瀬奈が湊斗と美琴の車内での情事を目撃したのは今からおよそ十年前のことだ。十年も前のことともなれば、普通はあまり覚えていないだろう。しかし、あのときのことを瀬奈は今でもハッキリと思い出せる。二人の男女が激しく口づけを交わし、体をまさぐっていたあの光景。性行為の経験が一切なかった瀬奈にとっては、あまりにも刺激が強かった。相手が彼女の夫である湊斗だと思うと余計に耐えられなかった。あの日のことは何度も夢に出てきたし、しばらくショックで寝込んでしまうほどだった。それが嘘だったということか。瀬奈は頭の中が滅茶苦茶になった。「湊斗じゃないってどういうこと?私も顔は見てないけど、あの後ろ姿は……」「西田さんが周囲に言いふらしていたらしいですよ。奥様を貶めるために、社長に背格好のよく似た男性を使ったと」「ほ、本人がそう言っていたの……?」メイドは小さく頷いた。「その日の時間帯、社長は中田さんと近くのビジネスホテルに泊まっていたそうです。珍しく社長が体調を崩した日だからよく覚えていると中田さんがおっしゃっていました」「……じゃあ、あれは別の人だったということなのね」あの日、美琴の相手をしていた男が湊斗ではなかった。しかし、それを聞いてもなお瀬奈の心が晴れることはなかった。あの一件が湊斗ではないにしろ、彼が美琴と関係を持っていたのに変わりはないのだから。(やっぱり、私は湊斗の元になんて戻れない)あんなにも多くの女を抱いてきた男とよりを戻すだなんてそんなことできるわけがない。「私は結婚するならやっぱり私だけを愛してくれる人がいいわ」「まぁ、それはそうですよね。社長は顔と財力は最高に良いですけど、ちょっと遊びすぎだし」「そうそう、誰があんな好色家と結婚したいのよ」新しく来たメイドとはとても話が合った。湊斗が不在にしている間、瀬奈は彼女との会話に花を咲かせた。「奥様は、この先どうなさるおつもりですか?」「私?いつまでもここにいるわけにはいかないし、いずれは元いた場所に帰るつもりよ」「ですが、社長がお許しになるでしょうか?」「そうね……今は難しいでしょうけど、一年も経てば帰れるはずよ」「一年?」彼女はきょとんと首をかしげた。瀬奈は湊斗との賭けの内容を頭に思い浮かべた。『瀬奈、離婚なんてそう簡単にできることじゃない。お前も知っているだろ?』『わ
Dernière mise à jour : 2026-05-03 Read More