパーのスイッチを押しそうになり。 俺は、何度もため息をこらえながら、無言でアクセルを踏み続けた。*** 国道をしばらく走り、町で一番でかいショッピングモールに着いた。  このあたりじゃ、服を買うっていったらもうここしかない。  学生も家族連れも、みんな結局ここに来る。  自動ドアが開いた瞬間、空気が変わった。  冷房の風より先に、視線がこちらへと集まる。 ──目立つ、というレベルじゃない。 金の髪、整いすぎた顔立ち、モデルのように長い手足。  周囲の目が一斉に吸い寄せられる。誰もが二度見して、息を呑んだ。  「え、誰?俳優?」「見た?やばくない?」そんな声がすれ違う。 までは、よかった。「リョウ、いまのなんでひらいた!? すごい!ぼくもできる?」  アマが自動ドアに無邪気に声を上げ、くるくると回る。 ……空気が、変わる。 さっきまで憧れの目だった人々が、一瞬きょとんとした顔になる。  そして、ざわ……っと小さな笑いが広がる。  そのギャップに、視線が「興味」から「奇異」に変わっていくのを感じた。(……だよな) 180センチ越えの成人男性が、自動ドアで無邪気に騒いでいれば、そりゃ目立つ。  隣にいる俺の肩にも、いろんな意味で視線が刺さる。「……アマ、はしゃぎすぎるな。こっち来い」 「えっ、あっ……うん、リョウ」 すっと手を差し出すと、アマは素直にそれを取る。  俺はそのまま、人波の中へと歩き出した。
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第16話 止まりし瀬で神は微笑む

 アマが現れてから、1週間が過ぎた。  最初は混乱と戸惑いばかりだった生活にも、少しずつ慣れてきた。  朝は俺のベッドに潜り込んで目覚め、昼にはリビングで不思議なものにいちいち歓声を上げ、夜にはぴったりと体を寄せてくる。  まるでペースを奪われたような毎日だったが──不思議と、それが嫌ではなかった。  ただ、今は少しだけ、空気が違う。 「……で、今日はなんの用だよ」  ドアの前で佐伯を迎えた俺は、不機嫌を隠さなかった。  視線の先、立っていたのはいつも通りひょうひょうとした佐伯だ。  だが、さすがに今日は少し気まずそうに、視線を泳がせていた。 「怒ってんのはわかってるけどさー、いちおう報告、っつーか調査結果?」 「調査結果って……お前、あれのあと、よく顔出せたな」 「いや、だから、悪かったって。てか、お前も途中からノリノリだったじゃん」  その言葉に、胸の奥がじくりと痛んだ。  どうして、そうやって笑いに変えるんだ。  人のせいにして、冗談にして逃げる。  悪気がないのはわかってる。  でも、その軽さが、いちばん残酷だ。  ……軽さが、傷に触れる。 「──は? もう帰れ」 「おいおい、待てって。これだけ言わせてくれよ。ほら、俺、遺跡と腕輪についてちょっと調べたの。……ちゃんと説明したいから、入れてくれる?」  その声には、いつもの軽さの奥に、ほんの少しだけ真剣さが滲んでいた。  しばらく睨み合いのような沈黙の後、俺は無言でドアを開け直す。  佐伯は「ありがと」と気安く言って、遠慮もなく部屋に上がると、持っていた折りたたみ資料をテーブルに広げた。  俺はしぶしぶそれを取り上げた。  紙に目を落とすと、そこには神根遺跡の航空写真と、腕輪のスキャン画像。下には小さな文字で、構造分析と注釈が並んでいた。 「……これ、お前が?」 「そう。面白いことがいくつかわかった」  佐伯は勝手に椅子を引いて座ると、声を潜めるように話し始めた。 「まず、腕輪の模様な。外側に刻まれてた文様──円を四つ組み合わせたような形、あれ、文化人類学的には環契文《かんけいもん》の一種らしい。契約の場で使われる象徴だ」 「契約……って、神と?」 「あるいは、神に近い何かと。で、面白いのがこの中心部──ほら、微かに破損してるように見えるだろ?」
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第17話 神が最も近づく日

 数か月後、東北芸術文化大学構内。  昼下がりの講義棟は、どこかのんびりとした空気に包まれていた。 「はーい、この統計ね、分散の取り方で全然印象変わるから。だからここは……」  俺が担当する「文化統計分析論」の授業は、いつも通り淡々と進み、チャイムが鳴ると学生たちは一斉にノートPCを閉じて席を立った。 「ありがとうございましたー!」  元気な声にひらりと手を振って応える。教室を出ると──待っていたのは、いつものアマだった。 「リョウ!」  遠慮のない声とともに駆け寄ってきて、ぴたっと抱きついてきた。 「おつかれさまー! ぼくね、ずっとまってたんだよ」 「おい、また授業抜けたろ。留学生講義、出なきゃ単位取れないって言ったよな」 「んー……でも、リョウの声、ききたかったもん」  そう言って、アマは俺のネクタイをくいっと引っぱり、顔を近づけてくる。  このままだと、また誰かの前でキスされかねない勢いだ。 「やめろって。ここ、大学。社会の秩序とかあるから」 「しょーかいのしつじょ?」 「……社会科基礎からやりなおしか」  ため息をついて、つい髪の中に手を入れて撫でまわすと、アマは気持ちよさそうにトローンと目を細めてきた。研究室に戻ると、アマはあいかわらずするりと隣に座り、書類に向かう俺の肩にあごをのせてくる。 「リョウのかみ、いいにおい……シャンプー、ぼくもおなじのにしたい」 「こないだ、一緒に買ったろ」 「そっかー。じゃあもっと使おーっと」  どう考えても異常なのに、これが日常になってしまっている。学生も職員も、もう誰も何も言わない。すっかり「教授に懐いてる美形留学生」で通ってしまっているらしい。  そんなときだった。 「よー、忙しいかよ、教授」  ノックもせずに現れたのは、佐伯だった。 「あ? おまえか。アポ入れろって言ってんだろ」 「アポ入れるほどの用じゃねえし。……先週の飲み会の会費、まだもらってなかったなーと思ってさ」 「それだけのために来たのかよ……」 「あと、お前の顔見たら何か元気出るかなーって」 「帰れ」 「ひど。俺だって金欠なんだよ、文化系は予算つかねーの」 「……ぼくの、リョウに、よう?」  アマが、静かに──だが確実に怒ってる声で割って入った。その瞬間、研究室の空気が少しだけ重くなる。
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第18話 契約の夜、甘さの奥にひそむ影

 夜。  薄暗い部屋に、布団の擦れる音だけが響く。  アマが俺の隣に、いつものように滑り込み、身体を寄せてくる。  温かい腕が背中に回り、柔らかな吐息が首筋をくすぐった。 「リョウ、あったかい……すき。」  その声は、子供のようで、どこか甘く掠れている。  自然と、胸の奥がきゅっと締めつけられる。 「……お前、ほんと毎晩来るよな。」  苦笑まじりに呟くと、アマがふふっと喉を鳴らした。 「うん、まいばんしたい。ずっといっしょにいて、リョウのこと、ぜんぶ食べちゃいたいの」  囁く声に、ほんのりとした熱と執着がにじむ。  言いながら、アマは頬に軽くキスを落とす。  いつもの、甘やかな口づけ。  けれど、そのあとで── 「でも、きょうは、とくべつだから」  両手でそっと俺の頬を挟み、真っ直ぐに見つめてくる。  その瞳に、強くて静かな決意が宿っていた。  心臓が、どうしようもなく速く鳴る。 「……特別って……何が……?」  思わず尋ねた声は、かすれていた。  けれど、アマは何も言わず、ただ俺の唇にそっと口づける。  ──いつもより、少しだけ深く、濃く。  舌がゆっくりと割り入り、ぬるりと絡みつく。  そのまま、全身を解かすように、じっくりと舌を吸われ、味わわれ、 (……答えは、言葉じゃなくて……これでってことか……)  そう思ったときにはもう、背中に回ったアマの手が、肌の上を撫でていた。  唇を塞がれたまま、身体の奥まで蕩けていく。 「うん……でも、リョウ、さわりたい。」  アマの指が、そっと頬をなぞる。  ひやりとした感触に、体が小さく跳ねる。 「きす、してもいい?」 「……もう、してるだろ……」  唇が震えた。  何度も交わしてきたはずなのに、今夜だけは──少し、違って感じる。  けれど、視線が合ったまま、アマは逸らさなかった。  まっすぐに俺を見つめている。いつもみたいに無邪気な顔で、それでいて、どこか──覚悟めいた光が宿っていた。 「……きょうは、とくべつ」  そう呟くように言うと、アマはゆっくり顔を寄せてきた。  唇が触れる。  そして、舌が割り入るように深く重なって──  くちゅ……と、柔らかい吸いつきが耳を撫でた。  微かな湿り気が伝って、背筋がぞくりと震える。  目を上げれば
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第19話 契約完了──甘い夜が、氷に変わる

 アマはもう一度、俺の唇にキスを落としてから、そっと身体を重ねてきた。 「リョウ……つづき、していい?」  囁きながら、アマは自分のものを手に取り、潤滑剤をたっぷりと纏わせる。  俺の脚の間に膝を割り入れ、ゆっくりと奥へと進んでくる。 「……っ、アマ、それ……っ」  拒む言葉は、どこかへ溶けた。  すでに蕩けきった身体が、それを許していた。  ぬるり、と侵入してくる熱。 「んっ……く、ふ、ぁ……っ♡ やっ……んぅ……っ♡♡」  ゆっくりと奥へ押し込まれる感触に、喉が詰まりそうになる。視界が滲んで、声が漏れるのも止められない。 「リョウ……っ、すごい……ぼくのを、ぎゅって……してる……あったかい……っ」  アマが夢中になったように腰を揺らし始めた。  ぐっ、ぐりっ、と奥を擦られるたび、ぬるりと絡みつく感触とともに、快感がせり上がってくる。 「ふ、ん……あぁ……っ♡ だめ、そこ……ぅぁ……っ♡♡」  喉奥から震えるような声が漏れる。理性が溶けそうだ。 (……なんで、こんな……奥、ずっと、きもちいい……っ)  脳が蕩けるように熱くて、触れられてない場所まで敏感になっていく。 「リョウ……ねぇ……けいやく、して……? ぼくと、もっと……深くなって……」  吐息まじりの囁きが、耳たぶにふわりと触れる。  その声だけで、内側がびくん、と跳ねた。  囁きが耳元で落ちる。 「……け、けいやく……? 何を……」 (けいやく? 契約ってことか?) (いや、神と契約とかやばい気しかしないだろ……)  問い返す声は、もう震えていた。  それでも、また強く擦られ、痺れるような熱が腹に集まってくる。 「アマ……やっ、奥、そこ……ぐっ……♡」  ぐっ、ぐり、と深く擦られるたび、脚がびくんと跳ねる。  息が詰まって、喉の奥で声が震える。 「んんっ……あ……っ♡」  思考も理性もとっくにぐずぐずに蕩けて、快楽に飲み込まれていく。 「んっ、アマ、また、きちゃ……うっ……♡」  二度目の絶頂が、嵐のように襲う。 「……リョウ、けいやく……ぼくと……」  アマは夢中でうっとりした顔のまま、奥をぐっ、ぐり、と突き上げる。  その瞳は潤んでいて、けれどどこか熱っぽくて、真っ直ぐすぎた。 「……きみの、ぜんぶが……ほしいの……だから、おね
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第20話 アマが消えた朝、紋だけが脈を打つ

「人の子の分際で、わたしの分霊を縛ったか」 アマの唇が、他人の言葉を告げる。  同じ口元から、まるで異なる存在が語っている。「……ぶんれい? アマのことか?」 呼んだ瞬間、瞳がかすかに揺れた。  一瞬だけ、懐かしい温度がそこに浮かぶ。「……リョウ」 その声は、確かにアマのものだった。 けれど、その直後、首が小さく横に振られる。 誰かが、内側から押し戻したというように。「分霊は黙れ」 声が二重に重なる。冷たい神の声と、震えるアマの声が、ひとつの喉の奥でぶつかり合う。 光がゆらめき、足元の空気がきしむ。「音瀬の血は、いまだに穢れている。かつて神を縛り、祈りを欲に変えた一族。その末裔が、また禁を破るとは」 びりびりと、空気が軋んだ。  言葉より先に、怒りが肌に刺さる。静かなのに、暴力的だった。「この不均衡は、断たねばならぬ」 空気が重力を持ったみたいに、全身にのしかかる。  息が詰まる。手足の先から、じわじわと感覚が抜けていく。(だめだ、怒ってる。これ、いつものアマじゃない) (殺される……でも、動けない) アマが一歩、踏み出した。たったそれだけで、視界が滲んだ。「やめてっ!」 叫びが響いた。アマの声。その身体の中から、明確に別の意志が飛び出した。  光が揺れ、本体の動きが止まる。顔がわずかに歪み、己の中にいるもうひとりと争っているのが分かる。「……分霊が、我に逆らうか」「リョウをころしちゃだめ!」 同じ声が、異なる抑揚で重なる。  静寂と悲鳴。理性と情。ふたつの存在が、ひとつの身体でぶつかり合う。 アマの顔をした男は一歩退き、視線を落とした。  その目に、冷たい光が宿る。「ならば、いったん還ろう。分霊ごと、この身を留める理由はない」「──待ってくれ、行くな!!!」 手を伸ばした。  だが、その手が触れる前に、アマの姿が光に溶けた。 まるで、最初からそこになかったみたいに。 床に焼き付いた契約陣の跡だけが、残された。 俺はその場に膝をつき、声を失う。 静寂。風の音さえない。  指先には、まだ温もりが残っていた。 けれど、その温もりの主はもういない。 ──ずっと感じていた気配。あれが、本体だったのだ。そして今、そのすべてが消えた。「……アマ」 名を呼んでも、返事はなかった。  ただ、焦げた匂いの中
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