二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す의 모든 챕터: 챕터 131 - 챕터 140

209 챕터

第131話

翌朝、瀬奈は里亜と同じベッドで目を覚ました。湊斗は既に家を出たようで、屋敷にはメイドたちのほかには誰もいなかった。(あの人がいないととっても穏やかな朝ね……)そうはいっても、瀬奈の頭の中から昨夜湊斗にされたことが永遠に離れなかった。夢であると思いたかったが、未だに彼の唇の感触が生々しく首筋に残っていた。あのまま里亜が部屋を訪れなければ、瀬奈はきっと湊斗に抱かれてしまっていただろう。そのことを考えるとゾッとした。(私ったら、何をしているのよ……今度はキスされる前に股間を蹴らないといけないわね)瀬奈はそう心に決め、ベッドから起き上がった。「おはようございます、奥様」「ええ、おはよう」瀬奈は部屋へ入って来たメイドに挨拶を返した。彼女はカーテンを開け、瀬奈の着替えを手伝い始めた。一人でもできることだが、湊斗に監視するように言われているのだろう。彼女がやったことは全てメイドを通じて彼に報告がいくのだ。瀬奈は気分が悪くなった。「湊斗は今日も遅くなるのかしら?」「はい、そのようです」「そう……」着替えを終えた瀬奈は、里亜を寝かせたまま下の階へとおりた。「……何だか騒がしいわね」家の外から誰かの言い争う声が聞こえてくる。気になった瀬奈は、メイドに里亜を任せて外へ出た。「……一体何の騒ぎ?」扉を開けると、一人の若い女が邸宅の前で警備員と揉めているようだった。女の高い金切り声が、家の中まで聞こえてくる。まだ朝早いのに、迷惑極まりない。「お、奥様!」邸から出てきた瀬奈を見たメイドが慌てたように声を上げた。何故そんな顔をするのか。何か私に見られたらマズいことでもあるのか。瀬奈は不思議に思いながらも、現場へと近付いた。「何が起きているの?一体彼女は……」「――奥様ですって!?」女は警備員の制止を振り切り、瀬奈の元へ走ってきた。「お、おやめください!」必死の形相で瀬奈に突進する女を、メイドが体を使って止めた。「どきなさいよ、アンタ!」「そういうわけにはいきません!奥様に傷一つでも付いたら私の首が飛んでしまいます!」二人はしばらくもみ合いになり、後から来た警備員が女の両腕を後ろで拘束した。「ちょ、ちょっと放しなさいよ!」「大人しくしろ!」男の力に抵抗できるはずもなく、女は呆気なく取り押さえられた。彼女は両手を拘束されながらも、顔を上げ
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第132話

瀬奈は彼女の言っていることの意味がわからなかった。「どういうこと?私が湊斗を脅迫しているですって?」むしろ脅迫されているのはこちらのほうだ。ここへ来てからというもの、瀬奈は里亜のことを出されて自由に外へ出ることもできない身となっていた。「そうでもしないとアンタなんか湊斗に相手にされるわけがないじゃない!私たちが愛されてるからって醜いとは思わないわけ!?」「……」とんだ言いがかりだった。瀬奈は湊斗を引き留めてなどいないうえに、できれば愛人たちの元へ行ってほしいと願っているほどだった。(でもまぁ……彼女がそう思うのも無理はないかもしれないわね……)湊斗は瀬奈を嫌っていることで有名だ。そんな彼が突然彼女のいる本邸へ帰るようになったのだから、疑って当然だった。「ところで、あなたは一体誰?」「フン、誰がアンタなんかに名乗るのよ!」女は瀬奈から顔を背けた。何とも生意気な態度だった。前から思っていたが、湊斗は女の趣味が悪い。後ろに控えていたメイドが、そっと瀬奈に耳打ちした。「奥様、彼女はおそらく社長の愛人の一人……西田美琴(にしだみこと)さんだと思われます」「あぁ、たしかそんな人がいたわね……」瀬奈は湊斗の愛人を全員把握しているわけではなかった。彼は誰とでも関係を持つし、夫の愛人の顔や名前を覚えていたくもなかった。しかし、その名前にはどこか聞き覚えがあった。瀬奈は美琴の顔を凝視した。「あ……もしかしてあのときの……」遡ること十年ほど前。瀬奈が三十を迎えようとしていた頃だ。この頃には湊斗との結婚生活が十年を過ぎており、彼女は相変わらず家に帰ることのない彼を待ち続けていた。夜遅く、瀬奈はいつものように寝室のベッドサイドに座り、窓の外を眺めていた。――今日こそは彼が帰ってくるのではないかと、そんな淡い期待を抱いて。そんな中で部屋の扉が開き、瀬奈はついに彼が自分の元へ来てくれたのだと喜んだ。しかし、入ってきたのはメイドの一人だった。彼女はそのことを残念に思いながらも、彼女を中に入れた。「奥様、旦那様より伝言がございます」「み、湊斗から!?」瀬奈は思わず前のめりになった。「はい……大事な話があるから今すぐ指定する場所に来てほしいとのことです」「湊斗が……?私に……?」思いもよらない言葉だった。舞い上がった瀬奈はすぐに外出の準備をし、その
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第133話

今、湊斗って言ったの?瀬奈は見たくないと思いながらも、ゆっくりと声のした方を振り返った。「……!」振り向いた彼女は思わず口元を手で押さえて絶句した。――二人の男女が、車の中で激しく愛し合っていたのだ。男の顔は見えなかったが、背格好や髪型が瀬奈のよく知る彼とそっくりだった。静寂に包まれた夜の街では、情事の声がはっきりと聞こえる。抱き合った二人の唇が重なり合い、いやらしい音を立てて混ざり合った。「湊斗ぉ……湊斗……」瀬奈は衝撃でその場から動くことができなかった。三十を手前に、性行為の経験が無かった彼女にとってはあまりにも生々しい光景だった。相手が彼女の愛する湊斗だと思うと余計に。瀬奈はしばらく彼らの情事を眺めていた。そのとき、女の目がチラリと一瞬だけ瀬奈に向けられた。「……!」勝ち誇ったような笑みに、瀬奈は気付けばその場から逃げるように走り出していた。最初から全て仕組まれており、嵌められたことに気付いたのはそのあとだった。瀬奈は目の前でこちらを睨みつける彼女を、あのとき恥ずかしげもなく見えるところで行為をしていた女と重ねた。見事、ピッタリ顔が一致した。(あー……あのときの女か……)西田美琴は今から十年ほど前に湊斗が愛人として迎えた女だった。当時二十歳くらいだったはずだから、今は三十くらいか。歳をとっても醜悪な性格は何一つ変わっていないようだ。「さっさと放しなさいよ!湊斗に言いつけるわよ!」「年上に対する口の利き方がなってないわね」瀬奈は美琴を冷たい目で見下ろした。「私は湊斗が一番寵愛する女なのよ!?アンタこそ無礼じゃない!」「一番……」瀬奈は思わず笑みを零した。何を勘違いしているんだか。湊斗がこの世で最も愛しているのは彼女ではなく、沙織だ。そんなこともわからないだなんて。(相手にするだけ無駄ね)瀬奈は面倒くさそうに美琴に言い放った。「ここに湊斗はいないわ、さっさと帰りなさい。近所迷惑よ」「ふん、余裕ぶっちゃって。本当は悔しいんでしょ?」「……どういう意味よ」瀬奈が眉をひそめると、美琴はそんな彼女を翻弄するように赤い唇を素早く動かした。「好きな人から相手にされないって一体どんな気持ち?私なんて毎日のように求められて……車の中でも彼が我慢できなくて困っちゃうのよ」「……」車の中とは、まさにあの日のことを言っているのだ
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第134話

美琴は瀬奈を嘲笑うように口角を上げると、彼女を再び挑発するように声を張り上げた。「――アンタには興奮しない、性的魅力を感じないって!」「……」瀬奈の顔から表情が消えた。美琴はそんな彼女に、さらなる追い打ちをかけた。「ガリガリでみずぼらしくて欲情しないみたいよ!私のほうが抱き心地が良いとも言っていたわ!」「……」瀬奈は言い返すことなく、じっと黙り込んでいた。さぞ悔しがっているのだろうと美琴はニヤけながら彼女を見つめていた。しかし、瀬奈は呆れたように口を開いた。「……別にどうでもいいわ」「な、何ですって……!?」瀬奈は非常に冷めた様子だった。今さらそんなことを教えられたところで、どうだってよかった。湊斗が自分をどのように思っているかなんて気にもならないのだ。「今さら、あの男に抱かれたいなんて思わないわ。特に興味もない」「嘘よ!アンタはたしかに湊斗を愛していたはずでしょう!?」――愛していた。その言葉を否定するつもりはない。美琴の言う通り、瀬奈は湊斗をずっと恋い慕っていた。しかし、それはもはや全て過去のものだった。「守るものができると人は変われるって知ってる?」「な、何を言っているのよ……」瀬奈は眉間にシワを寄せる美琴を、完璧な笑みで見下ろした。「――男に縋りついて生きていくなんてそんなみっともない真似、私はもうしないわ」「な……」美琴は羞恥で体をプルプルと震わせていた。誰のことを言っているのかが明白だったからだ。まさに女手一つで子供を育てている瀬奈だから言える言葉だった。「西田さんを家に帰してあげて。こんな風に事を荒立てなくても、待っていれば湊斗は帰ってくるわ。愛人という立場なんだから、大人しく家で待っていなさい」「……しょ、承知いたしました!」警備員は美琴の腕を掴んだまま、歩き出した。最初こそ彼女は大人しく連れて行かれていたが、しかし――「……なさい」「え?」「放しなさい!!!」美琴は物凄い力で警備員の腕を振り払うと、瀬奈のほうへ突進した。「……!」――バチンッ乾いた音が住宅街に鳴り響いた。瀬奈の左頬に鈍い痛みが走り、顔面蒼白になる警備員とメイド。あまりにも一瞬の出来事で、瀬奈は何が起きたのかわからなかった。「うっ……」彼女は頬を押さえて後ろに倒れ込んだ。華奢な体格からは想像つかないほど、美琴の力は強かっ
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第135話

「神宮司社長が本妻と愛人のバトルに介入するとは……彼はどっちの味方をするんだろうか」「決まってるでしょ、愛人のほうよ。殴られた奥様は可哀相だけど、社長は……」「そうだな、いくら愛人に非があろうとも彼が奥様の味方をするなんてありえない」周囲の人々の嘲笑う声が瀬奈の耳に入った。黒川区では瀬奈の立場は無いも同然だった。そんな声を聞いていると、瀬奈は自分の立場を嫌でも知らされた。「放して!私は湊斗のところへ行くんだから!」暴れる愛人、倒れる本妻、二人を交互に見る夫。何とも異様な光景だった。湊斗は傷だらけの瀬奈の横を通り過ぎ、美琴の元へと歩いて行った。彼女は嬉しそうに顔を赤らめ、人々は予想通りだと瀬奈を憐れむような目で見た。「お、奥様……大丈夫ですか……」「……」瀬奈はその間も体中の痛みに耐えながら何とか立っていた。やっぱり、湊斗は絶対に自分の味方なんてしない。どうせ美琴の肩を持ち、彼女の名誉を貶めるんだろう。湊斗は美琴の前まで来ると、彼女を拘束していた警備員に命じた。「何をしている、本人が望んでるんだから放してやれよ」「で、ですが社長……」「いいから、早くしろ」強い口調に、彼は渋々拘束を解いた。美琴は彼の胸にギュッとしがみついた。「湊斗、最近ずっと家に帰らないから心配していたのよ。あぁ、やっぱりあの女に脅されていたのね!さぁ、一緒に私たちの愛の巣へ行きましょう?」「……お前が行くのは警察だ」「……え?」湊斗は美琴を氷のように凍てつく目で見下ろし、残酷なまでに突き放した。「コイツをさっさと近くの警察署に連れて行け」「はい、社長」後ろに控えていた黒服が、美琴を引きずるようにして連れて行った。「ちょ、ちょっと待ってよ湊斗!嫌ッ!何するのよ!」彼は引きずられる美琴から背を向けると、瀬奈の方へとやって来た。瀬奈は動くこともできず、ただこちらへ近付いてくる彼を見上げていた。(何よ、今さら。あなたのせいでこうなったっていうのに)瀬奈は打たれた頬を隠すように湊斗から顔を背けた。彼は彼女の傷付いた左頬に触れようと手を伸ばすが、その手は届かなかった。「神宮司社長が奥さんを庇うだなんて……」「俺は絶対に愛人の肩を持つかと……」周囲の人々からは驚きの声が上がった。今の瀬奈にとってはそんな声気にもならなかった。心に蔓延るのは、湊斗に対する激し
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第136話

深い眠りについた瀬奈は、夢を見た。まだ湊斗と仲が良かった頃の夢。『湊斗!』『瀬奈、こっちにおいで』瀬奈の手を引いた湊斗は、彼女を抱きしめた。彼の体から伝わる温もりに、瀬奈は思わず微笑んだ。幸せだった。夢の中で見る湊斗の姿は、今よりもだいぶ幼かった。瀬奈に対し、屈託のない笑顔を向けている。思えば、あの頃の私たちはとても仲が良かった。いつからだろう、湊斗が冷たくなったのは。笑いかけてくれなくなったのは。蔑みを含んだ目で見られるようになったのは。彼女には全く心当たりがなかった。最初から嫌われていたほうがむしろ良かった。この世にはどうしても相容れない人間はいるのだから、諦めがついた。しかし、二人はそうではなかった。――こんな扱いをするなら、どうして私に優しくしたの。返ってくることはないとわかっていながらも、心の中で何度も問いかけた。湊斗、私はあなたが憎い。私を放置し続け、愛人の元へ向かうあなたが。初めて里亜を見たとき、汚らわしいと吐き捨てたあなたが。二十年間という年月はあまりにも長すぎた。そうよ、今までの行いは全て意味のないことだわ。彼がどう足掻いたところで、私の地獄のような歳月は返ってこないのだから――目を覚ました瀬奈の頬を、再び涙が伝った。ここへ戻ってきてから、二度目の涙だった。「――瀬奈!」「…………湊斗?」目覚めた瀬奈の視界に、自身を覗き込む湊斗の顔が入った。彼は心配そうに瀬奈を見つめていた。どうしてそんな顔をしているんだろう。そんな風に焦るなんて、彼らしくない。「目が覚めたのか、よかった」「湊斗……」瀬奈は少し重い体をそっと起こした。「私、どれくらい寝ていたの?」「三日だ。三日間ずっと目覚めなかったんだ」「三日も……」気持ちの良い夢を見ていたからだろうか。随分と長く眠りについていたようだ。ふと視線を下に向けると、服が着替えられていた。頬や体の傷の手当ても済まされているようだった。瀬奈はベッドサイドに座っていた湊斗を軽く睨んだ。「……俺がやったわけじゃないから安心しろ」「……やってたらあなたも美琴と同じ場所行きだったわ」「冷たいな、俺はお前の夫だろう?」どの口が言うんだ。夫婦だと思ったことなんて一度たりとも無いくせに。「出て行ってくれない?今は一人になりたいの」瀬奈は冷たく言い放った。「そういうわけにもいか
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第137話

瀬奈の振り下ろしたペンが湊斗の手の平に突き刺さり、彼は痛みで顔を歪めた。「ウッ……」彼の大きな手から血が流れ出た。湊斗は自身の手に傷をつけた瀬奈を責めることもせず、ただ持っていたハンカチで血を拭いた。真っ白なハンカチが赤く染まる。瀬奈は彼の一連の行動を驚いた顔で眺めていた。「どうして……」「……馬鹿なことをするな、前にも言っただろう」何故、あなたが私の自傷を止めるのか。自分から死んでくれるなら、むしろ都合がいいはずだろう。嫌いな女が死に、愛する沙織と本当の家族になれるのだから。彼は怪我の手当てを自身で行いながら、瀬奈のほうにチラリと目をやった。何を思ってそのような行動を取ったのか、彼女にはわからなかった。「ねぇ、西田さんはどうなったの?」「……」湊斗は黙り込んだ。言いづらいことでもあるのか。「まさか、本当に捕まったりしてないわよね?」「……さぁな」彼はぷいっと顔を背け、それ以上は答えてくれそうになかった。しかし、美琴がどのような末路を迎えようとも瀬奈には関係のないことだった。全ては彼女の自業自得なのだから。しかし、あんな女を十年にわたって寵愛していた湊斗にも腹が立つ。「私がこんな目に遭った元凶はあなただってこと、自分で理解しているの?」「……悪かった、瀬奈」湊斗は申し訳なさそうな顔でそう言ったが、彼女はその言葉を受け入れなかった。口先だけなら何とでも言えるからだ。そんな瀬奈の気持ちに気付いたのか、彼はあることを提案した。「お詫びとして、一つだけ望みを叶えてやる」「……望み?」彼がそんなことを言うだなんて珍しい。瀬奈はすぐさま、今一番の願いを口にした。「なら、私を今すぐ稲田町に……」「却下、それ以外でだ」「……ケチ」一番の望みは即刻却下されてしまった。頬を膨らませた瀬奈に、湊斗は淡々と言った。「望みを叶えると言ったが、何でもいいとは言っていない」「そういうのは普通、何だって叶えるものでしょう?それとも神宮司社長は唯一の妻の願いすら叶えられないのかしら?」「……この世で俺に手に入れられないものがあると思うか?」瀬奈の挑発に、湊斗が乗った。彼は神宮司家の一人息子としてチヤホヤされて育ったせいか、プライドがとても高かった。そんな彼が、見下されることに耐えられるはずがない。「何でも手に入れられるの?」「当然だ」湊
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第138話

瀬奈が目覚めてから数日後。「奥様!社長からプレゼントが届きました!」「え」ようやくいつも通りの日常を取り戻しかけていた彼女の元に、贈り物が届いた。送り主は湊斗だった。瀬奈はメイドから丁寧にラッピングされた小さな箱を受け取った。(この箱ってたしか……)社長令嬢で幼い頃から高価なものに触れてきた瀬奈は一発でわかった。それは、世界的に有名なハイブランドジュエリーの箱だったのだ。メイドはその箱を見て目をキラキラ輝かせた。「社長からのプレゼントだなんて……何が入ってるのか気になります!開けてみてください奥様!」「え、えぇ……」瀬奈はリボンを解き、中を開けた。何が出てくるのかなんて、彼女には大方予想がついた。(や、やっぱり……)中から出てきたのは、大きなダイヤモンドの指輪だった。こんな大きなダイヤ、海外のセレブたちが着けてるのでしか見たことがない。「キャー!何て素敵なんでしょう!社長ったら、よっぽど奥様のことを大切にされているのですね!」「……あなた、この仕事何年目?」「ここへ来て二ヵ月になります」年若い彼女は何も知らない。瀬奈と湊斗が本当はどんな関係であるのかということを。「奥様、せっかく社長から頂いたんですから着けてみてはいかがですか?」「えぇ……大きくて邪魔じゃない?」「そんなこと言わずに!」メイドの押しにより、瀬奈は指輪をそっと指にはめた。全ての指を試したが、偶然か薬指にピッタリだった。「よくお似合いです、奥様!こんなにも素敵なものを貰えるなんて奥様は幸せですね!」「そ、そうかしら……?」瀬奈は右手の薬指で光り輝くダイヤモンドをじっと眺めた。左手にはどうしても着ける気にはなれなかった。瀬奈は湊斗から婚約指輪も結婚指輪も貰わなかった。そのせいか、彼からこのようなものをプレゼントされるのはどうも慣れない。きっかけは、瀬奈が目覚めたあの日の会話だった。彼女は湊斗の耳元で囁いた。『湊斗、私この世で一つしかない、とっても高価で希少なものが欲しいわ』『……何だそれは』はっきりしない彼女の言葉に、湊斗は眉をひそめた。瀬奈は続けざまに耳元で囁いた。『私はあの神宮司湊斗の妻だから……他の女たちよりもずっとずっと良いものが欲しいの。あなたなら叶えられるでしょう?』『……』瀬奈の目的は湊斗を困らせ、彼に呆れさせることだった。当然、
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第139話

「――プレゼントは気に入ったか?」「……社長」夜になり、湊斗が家に帰ってきた。彼は何の躊躇いもなく瀬奈のいる部屋へ入ってきた。元々ここは彼の部屋なのだから、当然のことかもしれない。(前も言ったけど、私が着替え中だったらどう責任取るのよ)ソファに座っていた彼女の右手の薬指には、未だに彼から貰った指輪がはまっていた。湊斗はそれを見て満足そうに笑みを浮かべた。「このような貴重なものを頂けるとは思っていなかったので……驚きました」「俺は気に入ったかを聞いたんだ」「……」黙り込んだ瀬奈に、湊斗が眉を上げた。「……あまり嬉しそうではないな」「いえ、ただ……困惑しているだけです」瀬奈は元々、プレゼントの値段をあまり気にしないタイプだった。暁グループの令嬢として生まれた彼女は、幼い頃から大体のものは手に入ってしまったからだ。そのせいか、ただ値段が高いだけのものには惹かれなかった。大事なのは値段よりも、気持ち。彼女が幼い頃に湊斗から貰ったリボンを大切に取っておいているのも、それが理由だ。瀬奈は指輪を複雑そうに見つめた。(値段の高さは愛の深さ、ということかしら……)そういえば、沙織も左手の薬指に高そうな指輪をはめていたっけ。湊斗から貰ったものだと、周囲に散々自慢していたのをよく覚えている。まぁ、高そうと言ってもここまでではなかったけど。(あの指輪のおかげで、湊斗が本気で沙織と再婚しようとしているっていう噂が黒川区で流れたわね……)瀬奈はあのとき、躍起になって噂を否定していた。今思えば、否定する必要なんて無かったな。どうせこうやって離婚する仲だったわけだし。浮かない顔の瀬奈を、湊斗が問い詰めた。「お前のために俺が選んだんだぞ、何がそんなに不満なんだ?」「……別に、沙織さんにも似たようなものを贈ったんでしょう?」「沙織に?俺が?」湊斗は何を言っているんだ、というように首をかしげた。誤魔化そうとしたって無駄だ。「あなたにとっては慣れたものだもの。こんなもの、何の意味もないわよね」「お前、さっきから何言ってる?」湊斗は普段から愛人たちに多くの贈り物をしている。そんな彼から物を貰ったところで、嬉しくもなんともない。湊斗は拗ねたような瀬奈に、そっと近づいた。すぐ傍にあったソファの肘掛けに手を置くと、彼女を見下ろした。「ちゃんと言葉で伝えてく
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第140話

瀬奈は目に涙を溜めて湊斗を見た。「悪かったわね、女としての魅力が無くて」「待て、お前何の話をしているんだ」湊斗は瀬奈の発言が全く理解できずにいた。俺が美琴にそんなことを言ったのか?全く身に覚えが無かった。彼は頭の中でグルグルと思考を巡らせた。その中で、唯一思い当たる節があった。(もしや、あのときか?いや、しかしあれは……)たしかに何年か前、美琴に対してそのようなことを言った気がする。「興奮しない(目の前に瀬奈がいる状況で興奮なんかできるか、大切で触れることすら容易にできないほとだ)」「ガリガリでみずぼらしくて欲情しない(痩せすぎてて心配だ、ちゃんと飯食ってんのか?)」「お前のほうが抱き心地が良い(対するお前は仕事やめてからだいぶ太ったな、ちょっと運動したらどうだ?)」と、いう意味で言ったことは彼だけが知っている。しかし、あの女が瀬奈に告げ口したのは想定外だった。「美琴が言ったのか?」「ええ、その顔を見るに……どうやら本当のようね」瀬奈は傷付いたような顔で俯いた。それらの言葉がよっぽど効いているようだ。このときの湊斗は、かつての軽率な発言を酷く後悔した。「どうせ私はどこまでも魅力のない女よ!」「ちょっ……」瀬奈は湊斗に向かって枕を投げつけた。柔らかい素材のため、当たっても痛くはない。「指輪に関してはお礼を言うわ。この先着けるかはわからないけれど、大事に保管しておく」「……」彼女はそれだけ言うと、さっさと布団に入った。出て行け、という意味だ。「……わかったよ、また明日来るよ」湊斗は瀬奈の顔を見ることなく、部屋を出た。もう夜も遅いし、里亜も既に眠りについている。(俺も部屋に戻って寝るか……)湊斗は邸宅内を歩き、自分の部屋へと向かった。彼が新たに使っているのは、かつて彼の父親が暮らしていた部屋だ。もう十年以上誰にも使われていなかったが、瀬奈が帰ってきたことによって彼が新しく部屋の主となった。扉を開けて中に入ると、彼のポケットに入っていたスマホの着信が鳴った。彼はスマホを開き、相手を確認してから出た。「……もしもし、一馬?」「湊斗、夜遅くに悪いな」電話の相手は秘書の一馬だった。彼は疲れ切った声で話した。「西田美琴の処理は済ませておいたよ。最後まで醜く暴れていたが……」「ご苦労だった」湊斗はテーブルに腰かけながら労いの
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