All Chapters of 二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す: Chapter 111 - Chapter 120

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第111話

一馬が帰ったあと、瀬奈は今の状況を打開するべく、部屋に湊斗が監視として付けていたメイドを呼んだ。「奥様、何か御用でしょうか」「奥様っていうのちょっとやめてくれない?私たちもう離婚するんだから」「……社長より、奥様と呼ぶように命じられておりますから」彼女たちにとって湊斗の命令は絶対であり、瀬奈は二の次だ。そのため、ここで瀬奈がどれだけ言おうが何も変わらないだろう。「私のスマホはどこにあるの?ポケットからなくなってたんだけど」「奥様のスマートフォンは私たちが預かっております」「渡してほしいって言ったらくれる?」「……それは出来かねます。どうしても必要なら社長に直接申し上げください」湊斗は彼女がスマホを使い、外に助けを求めることを危惧しているのだろう。自分が逃げないようにそこまでするとは。その執着心は一体どこから来ているのだろうか。(困ったわね……湊斗に言ったところでくれるわけがないし……)瀬奈はどうにかして外部と連絡を取ろうとしていた。静香や誠也たちが心配しているだろうし、近況くらいは伝えておきたかったのだ。そんな彼女の心境を察したのか、メイドが口を開いた。「……どうしても連絡を取りたいのであれば、手紙なら送ってもいいと社長から仰せつかっております」「あら、本当!?」瀬奈は嬉しさのあまり、椅子から立ち上がった。さっそく便箋と封筒、そしてペンを用意させた瀬奈は稲田町にいる人々に手紙を書き始めた。(姉さんと、誠也さん……職場にいる人たちも心配しているだろうなぁ……)瀬奈は今休職ということになっている。湊斗が彼女が勤める会社の社長に圧力をかけ、そのようにしたと聞いた。そのせいでみんなに迷惑をかけているだろう。(元気だから……心配しないでくださいっと……)瀬奈は静香と誠也、そして皆川社長宛てに手紙を書いた。本当はもっと書きたい人がいたが、あまりにも多すぎると湊斗から不審がられるかもしれない。いずれはここから脱走するのだから……「この三つを、お願いできるかしら?」「……かしこまりました」メイドは瀬奈が書いた三つの手紙を受け取り、そのまま部屋から出て行った。一人になった彼女は、特に深い意味は無いが、湊斗の部屋を歩き回った。(せっかくなら、私の部屋にしてくれたらよかったのに)瀬奈はここへ来てからというもの、妙に落ち着かなかった。いく
last updateLast Updated : 2026-04-19
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第112話

瀬奈がメイドに手紙を持たせていた頃、湊斗は里亜と二人で邸宅内を歩いていた。「ここが俺の書斎だ」「しょさい……?」「書斎っていうのは……まぁ、簡単に言えば仕事をする場所のことだ」湊斗は里亜に邸宅内の部屋を全て案内していた。元々多忙で、今日は久々の休みだった。珍しく取れた休日を彼女のために使ってもいいと思えるほど、湊斗は里亜を可愛がっていた。「本当に大きいですね、中もお城みたいです。おじさんが建てたんですか?」「いや、俺ではないな」里亜は顔を上げて部屋の中を見回した。瀬奈は二十年間住んでいたからともかく、彼女にとってはまだ慣れないだろう。湊斗は不安げに里亜に問いかけた。「……前の家のほうがいいか?」突然住み慣れた家から全く知らない場所へ連れてこられたのだ。幼い子供にとってはあまりにも酷だったかもしれない。「前のおうちも好きだったけど……」里亜は湊斗を見上げて満面の笑みを浮かべた。「こっちのお城みたいなおうちも好きです」「……そうか」その返答に、彼は安堵の息を吐いた。「――社長、失礼します」そのとき、部屋の扉がノックされた。「……入れ」せっかくの里亜との時間を邪魔されたことに不満を抱きながらも、彼は扉に向かって声をかけた。少し間を開けて、瀬奈につけていたメイドが入って来た。「社長、奥様よりこちらを預かりました」「手紙?」メイドは手に持っていた複数の封筒を湊斗に渡した。どうやら瀬奈が手紙を書いたようだった。「瀬奈が書いたのか?」「はい、連絡を取れない代わりに手紙で近況を伝えたいとおっしゃっていました」「そうか……」湊斗は三通の手紙をじっと見つめた。宛名部分には姉の静香、職場の社長、そして……「誠也……?」最後に書かれていたのは、男の名前だった。(そういえば、あのときの男……誠也って言ってたな)あのとき瀬奈を抱きしめ、自分にあからさまに敵意を向けていた男。たしかアイツの名前は誠也だった。瀬奈がそう言っていたのだから間違いない。瀬奈にはこれまで、湊斗以外に親しい男友達なんていなかった。こうやって手紙を送っているということは、実姉や皆川社長に匹敵するほどの大切な存在ということだろうか。彼は無意識に拳を握りしめていた。「社長、いかがなさいますか?」「……そうだな、静香と社長への手紙だけは届けてやれ」「……承知い
last updateLast Updated : 2026-04-19
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第113話

「静香おばさんが来るんですか?」里亜は気が重くなった湊斗とは対照的に、目を輝かせた。「え、い、いや……まだ決まったわけではないが……」「静香おばさんに会えるの嬉しいです!」「う、嬉しい……?」里亜は叔母である静香にかなり懐いており、湊斗はそのことが信じられなかった。と、いうのも彼は昔から静香が苦手だった。瀬奈の許嫁だった湊斗は、彼の実姉である静香と関わる機会も多かった。静香は穏やかな瀬奈と血が繋がっているとは思えないほど気が強かった。今はかなりマシになっているが、幼い頃はそれはそれは性格が悪かった。湊斗は初めて静香と会ったときに言われた言葉を今でもよく覚えている。『あんたみたいなちんちくりんが瀬奈の結婚相手ですって?父さんは一体何を考えているのよ』静香は冷たい目で湊斗を見下ろした。神宮司家の御曹司である自分にそのようなことを言ったのは彼女が初めてだった。それからというもの、湊斗と静香は何とも言えない複雑な関係が続いていた。瀬奈と結婚している今、義理の姉弟という仲ではあるが……「おばさんはお前に優しいのか?」「はい、とっても!」「そ、そうか……」湊斗は里亜の気持ちを到底理解できないと思いながらも、そのことにどこか納得してしまう自分がいた。そりゃあこんなにも愛らしいのだから、あの静香を虜にしていてもおかしくはない。血の繋がりのない自身ですら、愛しくてたまらないのだ。「里亜、俺が与えた部屋は気に入ったか?」「はい、あんなに大きなベッドを見たのは初めてです」湊斗は里亜に、彼が子供の頃に暮らしていた部屋を与えた。瀬奈のいる湊斗の寝室からはちょっと遠いが、彼女たちを低質な部屋には住まわせたくなかった。「おじさん、ママはどこにいるんですか?」「あ……そうだったな……」そこで湊斗はようやく瀬奈とした約束を思い出した。『大人しくしていれば娘に会わせてやる』当然、瀬奈が逃げ出したとしても里亜に危害を加えるつもりなんてなかった。しかし、彼女を手元に置いておくにはそう言うほかなかった。自分でも最低な脅迫の仕方だとは思う。だが、こうでもしなければ彼女が今すぐにでも自分の目の前からいなくなってしまうような気がしてならなかった。里亜は胸の前で手を組んで彼を見上げた。「ママに会いたいです、おじさん」そのお願いを、湊斗は断ることなどできなかった
last updateLast Updated : 2026-04-19
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第114話

「――瀬奈、入るぞ」湊斗は扉の前で断りを入れてから、瀬奈がいる寝室の扉を開けた。「ちょっと湊斗、私の許可なしに入らないでよ。私が着替え中だったらどうするわけ?」案の定、瀬奈は不機嫌そうに頬を膨らませていた。しかし、湊斗の後ろに立っていた里亜を見ると一瞬にして表情を変えた。「里亜!」瀬奈は湊斗をあっさりと通り過ぎ、里亜の元へ駆け寄って彼女を抱きしめた。「会いたかったわ、里亜……」「ママ……」感動的な母娘の再会を、湊斗は一言も発さずにただ見守っていた。自分さえここにいなければ、彼女たちは完璧な家族だっただろう。彼だけが、いつまでも蚊帳の外だった。しばらく抱き合った二人は、ようやく体を離した。「里亜、ママがいない間何か困ったことはなかった?」その問いに、里亜は首を横に振った。「ううん、おじさんが遊んでくれたの」「……湊斗が?」瀬奈は信じられない、というような顔で湊斗を見上げた。彼は懐疑的な瀬奈の視線を避けるように、顔を背けた。瀬奈の記憶だと、湊斗は自分の子にすら愛情を抱けないような冷血漢だった。それなのに、どうして他人の子である里亜にそうも優しくしているのか。瀬奈は探るように、湊斗の横顔をじっと見つめた。彼は刺すような彼女の視線にも振り向くことなく、ずっとそっぽを向いていた。そんな瀬奈に話しかけたのは里亜だった。「ママ、お腹空いた」「そういえば、もうお昼ね……」瀬奈は部屋に飾られている時計にチラリと目をやり、既に時刻が昼の十二時を過ぎていることに気が付いた。瀬奈がどうしようかと悩んでいたとき、湊斗が横から口を挟んだ。「腹が減ったなら、シェフを呼んで最高級の食事を用意させよう」「ちょ、ちょっと湊斗……」勝手に決めないでよ、と瀬奈は思ったが、湊斗の言葉に里亜はとても喜んだ。その笑顔を見てしまうと、瀬奈はとても反対することなどできなかった。湊斗は黙り込んだ瀬奈に向かってニヤッと笑った。「里亜は俺と一緒がいいようだ。お前はどうする?気に入らないなら一人でどっか食べに行ってもいい」「……わかってるくせに」瀬奈は湊斗を恨めしく横目で睨んだ。彼と一緒に食事をするのは嫌だったが、里亜を湊斗と二人きりにするわけにはいかない。結局、彼女が折れるしかなかった。「さぁ、行こう」湊斗は瀬奈と里亜のために、寝室の扉を開けた。先に扉から外へ出た
last updateLast Updated : 2026-04-20
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第115話

三人は部屋を移動し、出張シェフのランチを楽しんだ。湊斗と瀬奈にとっては慣れたことだが、里亜は初めてだった。「あー美味しかった!」「里亜、口元にソースが付いているわ」瀬奈は横に座っている里亜の口元をナプキンで拭った。「口に合ったようだな」「はい、おじさん。とっても美味しかったです」「そうか、それはよかった」瀬奈は会話を交わす湊斗と里亜を交互に眺めた。今ここで、彼らが本当の親子だということを知っているのは瀬奈だけだ。つまり、二人はお互いを赤の他人だと思ったまま話をしているということになる。(何だか、すごく不思議な気分だわ……)湊斗と里亜は、何も知らない人から見ると本当の親子であるかのように仲が良かった。てっきり、湊斗は良い父親になんてなれないと思っていた。しかし、その姿を見ていると……そこまで考えて、彼女は首を横に振った。たとえ湊斗が里亜に優しかったとしても、沙織たちの存在がある以上、里亜を彼の子にするわけにはいかない。里亜にとっては良い父親でも、瀬奈にとって最低な夫であったことに変わりはないのだから。(……だけど、湊斗の真意を知りたいわ)あのときのように、何も知らないのはもう御免だった。***昼食を終え、里亜を一度部屋へ帰した瀬奈は、立ち去ろうとする湊斗を呼び止めた。「湊斗!」「……どうした?」湊斗は瀬奈の声に立ち止まり、振り返った。離婚届を置いて出て行く前は返事すらしてくれなかったというのに。そんな彼の変化に、瀬奈は驚きながらも尋ねた。「湊斗、どうしてそこまで里亜に優しくするわけ?」「……」瀬奈の問いに、湊斗は彼女と目を合わせたまま黙り込んだ。その瞳は僅かに揺れているように見えた。瀬奈は長年彼と一緒にいるが、そんな湊斗を見たのは初めてだった。「……自分でも理由がわからないから、答えることができない」「……何よそれ、どういう意味?」瀬奈は問い質すが、彼はまたしても曖昧な答えを出した。「俺もわからないんだ、何故あそこまで里亜を気にかけているのか」「……それが答えになるとでも?」「当然思っていないさ。だが、お前はわからない問題の答えを出すことができるか?」その問いかけに、瀬奈は押し黙った。湊斗の言っていることは正しいが、やはり納得がいかない。「驚いたわ。昔から誰よりも優秀だったあなたにも、わからないことが世の中に
last updateLast Updated : 2026-04-20
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第116話

湊斗が瀬奈たちと過ごしていた頃、学校から帰った百合子は部屋から窓の外を眺めながら呟いた。「お父さん、最近ずっと帰ってこないなぁ……」元々多忙であまり帰らなかった人だが、ここまで家を空けるのは珍しかった。そのおかげで、最近母親の沙織は一切百合子と口を利かなくなった。愛する愛斗に対しても絶対に後継者になれといつも以上にまくしたてた。(そういえば、私お父さんのこと何も知らないな……)昔からあまり関わることの無かった父親だ。愛情こそ得られなかったものの、沙織と愛斗は会社を経営している父のおかげでかなり良い暮らしをしてきた。小学校・中学校と名門私立校に通い、何不自由なく面倒を見てもらえた。母親がずっと働いていないのも、全ては父親である湊斗のおかげだった。子供に優しい父親とは言えなかったが、百合子も愛斗もそこだけは深く感謝していたし、湊斗のことを嫌いではなかった。しかし、百合子はもちろん愛斗ですら、父親のことはあまり知らなかった。実は昔、一度だけ沙織に聞いたことがあった。『お母さん、私のお父さんは……一体どんな人なの?』そう尋ねると、沙織は何故か不快そうに眉をひそめた。お母さんはお父さんを深く愛しているはずなのに、どうしてそんな顔をするのか。『知らないほうがいいことよ、百合子』沙織はそれだけ言い、彼女から背を向けた。それ以来、百合子は父親について母親に聞くことをやめた。知りたいという気持ちが消えたわけではなかったが、母親の機嫌が悪くなることのほうが問題だった。あのときは幼かったから、何もできなかった。しかし、今は違う。(私ももう大きくなったし……自分で調べることだってできるよね……)沙織が知らないほうがいいと言った理由はわからない。もしかすると、調べることで何か残酷な現実がわかるのかもしれない。しかし、それでも何も知らずにいるよりかはマシだった。「どうすればお父さんについて知れるかなぁ?」百合子はじっくりと考えた。いくら成長したとはいえ、自分はまだ高校生だ。大人たちがやるような本気の調べ方はできない。「お父さんとお母さんは夫婦なんだから、もっと一緒にいてもいいのに……」沙織は百合子と愛斗に、湊斗のことを夫だと言っていた。そのため二人は、母親が父親の愛人だということ、父親には別に本妻がいることをまるで知らなかったのだ。不倫がしてはいけないことだ
last updateLast Updated : 2026-04-20
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第117話

百合子は部屋を飛び出し、湊斗のいる本社へと向かった。(こっちで合ってるよね……?)百合子は湊斗が経営する会社の場所を知っていた。沙織が一度その建物へ入って行くところを見たからだ。仕事もしていない彼女が入れるオフィスビルなんて、湊斗の職場しかありえないだろう。何より母は父以外に興味が無いし。(お父さんと会うだなんてちょっと緊張しちゃうなぁ……)急に仕事場へ行くなんて、叱責されてしまうかもしれない。しかし、彼女は溢れ出る好奇心を抑えることができなかった。黒川区内にある、背の高いオシャレなビル。あの建物は遠くからでも目立つ。百合子はあっさりと、その場所へ来ることができた。「わぁ、近くで見ると本当に大きい……!」本社の前まで来た彼女は、目の前にある巨大な建物を見上げた。たしかにあのとき、母親が入って行ったビルと同じ形をしている。(お母さんが入れたんだから、娘である私も入れるはずよね……?)百合子はそう思いながら、中へ入った。見るからに学生の百合子に、通りすがりの社員たちは彼女をチラチラと見ていた。彼女は視線を気にすることなく、進んでいった。(あそこが受付かな?綺麗なお姉さん!)受付まで来ると、百合子は用件を話し始めた。「あの、すみません」「はい、いかがなさいました?」「お父さんに会いたいんですけど……」その言葉に、受付の女性は首をかしげた。ここに勤務する誰かの娘であることだけは伝わった。「名前を聞いてもいいかな?」「嶋田百合子です」「嶋田……もしかして、沙織さんの娘さん?」「お母さんを知っているんですか?」百合子は彼女が母親の知り合いだと知り、パァッと顔を輝かせた。そんな彼女に、女性は予想外の反応を示した。「ええ……知ってるわ……」百合子を、憐れむような目で見たのだ。彼女は不思議に思いながらも、その視線を受け止めた。「社長なら、今日はいないわ。休みの日だから」「そうだったんですね……休みの日?」休みならどうして、家に帰らないんだろう。百合子の中で、新しい疑問が芽生えた。「お父さんはどこにいるんですか?」「さぁ……それは私にもわからないわ」百合子は受付の彼女に尋ねたが、重要な手がかりは得られなかった。それどころか、彼女だけではなく、周囲にいる社員たちが百合子を見てヒソヒソと話をしている。「嶋田さんの娘ですって……」
last updateLast Updated : 2026-04-20
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第118話

一馬のあとをこっそりとついて行った百合子は、ある豪邸の前に到着した。彼は警備員と軽く会話を交わし、すぐに中へ入って行った。しかし、百合子はそうはいかない。いくら彼女が湊斗の娘だろうと、ここへ来るのは初めてだ。結果、彼女は遠くから眺めていることしかできなかった。(……お父さんはここにいるの?)百合子が沙織たちと暮らす家よりもずっとずっと大きな場所だった。最初、彼女はただ知人の家にやってきているだけだと思っていた。(だとしたら、夜には帰ってくるのかな?)しかし、その考えは間違いだった。百合子はしばらく物陰から邸宅をじっと眺めていた。そのとき、門から彼女のよく知る人物が出てきた。(お、お父さん!)父親の湊斗だった。百合子はバレないように、慌てて身を隠した。休日だからか、湊斗はいつもと違って楽な格好をしていた。今からどこへ行くんだろうか。もしかして、やっと母親の元へ帰るのかな。そう思うと、彼女の胸に言葉にならない喜びがこみ上げた。父親がいれば、母も私や愛斗にキツく当たることはなくなるはず。(お父さんは近いうちに帰るみたいだし……私もそろそろ帰ろうかな。あまり長居するとお母さんに怒られてしまうし)そろそろ帰ろうと、踵を返そうとした彼女は信じられない光景を目撃することとなる。ついさっき父親が出てきた門から、一人の女性が姿を現したのだ。(……あの人は一体?)黒い髪を腰まで伸ばした、上品でとても美しい女性だった。その美貌は、かつて近隣住民の間で話題になるほどだった母親の沙織にも引けを取らないほどで、芸能人だと言われても信じてしまうだろう。百合子がボーッと彼女を眺めていると、ふいに父親が彼女の腰を抱いた。彼女は不快そうに顔をしかめ、すぐに彼から離れた。そんな彼女を、父は面白そうに眺めていた。(……どういう関係なの?)傍から見れば、二人はまるで夫婦のようだった。だけどそんなことはありえない。だって、湊斗は間違いなく、沙織の夫で……だとしたら、あの二人は不倫関係にあるということだろうか。百合子は悩んだ。父親が不倫していただなんて、母が知ったらきっと悲しむ。だけど、このまま何も知らずに帰りを待ち続けているよりかはいいのかもしれない。しかし、事態は彼女の予想外の方向へと進んでいった。「――旦那様、奥様。そろそろ戻りましょう」傍に控えていたメイドが放っ
last updateLast Updated : 2026-04-20
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第119話

瀬奈は湊斗に連れられて部屋へ戻った。彼に部屋の扉の鍵を閉められ、瀬奈は壁際に押しやられて詰問されていた。瀬奈の頭の横で彼が両手を付き、逃れることなどできない。「暁家のパーティーで頭から上着をかぶっていたあの女はお前だろう?」「な、何のことだか……」瀬奈ははぐらかした。湊斗があのとき自分を疑っていたことには気づいていたが、確信していたとは。湊斗に嘘は通用しない。昔から彼を見て来た瀬奈はそのことをよくわかっていた。「涼とは一体どういう関係だ?」「だから、それは私じゃ……」ここで何かを言えば、涼にまで危害が及んでしまうかもしれない。瀬奈は否定を続けた。「何も言わない気か?」「答える必要のない質問だと思うわ」瀬奈は腕を組んで湊斗を見上げた。彼がどんなことを尋ねてこようとも、答える気は毛頭なかった。「そうか、ならこうすれば口を開くか?」「な、何するのよ……!」湊斗はニヤリと口角を上げながら、瀬奈の服の中に手を入れた。骨ばった大きな手が、彼女の柔らかい太ももをそっと撫でた。「キャアッ!」瀬奈は何とか逃げようとしたが、湊斗の手で阻まれた。彼女はさらに強く壁に押し付けられ、彼のされるがままになっていた。彼は唇を瀬奈の耳元に近付け、囁いた。「瀬奈……」「み、湊斗……」彼の荒い息遣いを耳元で感じた瀬奈は、そのまま体を委ねてしまいそうになった。湊斗は大人しくなった瀬奈に、満足げにフッと笑みを浮かべた。二人の額がコツンと合わさり、そのまま唇が……「湊斗!いい加減にしなさい!」重なりそうになった瞬間、瀬奈は湊斗の頬を思いきり平手打ちした。モロにくらった彼は、驚いたような顔で瀬奈を見た。「何で殴るんだよ?」「当たり前でしょう!」瀬奈は困惑して緩んだ湊斗の腕から抜け出した。「お前、手の力が強すぎるぞ。痛い」「あなたがこれまで私にしてきたことを考えたら、あと百発は殴りたいところよ」打たれた頬を手で押さえた湊斗に、瀬奈は冷めた目で返した。「これは強姦よ!犯罪だわ!」騒ぐ瀬奈に、湊斗は何がいけないのかと首をかしげた。「俺たちは夫婦だろう?夫婦がやるべきことをやって何が悪い」「あのねぇ、夫婦間でも同意のない性行為は強姦にあたるのよ?聡明なあなたがそれを知らないわけがないでしょう?」瀬奈の言うことは的を得ており、湊斗は何も言い返せなかった
last updateLast Updated : 2026-04-21
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第120話

湊斗と向かい合った瀬奈は、早速口を開いた。「社長、いつになったら離婚するんですか?」「何だと?」彼は眉をひそめた。彼女との離婚は、湊斗がずっと望んでいたことだった。それなのに、何故そうも不機嫌な顔をしているのか。瀬奈は湊斗の考えが到底理解できなかった。「お前は俺と離婚したいのか?」「当然です、社長」瀬奈は今でも湊斗にサイン済みの離婚届を渡されたあの日のことをはっきりと覚えている。あのときは絶対に応じてやるものか、なんてくだらないことを思っていた。既に愛人たちに寵愛を取られていた彼女は、本妻の座までは絶対に奪われるわけにはいかなかった。その座だけは何としてでも守り抜きたかったのだ。しかし、今の瀬奈は違う。そんなものにいつまでもしがみついているほど、彼女は愚かではない。「……」湊斗は何も言わずにただ黙り込んでいた。「あなたが提出しに行かないのなら、代わりに私が行ってあげるから」そう言って部屋を出て行こうとする瀬奈を、湊斗が引き留めた。「まぁ、待て」彼は横を通り過ぎようとした瀬奈の腕を引っ張った。彼女はそのまま湊斗の膝に座ってしまった。「ちょ、ちょっと何をするのよ!」放して、ともがくが湊斗は瀬奈の腰の抱いたまま彼女の目をじっと見つめていた。「落ち着け。お前が探し求めているものはここにある」「……どういうこと?」湊斗は胸元から一枚の紙を取り出した。それを見た瞬間、瀬奈の目の色が変わった。瀬奈と湊斗の名が記入されている離婚届だ。「私が出しに行くわ!」「おっと」彼女は手を伸ばしてその紙を掴もうとしたが、湊斗に華麗に避けられてしまった。彼の膝に座っている瀬奈は、体を彼に押さえつけられ、自由に動くことができなかった。「このままお前が暴れるってなら、この紙燃やすぞ。そしたら俺は二度と離婚届にはサインしない」「……!」その言葉に瀬奈は渋々腕を下げ、大人しくなった。納得いかないが、離婚できないのは何よりも困る。「そういう風に私を脅迫するんですね、社長」「脅迫だなんて、大げさだな」湊斗はクックッと面白そうに笑った。その余裕そうな笑みが、癪に障る。「社長が何を言おうとも、私の気持ちは変わりません。私を苦しめたいのなら、別の方法でお願いできませんか?」「そうだな……」湊斗は顎に手を当ててじっと考え込んだ。「――なら、俺と賭けをし
last updateLast Updated : 2026-04-21
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