幼い頃に契約した神様が、今も俺を離してくれない

幼い頃に契約した神様が、今も俺を離してくれない

last updateLast Updated : 2026-04-09
By:  悠・A・ロッサUpdated just now
Language: Japanese
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発掘現場で見つけた古代の腕輪──それを研究室に持ち帰った夜、彼は現れた。 光をまとった金の髪。人ではあり得ないほど美しい、神。 「ぼく、リョウのことが好き。契約しよ?」 拒むべきだったのに、触れられた瞬間から、理性は少しずつ崩れていく。 抱かれるたび、身体は彼を求めるようになっていった。 神に愛されたその日から、音瀬遼の世界は静かに壊れ始める。 それでも彼を現実に繋ぎ止めようとする男がいる。 かつて愛し、今も身体だけは知り尽くしている元恋人──佐伯。 神と人間。 二つの引力のあいだで、遼はもう元の自分には戻れない。

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Chapter 1

第1話 拾ってはいけないもの

 ──佐伯から電話がかかってきたのは、神根かみね遺跡での発掘調査の最中だった。

 石碑の影が長く伸び、風だけが静かに吹いていた。

 スマホが震えて、佐伯の文字が表示される。

 世間的に言うなら──元恋人で、今は……都合のいい関係。

 そう考えた瞬間、自分で胸を冷やすような気がした。

 俺はため息をついて応答ボタンを押した。

「……なんだ」

『今日うち来いよ。嫁いねぇからさ。久々に──』

 その軽い声が胸に触れた瞬間、ちく、と痛んだ。

(……そういう扱いかよ)

 口には出さない。

 出す資格なんてない、とずっと思ってきたから。

「うるさい。今、神根かみね遺跡の調査中だ」

『そんなの後でいいじゃん』

「……論文の締め切りがある」

『はいはい。教授様は忙しいな。逃げてんだろ、遼』

「違う。……もう切る」

 通話を切る。

 遺跡の静けさが戻った瞬間、胸がうずく。

(……いや、違う。

 本当は、行きたくない。

 でも──少しだけ、会いたい)

 佐伯の指。

 肌を撫でられたときの体温。

 酔って弱くなった夜、腰を支えられて、抱かれた瞬間のあの安心する感覚。

(……やめろ。忘れろって)

 思い出すたび、身体が先に反応するのが情けなかった。

 あれを欲しがってしまう自分が、いちばん嫌いだ。

 深く息を吐き、遺跡の石の冷たさに手を置く。

(……俺は、もうあそこに戻ってはいけない)

 そう思うほど、会いたいがじわじわ胸の底から滲んでくる。

 風が吹き抜け、石碑の影が揺れた。

(……俺は、いつもこうだ)

***

 佐伯と出会った頃の俺は、まだ助教授で、不器用なくせに、人にはすぐ情が移る人間だった。

 研究で煮詰まれば佐伯の袖をつまみ、酔えば肩にもたれかかった。

 好きだった。

 けれど──

 あの頃の俺はもう薄々わかっていた。

 誰かの未来に入り込む資格なんて、自分にはないと。

 だからあの日、佐伯に「実家についていこうか?」と言われた時、胸が跳ねたのに、俺は笑ってしまった。

「佐伯は結婚して家庭作る人だろ?」

 喉が裂けるほど痛かったのに、その言葉で全部を終わらせた。

 そして、本当に佐伯は結婚して、俺は行かないでと言えないまま残された。

***

 風が吹いた。

 石碑の基部で影が揺れ、その奥──岩の裂け目の端に、奇妙な金の腕輪が半ば埋もれていた。

 地層の年代から考えて、ここにあるはずがない。

 なのに、目が離せなかった。

 拾い上げた瞬間、胸の奥がじくりと疼く。

(……なんだ。これ)

 その瞬間だった。

 ──りょう。

 声がした。

 耳ではない。

 胸の奥で、直接響いた。

 視界が揺れる。

 光の粒。

 小さな手が、俺の手を握っていた。

『やくそく』

 幼い声。

『ずっと、いっしょ』

 柔らかな温度。

 確かに、そこに誰かがいた。

 ──ぱちん。

 意識が戻る。

 気づけば、俺は腕輪を強く握りしめていた。

(……今のは、なんだ)

 懐かしい。

 けれど、思い出せない。

 胸の奥だけが、かすかに熱を帯びている。

 怖いはずなのに、不思議と拒絶する気持ちは湧かなかった。

 まるで──

 長いあいだ離れていた誰かが、ようやく戻ってきたような。

 理由はわからない。

 だが、この腕輪を手放してはいけないと、身体の奥が静かに理解していた。

 とっさに拾い上げ、研究室に持ち帰る。

 正式な届け出は明朝でいい。一晩だけ、自分の手で観察してみたかった。

***

 ──それから数時間後、俺の自室。

 研究室で腕輪を観察していた俺は、背後に気配を感じて振り返った。

 そして、固まった。

 長身の男が床で眠っていたのだ。

 彫刻のように整った顔立ち。

 180cmはありそうな体躯。

 そして──一糸まとわぬ裸。

「お前……何者だ。どうやって入った」

 思わず声を上げる。

 男はゆっくり目を開けた。

 金色の瞳が、まっすぐこちらを見ている。

 そして、俺の腕に巻かれた腕輪を見つけると──

 ふわりと微笑んだ。

「……きみ、ひろった。ぼく、おきた」

 その瞬間、背筋が凍った。

 知らないはずなのに──

 なぜか、ずっと昔からこの声を知っている気がした。

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