All Chapters of 二十年放置された妻、子供隠して離婚届にサイン後、元夫は狂おしく彼女を探す: Chapter 121 - Chapter 130

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第121話

瀬奈が湊斗に連れ去られて一週間が経った。稲田町では、静香が誠也と話をしていた。「アイツが瀬奈を連れて行くだなんて……」静香は額を手で押さえた。予想外の事態だった。里亜が言っていた親切なおじさんが湊斗だったということを、彼女は今初めて知った。「瀬奈さんを守れなくてすみません、静香さん」「気にしないでちょうだい、誠也君。湊斗相手に歯向かったら、あなたも危なかったわ」おそらく瀬奈は誠也を守るために、湊斗について行ったのだろう。「でも不思議ね……アイツが子供に優しくするなんて」「里亜ちゃんは懐いていたようですが……お世辞にも親切な人には見えませんでした」「まぁ、親切ではないわね」静香はキッパリと言い放った。湊斗のことは幼い頃から知っているが、里亜に優しくしたのも瀬奈を誘拐したのも彼らしくない行動だった。普段あまり人前で感情を表すことのない男だ。唯一あったとすれば、両親を事故で亡くしたときくらいか。いや、それ以外にも一度だけあった気がする。今ではもうあまり記憶にもないが……(そういえば昔……暁家に湊斗が乗り込んできたことがあったわね)あのとき、アイツは父さんと泰西に対して何て言ってたんだっけ。たしか瀬奈がきっかけで……昔のことを思い出していた静香に、誠也が声をかけた。「静香さん、瀬奈さんが心配です」彼の声で、静香は我に返って顔を上げた。「えぇ、私もよ。だけどね……あなたは湊斗の元へ行かないほうがいいと思うの」誠也が湊斗の元へ行けば、彼に何をされるかわからない。静香は今にも飛び出しそうな誠也を何とか制止した。「瀬奈のことは心配いらないわ。湊斗と瀬奈は幼馴染だし、あの子ならきっとうまくやっているはずよ」静香は妹を信じていた。以前のように湊斗を追いかけ続けるだけの瀬奈ではない。そんな妹のために、何か自分にできることはないか。静香は必死になって考えた。(神宮司家が何だと言うのよ!こうなったら、言いたいこと言わせてもらうわ!)静香は何かを決意した様子で座っていた椅子から立ち上がった。彼女は座ったままの誠也を見下ろして口を開いた。「――湊斗のところへは、私が行くわ」「し、静香さん……!」誠也は不安げに静香を見つめた。女一人であの男に立ち向かうということが心配なようだ。しかし、静香の意思は揺らがなかった。「湊斗と話をつけてくるわ、あなたは
last updateLast Updated : 2026-04-21
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第122話

瀬奈がいなくなっている間に、稲田町では様々な変化が起きていた。彼女は人目を引く容姿を持ち合わせているため、小さな町ではかなり目立つ存在だった。そんな瀬奈が突然何も言わずにいなくなったのだから、噂になるのも早かった。「暁さん、一体どこへ行っちゃったんだろう……」その中でも特に瀬奈と親しくしていた真由子は、彼女の失踪が気になって仕方が無かった。いなくなったのは彼女の娘である里亜もだった。母娘揃って突然姿を消すだなんて、彼女たちの身に何かあったのかもしれない。そう思うと、いても経ってもいられなかった。「念のため、警察へ連絡しておいたほうがいいのかな……いや、出過ぎた真似になっちゃうかな……」悩んでいた真由子に、たまたま通りがかった誠也が声をかけた。「――瀬奈さんなら大丈夫ですよ、ちょっと遠くへ行っているだけです」「……あなたは、長田さん?」真由子は近くに住んでいながらも、誠也とはほとんど話したことがなかった。彼女は元より近隣住民とあまり関わりを持たないタイプだったから当然だ。「遠くへ行っているだなんて、一体何があったの?」「それは……」誠也は真由子に話すべきかをとても悩んだ。本当なら、あまり他人に言うようなことではないかもしれない。しかし彼女の目には心配の色が滲んでおり、隠しておくのは胸が痛んだ。「実は……瀬奈さんの夫が彼女を連れ戻しに来たんです」「なッ……嘘でしょう……!?」真由子は驚いて声を上げた。瀬奈の夫は彼女を冷遇し、愛人たちとの間に子供まで作っていた男だ。そんな男が、何故今になって瀬奈を連れて行くのか。真由子は理解が追い付かなかった。「もしかして、暁さんを捕まえてひどい目に遭わせようとしているんじゃ……」「そ、そんなことは……」ない、と誠也は言い切ることができなかった。瀬奈の態度によっては、湊斗は何をするかわからなかったからだ。(どうして今になって暁さんを……)真由子は、湊斗と自身の前夫を無意識に重ねていた。もし、あの男だったら……と考えると恐ろしくてたまらなかった。「岡田さん、そんなに心配しないでください。静香さんがきっと瀬奈さんを取り戻してくれますから」「静香さんって……暁さんのお姉さんのことよね?」「ええ、彼女なら必ずやってくれますよ」誠也は真由子に、近いうちに静香が彼らの元を訪れることを話した。「静香さん
last updateLast Updated : 2026-04-21
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第123話

湊斗が経営する会社の本社。社長室では、湊斗が一人机に向かって仕事をしていた。瀬奈が見つかってからというもの、彼は以前よりも仕事が捗るようになった。彼女からは拒絶されているが、自分に懐く里亜もいる。その二人がいるだけで、彼の心は満たされた。しかし、それでもたびたび仕事中に瀬奈と里亜のことを考えてしまっている自分がいた。(俺らしくないな……一人の女にここまで心を乱されるなんて……)彼をここまで翻弄するのは後にも先にも、瀬奈だけだろう。そのとき、社長室の扉がノックされた。入ってきたのは家のメイドだった。「――社長、社長宛てに手紙が届いております」「手紙……?」湊斗は驚いて顔を上げた。自分に手紙を書くだなんて、一体どこの誰だろうか。彼は手紙を受け取り、送り主を確認した。そこに書いてある名前に、湊斗は思わず眉をひそめた。「暁……静香……」手紙の送り主は静香だった。彼がこの世で一番といえるくらい苦手な、瀬奈の実姉。彼女とは昔から何かと衝突していた。(何か言ってくるとは思っていたが……こんなにも早いとはな……)湊斗は乱暴に封を開けた。真っ白な便箋に書いてあった内容は、彼が予想していた通りだった。――瀬奈と里亜の件に関して話がしたい。随分と丁寧な言葉で書かれていたが、彼は静香の性格をよく知っている。(きっと瀬奈たちを返せと言ってくるんだろうな……)静香は幼い頃から瀬奈を可愛がっていた。大事な妹が拉致されるかのように連れて行かれたのに、黙っているわけがない。瀬奈も静香のいる稲田町に帰ることを強く望んでいる。そのことは湊斗もよくわかっていた。しかし、今回ばかりはその提案を受け入れるわけにはいかなかった。(瀬奈を返すつもりはないが、話くらいならいいだろう……)湊斗はササッと手紙の返事を書き上げると、それを部屋に呼び寄せた運転手に渡した。郵便なんていちいち使っている暇はない。「この手紙を彼女の元まで届けてほしい。できるだけ早く」「承知致しました、社長」運転手は一礼すると、手紙を持って部屋を出て行った。彼が出て行き、再び一人になった湊斗は頭を抱えた。(あの女と久々に話すのか……憂鬱だな……)それでも、瀬奈だけは絶対に奪われるわけにはいかない。彼は静香という強敵の来訪に、僅かだが焦りを感じていた。そうなるのは当然のことだった。――彼女がいな
last updateLast Updated : 2026-04-21
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第124話

静香に胸倉を掴まれた湊斗は、じっと彼女を睨み返していた。二人の鋭い視線がぶつかったまま、時間だけが流れる。先に言葉を発したのは湊斗だった。「……いい加減に離せ」彼は低い声でそう言うが、静香はシャツを掴む手を緩めなかった。華奢な身体に細い腕。一体どこからこんな力が出るのか。「私の質問に答える気はないわけ?人の話を聞かないところは昔から変わってないのね」「……そうやって掴まれたままでは話すことも話せないだろう」「……」その言葉に、ようやく静香は湊斗から手を離した。自由になった彼は乱れた襟元を整えた。昔から粗暴なところがまるで変わっていない。「瀬奈を急に連れ出すだなんて……一体何を考えているのよ」「大げさだな……元々俺と瀬奈は夫婦なんだ。妻を迎えに行くのはそんなにおかしいことか?」「妻……?」静香は絶句した。湊斗は二十年間瀬奈と夫婦だったが、彼女を妻だと思ったことなんて一度もないだろう。そんな彼の口から、妻なんて言葉が出るとは。「変ねぇ……神宮司家の社長は本妻を蔑ろにして毎日愛人の元へ帰っているって聞いたけど?」「……」彼女はこれまでの怒りをぶつけるかのように、湊斗をただ責め続けた。棘のある口調で瀬奈が言いたいことを代弁した。湊斗が瀬奈を嫌い、愛人たちを寵愛していることは、黒川区では誰もが知っていることだった。静香はそのことで瀬奈が深い悲しみを抱いていたことをよく知っている。そんな男と一緒にいたところで、絶対に幸せになんてなれない。静香は今日、瀬奈と里亜を何としてでも彼の元から連れて帰るつもりだった。「それだけじゃないわよね、愛人との間に子供まで作ったでしょう?それに関してはどう弁明するつもり?まさか、避妊せずにやってたらデキちゃって仕方なく……なんて言わないわよね?」静香は軽蔑の目で湊斗を見た。不倫をする男は多いが、不倫相手との間に子供まで作ってしまうのはかなり稀だ。しかも五人。ハッキリ言ってありえない。彼の答えを待つ静香に、湊斗はポツリと呟くように言った。「……俺は子供なんていないよ」「……どういうことよ」静香は湊斗の発言の意味がわからなかった。彼に子供が五人いるということはみんな知ってる事実なのに。「この期に及んで嘘をつくつもり?」静香は怒りを通り越して呆れてしまった。湊斗はそんな彼女にも動じることなく、じっと見つめ
last updateLast Updated : 2026-04-21
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第125話

湊斗の返事に、静香はギュッと拳を握りしめた。簡単に話がつくとは思っていなかったが、ここまではっきりとそう言われるとは。それほど瀬奈に執着し、彼女を妻として望む理由は一体何なのか。彼は地位も名誉も財力も全てを持ち合わせている。それ以上欲しいものなんて何も無いはずだ。どれだけ考えても、静香にはわからなかった。「理解できないわ、どうしてあなたが離婚を拒むわけ?」「何故……だと」湊斗はしばらく考え込むような素振りを見せた。真っ黒に淀んだ瞳では、何を考えているか見当もつかない。じっと黙り込んだあと、彼は信じられないことを口にした。「アイツに……傍にいてほしいから……」「…………え?」静香の顔から全ての表情が消えた。今、私は幻聴でも聞いているのか。「遠くへは行かないでほしい。できれば俺の目の届くところにずっといてほしいんだ」「……」「瀬奈が俺の傍からいなくなったとき、俺は夜も眠れなかった。いつ自分の前から消えようがかまわないと、間違いなくそう思っていたのに」「……」彼女は黙って湊斗の語りを聞いていた。その全てが彼女の癪に障ったが、何とか耐えていた。しかし、そのあとに放たれた一言は、静香の逆鱗に触れた。「――俺は、彼女がいなければ生きていけない」「何ですって……?」その言葉に、静香はとうとう限界を迎えた。あれほど傷付けておいて、彼女が必要だと?今さら、ふざけるな。「アンタ、いい加減にしなさいよ!自分が何を言っているかわかっているわけ!?」そう言いながら、彼女は目の前のテーブルを持ち上げ、湊斗に向かってひっくり返した。「同じ手を使われてたまるか!」湊斗は即座に反応し、テーブルを押さえ、静香の暴挙を何とか止めた。当然のことだが、女性である彼女よりも力は湊斗のほうが圧倒的に上だった。静香の突然の攻撃は未遂に終わった。「くっ……」静香は悔しそうに顔を歪ませた。言い争いの末にテーブルをひっくり返されるのは、実は初めてではなかった。昔、彼女と喧嘩をしたときに一度やられたことがある。あのときは幼くて何もできなかったが、今は違う。反射神経も、力も、全て湊斗が静香を上回っている。彼女は負けを悟ったのか、大人しくなった。「お前、今日はもう帰れ」「そう言われて私が大人しく帰るとでも!?」当然、静香は引き下がらなかった。元より彼女は瀬奈と里亜を連れ
last updateLast Updated : 2026-04-21
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第126話

突然、部屋に入ってきたのは瀬奈だった。静香は久しぶりに見る妹に、険しかった表情を柔らかくした。「瀬奈、どうしてあなたが」静香は自身に抱き着く瀬奈を驚いた目で見つめていた。今の彼女はずいぶんと高価なワンピースを着ている。彼女の仕事の給与ではそんなものは手に入らないだろうから、おそらく神宮司家……湊斗が買い与えたものだろう。湊斗が瀬奈に服を買ってあげた?アイツがそんなことをしたって?静香は驚いて湊斗を見た。彼女の考えが伝わったのか、彼は目を逸らした。「姉さん、心配かけてごめんなさい」「瀬奈……」瀬奈はそこで静香から体を離した。彼女は妹が心配でたまらなかった。「湊斗に何かされてない?」「ええ、平気よ。里亜も元気にしているわ」静香は瀬奈の発言の真偽をたしかめるべく、彼女を上から下までまじまじと凝視した。たしかに傷一つないし、顔もいつもと変わらずすっきりしている。てっきり湊斗の元で酷い目に遭わされているのかと思っていたが、勘違いだったようだ。瀬奈は少し離れたところに立っていた湊斗を一瞥したあと、再び静香に視線を向けた。「私ね、しばらくここで過ごすことにしたの」「瀬奈……本気なの?」「ええ、里亜も一緒に……ここで暮らすわ」瀬奈は真剣な面持ちで頷いた。静香は湊斗が瀬奈を脅迫したのかと疑ったが、彼女の様子を見るに、そのような類のものではなかった。一つだけ言えることは、瀬奈は自らの意思で湊斗の元にいるのを選択したということだ。静香は悩んだ。瀬奈を絶対に連れて帰るつもりだったが、彼女の意思は揺るがなさそうだった。昔から一度決めたことは曲げない子だ。これ以上何を言っても意味がないだろう。瀬奈は静香を説得するように、彼女の手を強く握った。「姉さん、誠也さんたちに……よろしくね。私は元気だから大丈夫だと……伝えておいてちょうだい」「……わかったわ」誠也の名前が出た途端、湊斗の眉が動いた。静香は妹の切実な願いを、ただ黙って受け入れるほかなかった。「またね、姉さん」「ええ、元気でやるのよ」別れ際、瀬奈は静香の耳元でボソッと囁いた。「――必ず帰るから、心配しないで」「……!」静香はその言葉にゆっくりと頷き、待ってると返した。そんな二人の秘密のやり取りを、湊斗はじっと見つめていた。静香は最後に湊斗に仕返しをしてやろうと思い、部屋を出る前に瀬奈の
last updateLast Updated : 2026-04-22
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第127話

静香が出て行ったあと、部屋には湊斗と瀬奈の二人だけが残った。姉の出て行った扉を、彼女はしばらくじっと眺めていた。名残惜しそうな視線。本当は彼女も一緒に稲田町へ帰りたかったに違いない。「……お前が俺を庇うなんてな、驚いた」「……」湊斗は瀬奈にゆっくりと近付いた。目の前まで来ると、彼女の頬をするりと撫でた。その顔は何故か嬉しそうに見える。瀬奈は彼の手を避けるように顔を背けた。「……この間約束したでしょう?私はそれを守っただけよ。あなたに絆されたわけじゃない」「……そうか」上がっていた彼の手がピタリと止まった。急に声が低くなり、さっきの言葉にショックを受けているのだということは誰から見ても明白だった。瀬奈はそんな湊斗の様子など気にも留めず、話し続けた。「それより、一つだけ頼みがあるんだけど」「何だ?」「アイザックをここに連れてきてほしいの」「アイザック……?」初めて聞く名前に、湊斗は顔をしかめた。一体どこの誰なんだ。誠也以外にも親しくしている男がいたというのか。彼は不快感を隠しきれなかった。険しくなる彼の顔に気付いたのか、瀬奈が付け加えた。「何を勘違いしているのか知らないけど、アイザックは犬よ」「犬……?」警戒していたアイザックの正体が予想外だったのか、湊斗は固まった。「私たち、犬を飼っているのよ。私も里亜もいなくなって一人になったアイザックが心配なの。だから連れてきてほしい」「……そうだったのか」湊斗の表情が徐々に戻っていく。アイザックが犬だと知って安心したようだ。「もし、わざわざ稲田町へ行くのが面倒なら私が代わりに……」「いや、すぐにでも連れてこさせよう。お前はここで待っていろ」「……」頑なに自分を外に出さない湊斗に、瀬奈は彼を恨めしそうに見つめた。「湊斗、私たち今からでも別居しない?」「……何だと?」湊斗の表情がみるみるうちに険しくなっていく。それは彼との約束を反故にするという意味だった。「私と里亜はあなたのご両親から貰った大切な別邸に住むわ。あなたはここで一人で暮らしてくれない?」「……」「私がいなくなればいくらでも愛人を連れ込めるわけだし、私の代わりに新しい若くて綺麗な女の子でも囲ったら……」言い終わる前に、湊斗は瀬奈の口を塞いだ。手ではなく、唇で。突然のキスに、彼女は固まった。瀬奈は不快そうに彼
last updateLast Updated : 2026-04-22
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第128話

それから数日後の夜。「神宮司社長、初めまして。私はモデルをやっているまりんです。二十一歳です」「……」湊斗は一人、神宮司邸の部屋の中で固まっていた。目の前には若い女がセクシーなドレスを着て彼のベッドに座っている。彼は当然、女のことなど知らない。つまり、不法侵入者ということだ。湊斗は平静を保ったまま尋ねた。「お前は一体何だ?」「私……社長の妻候補の一人としてここへ来たんです」「妻候補……?」この女は一体何を言っているんだ。状況が全く理解できないが、相手は女だ。強引に引きずり出すようなことはしない。「俺の部屋に勝手に入るとは。一体誰が入れた?」湊斗の問いに、彼女はうっとりとした笑みを浮かべながら彼の下半身に手を触れた。優しくなぞるようなその手つきは、男を誘惑することにずいぶん慣れているように見えた。「今はそのようなことどうだっていいではありませんか。社長、私を抱いてください。そして一人でいいので子を……」その瞬間、湊斗から放たれる猛烈な殺気に女はビクッと肩を震わせた。「あ……しゃ、社長……」彼はそのまま冷たい目で女を見下ろした。「俺の質問に答えろ」「す、すみません……も、もう出て行きますからどうかお許しください!」女は傍にあった上着を取ると、そそくさと部屋を出て行った。扉から出る際に、彼女は一度だけ湊斗のほうを振り返った。「話が違う……社長の子を産んで私が本妻の座に収まるつもりだったのに!」悔しさを滲ませながら、彼女はそう吐き捨てた。「……一体何の話だ?」湊斗は不思議そうに首をかしげた。このときは丸く収まったと思っていたが、それは彼の勘違いだった。「社長、理央っていいます。この先社長にお世話になることになると思うのでよろしくお願いします」「……お前は誰なんだ」翌日、また別の女が彼のベッドにいた。胸元の大きく開いたドレスを着用し、豊満な身体つきをしている女だった。女はドレスのひもを外しながら湊斗を見上げた。「社長を喜ばせるためにここへ来ました。社長、好きなだけ私を……」「とっとと帰れ」湊斗は女を一蹴した。彼女は羞恥に体を震わせながらも、メイドに連れられて部屋を出て行った。次の日、またしても湊斗のベッドには別の女が座っていた。「社長、私は社長を……」「出て行け、聞きたくもない」湊斗はここにいる理由を尋ねることもな
last updateLast Updated : 2026-04-23
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第129話

寝ていたのか、瀬奈は目をこすりながらベッドから起き上がった。時刻は既に夜の十二時を過ぎていた。「湊斗、こんな夜中に何よ?」「お前の仕業だろう」湊斗は瀬奈に詰め寄った。瀬奈はそんな彼を嘲笑うかのように口角を上げた。「何のことかしら?」「とぼけるな!俺の寝室に女を呼んだのはお前だろう?」彼は壁を拳で強く叩いた。瀬奈は立ち上がり、腕を組んで余裕のなさそうな湊斗を見据えた。「どうして私が責められないといけないの?社長が喜ぶと思ってやったのよ」「俺があんなことをされて喜ぶとでも?」湊斗は眉間にしわを寄せた。「あんなこと……?」彼の言葉に、瀬奈はアハハッと声を上げて笑い始めた。突然狂ったように笑い出す彼女を、湊斗は不快そうに見た。「何がおかしいんだ」「だって……社長ったら、ねぇ?」湊斗の女好きは誰もが知っていることだ。そして、彼が瀬奈以外の女性なら全員と寝るということも。彼の寝所に三日連続で女を用意したのは瀬奈だった。瀬奈が湊斗の賭けに乗ったあの日から、彼による行動の制限は緩くなった。瀬奈は自身の元へ帰ってきたスマートフォンに、女性を呼ぶことのできるアプリを入れた。それを使い、湊斗の好きそうな女性たちを用意したのである。結果は全て失敗に終わったが、彼を翻弄するのは楽しかった。瀬奈は彼を扇動するかのように囁いた。「社長、何日も愛人たちの元へ帰っていないんでしょう?溜まってるんじゃない?正直になったほうがいいわよ」「……」湊斗は何も言わずにじっと瀬奈を見つめていた。瀬奈の言う通りだ。彼はもう何日もしていなかった。気持ちが揺れ動く湊斗に気付いたのか、瀬奈が後押しした。「今からでも部屋へ戻って彼女を抱きなさい。今さら不倫なんて何とも思わないから」「……そうだな。なら、そうさせてもらおう」そう言うと、湊斗はズカズカと大股で部屋へ入って来た。「ちょ、ちょっとどういうつもり!?」彼はそのまま瀬奈の腕を掴むと、傍にあったベッドの中へ引きずり込んだ。瀬奈は何とか彼から逃れようともがくが、彼女はあっという間に押さえつけられてしまった。「湊斗!やめて!」「……」彼は瀬奈の制止の声も聞かずに、彼女を冷たい目でじっと見下ろした。その瞳の奥には、熱がこもっていた。湊斗はもう限界だった。いつもと違って寝間着の瀬奈は色っぽく、今すぐにでも激しく抱いて
last updateLast Updated : 2026-04-23
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第130話

そう言うと、湊斗は瀬奈の頬に手を触れた。「……ッ」キツい言葉とは対照的に、触れる手はとても優しかった。彼はそのまま瀬奈にキスをした。何度目かわからない、湊斗との口づけ。彼女にとってはいつまでも慣れなかった。唇を重ねてすぐ、湊斗の舌が瀬奈の口内に侵入した。彼の熱い舌は、そのまま彼女の舌を絡めとった。「ッ……」今すぐにでも頬をぶってやりたかったが、縛られた腕では何もできなかった。瀬奈は完全に湊斗にされるがままになっていた。前から思っていたが、彼はとてもキスが上手かった。これまで多くの女を相手にしてきたからだろうか。頬に添えられていた湊斗の手が、彼女の長い髪の毛に触れた。目を開けると、整った彼の顔が視界に入った。しばらくすると、唇が離れた。彼の熱い息遣いを近くで感じる。僅かに火照った頬、余裕のなさそうな顔つきに瀬奈は何も言うことができなかった。どうしてあなたが、そんな顔をするの。余裕が無いのは彼女も同じだった。二人は熱っぽい視線でしばしの間見つめ合っていた。ベッドに沈んだ瀬奈は、何故だか体が動かなかった。心の中では抵抗したいと思っていても、そのような気力は既に無かった。「……」何人もの女を抱いてきた男とは思えないほど、このときの湊斗は緊張していた。早く彼女をめちゃくちゃにしてやりたいという気持ちでいっぱいになった。湊斗は再び瀬奈に顔を近付けると、今度は額に唇を合わせた。そして次は首筋に……「湊斗……」瀬奈の顔に、湊斗の柔らかい髪が触れた。くすぐったくて仕方が無い。瀬奈の体に唇を這わせた湊斗は、一度体を起こして彼女を見下ろした。「瀬奈……」制御の効かなくなった湊斗がベルトに手をかけたそのとき――「――ママ、中にいる?」「り、里亜!?」突然部屋の外から聞こえた娘の声で、瀬奈は我に返った。(私ったら、何してるの!?)彼女は自身の上に跨る湊斗の股間を思いきり蹴り上げた。「何してんのよ!さっさとどきなさい!」「グッ……!」急所を蹴られた湊斗は、うめき声を上げて倒れ込んだ。「早く服を着なさい!里亜が来ているのよ!」「クソッ……いいところだったのに……」「何言ってんのよ、この変態!」瀬奈は乱れた服を整え、上半身裸の湊斗にシャツを着せた。「あ、ママ!」準備を終えてから部屋の扉を開けると、クマのぬいぐるみを抱えた里亜が彼女に駆け寄
last updateLast Updated : 2026-04-24
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